(ML)忘れていた恋の話。

えりな

  1. 『忘れていた恋の話。』(ML)
  2. 『おかえり。』(ML)
  3. 『これから、今から。』(ML)
  4. 『ごほうび。』(ML)
  5. 『幸せのおすそわけ。』(ML)

初恋、二度目、すききらい…何度しても恋はよいものです。

 このお話は同じ題材での短編集です。
 各お話の登場人物は別で内容も別のオムニバス形式になってます。
 このお話は作者の他所で運営している【BL&ML小説サイト】にも掲載しています。
 作者以外の方の転載は拒否でございます。

2017.1.12.えりな拝。

『忘れていた恋の話。』(ML)



親しい友人から結婚式の招待状が届いた。

そうか…自分ももうそんな歳なんだなあ…なんて思いながら家に帰りクローゼットを開けてスーツを探す。


「これはいつのだ…リクルートのか?さすがにこんなのは無理だろ…一体いくつなんだよって話だよな…」


ぼやきながらあさってみたところで所謂“ちゃんとしたスーツ”なんてものは出てきやしない。
そんなん当たり前だよな…就職してから新調してなけりゃあるはずがない。


「やべーな…出来婚ヤローだから式までの間が全然ねぇじゃんか!」


まさかの出来婚なくせに嫁さんの腹が出切らないうちに早急に式を挙げるとか。
そっちも急ぎなんだろうがそれに合わせるこっちの身にもなれっての。
仕事が忙しくてロクに休みも取れねーんだからスーツなんて買いにいく暇ねーのよ。

更にぼやきながら着ているツナギの前ファスナーを全開にして脱ぎ捨てる。

確か営業希望で入ったはずなのに気が付けばこんな格好で毎日毎日車の下に潜っての仕事。
汗まみれだわ、汚れまみれだわ、油まみれだわ…と、お世辞にもいいもんだとは言えない。
だがまあ車好きだしいいかなーとか思って勉強してからアッという間に一人前。
更に気付けば小さなショップではあるが現場の責任者になっているという自分の才能にホレボレしちまう。

…誰に向けての“自分自慢”なんだか。

取りあえず今一番必要なのはスーツを買いにいく時間の捻出。
明日の車検、修理等々の予定を思い出しながら俺は風呂に入るべくそのドアを押し開けた。



バタン



閉まる音を聞きながらシャワーのコックに手を伸ばす…と。
ドアの向こうから甲高い電子音が聞こえてきた。


「マジかよ…このタイミングでか!」


この真冬の時期、帰ってきたばかりのまだ暖まっていない部屋に全裸で出る勇気はない。
だが…
もしかしたら出来婚ヤローからの招待状を受け取った仲間からの電話かもしれんしな…。

少し考えてからタオルを腰に巻き付け風呂場を出る。
鳴り続けている宅電に手を伸ばしながらソファにかけたままのパーカーを引き上げた。


「はいもしもしー…」
『あ、かかった!』


袖を通そうとした手が止まる。


『あれ?…もしもし??』


耳に響くのは懐かしい柔らかい声。
忘れていたはずなのに…第一声でわかってしまう辺り俺もイタイ。


『もしも…』
「おう、悪い!」


なるべく軽く。
なるべく普通に。

自分に言い聞かせながら言葉を紡ぐ。
…これがすでに普通じゃねーわな。


『よかったーいないかと思ったよ。』
「ああ悪い。丁度風呂に入るところだったんでな。」
『マジで!?』


コロコロと笑う声が愛しい。


目を閉じてこの声の主を思い描く。


男のくせにえらく細く小柄で髪もサラサラ。
デカい黒い瞳と男のくせにやたらと可愛らしい顔立ち。
男のくせに声も低くなり切ってなくて…と、“男のくせに”を連発するが。


『もしもし?聞いてるのか光志(こうじ)?』
「聞いてるよ明佳(はるか)。」


俺は学生時代この男、中野明佳に恋をしていた。

“男のくせに”。


『なあ加藤から結婚式の招待状きた?』
「ああ、出来婚だとな。あいつらしいわ。」


電話口で笑い合ってるだけでもやたらと心臓がバクバクする。
苦しい、が苦いものではなく“胸がイッパイ”というやつ。
…くそ…
なんだよこの乙女キャラはよ。

苦笑いをする俺の耳には明佳の楽しそうな声が響き続ける。


好きで好きで…
どうしようもなく好きだった。

どこがどうとかじゃなく本当に“全部”が好きだった。

頭が弱いくせに変に鋭いところがイイ。
タラタラしてるくせになにかの大事にはいち早く駆け付け先頭で戦う勇ましさがイイ。
細っこいくせに人の弁当から必ずおかずを一つ奪う食い意地がイイ。

なんつーか…
一緒にいて飽きないんだよな。
一分一秒変わる表情も、次になにをやらかすかわからない大胆さも全て。

だから“本当に全部が好きだった”んだ。


『久々に光志に会えると思ったら嬉しくてさーつい電話しちゃったんだよね。』
「そりゃどうも…」


言われているセリフは嬉しい。
かなり、スッゲー…どんな表現もチープになっちまうくらい。

だがそれは“昔の親友・光志”への明佳の気持ち。

俺は…
そう思ってくれている明佳を夢の中で、妄想の中で、何度も犯した。

何度も、何度も。

嫌だと泣き叫ぶ明佳を押さえ付けて無理矢理体を捩じ込み、細い身体を何度も何度も突き上げた。
そんな自分が嫌で…いつか本当にそうしてしまいそうな自分が怖くて俺は明佳から離れたんだ。

それを…今更。


『光志、俺に黙ってゼミ変えたりバイト変えたり彼女作ったりだったからさー…なんか淋しくてさ…』
「そうだったか?」
『そうだよ!』


それはある意味お前を俺から守るための決心だったんだから仕方ない。
…とも言えず。


『だから加藤の結婚式では離れないからな!』
「…あのなぁ。」


深い深い溜め息を一つ。
コッチの気持ちも思いも知らずに明佳は楽しそうにしゃべり続ける。

その軽やかな声を聞きながら俺は…いまだ冷めやらずな自分自身に飽きれてしまった。



NEXT?

『おかえり。』(ML)


冷たい空気にハッと息を吐き出す。
空に散る自分の分身を見上げながら…襲い来る寒さに身を震わせた。


コンビニまでの道程がやたらと遠く感じる。
たかが三分のことだけど。
こういう日は…あれだ。
さっさと弁当を買って、とっとと家に帰るべきだ。


やたらと多い脳内での愚痴とめちゃくちゃな感情。
これはもう…どうにもならない病気みたいなもんで。


「…こーゆー日は…鍋でも食いたいもんだよな。」


たどり着いたコンビニでアルミの鍋セットを手にして溜め息をひとつ。
これといって食いたいもんもないし特に腹が減っているわけでもないし。
じゃあなんで買い物にきてるか…といえば、ただ単に暇なんだ。

否!

一人で家にいると…思い出したくないことを思い出しちまうからだ。


『ありがとうございましたー』


不愛想なレジの女を見もせずに買ったばかりの煙草を咥えてその先に火をつける。
コンビニの外にある喫煙スペースに向かい不健康な精神安定剤を肺一杯に吸い込んで……寒空に向かい一筋も残さず吐き出した。


思えば…
いつもと変わらない朝だった。

いつものように奴よりも先に家を出て、仕事をして。
定時をだいぶ回った頃…っちゅうか日にちもだいぶ回った頃に帰宅してみたら家は…奴の部屋は蛻(もぬけ)の殻だった。


衝撃?
いや…


体中全てを巡ったのは『なんで?』という疑問。


なんで出て行った?
なんで…?
どうして…?


そのことだけに囚われて…気付けば朝になっていた。

その間に探しにいけただろう。
そうすれば…まだ間に合ったかもしれない。

だがそれもすべてはあとの祭り。
結局のところ俺は、いなくなった奴への疑問に支配されて、その相手を追うことができなかったんだ。



「…実際アホすぎんだろ。」


その日からほぼ一週間は廃人。
次の週は体を壊してボロボロで…それが過ぎたら世捨て人だ。
あれから半年が経とうってのに俺はまだ奴を探しにさえいっていない。


「いる場所はだいたい見当が付いてるんだよ…」


付き合いはそう長くはないが職場で知り会ったんだから奴のことはだいたい、わかっている。
だから余計に…
奴が出て行った理由がわからないから、どうもできない気持ちでいるんだ。


これといった喧嘩をしたわけでもない。
無駄なことをしたって意味のないことだから。
意見の相違があったわけでもなんでもない……

想いながらふと…


「もしかして…」


それがいけなかったのか?

喧嘩をするほど一緒にいたか?
相違に気付くほど話をしていたか?
そんなことにさえ気付けないくらい…奴を見ていなかったのか…。



「…はっ…」


自嘲気味に笑って空に煙を吐き出す。
俺の吸い殻で一杯になっている灰皿に背を向けて…足早にその場を去った。



まだ…
間に合うか?

あれから半年だ。
もしかしたらもう新しい恋人がいるかもしれない。
もしかしたら………ってくだらないことの連発。
俺ってつくづくつまんねぇ男だな。
そんなことより早いとこ奴を探しに……

いつの間にか駆け足になっていたまま曲がり角を曲がって玄関への角を曲がって、足を、止める…。


「……っ…」


息を飲んで…
玄関のフェンスの前に立っている…奴に近付き…。
ぎこちない笑顔を作る奴の真正面に立った。


「お前さー…普通恋人がいなくなったら探さねぇ?」


言葉と同様の飽きれたような顔付になった俺の…恋人だった奴は少し首を傾げてから、さっきまでのぎこちない顔付に戻って。


「あ、あのさ……俺宛の郵便とかさ…そういうのをさ…」
「悪かった!」


しどろもどろな奴の声を遮り文字通り声を大にして頭を下げる。


「ちょっ…な、なに…」
「わからなかったんだ。お前がなんでここからいなくなったのかってことが。」
「頭、頭上げてよ!」


下げっぱなしの頭を両手で上げようとする奴に対抗して意地でも頭は上げない。
せめて…思いを全部言い終わるまでは…!


「仕事は忙しかった。でもお前の話を聞けないほどじゃあなかった。」
「そんなの、もういいじゃん…」
「よくない。」


奴の手の力が弱まるのを見計らってその細い手首を掴む。


「ずっと考えていた、理由を。やっとわかったのがつい今しがたで…だから俺、お前を…」
「だからもういいって!もう、終わったことだよ。」


掴んでいた手首が引かれ驚いて顔を上げると…奴は赤くなった顔を背けて俺が掴んでいた手首を自分で押えていた。


もう…

ダメってことか…?


ギュッと締め付けられるような胸の痛みに奥歯を噛みしめる。


ちくしょう!
もっと早く走り出してれば!
もっと早くこいつの気持ちに気付いていれば…
もっと早く……


恭介(きょうすけ)…」


自責の念にかられていたところで名を呼ばれ…俯いていた顔をゆっくりと上げる。
…つーか…
どんな顔を向けりゃいいのか…。


「俺、お前がいなくて淋しかったよ。」


告げられた言葉に二の句がつげない。
今にも泣きそうな顔をしている恋人…の腕に触れてもいいのか。
そう思ったのはほんの一瞬で。


(たかし)……」


愛おしい名前を呼んで、外された腕をもう一度掴んだ。


「でもさ、ちゃんと話もしないで逃げて…俺、自分が卑怯だと思って…ずっと引っ掛かってて…」
「それは俺が…」
「ちゃんと言わせてくれ!」


俯いてしまった喬の明るめの茶髪が震える。
俺は黙って言葉の続きを待った。


「ちゃんと言えばよかったって…後悔、したんだ。離れたくなんてなかった…けど、一緒にいるのに一人でいるのは…いやだった。」
「…悪かった…」
「恭介鈍いから…こんなことしたってなにも変わりはしないのに…」
「………。」


確かに。
実際なにも変わらなかったからこれは逆に相槌が打ちにくいが…。


「喬。」


掴んでいる腕を強く引き抱きしめる。
こんなことしていいのか?
…と思いながらももう答えは目の前にぶら下がっているじゃないか、と覚悟を決めて。


「さっきまでの俺はお前に捨てられても当然だった。一緒に暮らそうといったくせにお前をずっとほったらかしていたくらいだからな。でももう大丈夫。はっきりわかったから。お前がいないと俺がダメになる。だから…」
「恭介…」
「だからもう一度、俺の恋人になってくれ。もう一度、俺に惚れてくれ!」


抱きしめている腕の中の細い身体がびくりと震える。
…正直、怖い。
ここまで言って…まさかのやっぱりごめんなさいは…もう立ち直れないから…。


ギュウッ!


いきなり体が軋むほど締め付けられる。
いつの間にか喬を抱きしめていた体には奴の腕が巻き付けられていて。


「好きだ…恭介…」


そう言ってくれた声は微かに震えていた。


こういう時にどんな言葉をかければいいのかわからない。
けど…きっと。
こんな時は言葉なんていらないんだろう。
だから。


「おかえり。」


腕の中の愛しい恋人を抱きしめながら玄関のフェンスを開けて。
俯いたままの柔らかな髪を撫でて。


「喬…愛してるよ…」


溢れ出る気持を余さず伝えて。
愛する人を、空っぽだった家と俺の心の中に促した。



END/2017.1.8.

『これから、今から。』(ML)

俺は大真面目だった。

好きで好きでたまらなくて。
一緒にいたくてたまらなくて。
俺以外の誰かと彼女が一緒にいるとかマジなくて…だから言ったんだ。


『好きだ。俺と付き合って。』


…と。



「ぐはっ…それマジウケるわ…」


俺の目の前にいる男はそう言うなり腹を抱えて笑いだし、俺はそんなヤツを思いっきり睨みつけながら咥えてる煙草を唇から外してヤツに肺一杯の煙を吹きかけてやった。


「煙いから!」
「るっせ!てかお前に俺を笑う資格なんてねぇんだよ。」


顔の前で手をパタパタと動かして吹きかけた煙を自分の前から排除しようとしてるヤツにもう一度、今度は更に倍の量を吹いてやる。
するとヤツは二度咳込んでから俺に薄笑いを向けた。


「だってな?これが笑わずにいられますかって話!」
「つーかお前が言えっていうから言っただけだろ。それを激笑いするとかお前どんだけ失礼なの。」


言い捨てた俺は食ってたバーガーの包みをぐしゃぐしゃに丸めてヤツに放り投げる。
ヤツはニヤニヤ笑いを崩さぬままそのゴミをこっちに投げ返した。


「だってさ…お前のソレがいつからなの?って話しして…まさかそれが幼稚園の時とかって…ぐふっ…」
「しつけぇ!」


また笑いだそうとするヤツに向かって今度は丸めた手拭きを力一杯投げつけてやった。



ことの始まりは、他愛ないオンナからの告白。
授業が終わり次の教室への移動を開始するなり見知らぬオンナに声を掛けられ裏庭に連れ出された。
そしてソイツがお決まりの告白を始めようとしたんで。


『つーか悪ぃんだが俺まだ授業あんだよ。このタイミングで声掛けてくるとか非常識にも程があんだろ。もう声掛けてくんな。ついでに俺に告ろうとするヤツがいたらソイツにこの、今の話をしといてくれ。』


…と、言ってやった。
そのオンナは一瞬驚いた顔をしてから真っ赤になりどうやら着いて来ていたらしい女友達に腕を引かれてその場を即、立ち去った。
深い溜め息を吐き出した俺はこのまま授業に向かう気にもならず、一緒にいた真木(まき)を無理矢理付き合わせて学校の側にあるマックにやってきたというわけだ。



新太(あらた)のそーゆーシーン、初めてじゃねーけどいつ見てもフリ方に愛情とか気遣いなんかのカケラもねーじゃん?なんか恋愛に夢とか持ってねーなって感じがしてさ…」
「そんで『新太ってもしかして昔イタイ恋愛したことあったり?』とか聞いちまうってのか?普通そう思っても聞かねぇだろ。」
「普通、言いたくなければ言わないっしょ?」


シェイクをズビズビ啜りながらまたニヤニヤを復活させる真木。
コイツのこの裏がありそうな笑みを見て警戒するものの…なぜだか自然と暴露しちまう自分がいる。


「でもさ?新太の恋愛のトラウマがまさか幼稚園の時でしかもザックリ切られたことが原因とか…」
「るっせ!」
「さっきの娘なんて結構上玉だったろ?勿体ない。」
「んじゃお前が食え。」
「食えねーし!」


ズラズラと続く会話がピタリと止まり…俺は真木を見る。
ヤツは笑みを変えぬまま俺を見返して。


「俺はゲイだからオンナノコじゃ勃ねぇもん。」


そう言って“ははっ”と笑った。

俺の目の前にいるこの真木は真正のゲイなんだそうだ。
それを知ったのは大学に入り同じ専攻ってことで話をし始めてからしばらくしてからだった。
ヤツと同高だったという奴に笑い話チックに言われたんだ。
この真木が目の前にいるってのに。

ソイツの馬鹿にした言い方に神経が反応して、人ではないような目で真木を見たソイツの全てが許せなくて。
初めて俺は、“人”を殴ったんだ。

まあ…コイツとはそっからの付き合いだ。


「俺は別にオンナが好きなわけでも嫌いなわけでもねぇよ。そう思う前にダメ出ししちまうだけだ。」
「トラウマが先に発生しちゃうからっしょ?」
「わかんねぇけど…なんかそういう熱い気持ちっての?そんなのを忘れちまってるって感じか?」
「ふーん…」


こればっかはよくわかんねぇってのが本音だ。
それとは逆にこう見えてこの真木はオトコにモテるらしく年中“恋バナ”なんてもんを俺に聞かせてくる。
最初こそ地味に引いたが最近では慣れたもんで普通にそれを聞いてやることができるようになった。
…慣れって怖ぇな。


「じゃあさ、俺とレンアイゴッコ、してみる?」


箱から引き出した煙草を咥えるのと同時の言葉に目がテンになる。


「ん?返事は?」


ヤツは握っていたライターを俺の手から取ると咥えたままの煙草の先に火を点けた。


チリチリと紙が燃えてそこからうっすらと煙が立ち始める。


それを見ていた視界に真木の細い指が入り込み唇から煙草を外した。
するとヤツは静かに笑んでから流れるような動きで自分の唇にそれを咥え込んだ。


「…なに言ってんの、お前。」
「だから“ゴッコ”だよ。それで新太が恋愛できるようになったらメッケモンっしょ?」
「いや…だから…」
「俺がさ、たくさんイイオモイさせてあげるし。」
「なんだよその意味深なセリフは。」
「ふふっ…」


真木のいつもの笑みが俺の知らない笑みに変わる。

正面に座っていたヤツは少し腰を浮かせて前に身を乗り出し…煙草を外した唇で俺の唇を塞いだ。


「あ…もしかして新太、これが初めてのキス、だったり…?」


離れるなり開いた真木の唇が静かな音で言葉を紡ぐ。


「…ああ。」
「うっそ…やばマジ嬉しいんだけど…」


唇を奪われた俺じゃなくなぜかヤツの方が顔を赤らめる。
それがなんだか真木らしくて…かなり笑えてきて。


「お前さ、誘うんならちゃんと誘えよな。」
「や、なんか調子狂っちゃってさー。」
「危うく乗っちまうところだったぜ。」


ふっと笑った俺に真木はいつもの悪戯っぽい笑みを向ける。
俺は苦笑いをしながらヤツの頬に指先を伸ばして…触れて。


「俺が幼稚園の時に忘れちまった“恋する気持ち”ってやつを…思い出させてくれよ?」


みつめた真木は初めて見るような優しい柔らかい笑みを満面に浮かべながら俺を見つめ返してくれた。



END/2017.3.30

『ごほうび。』(ML)



朝、目が覚めて……なにやら腕に重さを感じた。


はて。

この…

妙に憶えのある感覚は…?


おぼろげに思いつつその先に視線をやると…渋めの茶髪に一筋の金のメッシュが広がっていて。
この…社則ギリギリの髪の色は…。


「はあ…?しかも…なんで??」


思いながら、飲み込み切れない言葉がだだ洩れた。


夕べは職場の飲み会に顔を出した。
文字通り“顔を出した”、だけだが。
行く気なんて更々なかったが上司に言われて渋々“顔を出した”までだ。

本来、飲み会ってのは楽しいものなはずだが俺にとってこの会はただの苦痛でしかない。
なぜなら。
俺は今の職場が嫌いだからだ。
なんていうか…今いる職場は肌に合わない。
正直、緩すぎて色んな意味でイライラする。
仕事の内容もさながら、働いているヤツの考えもなにもかもが緩くて適当で…と、本当に嫌なんだ。
もちろんそれは胸の奥底に沈めている思い。
男として世にいる以上はどんな逆境にだって立ち向かって且つ、自分の気持ちなんても押し殺さなければならないのだから。

なのに。
その俺の覚悟を鼻で笑うヤツがいる。
そいつは俺と同期入社で同じ部署。
ついでに言えば席は隣で担当しているエリアも一緒…というなんとも邪魔な存在だ。
真面目に生きている俺とは真逆のそいつは…
渋めの茶髪に一筋の金のメッシュの入った…社則ギリギリの髪色をした…。


「…飯山、直哉。」


俺の嫌いな男は、
なぜか今、ここで、俺の腕枕の上で眠っている。

頭の中は“?”で埋め尽くされぶっちゃけ機能していない。
意識の中では必死に夕べの飲み会のことを思い出そうとするが…そこにまで至らないという…。


「なんだこれ…」
「…う…」


呻いた声に被せての唸りに滑稽なほどビクつく。
すると…その閉じられていた瞼が開き、俺を見るなり…。


「…おはよ、高城サン。」


良く知る声…いや、寝起き声で俺の名を呼んだ。
マジマジとみつめる俺をジッと見ていたヤツは口の端をクッと上げて笑って身体を起こした。
そして。


「おはよ、って、言ってんじゃん。」


言うなり俺の唇に自分のを重ねてきた。


「な!なにすんだ!?」
「おはよーのキスに決まってんじゃんよ。はー…身体痛ぇ…」


慌てる俺を楽し気に見ながらヤツ、飯山はその場で大きく伸びをすると布団を外して立ち上がった。
その後ろ姿を見ながら少なからずショックを覚える。
予想はしてたが…立ち上がったヤツは全裸で、俺も、全裸。
ついでに言えば。
身体が…物凄く、重い。
特に、下半身が。

この状況だけで考えれば確実に“ソウイウコト”があったように思える。
だけど…普通に考えてみたってさ?俺は男だし、この飯山だって男だ。
背格好はほぼ変わらずで…まあ、しいていえば俺の方が多少は小さめに出来ているくらい。
…って、いやいや…そういうわけじゃなくて…。
だから、つまり…。


「高城サンてさ、思ったよか華奢なんだね。スーツ着てる時はあんまわかんなかったけど。」


必死にコトを分析していた思考はヤツの軽いセリフでヒビが入って数秒とかからず崩れ落ちた。
…もうこれ以上、考えるのはよそう。
そう思った俺は剥がされていた布団を頭からかぶってギュッと目を瞑った。


「ちょっと、聞いてんの?」


遠くからの声に息を止めて耳を塞ぐ。
きっとこれは夢だ。
しばらくこうしてれば…きっと。


「聞いてんのか、っての!」



バサッ!



「!?」


包まっていた布団が勢いよく外され身体全体に冷気を感じる。
驚いていたのも束の間、で。


「うわっ!?」
「聞こえる?高城サン?」


冷えた身体の上に熱いヤツが重なってきた。


「テメっ、なにして…っ」
「水臭いなぁ…夕べはあんなに…」
「はぁ!?なに言ってんのお前!?」


耳元に寄せられた唇が聞き慣れない言葉を吐く。
縮こまっていた身体はヤツのバカ力に負けて伸ばされ、開かされた足の間にはヤツが体を押し込んで体重をかけてきて…って、つまり。


「ふざけんな!このヤロー!」


ものの見事に俺は組み敷かれてしまった。
見上げるヤツは初めて見るくらいのニヤニヤ顔。
俺は…といえば初めて他人に対して恐怖を感じていて。


「…そんなに緊張しないでよ。」
「やめろ!おまっ…」


固くなった身体にヤツの指先が触れ、恥ずかしいくらいに震えてしまった。
首筋に熱い息と柔らかな唇が触れる。
その度、また震えて。


「高城サン…なんで震えてんの?」
「…るせ…」
「夕べは…」
「そんなの、知らない!」


絞りだした声にヤツの動きがピタリと止まる。
その空気がしばらく続き…俺は固く閉じていた瞼を恐る恐る開けた。
すると…その先ではなぜか飯山が渋い顔をしていて。


「…なんだよ…」


問うた俺に益々渋い顔を向けた。


「泥酔したアンタを送りにきてさ、そしたらアンタ、いきなりキスしてきて…俺、勢いで告白したじゃん?」
「…は?」
「そしたらアンタ、OKしてくれて…」
「はぁ!?」
「なんだよ!それも覚えてねぇのかよ!?」


はぁー…と大きく息を吐いたヤツは俺の身体から身を外すともう一度盛大に息を吐き出してから大仰に肩を落として見せた。


…それって、
一体、どういう…?


真っ白になってた頭の中がなんの前触れもなく急に動き出す。
それは何度か誤作動を繰り返しながら少しずつ巻き戻っていって…。


『俺、高城サンのこと好きなんだけど。』


飯山の真面目な顔を映してピタリ、と止まった。


『キスしたからってその気になんなよバカ。』
『悪いか。だってアンタ、俺のこと嫌いだろ?そんな相手にホイホイ告れるかっての。わかる?』
『わかんね。つーかお前、仕事適当だから嫌い。』
『…知ってる。』
『お前、いつも調子に乗ってるから、嫌い。』
『…それ直したら、少しは好きになってくれんの?』
『…わかんね。』
『ねえ、マジ、好きなんだけど。つーか…アンタも勃ってんじゃん…』
『ん…、触れよ。』
『…触るだけじゃ…済まないよ?』
『じゃあ…好きにしろよ…』


動き出した記憶に一気に体温が上がる。
肩を落としたヤツの背中は…記憶の中のあの、いつものふてぶてしさの欠片もない程に頼りない顔を思い出させて。
なんだか…。


「…おい。」


かけた声に背が震える。
ヤツは頭を上げながらもこっちを向くことはなく、それが逆に…。


「お前のこと嫌いだけど、お前昨日、“直したら好きになってくれる?”とか聞いてきたよな。」
「お、覚えてたのかよ!?」


振り返るなり真っ赤な顔を向けて吠えるヤツ。
それがまた面白くて…妙に可愛く感じて。


「お前がちゃんと仕事するようになったら…付き合ってやるしヤらせてもやるよ。」
「なんでそんな上から…」
「だからさ、俺を落としてみろよ。」
「……言ってくれるね。」


口の端を上げた飯山は身を乗り出して顔を寄せ…俺がよけないのをいいことに近付いてきて唇にキスをした。
唇が離れ…離れしなに目が合いもう一度、今度はゆっくりと重なり。


「俺の本気、見せてやるよ。」


そう言って笑った顔はいつものチャラいヤツのではなく本気の男の、イイ顔付きだった。



-END-
2017.9.10.

『幸せのおすそわけ。』(ML)


目を閉じて思い浮かべるのは…さっき見たばかりの光景。

真っ白いチャペルに並ぶ真っ白い二人。
新郎と新婦だ。
明るめの茶髪をベールに隠し時折目元を隠すような仕草をする新婦。
そんな彼女を優しい瞳で見つめている新郎。

それはそれは…とても微笑ましい、美しい光景だったと今でも思うんだ。



「はぁ…」


感嘆の声と共に吐き出す深い息。
それをまた吸い込んで俺は握っているつり革を見上げて今日何度目かの深い息を吐き出した。


「…もう何回目なんすかそれ。」


なんとも言えぬ気持ちに支配されていた俺の耳に呆れたような声が聞こえて閉じていたまぶたを開く。
そしてその無粋な声の主を細めた目で見返して。


「悪いか。」


そう言って“ベッ”と舌を出してやった。



今日は俺の職場の可愛い後輩の結婚式だった。
我が社に入社したばかりの右も左もわからぬような彼女に最初に仕事を教えたのは俺だった。
大学卒で成績優秀。
高卒の俺なんかよりも遥かに将来を期待される人材だった。
しかしこれまで勉強しかしてこなかった彼女は…何て言うか時世にそぐわぬ…つまりはちょっと常識に疎い本当に手のかかる子だった。
そんな彼女に挨拶から始まり作法やら言葉遣いやら…と事細かに教えどこに出しても恥ずかしくないところまで育て上げていざ、という矢先。
彼女からこの結婚の話を聞かされたんだ。



「しかしあっという間でしたね。」


俺の回想を一緒にみていたかのようなタイミングでの言葉に一瞬固まる。


「…なにが。」
「あいつですよ、緒形。新卒で入ってきたと思ったら一年で寿退職とか早過ぎっしょ?」
「まあ…それは…」


それは…しかたのないことだ。
人が人を好きになるのに決まり事やら順序があるわけじゃあない。
まあ…ぶっちゃけて言えば。


「俺だったら許しませんけどね、デキ婚とか恥ずかしい…」
「声がでかい!」


なぜか不機嫌顔のもう一人の後輩・坂井は俺の声にフンッと小さく返してそっぽを向いた。
そんなやつの整った横顔を見ながら俺は短く息を吐き出し視線だけを電車の天井に向けた。

俺が今の仕事を初めてから一番最初にできた後輩がこの坂井。
こいつもまた緒形と同じく大学の新卒でやっぱり手のかかるやつだった。
しかもこいつは厄介なことに、ずば抜けて頭はいいわ要領はいいわで…なんていうか本当に可愛げのないって方の手のかかるやつだった。
…今もだけど。


「…最初の頃は…」


ぽつりとでた言葉に反応してやつが俺を見下ろす。


「…なんすか。」
「なんでもない。」


きっぱりと言い切ってグッと顔をそらす。


「…なんか俺に文句ですか。」
「だからなんもないって。ホラ、お前の降りる駅だろ。」


電車の到着アナウンスと同時に開いたドアに坂井を追いやりシッシと手で払う。
すると。



ガシッ!



払っていた手首を掴まれ力一杯に引かれて。



プシュゥ…



その背後で…俺が乗って帰るはずだった電車のドアが閉まった。
呆気にとられているうちに進み始めた車体は数秒とかからず視界から消えて…。


「…行っちゃいましたね、終電。」


やつの声に我に返った俺はがっくりとうなだれて深いため息をついた。
…全く…。


「“行っちゃいましたね”、じゃねえよ。どーしてくれんだよ、終電だったんだぞ。」
「俺んち泊まればいいっしょ。」
「はぁ?なにいってんのお前。」


言い返しながら結婚式の引き出物を持ち変えてスーツの内ポケットからスマホを引き出す。
画面を開いてこの駅から自宅までのタクシー料金を調べていると。



スッ。



持ち変えた、やたらと重い引き出物が手から取り上げられた。


「ん?サンキュー…」
「ほら、行きますよ。」
「ちょっと待て…まだアプリが…」
「早くして。堅苦しいスーツを早いとこ脱ぎたいんすよ。」


言うなり歩きだした坂井のあとを小走りに続く。
階段を数歩先に上がっているその大きな背中を見ながら…俺は。


「お前ってさ、緒形がくるまではもっと素直だったよな?」


さっき思っていたことを口にした。
そう。
確かに坂井は手のかかる小生意気なやつだった。
頭も要領もいいからいつも俺は教えてるのに突っ込まれたり揚げ足とられたりで本当に大変だった。
それでも嫌いになれなかったのは…こいつがよく笑ってたから。
いつもは仏頂面してるくせに笑うとめちゃくちゃかわいくて、その顔をみると俺は本気で怒れなくなるくらいだった。


「坂井は緒形が嫌いだったのか?」
「なんで。」
「え?いや…なんとなく?」
「別に。普通です。」


一度止めた足を再び進めながら坂井がどんどん先に上がって行ってしまう。
その背中がなんとなく怒ってるように見えて。


「じゃあ…俺のことが嫌いなのか?」
「はぁ!?」


階段の一番上まで上っていた坂井は裏返った声をあげるなり振り返ってその足元に持っていた引き出物を置いた。
そして軽く屈んでからゆっくりと体を起こして。



ふっ!



…となにかをこっちに放り投げた。


薄暗い駅の階段に舞うそれは…白い…


「ブーケ…?」
「優希サン!好きだ!俺と付き合って下さい!」
「はっ?え…っ?」


放られたそれはコースを乱すことなく俺の手の中にすっぽりと収まった。
これ……これって…いやいや、それより…?


「えっと…」
「緒形のやつ意外と鋭くて、俺がアンタに惚れてるの結構早い内にばれちまってたんです。」
「えっ!?」
「んであいつ…性格悪いから俺に当て付けるみたいにアンタにべったりで…」
「おいおいそれは仕事だから…」


突然の展開にほろ酔いだった気分はすっかりさめてしまいただただ焦るばかり。
あたふたしている俺の目の前には…いつの間にか階段を降りてきていた坂井が立っていて。


「根本優希サン。初めて会った時から好きでした。俺は男でアンタも男だけど…んでも好きなモンはしょうがない。俺が諦め悪いのも頭いいのも知ってますよね?」
「うん。骨の髄まで。」


きっぱりと言った俺に坂井は少し笑って。


「緒形から、お世話になった先輩達に幸せのおすそわけですから、って言われてたんです。ブーケ、絶対に受け取ってくれって。」
「あぁ…それで…」


感動のブーケトスなのになぜか緒形はドレス姿で振りかぶってブーケを真っ直ぐに投げてたっけ。
あの緒形の姿を思い出して…目の前にいる、初めてみるくらい赤い顔した坂井を見上げて。


「なんかさ…」


プッと吹き出し出てしまった笑いが笑いを呼んで俺はただひたすら、息も絶え絶えに笑ってしまった。
するとそれを快く思わなかったのか坂井はでかい咳払いを一度して。



グッ。



俺の頬を両掌で包むなり…唇にキスをしてきた。
とっさのことに逃げることも抵抗することもできないままやつの舌を受け入れてしまう。
ぬるりと動くそれはほんの少しアルコールの匂いがした。
舌の動きに比例するように身体に回された腕に力がこもる。
その締め付ける痛さにもがけばもがくほどやつの腕の力は強くなる一方だった。
絡んでいた舌がほどけ唇が離れてやっと息がまともに吸えるようになる。
そんな俺を黙ってみていたやつはもう一度、今度は触れるだけの優しいキスを唇にしてよこしてから。


「アンタの笑った顔、久々にみた気がする。」
「…そっ…それはお前がいつも絡んでくるからだろ…」
「アンタがいつも緒形とばっか絡んでるからだろ。」
「てか!お前先輩に向かってアンタとか…」
「優希…」


言い合いの最中の突然の名前呼びに一瞬ドキッとする。
その声は…初めて聞くような甘い甘い響きで。


「な、なんだよ急に…」
「ずっと呼びたかった。ずっとキスしたかった…」
「だから俺はまだ…」
「往生際が悪いよ優希。」
「おい!急に名前呼びとか…」
「好きだ…」


更に甘くなった声はいつの間にか俺の思考を溶かしモラルやらなんやらを一片のカタチをも残さずとろかしていく。


「好きだよ…」


囁かれ続ける声にフラットだった心が波立ち、ゆっくりと“恋”というものへと変わっていくのがわかる。
芽吹いた“恋心”はどうなるんだろう?
ちゃんと育つのかな?
そんなことを思いながら俺は降り続けるやつからのキスの雨に目を閉じ抱き締めてくるその腕に全てを委ねた。



2018.11.29.up
by. えりな

(ML)忘れていた恋の話。

(ML)忘れていた恋の話。

色々な恋のお話のオムニバスですが 男性×男性 しかありません! 激しい性描写はたまにしか載せないと思います。 どちらかといえばプラトニック寄りです。 読む方の忘れていた恋心を思い起こさせるような読み物になれれば幸いです^^ *こちらの作品は作者の運営している別サイトにも載せていますが私以外の方の転載はできませんです。

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