私はあの人。あの人は私。

眠れない。

あの人の事をほんの少しでも想うと

鼓動が早くなって息苦しくなる。

これが恋、なの?

気がついたら目で追っている。

どこにいるか探している。

隣にいたい。

私を見てもらいたい。

手に触れたい。

どうしたらいいの?

何にも手につかない。

眠る事すら出来ない。

毎日、毎日、あの人の姿をまぶたに焼き付けた。

目を閉じて蘇らせて昼間に会えない分を取り戻すように。

これが好きって感情なの?

こんなに重くて苦しくて息が詰まるものなの?

このつらさから解放されるにはどうしたらいいの?

涙が止まらない。

誰か、教えて。


おい、知ってたか?
あの背のちっちゃいの、オマエの事が好きだぞ。

はぁ?誰よ?

いつもじっっと見つめているヤツいるじゃん。
クラスでもいつも1人で座ってうつむいているやつ。

あ-、あいつか。
でも彼女いるし、他の女には興味ないぞ。

オマエばっかモテやがって、何でこんなヤツ

こんなヤツとは失敬な!



また一睡も出来なかった。

あの人は今日も楽しそうだな。

それに比べ私はここでは一人ぼっち。

居場所がないから自分の席にいるしかない。

こうしてあの人を目で追って、探して、じっと見ている。

そんな毎日。そんな毎日。そんな毎日。

「 」
「…」
「……」
「……ぃ」
「……い」
「ぉぃ……」
「おい!」

誰か私のことを呼んでいる?

左側から聞こえる。

あ、誰だっけ?同じクラスの男子……。

オマエさ、あいつの事好きなんだろ?
いつも目で追っているもんな。

そう、私はあの人が好き。だから?

なんで黙っているんだよ?
相変わらずわからないやつだな。
やめときな、余計なお節介だけど彼女付きだし

それより俺と付き合うか?ん?

黙るなよな……。あー反応がないからつまらん。

彼女がいる?
あの人に?
彼女って……何?
付き合っているって事、だよね?
手をつないだり、するよね?
目をみて笑ったりも?
唇を重ねたりもする……のかな?

痛い。
痛い。
痛い。

苦しい。
苦しい。
苦しい。

嫌だ。
そんなの嫌だ。
あの人が他のとそんな事する……
嫌だ。

嘘。
嘘。
嘘。

嫌だ。
嫌だ。
嫌だ。

私だけの、あの人。
私以外に触れないで。
私以外を目に入れて欲しくない。

!?

誰?
誰が水をかけたの?
違う……目から?落ちてる。

私の目から落ちている、涙?

何?
私は悲しいの?
苦しいの?
辛いの?
何なの?

震えている。私が?

……。

……。

……。

あれ。どして、ここ、私の部屋?

学校にいたはずだけど。

とりかえさなきゃ。

私の、あの人。

誰にも渡さない。あの人は私の人。

私の人はあの人。

あの人は私の人。

私はあの人。

あの人は私。

やっぱりアイツ、オマエのこと好きだよ。

もういいよ、その話はよ!

あれ、アイツどこへ行くんだ?

トイレじゃね?

部活行く?

あー、ちょっとだけ顔だすわ。

じゃあ、また後でな!そろそろチャイム鳴るし。

おう、またな。


正直、倦怠期なんだよな……。

一緒にいても刺激ないし、話す事もないし。

惰性で付き合っているもんだな。

そういえば前髪でよく見えなかったけど、あいつ泣いてた?

笑った顔も見たことないな。

そもそも前髪で顔が隠れているから良く見たことないか。

あー、面倒臭いな……何もかも。

あいつと付き合ったら楽しいのかな?

いや、それはないか。無口だし何もしゃべらなさそう。

いや、待て。こちらもしゃべらなくていいから楽だ。

今度声をかけてみよう。

とりあえず寝るか。

……。

……。


やべっ……誰も起こしてくれないのかよ。

もう4時か。部活行くのも億劫だからな。

このまま帰るか。

あ、先生だ!

また何か言われるだろうからな。

部活はどうした?宿題やったのか?あーだこーだー面倒だもんな。

アッチの階段から帰ろう。

廊下に誰もいないとなんか清々しい。

教室にも誰もいないようだし。

でも夜の学校とか怖いんだろうな。

ん?

アイツ、何してんだ?

あ、あの……。

ん、何?

やっぱり話しかけてきたよ。
単に用事があるってわけでもなさそうだな。

ちょっとだけ、時間いいかな?

あー、別に帰るだけだからいいよ。

話し……があるの。

告白の流れと雰囲気だけど、何か面倒だな。
でも、なんとなくワクワクしている自分がいる。

いいけど、ここで?

うん。

そう。

……。

……。

沈黙かよ。何かしゃべれよ、話しがあるなら。
このまま黙って帰るわけにもいかないだろうし……。
いつまでこうしているんだよ!何だか苛々するなあ。

あの……さ、話しがあるんじゃないの?

ある。

じゃあ、何で黙っているの?

待っているの。

は?何をよ?

もう少し。もう少しだけ待ってもらえる?

……。わかった。

そしてもう少しと言われてからかなり時間が経った。
この階段は気味悪がってサボる生徒以外使わないから
余計に静かに感じる。

陽もだいぶ陰ってきたし、今何時なんだろう?
ずっと立っていて足も疲れてきた。

でもアイツ、ずっと同じ姿勢で動かないけど大丈夫なのか?

そろそろ限界だ

あの

もういいよ。

は?

あの……。その。あの。

何?

私と、し……、し……

真剣に、とでも言うのかな?

はぁ……はぁはぁ

おい、大丈夫か?

うん、大丈夫。少し苦しいだけ。

あの、好きです。

あ、ありがとう。

急に言い出したな。この後の展開は……なんとなく読めるけど
俺はどうしたらいいんだ?

えっと……彼女いるのは知っているよね?

知ってる。

付き合えないのはわかるよね?

わかる。

ごめんな。

謝ることはない。付き合うとも思っていないし。

そうなんだ……。

ただ、私はあなた。あなたは私。

何を言って……

熱っ!

一瞬お腹が熱くなって力が抜けた。
急に抱きついてきたけど何か不自然だな。
あ、笑っている。初めてまともに見た顔。
こんな顔をしていたんだ。結構可愛いんだな。

だいぶ嬉しそうな顔している。
あ、何か悪寒がする。足に力が入らない。
なんだ、どうしたんだ?
何か言っている。なんだ?聞こえない。


このままいようか。
なんかどうでも良くなってきた。
眠くなったし、少ししたら起こしてね。

笑顔、可愛いな。

呼び止めた。

こちらの階段に来るとは思わなかった。

でもチャンスかもしれない。
ちょうど持っているし。

でも明るいうちは恥ずかしいし、嫌。
もう少し、待ってもらおう。

恥ずかしくて、顔をまともに見られない……。

どうしよう、どうしよう、どうしよう。

この一緒の時間を、一緒の空間を、手放したくない。
どうする?どうする?どうする?

わかっている。わかっている。わかっている。
どうしたいのか、どうすればいいのか、わかっている。

もう薄暗くなってきた。
そろそろいいかも。

離れない為の道具は持ってきた。

あとは覚悟を決めて飛び込むだけ。
そう、飛び込むだけ。


彼女?いるの知っている。
その彼女とどんな事をするのか、私は付き合った事がないから知らない。

でも私とは付き合ってもらう。ずっと。永遠に。

これから起こる事への期待、緊張、喜びで呼吸が苦しい。

もうすぐ、もうすぐ、この人は私のもの。
誰にも渡さない。誰にも触れさせない。

付き合えないとかは聞いていないの。
そんな事はどうでもいいの。

もう、飛び込める。今すぐ飛び込める。

ザクっっ!!

意外と固くで破けるような音がするんだ……。
これでもう、私のもの。

私、笑っている?泣いているの?

あ、少し困惑しながらも嬉しそうな顔をしてくれている。
どんどんシャツが綺麗な赤に染まっていく。

私に身を預けて。支えてあげる。
眠って。お願い。

このまま眠れば私の中でずっと生きていられる。

幸せになれる。幸せ?幸せって何?

私はあの人。あの人は私。

私はあの人。あの人は私。

  • 小説
  • 掌編
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  • ホラー
  • 青年向け
更新日
登録日
2012-07-18

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