アノニマス詩人が素描する人々
sketch 001:
ポエジーを 試行する
運命を 逆行する
リンゴが落ちるまで きみを試す
でも きっとぼくの負け
きみは 宿命のポエジー
この宇宙を 破滅できる人
sketch 002:
愛がなんだつうの 俺はてめえを突破する
そしてヤツの魂を鷲づかみ
てめえの魂のために この世から殲滅根絶
俺が抹殺されてんじゃねえよ
俺の詩の破片 残るつうの
そこに ヤツとの婚約指輪が砕け散るんだぜ
ざけんじゃねえ!
sketch 003:
ぼくは ふれて
ぼくは むかう
きみに はしる
ほんとうに こわれてるけど
きみは きっと はっちゃくてんだね
ふれて むかうんだ
むかって みぎとひだり かえりつくんだ
きみの ゆきのなかの てもと
sketch 004:
僕の孤独な革命に
いつか君が僕の虐殺を
見届けてくれたらいい
僕の処刑の跡に きっと君は
君の表現を知る
君は生き延びるのさ
この世界の重力から
どこまでも いつまでも
sketch 005:
彼は 29番目の愚直
彼女は 18番目の神秘
彼と彼女が 混ざり合って
ひっそりライムソーダが 咲くんだ
だれかは ワンルームにひっそりおいて
彼と彼女の 物語をカメラに取る
世界最後のあどけない写真が残るよね
sketch 006:
やまいぬさんは 山へ読書しに
ぼくは 川へコインランドリーに行きました
洗濯機の中に ぼくは大きないちじくを見つけました
家に帰って半分に割ったら 詩と恋が入っていました
僕は詩人になりました
やまいぬさんは恋人をみつけました
いちじくは幸福の実
sketch 007:
運命を量る夜のまなざしに
きみの星が宿る
宿命をオレンジに変えるいたずらに
きみの月が宿る
どっちにしても きみって
ぼくのハートに思わせぶりなんだ
散歩の帰りに運命と宿命を拾う
半分こにして ぼくたちは繋がる
sketch 008:
さやうなら 吾の硬直の死鬪
思想として死ぬなら
吾の斷片はデカダンスの香り
その荒廢をライターの火にして
吾は實存の負け犬の煙に消ゑる
誰が現存在の矛盾を詩にしたのだというか
吾はいつもバリケイドアナキスト
貴様は吾の最後の同志
吾の死に樣に貴様は私小説を香る
sketch 009:
桔梗の花を眺めながら
尊い人の優しさを知る
きっとそれは裾野の陰に咲いていた
わたしはそれを摘んで
甘酒の祝宴を夢見る
あなたが舞い踊る
その艶やかさは映し夜の断片
あなたがそっと祈るでしょう
こんな満ち足りた故郷の夕べに
sketch 010:
頬を伝う彗星に
君の あどけない過去を見たよ
大事に持ってあの人に送るんだよ
哀しみのまま 光の温度のまま
いつかそれが 君と彼女の体温になる
君の孤独は君一人のものじゃない
彼女がそっと扉でヴァイオリンを奏でる
独りの君の孤独な記憶の扉でね
sketch 011:
私は壁の前で立ち尽くした
兵士たちの陰を視角の中に
男たちはタロットの結果の産物
ギターを弾いて窓際の孤立
私は問う 人生の刹那
あなたが擦り切れた私を拾う
私たちの孤高は壁の前のアクリル画
きっとそこに青色の誰かの抑鬱
見つける 人々の足音 迫りくるもの
sketch 012:
あなたの悲しみを教えてよ
ぼくはそれを星のかけらにするんだ
そして全力疾走して夜を跳躍するのさ
ぼくってまぼろしの真夜中だから
あなたの顔ってぼくの言葉で綴られる
いつかね時の雫がぼくたちを割く
でも片割れは永遠に呼吸しあうんだよ
同じペースで 同じ音程で 同じ鼓動で。
sketch 013:
キミの絵の中にね、ボクが映るんだ
キミって不思議な子だよね
だって絵の中じゃボク 笑ってるんだから
笑うなんて 知らなかった
ボクは 深夜の おっとせいだもの
キミが絵に閉じ込めてくれてよかった
キミが僕の物語でよかった
きっとボクの絵は夜を駆けるんだ
sketch 014:
返されて成績手にし昼下がりぼく帰宅路をペダル快速
こだわりの君と打ち解け共に笑むグラジオラスこそ雪解けの花
手記の中老ゆヒッピーの呟ける黄昏に酔ふ彷徨の淵
テスト終りやつれ顔ノート上の澄ます単語に「こら、役立たず!」
sketch 015:
この世界が私の情熱水面なら飽和点はきっと情熱の発熱の限界で達する
わたしはビードロのイヤリングで彼の好奇を試験する
なんだろう この静けさの危ういタイミングは
きっと回想がビーカーから洩れ出たのだ
午睡のうちに欲情圧殺のサイレン
トローチを噛む終結
sketch 016:
昔、河原町で靴擦れ痛みながら選んだ中古レコード
あなたと聴きながら午後の憂鬱吹き消してた
友達なのに抱き合って 日が暮れるまで求め合った
誕生日が来る前にあなたは私を追いかけるように通過した
レコードを聴きながら思い出してる
あなたが消えた後 青いビー玉残った
sketch 017:
十字架はアナタが示す運命の切っ先
冬の群青の夜は真夏の熱の残り火
アナタはこの荒野でとわの契約を結ぶ
此処はワタシの熱情が剣を刺す所
深い神秘だけが孤高に門を叩く
アナタは昼の辺 ワタシが夜の技法
砂漠のオペレーションは終に力尽きる
この法則に逆らう火種はもうないの
sketch 018:
冬のカーテンの下で君の背中が安らぐ
キリマンジャロを僕よりも愛したね
街灯に照らされた君の横顔を愛したんだ
コートをかけた君の孤独と僕の失望
君はいつかどこまで行くつもりなのか
そんな答え合わせが終らぬまま
こうして冬が跡形なく消える
僕の片隅だけ残して
sketch 019:
ボクはある日下駄箱の下で死んでいた。
でもキミが下校中に亡骸をカバンに入れて持って帰った
ボクはキミの机の下で暮らし始めた。
いろんなキミの秘密を知る。
キミの月経の間隔。キミが母さんに怒る確率の度合い
でもそれは全然キミらしくなかった
実はキミも既に葬られていたから
sketch 020:
僕はオリオンの下で 君の夢を壁に刻む
君はいて座になって 夜の高速艇でアンドロメダまで
山羊座の定めを知っているかい?
彼らは夜の十字軍で
僕らを攻め滅ぼそうとするのさ
僕らの方舟はいつか
銀河系を越えてスモークになる
そんな僕らをゼウスが守る
sketch 021:
貴方の手が熱を帯びたら
私の恋も体も 貴方の言われるがまま
心だけじゃ駄目なの
その指先で葬って欲しいの
半月の夜の宮殿で
私たちが今宵のバイブル
運命は貴方を冷却させないの
貴方が私に突きつけるのは
ロマンスの花束
そして半月の斜線 一つになって舞う
sketch 022:
あたしは歯医者に行くのは嫌い
だって口の中覗かれるんだもの
あたしの口の中 秘密がある
秘密を隠してある
親にもお兄ちゃんにも隠してある
どんな秘密かって?
実は分んない
秘密はあたしにも秘密にしてるから
でもきっと王子様の名前
頑なに信じるの
その時まで 秘密
sketch 023:
その時が来たら
ありがとうってだけ言うわ
女々しいのは嫌いなのおー
男らしい男も嫌いなのおー
アタシはアタシしか演じないわ
アタシを演じるのはアタシの中枢
チンコキがなんだつうの
死んどけよ おらおら
そういってながら ガタついて
いつかの敗者を恐れるんだけど
それは でもアタシの負けじゃない
sketch 024:
お腹すいたらさあ
みんなでお好み焼き食べよう
少しずつ分けたらいいよ
ビール飲みながらさあ
忘れろなんていわないよ
思い出さなかったらいいんだよ
みんなで囲みあったらいいじゃない
こんな冬あったまろうよ
心 暖めあったらいいよ
お月様きれいだよ
お月様に聞けばいい
sketch 025:
僕の傷が疼けば
君の白い肌が光る
僕の心はメトロノーム
君の鼓動と音色が重なる
メトロノームが止まる時
君の鼓動 終らなければいい
墓碑銘は君が音色で描く
音色は天上の僕まで届く
僕は安らいで君の地上を愛でる
君の鼓動が終わる時
メトロノーム閉じる
sketch 026:
私は彼の計略を知っていた
騙されてやる打算を図った
私たちのテロと白色テロは
互いに戦闘を繰り返し
やがて明けの明星に消えた
杜撰さは世界の悦楽
高貴は神的エクスタシー
存在は真の化学反応
私たちは二律背反の調律
私たちは世界とエクスタシーを拒む
sketch 027:
さてぃ の じむのぺでぃ
あなたにぎゅーってされる
わたしもきっとぎゅーってする
甘いってこういうことなのかな
だけど今日はチューしない
日曜日はお肌の温度でいいの
温度が一日消えなければいい
温度の残りが明日に配られたらいい
明日の温度は
きっとそれが本当の温度
sketch 028:
解離の縮小
それ自体のパターンの死を示す
つまりそれは病像と肉体の身体器官化
リゾームの発生、根拠の不在だ
現代アートの拡散が
リゾームの無数のコピーを生む
この隠喩は我々の想像力
その限界を意味しない
なぜなら固体の身体器官は
絶対に彼自身に属する
sketch 029:
あたしの魂はちいさな青いもの
無限にちいさなもの
それをあなたが拾う
あなたが薬のように飲み込む
あたしはあなたの細胞の一部になる
こうして溶け合った瞬間から
ちいさな青いものが熱になる
その発熱はあなたを戸惑わせる
でも永遠はここにあるの
青いもの 欠片
sketch 030:
ワイルドターキー飲みながら
きみの残した書きかけの詩を読む
そこはジタンの染みが匂う
きみが去っていった翌日
ぼくは街角で夕暮れに溶けた
きみの背中がもう見えない
小さな背中だった
どこの街へ行くというのか
このゲームは二人の負け
明日のないぼくらに勝者はいない
sketch 031:
僕らの広角の射程は
隠喩のトラップを狙ってる
受肉する福音は
僕らの背徳には対応しない
道義は僕ら自身の魂にある
決して掟は断絶を意味しない
射程は誰にも奪取されない
僕らの側のスタンス
英雄は一日の英雄
継続されない非日常
僕らは無意味に継続する
アノニマス詩人が素描する人々
ツイッター上で「いいねしてくれたフォロワーさんにもれなく短い即興詩を届ける」という企画を行った。31人の方が集まってくれた。
僕はそれぞれの人のイメージや文章の特徴を読み取り、その人の個性に応じた即興詩を半日かけて書き上げた。
それらの詩を一つにまとめたのが、この作品である。アノニマス(匿名)詩人とは僕であり、素描した人々とは31人の人たちのこと。
作者ツイッター https://twitter.com/2_vich