廃屋の少年
私は、雨の降っていない満月の夜が好きだった。
雨の降っていない夜、私は偶々、廃屋の近くを通りかかった。
その時静寂と共に、歌声が聴こえた。
私はその声に惹かれ、声のする方へ向かった。
廃屋の中の二階に登ると、月明かりに照らされた、美しい少年が見えた。
私は歌が終わるまで、じっとそこで聴いていた。
少年は気づいて居ないようだった。
私は歌が終わると同時に少年の元へ歩み寄った。
私は少年に挨拶をすると、少年は静かに頭を下げた。
少年が私に対して話すことはなかった。
しかし私の手を取って指で「終わるまで、聴いてくれますか?」と手のひらに書いた。
私は頷いて、少年の横に座った。
少年はまた歌い始めた。
その声は、中性的で、まだ声変わりのしていない様な、そんな声だった。
私はその歌声に眠気を誘われた。
目を閉じて聴いていると、まるで天国にいるような気持ちになった。
少年は、天使のようだった。
私はその歌を聴きながら、眠りについた。
目を覚ますと、もう朝方になっていた。
大きな満月は消えかかっていた。
私ははっとして少年を見ると、少年は薄く、消えかかっていた。
私は目を丸くした。
少年は私の手を取ると、また指で「ありがとう」と、私の手のひらに書いた。
私も「ありがとう」とつぶやくと、少年は頭を下げて、静かに消えていった。
少年は、本当に天使だったのかもしれない。
私は、雨の降っていない満月の夜が好きだ。
ふと廃屋の近くを通ると、あの歌声が聞こえてくる様な気がするのだ。
廃屋の少年