年賀状から

懐かしい女性からの年賀状を
妻に手渡された

昔恋人と友達のあいだの関係だった
妻も面識のある

名字が変わり 子供が二人

家族の写真とプリントの挨拶
たまには会いたいね、の手書き文字

久し振りに読む彼女の言葉から
無数の思い出がたちのぼる


二人で雪を見たこと
ルバーブのケーキを食べたこと
ホテルに泊まって彼女に触れなかったこと
その朝ふたりでハンバーグを食べたこと
彼女の恋人と麻雀したこと
本を貸し借りしたこと
カラオケでハモったこと
バーでひどく酔ったこと
彼女の最初の結婚式に出たこと
彼女の父親の告別式に出たこと
僕が泣いて キスをしたこと

一度も付き合わなかったこと
でも大好きだったこと



年賀状から微笑む娘たちは
彼女によく似ている


僕は返事を書く

思い出が喉を焼くのを
必死に堪えながら


せめて一年に一度の
短いやりとりが
最後まで潰えぬように

年賀状から

年賀状から

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-01-02

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