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ゆれうごく世界の向こうから
君が右足を引きずって歩いてくる

また会えたね

そんな嘘を吐くこともできないで
君は心細そうに歩いていた

見に覚えのないプラスチックのカトラリーも
不自然に開いたドアもなにもかもが
君のさみしさにゆっくりと染み込んで
遅効性の毒のように築いた希望を壊していく

妄想で痛めつけた君の左腕を
僕は舐めてあげても良かったんだよ

血の味を口の中で転がして
君の不安を想像して笑うことは
僕には難しいことではない

ない ない のに
君はさみしさを抱えたまま
左右違う靴を履いて
それでも歩いていく

君の絶望をひとつ残らず食べて
なくしたその瞬間に殺したかった
欲望は尽きない



20161007

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-31

Copyrighted
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