青いバラ

青いバラ

 私が働く花屋では毎週水曜日に白いバラを九本買いに来る高校生がいる。
 顔なじみになり最近では世間話程度の会話をするようになった。
 でも何故毎週水曜日に白いバラを買いに来るのかは聞けずにいた。
 それに精算する時必ず彼の指先が薄く青に染まっていることも。
 何故なんだろう…。
 と思いながら出て行く後ろ姿に「ありがとうございました」と決まり切った台詞を私は言った。

 それから二日後。
 疲れたような顔をして「ありったけの白いバラを下さい」と水曜日でも無いのに彼は店に現れ、私はガラスケースの在庫を調べながら言った。
「うちには三二本しかありませんけど…」
「そうですか。じゃ全部下さい」
「はい」
 私は包みながら言った。
「何かに使うんですか?」
「えぇちょっと…」
 彼は濁らしその話については喋ろうとしなかった。
「あと、出来れば白いバラがありそうなお店紹介してもらえませんか?」
「いいですよ」
 駅前の花屋を紹介すると軽く口の端を持ち上げ、ちょっと大きめの花束を持ち店を出て行った。

 彼が店に来なくなってから一カ月がたったある日「こんにちは」と彼は店に現れ「赤いバラを九本下さい」と言った。
「白じゃなくていいんですか?」
「えっ、あぁ、えぇ…もう買う必要無くなったんで…」
「そうなんですか?」
 と私はガラスケースから赤いバラを取り出していると彼は言った。
「実は、入院中の妹の為に買ってたんです」
 ってことは退院したのかな…。
「白いバラがお好きだったんですね」
「いえ、違うんですよ。白いバラを青のスプレーで染めてたんです」
「青で…」
「妹何かの本で読んだみたいで…大変でしたよ。青いバラなんて一般には売ってないらしくて、仕方なく白のバラを染めてみたけど俺不器用だったから手は青く染まっちゃうし、ようやく色が落ちかけた頃には買いに行く日だし…」
 だから青かったんだ…。
 彼は「バカみたいでしょ。俺…」とはにかみ「そんなことないですよ」と言うと「そっすかね」と彼は口の端を持ち上げ笑った。
「妹さんは?」
「この間、死にました」
「そうですか…」
 彼は精算し終えると「また、来ます」と言い残し出て行った。

 何故あの日彼が白いバラをありったけ買いに来たのか分かった気がした。青く染められた沢山のバラの花びらを棺の中に入れたんだと、私は勝手に想像していた。


 - end -

青いバラ

青いバラ

私が働く花屋では毎週水曜日に白いバラを九本買いに来る高校生がいる。顔なじみになり最近では世間話程度の会話をするようになった。でも何故毎週水曜日に白いバラを買いに来るのかは聞けずにいた…。※続きは本文へ。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-01-09

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