あひるのガアコ

5歳になったばかりの とわさんの両親は
いつも喧嘩してばかり

お父さんとお母さんが とわさんを
寝かしつけた後に大声で喧嘩を始めると

とわさんは このあいだ誕生日にもらった
あひるのぬいぐるみのガアコを顔に押し当てて
喧嘩を終えてお母さんが
自分のおふとんに来てくれるのを
寝た振りをして待ちます

とわさんは
少し自分に似ているガアコが大好きで
おうちでも保育園でも一緒

とわさんには
にんげんのお友だちも何人かいますが
両親がくれたガアコが一番の仲良しです


ところで


想いのこもった贈り物には
たましいが宿るもので

実は
ガアコには心があって
人のことばが分かるのです

とわさんのおうちは
あまり豊かではないので
ぬいぐるみやおもちゃも少なく
ガアコはいつもどこか少し寂しそうな
とわさんを 心配していました

ぬいぐるみの世界の約束で
彼らはけっして 人前では
しゃべってはいけないことになっていて
(ぬいぐるみたちは、一度でも人前でしゃべってしまうと、罰として心を失ってしまうのです)

大好きな とわさんを慰めることができない自分を
ガアコはいつも もどかしく思っていました


ある晩
また とわさんの両親は
大きな声で喧嘩をしていました

お父さんとお母さんは とわさんには
よくわからないことばで
お互いを責めているようでした


ガアコは決めました

そして おふとんの中で
自分に顔を押し当てているとわさんを
その羽で強く押しました

とわさんはびっくりして
ガアコを持って 両親のいる
リビングのドアを開けました

お母さんは驚いて
「まだ起きていたの?
今わたしたちは大事なお話をしているから、
先に寝てなさい?」
と言いました

お父さんも
「そうだぞ。ガアコと一緒に早く寝なさい」
と出来るだけ優しく言いました

とわさんが諦めて寝室に戻ろうとしたとき

ぐわ

大きな
大きな声で、ガアコが鳴きました

お母さんもお父さんも
誰よりとわさんが 目を丸くして
皆はしばらく
お互いの顔を見くらべました

そのうちお母さんが吹き出しました

つられてお父さんも大きな声で
笑いだしました

とわさんは何がなんだかわかりません

するとお母さんが言いました

「とわ、人前でそんなおっきい おならをしちゃ
だめじゃない ああおかしい」

お父さんとお母さんは、とわさんが
ふたりのけんかを仲裁するために
いたずらをしに来たと思ったのです

お母さんは涙を流して笑い
とわさんをガアコごと胸元に抱き寄せると
優しく抱き締めて 頭を撫でました

その晩
とわさんの家族は久し振りに
ひとつのお布団で 川の字になって
眠りました

線の間に点のある
ふしぎな川の字になって

あひるのガアコ

あひるのガアコ

ある親子とぬいぐるみのおはなしです。2回だけ、読んでみてください。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-01-06

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