Iさん考察日誌

彼は黒のスーツに派手目なネクタイ
そして注目すべき点なのだが、
腕にパワーストーンのブレスレットをつけている。
しかも、薄水色とクリスタルのもののダブル着けである。
数珠のような、正直、ヤンキーな人達が意味ありげにつけている、アレだ。

「そういえば、今更ながら、Iさんが腕につけてるブレスレットってなんですか?」

「あ、これか?パワーストーンだ、パワーストーン!癒しだ、石の種類はわかんねぇ。でもかんなり高かったぜぇ」

Iさんも、くらしの中で癒しが必要な普通のサラリーマンであるという事実は、時に忘れがちである。
しかし、彼の大胆な点は、仕事中にちゃっかりパワーストーンの力を借りて癒されている点にある。

それおいでなすった、スピリチュアル。

誰だってそりゃ癒されたいけれど、仕事着にブレスレットをW着けするのはビジネスシーンにおけるドレスコードにひっかかる気が・・・
Gさんのファッションに口出しできない気がするのですが・・・

彼にもスピリチュアルを信じる、乙女な一面があり、私はその片鱗を感じていた。繊細な部分は確かにある。
そして自分でも「俺はこうみえてデリケートなんだず」と事あるごとに主張する。

奇しくも、いまの職場にメンタル不調で休職を繰り返す職員さん(Wさん)がいる。
実はWさんも双極性障害、と聞いている。
ただ私は本人からはうつ病だと聞いて、リハビリ、リワーク支援を受けているそうだ。
そのWさんは本当につらい思いをしているのだと察するが、ⅠさんはWさんが頻繁に休むことを皮肉る。
「ほっだな俺だって休みたいず!Wさんは自分でガラスのハートだっていってるけどよぉ、俺だってナイーブなんだがら!」
「いいな~Wさんは休むいくて」

それおいでなすった、カジュアルな偏見。

そしてさらに、彼は緊張し屋さんで、電話にでるのすらドキドキする、とのたまう。
「緊張すっがらよ、俺電話にでねがらよぉ、よろしくね。」

それおいでなすった、仕事放棄。
これは、どうなの?どうやって社会生活ができたの・・・

その真偽は解りかねるが、どうやら彼には緊張するから電話に出たくないという理論が通用してきたらしい。
とんだ困ったちゃんである。

はたして彼にスピリチュアルの介入が必要なほど疲れることはあるのだろうか。

今日は、彼の主張によると、他の事務所に、自分の同期である詮索屋のおっさんがいて、心底嫌な思いをしたそうだ。自分のことは話さないくせに他人の情報は根掘り葉掘り聞き出す、嫌なタイプの同期がいるそうで弱っているようだが、Ⅰさんも割と人の噂や最新情報を聞きたがるほうでお喋りで、どんぐりの背比べのような気もするのだが、やはり嫌な思いもしているようだ。
その同期はすでに自分が新車にしたことを知っていて、どんな車種であるかも特定し、そのうえⅠに似合わないなどと言ってきたらしい。

それは嫌だけど、パワーストーンを身につけるに至るかなぁ・・・


右手にパワーストーン、だけで驚いてはならないのが
彼は左手に、スマートウォッチを着用しているところである。
アップルウォッチではなく、自身のアンドロイドに連動したスマートウォッチで
縁取りはスカイブルーだ。

手元だけを見ても、自己主張が激しい。
小うるさい。

なぜ、普通の腕時計にしないのか、
スマートウォッチにするほど多忙なビジネスマンなのだろうか
どのような自己認識を持っているのか
疑問は多々ある。

ヨドバシに通い、新しいモノ好きでミーハーな事は知っているが
繊細で緊張しいな人が
はたして目立つものを身につけるものなのか・・・

人とは違うものを身につけて自己主張したいのか、はたまた・・・
彼の真意は謎に包まれている。

ただのおっさんなのに、こんなに人を引きつけられるのは、
彼が割と強めの磁場を作っているからだと思う。

観察をつづけ、彼の核心を突きたいものである。

Iさん考察日誌

Iさん考察日誌

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-26

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