鬼退治
康成は体を縮める薬を開発した。彼がこの薬のために熱心に研究した理由は妻が末期のガンに侵されていたからだ。康成は早速そのカプセル状の薬を口に含んで水で流し込んだ。そうするとすぐに体が縮み始めて、最終的には1cmくらいの大きさになった。康成は仰向けに寝ている妻の口から体の中に入った。ぜぇぜぇと苦しそうな音が聞こえる。この音は妻が必死に酸素を取り入れている音だ。妻のガンを知った時は今まで他人事だと思っていた保険のCMも頭に残るようになった。毎日が辛かったがこれでまた妻と幸せな日々を送ることができる。
康成はガンがある位置に着いた。そこにはとても痩せていて、骨と皮のみの男がいた。男の皮膚はタイヤのような色をしていて、顔は生気が無かった。康成は恐る恐る声をかけた。
「お前は誰だ」
「私はガンだ。この臓器を蝕んでいる。いずれは心臓にも行くつもりだ」
「なんだと。そんなことはさせん。殺す」
康成はガンに殴りかかったそして首を絞めようとガンの体に跨った。その時ガンが小さく呟いた。
「お前達が今こうして生きていられるのは誰のおかげだ」
「何を言っている。少なくともお前らのおかげではない」
ガンはニヤリとしてはっきりとした口調で言った。
「私達がいなければ人間は溢れ、争いそして滅びる。私達が人間の数を減らしているからお前らは滅びずに生きていられるのだ」
康成はガンの首から手を離していた。
「それなのにお前は自分の妻だからと言って....」
妻は8日後に死んだ。
鬼退治