深海
出会い
空へ高く高く解き放て
ベランダデ洗濯物を取り込みながら美奈は心の中で呟く。青く澄んだ空、夕焼けの綺麗な空を見たときは必ずだ。瞳を閉じ胸の奥のあたたかくて涙が出そうなほど愛しいそれを、空に浄化するかのように解き放つ。
何度も何度も解き放っているのに、いつになったら空っぽになってくれるんだろうか。そんなことをぼんやりと考えていると、部屋の中から美奈を呼ぶ声がした。
「ママー!色鉛筆どこー?」
美奈には子供が二人いる。女の子と男の子だ。愛妻家の夫もいる。どこからどう見ても幸せな妻だ。色鉛筆を子供に渡しながら、美奈は思う。やっと今日も終るなと。何に向かっているのか、どこまで行けばゴールなのかはわからないが、夕方一日が終わりかけた頃にほっとするのだった。
深海