繰り返し繰り返し 4

居間のテーブルに母親と向かい合わせに座り、麦茶を飲み干した頃には落ち着きを取り戻した。母親の話では今日は日曜日らしい。金曜日の早朝だったはずだが時空がズレたのだろうか。
「今朝、散歩してたら大変なことがあってね。ほら、同じクラスの豆撒まきちゃん、いるじゃない?」
「あー、うん」まめまきまき。ひらがなだと可愛いのに。
現実に戻された。SNSの頭が悪そうな悪口の羅列を思い起こし気分が沈んだ。また繰り返し悪口の書き込みが始まるのか、と。
「豆撒まきちゃんが今朝、タヌキチスーパーの前で発狂したみたいに泣いて、ワケの分からないことを喚いてたのよ。雨が迫ってくるーとか、逃げなきゃ死んじゃうとか、玄関しか開かないーとか、大絶叫」
「え?」
ほんの少し前に体験したことを思い出した。恐怖心から呼吸が止まりそうだ。
「目の焦点は合わないし、人だかりはできるしで、救急車呼んで、まきちゃんのスマホからご家族に連絡したりで、もう大変だったわよ」
その話にキリエは黙り込んだ。

数日が過ぎても豆撒まきは教室に来なかった。いつ来られるのかも未定らしい。
母親の話によれば精神病棟に入っているらしい。催眠療法とやらも行ったらしく、それによると、豪雨で自宅に雨水が溜まり同じ自宅が現れ、玄関を開け移動すると、古い自宅が大穴に落ちる、という体験を繰り返しているらしい。現実に戻す治療も効果がないらしい。

その話に、数日前に私が体験したものと同じだ、とキリエは血の気が引いた。母親はそんなことも知らず気の毒そうな顔でいった。
「かわいそうに。完全に壊れちゃったのね」と。
こうしている間も、豆撒まきは独りで、あの奇妙な時空で恐怖体験をしているのだろうか。
繰り返し繰り返し。現実の世界にも戻れずに。

繰り返し繰り返し 4

当たり前ですが、これは架空の物語です。最後までお読み頂きありがとう御座いました。

繰り返し繰り返し 4

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-27

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