coloring

岬 拓斗

昔の友人に「とある作品の同人を書きたい」といわれ、一緒になってかいたものです。
飽きっぽい人物なので、当人が今やってるかは分かりませんが、その同人集はその人のサイトにあるそうです。
携帯サイトなので詳しいURLは存じませんが、筆者のこの「coloring」も載せてあるはずです。

ですので、全く同じ文章をどこかで読んだとしても盗作ではありませんのでご理解ください。

7days ago

 不思議な感じがした。いや、そんな感じの人だ。何かが。
 一体、これがなにでどうしてこんなことをしてるんだろう。
 不思議と近付いて『何してるんですか?』と言ってしまった。
『ん…?』冗談めかしく『悲しいことだよ』その人は応えた。
『どうして、悲しいことなの』
 率直な疑問が口から零れる。
『これ見て、どう思う?』
 アナタは生きてますか。
 壁一面に大きく描かれた絵。
『カッコイイと思います』
『素直だな』あきれたか、苦笑した。
『こんなの、公共物等破壊罪の現場以外の何でもないよ』
 冷めた言い方に何も言い返すことができなかった。
『気に入る奴は気に入る。けどそう思わない奴の方が多い』
『じゃあなんで…』酷なことを聞いたかもしれない。
『なんで描いてるんですか?』
『…教えねぇよ』
 答えてはくれなかった。気を悪くさせてしまっただろうか。
『共犯だと思われるぞ。どっか行け』
『いえ……見てます』
『は?』
 何故か自然と零れた言葉。意識なんてしてないし、これにそんなに興味があるわけでもない。
 それでも私は……
『この絵、見たいです』

6days ago

---べしゃ、べしゃ。
「ねぇ、これってどれぐらいやってるの?」
---カンッ、カンッ、カンッ。
「…昔からやってる」
---スーッ、スーッ。
「いや、そうじゃなくて…。この絵はどれくらい描いてるのって」
---スーッ、ススッ。
「…。まだ始めて二日目」
---カンッ、カンッ、カンッ。
「へぇー。二日でこんなに描けるもんなんだ」
---べしゃ、べしゃ。
「…慣れてるから」
---カンッ、カンッ、カンッ。
「さっき前から描いてるって言ってたけど、やっぱり他に描いてたの?」
---スーッ、スーッ。
「…補導歴が何件もある」
---スーッ、ススッ。
「悪いことしちゃ駄目だよー」
---カンッ、カンッ、カンッ。
「…だったら通報なりなんなり」
---カラン。
と、松尾は空きのバケツにハケを投げ入れる。「…疲れた……」と漏らし、七尾の持ってきたシートで寝そべった。
 松尾の視界に広がる空はあまりにも日常的で、今の非日常をとてもじゃないが信じられるものではなかった。
 そう。あと一週間で世界は終末を迎える。
 巨大な隕石が地球を直撃し、全てが吹き飛ぶと世間を騒がせていた。
 この事実が報道されたのは一年ほど昔のこと。
 当初は世界各国で大混乱が起きていたが、流石に馴れてきたのか、ここ最近は落ち着きを取り戻していた。
 そんな日々で何を考えているのか松尾は壁に巨大な落書きをしていた。壁グラフィティと呼ばれるストリートアートの一種だ。
 一緒にいる七尾は何故かそれを見ている。
 松尾と七尾はつい昨日まで赤の他人だった。そんな二人が一緒にいること、仲良くしていること、それ自体がおかしな話だ。ましてやそれがもうすぐ世界が終わる直前であるなら尚更だ。
「完成が今から楽しみだね」
 屈託のない笑顔で話しかける七尾。
「…そうだな、ちゃんと終末までに間に合えば良いな」
 素っ気ない返事をする松尾に詰め寄るような期待の眼差しで「間に合わせるんでしょ?」と言った。
 松尾はそれでも「…そうだな」と素っ気なく切り返す。
「…………」
「…………」
 会話が途切れてしまう。
 松尾が素っ気ない反応を示しているのだから、それは当然のことなのだが…。
 …と、直ぐに何を思い立ったのか「七尾もやるか?」と言い放つ。
「え?」
 と思いがけない発言についつい疑問で応じてしまう七尾。
「いや、でも、どんな絵か知らないし」
「下書きなら、ここにあるよ」
「…でも」
「嫌なら、別にいいんだけどね」
 拗ねたように言い捨てると松尾は再び絵を描くために立ち上がった。
 ハケをとろうと手を伸ばすと、七尾は横から掠めるように取り「やる」と一言発し、絵の方に向かった。
 松尾も七尾も最初こそは真剣にやっていたものの段々とふざけつつあった。


「ちょっとペンキ付けすぎ!垂れてるじゃない!」
「いや、俺の作品だから…」
「私だって楽しみにしてんのっ」
「大体こーゆーのは垂れて問題ないようなもんなんだよ」
「じゃー私もそうします。それ」
べしゃっ。
「こら、適当やんな…!」
「問題ないですよー」
「人の作品だ」
「コレって楽しいね!」
「……聞けよ、馬鹿…」


 空に段々と藍色が混ざり、星が瞬き始めた頃、冷たい風が吹き始めた。
「今日はもう止めようか…」
 松尾が切り上げようとペンキを片付け始める。といっても人通りの邪魔にならないよう端へ寄せるだけだ。
 松尾たちがいるのは河を挟んだ向かいの工場地帯である。こんな辺鄙なところに来る人だって珍しいものゆえ、こんなことをする松尾はなかなか律儀かもしれない。
 松尾は七尾の身体を頭から爪先まで見回し、ふっ、と一瞬柔らかい表情を浮かべて呟いた。
「ペンキだらけだな…」
 服の袖や足だけでなく顔にまでペンキが付いてる。申し訳程度に靴に付いてはいないのはせめてもの幸運か。
 しかし、七尾は自分のペンキの様子よりも別の事に気が向いてしまった。
(あ……松尾笑った……。)
 僅か一瞬の表情だったが七尾は見逃さなかった。不意の表情だったのでついじっと松尾の顔を見続けてしまう。
「なんだ?」
 じっと見続けられて訝しがった松尾はついつい訊ねてしまう。
 笑顔に見惚れていたと正直に言えるわけもなく、誤魔化しながら言葉を繋げる。
「あはは、明日も同じもの着なきゃね」
「明日も来るのか?」
「ダメ?」
「どっちでもいいよ…」
「じゃ、決定……あ、そだ」
 一心拍空白があったかのような刹那、七尾は尋ねた。
「この絵が完成したらどうするつもり?」
 松尾は一瞬意味が理解できなかった。大して意味のないような質問にも思えるし、逆に何かがあるようなぼかした質問だったからだ。
「……何もしなくなるかな」
「どうゆうこと?」
 松尾自身誤魔化したつもりはないのだが、意味の伝わり辛い表現になってしまったのだろう。
 松尾はわかりやすく言葉を選んで言い直す。
「これ、最後の絵にするつもりなんだ」
「もう…描かないの?」
「難しいんだ。何度も描けない」
「…そっか」
「冷えるよ、もう帰ろう」
「うん、バイバイ」
 別れを告げ、二人は反対方向へ歩き出した。

5days ago -morning-

「早いな」
「なんだか待ちきれなくて」
 松尾が着いた頃には七尾はとっくに到着していた。時刻は集合時刻の十五分前。松尾自身、七尾が来るとは思ってもいなかったから普段通りに来ただけで、早く来ようという意識はなかったが、待たせてしまったならもう少し急いでもよかったかもしれないと軽く思った。
「それに…、ちょっと気になったから」
 昨晩の隕石の落下のことを言っているのだろう。地域は随分と離れたところではあったがその衝撃はこちらの方まで届いてきた。
 松尾の家でも食器棚から皿が滑り落ちてきたのだ。棚ごと倒れて来なかったのは不幸中の幸いともいえる。
「違う服、着てるんだ」
 七尾は昨日と殆ど同じ服を着ていた。よくよく見れば昨日とは違う服を着ているのは間違いないのだが、服のいたるところにペンキの汚れが付いているので間違いない。
 対する松尾は昨日とは全く違う服を着ていた。……が、すでにペンキが付いているのはもともとそういった服なのか、それとも以前の彼の別の作品の際に服に撥ねたものなのか。
「ペンキ少ないな」
 足元には赤、青、黄と様々なペンキが散乱として、ある意味前衛的な新しい芸術となっていた。昨日の隕石の影響でほとんどが零れてしまったのだろう。
「…じゃあさ」
 まるでショッピングを楽しみたいかのように、七尾は提案した。
「今日はペンキ取りにいかない?」
「……ま、いいけど」
 しばらくの間はあったものの松尾は二つ返事で頷いた。
 はじけるような笑顔で喜んで「じゃあ行こー」と七尾は明後日の方向へと指をさした。
 松尾は何も言わずに取りあえず七尾の指が指示した方向へとは反対側へと歩きだす。
(河渡んなきゃいけないのに何で橋を指さねぇんだ……?)
 ペンキを買うためのホームセンターは七尾が指をさした方向にあるのは事実だ。あちらの方向へ進めば確実に目的地への距離を縮めることはできる。
 …が、それでその目的地に行けるかときかれたら確実性はない。むしろ皆無であると言った方が正しいぐらいだ。
「そりゃ、私は方向音痴だけど……」
 七尾が口をすぼめていう。
 何も言わずに反対方向へ歩き出したのが露骨に馬鹿にされたみたいで不服なようだ。
「女じゃ仕方ねぇんじゃねぇの」
「え?女の子ってそうなの?」
「俺だって詳しいことは知らねぇけど……」
 と前置きを入れながら前に読んだであろう書籍を思い出すように空を見つめながら語りだす。
「ホルモンだか脳の造りの違いだかで女は男に比べて空間把握能力が劣るらしい」
「へー、女の子って方向音痴が多いんだ……」
「逆に男は小さい変化とかには気付けないらしい。よくあるだろ。女が髪切ったとかではしゃいでいるのに男が『変わってねぇじゃん』って言うの」
「ああ、普通気付くよね。見ればわかるもん」
「男は分かんないんだよ。そーなってる。つっても、なんか変わったぐらいは解るんだけどな……」
「ふーん、じゃ、私昨日と違うんだけど、なにかわかる?」
「わかるわけないだろ」
 まるで興味がありませんという体で視線を道路に向ける松尾。それはやはり七尾にとっては不満だったらしく、拗ねたような顔をして七尾も道路に顔を向ける。
「………」
「………」
「………………」
「……………ヘアピン」
 聞こえるか聞こえないかという微妙な声で松尾が言うと「え?」と七尾は顔覗き込んでくる。
「今、何て言った?」
「……次、右曲がるぞ。…って言ったんだよ。迷子になんなよ。お前は方向音痴なんだからな」
「えー、嘘でしょ?」
 ああ、そうだな、と軽く受け流す。すると七尾はまた口をすぼめて拗ねだしたが、その表情はどことなく満足しているかのようにも見えた。
(すぐに表情に出る奴だな……)
 松尾は心の中で思った。
 大体落ち着いて考えてみれば、わかるものだ。服装はペンキまみれでほとんど同じ服を着ているのだから、「何か違う」となればそんなものアクセサリーの類しかない。
 実を言うと松尾は当て推量だったのだ。
 それでも当の本人は満足しているようにも見えるので余計なことは言わないでおく事にする。
 角を曲がると大きな橋が目に飛び込んできた。この橋を渡っても当分歩き続けなくてはならない。目的のホームセンターは割と離れたところにある。
 この街は東西二つの河が流れていて東側は工業地帯となっている。西側は地方にしては都市としてそれなりに栄えていて、河に挟まれた中央部は生活に差しさわりないぐらいに栄えてはいる。そのため西側に出かけるものは遊び以外ではなかなかない。
 それでもデパートの大きさや商品の品ぞろえ、病院の大きさなどを考えると西側の方が大変便利である。
「着いたな」
 橋を渡る事十数分。目の前には目的のホームセンターがそびえ立っていた。一階は大きなスーパーマーケットになっていて日用品の大半はココでそろう。
「それで、何処にあるの?」
 頭で疑問符を立てながら七尾は訊ねてくる。
「ここの二階だ。お前、なんで知らない…。文化祭とかで買わないのか?」
 買い出し私じゃなかったの、と半ば拗ねながらで返して、駆けていく七尾。子供のように一動が幼い人物である。自分のものを取りに来たわけではないのにとても嬉しそうだ。
 しかし、二階に着いた直後に「あっ……」と落胆したような声を出した。
 松尾はため息を吐いた……。やっぱりそうかと予感が当たったのだ。
「ペンキ」
「…うん……」
「全部零れてたわけだな」
「……うん…」
 松尾は二度目のため息を吐いた。それは当然だろう。昨晩の隕石で工場地帯にあった松尾のペンキが倒れて零れたのだからココにあるのも零れていても仕方ない。
「何でがっかりしてんだよ」
 さっきまでの上機嫌が嘘のように意気消沈している。
「……だって、これじゃ、松尾の絵が…」
(『俺の』絵が完成しなかったらどうなんだか)
「ここにないんだったら、また探しに行けばいいだろ。駄目元で。西側まで行くぞ」
 松尾は七尾の手を無理矢理手を引っ張って歩き出した。
「それに、ペンキは大丈夫だ。今更変えたくないだけでスプレーでもできる。西側に無かったらここのスプレーを貰おう」
「え……、じゃあ……」
「なんとかなるよ」
 その言葉を聞いて不安が拭えたのか、締まりない笑顔を七尾はみせた。


 西側のショッピングモールに着くなり松尾は小腹が空いたと言って近くのお店に入って行った。
 二人が寄ったのはオープン式のカフェなので、軽食を取りながら他のお店が見れるのが目に嬉しい。
 しかし、普段は客足の激しい店でももうすぐ地球が滅びるとなれば閑散としている。お客どころか店員もいない。そしてそれはこの店だけでなくショッピングモール全体を指していた。
 偶然にも店員がいてくれて非常に助かったのだが、店員がいなければ無料で食べられたのではないかと松尾は軽口を叩いてみたりしている。
 お互いに頼んだスコーンやサンドイッチを食べ終えて、食後の紅茶を飲んでいる。
 話のネタも大して思いつかないことから、七尾はなんとなく日常に関する話題を振っていた。
「松尾は何処に住んでるの?」
「……急に何で?」
「ホラ、昨日帰った時に私たち違う方向に歩いたでしょ? それにあそこらへんにお家ってないから気になって……」
「あぁ…」と松尾は納得したような声を出す。
「俺は中央部には住んでねぇんだ」
「あ、やっぱりそうなの? 珍しいね」
「親父があそこらへん工場の取り締まりなんだ。そんで、住まいもあれのうちの工場の敷地内に建ててんだ」
「へー、じゃああんまりこっちにはこないの?」
「……学校はそっちだけど遠いからな。あんま友達とは遊べてない。ある程度の歳になると受験勉強であんまり遊べなくなったりもしたしな」
 七尾は故意ではなかったとはいえども、悪いことを聞いてしまったのではないかという心地になった。
 松尾は幼い頃からあまり友達と遊べなくなっていたらしい。
 その表情を見て松尾はため息交じりに喋りだした。
「……はぁ、別に気にしてねぇよ」
 七尾はおずおずと松尾を見る。
「その気になりゃ自分で遊びに行けるし、自分で断ってたんだ。友達は少ねぇけど忙しいから無理だっただけで、いねぇわけでもねぇよ」
 うん、と眉を困らせたように寄せて、どぎまぎしている。
(本当……、すぐに表情にでるな。この馬鹿は……)
「おま……」
「え……?」
 言いかけたところでしまったと松尾は思った。
『お前はどうなんだ?』と聞こうとしてしまった。
 大体の人間は中央部に住んでいるに決まっている。住んでる場所なんて聞かなくてもいいし、こちらも地元であるため中央部に何があるのかなんて聞かなくても分かる。
 話の流れで友達のことを聞くのも良いが、あと一週間足らずでみんな死んでしまうという中で、わざわざ人がいない工業地帯に足を運んで松尾と会っているのだ。
 先ほどの反応を見る限り、友達にせよ恋人にせよ、最近誰かとうまくいってないのは明白だ。
「な……なぁに?」
 七尾は痺れを切らして聞き直してきた。七尾自身もまずいことが聞かれると思ったようで声が若干震えているようにも聞こえる。
(何か……何か誤魔化せるもの)
「え~と……」などと口でワザとごもるようにして間をかせぐ。目を泳がせるようにして周囲の様子を伺う。
 飲食店にいるのだからケーキ屋になんか目を向けるわけもない。ショッピングモールだからかレディスのファッション店が多い。なんでメンズがねぇんだよ。……いや、そんなことどうでもいい。
 松尾は自分でも焦っているのが良く分かる。焦った演技が事実焦っていることになっていく。
 ………どうにかならないものかと思っていると、さっき視界に入った店の入り口にあるアクセサリーなどが陳列されている棚に気付いた。
「な…なぁに……?」
「あのさ!」
「はい!」
 緊張しすぎて松尾は声を荒げてしまう。七尾も突然声を荒げられて釣られて大声をあげてしまう。
 落ち着くために軽く深呼吸をしてから会話を切り出す松尾。
「その……、ヘアピンさ…、お前、気に入ってんの?」
「え……、うん。いつもはこうゆうのしないから…。するやつは特別気に入ってるの」
「……あ、じゃあさもっと気に入れるの探さないか?」
「………え?」
 誤魔化すとはいえども松尾はこのようなことを言うのは少々抵抗があった。
「いや、だからさ……、ホラ、そこの店」
 言いながら松尾は先ほど見つけた店を指差す。
「結構アクセサリーあるみたいだし…、それ以外にも他にも気に入るものも見つかるだろうし。見てかね?」
「……え、いいよ。ペンキ取りに来たんだし」
「時間なら沢山あるし、今日はもう描かねぇから、見に行くぞ」
 これ以上拒否されてしまったら誤魔化すことができないため、すぐさま立ち上がり、半ば強制的に決定とさせる松尾。
 ここまでくると、遠慮する彼女にプレゼントをしたがっている彼氏にも見える。
 ここまで強引にしなくても誤魔化しきれたんじゃないだろうかと思う松尾だがそれは後の祭り。
 七尾も照れつつ松尾に合わせる。
(露骨に照れんなよ…。馬鹿…)
 松尾はどうしようもなく恥ずかしい気持ちになってしまった。松尾自身の責任のようにも感じられるが心の中で七尾に当たる。
 さっさと店の前に歩きアクセサリーを見ていく。
 七尾はどれも見ているようだが真面目に選ぶつもりはないのか手にとっては元に戻し手にとっては元に戻すお繰り返している。
 松尾は段々と腹立たしくなってきた。
 確かに松尾が(誤魔化すためとはいえども)買うのを強要したものの、この動作は始めから選ぶつもりが無いと見える。
 もう少し真面目に選んでもらわないと松尾としても面白くない。
「なんかいいの見つかったか?」
「う……うん。まぁ…」
 松尾が見たところ『可愛いけど…自分には…』といった感じであった。憧れてはいるものの実際に身につけるのは恥ずかしいといったところか。
 多分あまりスカートなども着ない人間であろう。
(似合うとは思うんだがな…)
 このままでは埒もあかないので松尾は、
「んじゃ、これでいいだろ。してみろ」
 松尾が手に取ったのは花形の青いビーズの付いた髪留めだった。少々子供っぽ過ぎる気もするがこれはこれで悪くはないだろう。
 七尾は照れているのだか嫌がっているのか分からないような面持ちで抵抗しきれず右耳の上に付ける。
「どう……かな?」
 七尾は何かを期待するかのような面持ちで訊ねてくる。
 このような場合はお決まりの警句が存在するがそれが言えるほど松尾は素直じゃない。
「悪く、ねぇよ…」
「う、うん………」
「それで、いいのか?」
「うん」
 店員を呼ぶために店内を見渡して見るが人影が見当たらない。どうやらこの店の店員はみんな避難してしまったようだ。
「このまま持ってくか?」
「え!それは駄目だよ」
 もうすぐ地球が滅んでしまうというのに七尾は律儀な奴だった。
「それに……」
 付けくわえるように七尾は言った。
「盗んだものなんて……」
 全部言う前に声が萎んでいく。
「………、金…置いてけばいいか」
 松尾はポケットから財布を取り出し小銭を取り出す。
「あ、私が出すよ」
「…いや、いいよ。俺が選んだんだし」
 ジャラッ、小銭をレジに置いて行く。その音を聞いて七尾が背中を見つめる。
(アレ…?お金多く払ってる?)
 しかし七尾はすぐに思い直す。
 まさかそんなことがあるわけがない。最初に盗んでしまおう思っていた松尾だ。……もちろんどれほど本気か定かではないが……。
(多分小銭が多かったんだろうな………)
 そんなことに頭をまわしている場合じゃない。それよりも七尾は言わなくてはならないことがある。
「ありがと、プレゼントしてくれて……」
「………どういたしまして」
 松尾はそこはかとなく複雑な気持ちになった。
 プレゼントした事実は事実であるし、嫌いであったらそのようなことはできないのは事実だ。
(けど俺はただ誤魔化したかっただけだ。好意でプレゼントなんてしたわけじゃない。それに………)
 松尾はポケットの中に手を入れて歩き出した。

5days ago -afternoon-

「じゃあ。ペンキ取りに行く?」
 七尾はそのヘアアクセサリーが気に入ったのか弄りながら松尾に提案している。
「いや…、せっかくこっちまで来たんだ。寄っていきたい場所がある」
 いいか? と松尾は七尾に聞いてみる。
 何処でもいいけど……。と七尾は断る様子もないため、じゃあ決定。とばかりに歩き出す松尾。
 ショッピングモールを抜けて真っすぐ歩き始めた。目の先には大きくて白い建物がその姿をあらわにしている。 その建物の上層部には大きな看板文字がえがかれていた。
 中央病院。
(え………。病院?)
 誰かのお見舞いだろうか、と七尾は思案する。
 建物の中に入ると松尾は受付で何かを書いている。随分と手慣れた手つきである。きっと何度もお見舞いに来ているのだろうと七尾は思った。
 書き終えた松尾はエレベーターに向かって歩きだした。七尾もそれについていく。
 目的の病室は3階のようだ。
 ウィーンという暫くの機会音の後、到着を知らせる高い音が短く鳴る。
 早く会いたいのか松尾の歩く速度心なしか速い。少しずつ間の距離が開いていって七尾は置いていかれる気がした。
「待っ……」
 待って。
 そう言おうとしたところで、松尾が足を止めた。目的の病室はここらしい。
 305。
 軽く深呼吸する松尾。
「失礼します」
 と短く言って、ドアを開ける。
 そこに居たのは。女の子だった。
 それも、とても、大人びていて、綺麗な。
「空…!久しぶり。最近合わないからどうしたのかと思ってたよ」
「……悪ぃ…司。最近ちょっとやりたいことができてな」
 二人は名前で呼び合っていた。
「後ろの子は?」
「あぁ、コイツはちょっと、な……」
 どうしてはぐらかしているのだろう。
「クスクス。なんではぐらかしてるのよ?」
「いや、特に理由はねぇよ……」
「じゃあ教えてよ」
「ん………」
 どうして困っているのだろう。勘違いされたら嫌な何かがあるのだろうか。
「アナタ」
 不意に声をかけられてしまう。
「空とどうゆう関係?」
「………」
 どんな関係でもない。名前すら知らなかったのだ。
「私は……」
「コイツはッ!さっきそこで会ったんだ……」
 松尾が聞かれたわけじゃないのに代わりに答える。
 それもさっき出会った『赤の他人』として。
「ふ~ん?さっき出会ったばっかなんだ。じゃあどうして一緒にいるのかな?」
 司という人は余裕の表情だ。それだけ松尾と仲が良いのか……。
「それは……これだよ」
 松尾がポケットから取り出したものは。
「髪留め…?」
「さっきそこの店で選んでて……、悩んでるように見えたから。声かけてくれて……一緒に選んでくれたんだ」
 七尾は合点がいった。
 さっきお金が多く払われた気がしたのは、そうゆうことなのだ。
「あ、そうなんだ。ありがとう空。それと……」
「…あ、七尾です」
 いいながら髪を直してすぐに後ろに手をまわした。その手には先ほどのヘアピンがあった。
「フフッ。でも病院で貰ってもねぇ。あんまりする機会ないよ」
「……じゃあしなくてもいいよ」
「あ、嘘嘘。今するから待って……」
 司はあたりを軽く見回してから付け始める。多分鏡を探していたのだろう。
「どうかな、空?」
「…悪く、ねぇよ」
「悪くない?」
「……良いんじゃねぇか?」
「じゃない?」
「………。似合ってるよ」
「フフッ。ありがとう」
 松尾の表情はよく見えない。それでもよく分かった。松尾がどんな顔をしているのか。
 司という人にどんな感情を抱いているのか。
「そういえば珍しいよね。空が絵以外をもってくるなんて」
「ん、まぁたまにはちゃんとした物だって渡してぇよ。……そんな安物で言うのは難だけど……」
「ううん。でも嬉しいよ」
「じゃあ、俺、もう帰るな」
「もう帰っちゃうの?」
「…ん……」
「…いいよ。やりたいことがあるんでしょ?早く終わらして、またお見舞いに来てね」
「……ああ。すぐに来るよ」
「うん。またね」
「またな」
 扉を閉めて病室を後にする。

5days ago -night-

 二人はいつもの工業地帯に戻っていた。
 西側の店のペンキは奇跡的にほとんど零れていなかった。そのおかげもあってペンキは充分に確保できているようだ。残りの分を描いたところであまるぐらいだろう。何度も往復した甲斐があったものだと喜ぶ松尾。
 しかしそのために太陽は随分と傾き始めている。
 今日はもう描くことはできないだろう。
「七尾。今日はもう帰るぞ」
「……うん」
「それじゃまた明日」
「ねぇ松尾………」
 七尾は何故だか聞いてしまっていた。
「さっきの病院の人……」
「司がどうかしたか?」
「そう、司さん。いつもはお見舞いで絵を持っていくって、話してたよね」
「お前よく覚えてるな……。ああ。いつもは俺が描いた絵を持って行ってたんだ」
「もしかして……今書いてるこの絵も」
「…!」
 松尾は僅かに目を見開いてから、工場の壁をみた。目を細めて何か思いにふけているようだ。
「あいつ身体が弱くてな。俺の絵が直接見たいって言ってたんだけど、外に出かけられないから遠くからでも見える場所を探してたんだ」
「それが、ココ?」
「ああ。院内だったら好きに歩きまわっていいからな。あそこから見えるぐらいに大きく描いて、屋上に連れて行って見せてやりたいんだ」
 写真じゃなくて、本物の俺の絵を。そう目が物語っていた。
「そっか」
 松尾は最初から司の為に絵を描いていたのだ。
「じゃあ終わったらもう絵を描かないって言うのは…」
「後は毎日あいつのお見舞いしてくよ」
「沢山あったほうが嬉しいんじゃないかな?」
 七尾は何かを期待するような声で言った。
「もう、時間もねぇよ。もうすぐ地球は滅びる」
「そうだね」
「もう、帰ろう」
「松尾って……」
「ん?」
 自然と零れていた。
「司さんのことが……本当に好きなんだね」
「は?お前何言って……」
「じゃあ嫌いなの?」
 少し詰め寄るような声になって訊ねる七尾。
「………」
 松尾は否定できなかった。それは無言の肯定にも受け取れた。
「勝手に好きなんて決めるなよ」
「ううん。勝手じゃないよ」
(好きな人が誰を好きかなんてぐらい分かるよ)
 七尾は口には出さなかったが自分の好意も松尾の好意も分かっているようだった。
「帰るね」
「ん、おう…」
 七尾は聞きたいことが終わるや否や別れを告げた。

4days ago

 松尾がそろそろ出掛けようかと居間で寝そべりながら考えていると、来客のインターフォンが鳴りだした。
 こんな時期に来客とは珍しいと思いつつ、玄関を開けるとそこには予想外の人物がいた。
「やっほ、松尾」
「七尾、お前なんでここにいるんだ?」
「昨日みたいに待たされんのは嫌だったからね~。適当に歩いて民家を探してたの」
「根に持ってんのかよ……」
「別に~」
 集合時刻までには間に合っている。待たせてしまったのは確かに悪かったがここまでされようとは、と松尾は内心あきれる。
「ていうか何でまだ着替えてないの?」
「出かける直前で問題ないだろ」
 そう。松尾はまだ室内着でいたのだ。七尾は流石に三日続けて同じ服は着たくなかったのだろう。どこにもペンキの跡が見当たらない。
 あるとしたら昨日と同じく履いていた靴ぐらいだ。
「それで、いつまで私の事を待たせるの?」
「……着替えてくるから待ってろよ」



 暫くして松尾が着替え終える。そしてそのまま工場地帯に移動した二人はその絵を見て絶句した。
 松尾の描いていた絵がつぶれていたのだ。
 ペンキが松尾の描いた絵にぶちまけられていたのだ。
「酷い……」
 七尾は口を手に当てている。
 反面、松尾は随分と冷静だった。
「本当。酷い話だよな」
「一体誰が……」
「七尾。お前ここに来るときここ通ったか?」
「ううん。通ってない」
「そっか、誰がやったのか見てないのか」
「うん。ごめん」
「いや。そんなことは謝らなくていいよ。他に、謝りたいことはないのか?」
 七尾は突然の言葉に息が詰まる。
「まさか……、私のことを疑ってるの?」
「どうなんだ?」
「やってないよ…。他の人がやったんでしょ!?」
「もうすぐ地球が終わるっていうのに、そんな暇なやついねぇよ」
「そんなの分かんないでしょ!?」
 謂われない非難を受けて憤る七尾。その眼には失望の色が映っていた。
「知らなかった。松尾がこんなに人を疑り深かったなんて」
「俺も。素直に自分の非を認められない責任逃れをする奴とは思いもよらなかったよ」
「自分の非を棚に上げて勝手なこと言わないで!!」
「それはお前だろ」
「証拠は何処にあるの!?」
「………………」
 松尾は眼を伏せる。何も言い返せなかった……、
「ホラやっぱり…」
「そのシューズ」
 わけではなかった。
 呆れていたのだ。
「いつペンキが付いた?」
「そんなの一昨日絵を描いてるときに……」
「は付いてねぇよ。服に付いていたのに靴には付いてないから器用な汚し方してるんだなって思ってたから」
 よく覚えてる…、松尾は畳みかけるように付けくわえた。
「昨日は絵を描かなかったろ。だから汚れるハズなんてないんだよ」
「……家で、練習してて……」
「じゃあ、今から見せてもらっても良いか?」
「………」
「それに昨日までペンキが何処に売ってるのか知りもしなかったろ」
 七尾は何も言い返せなくなっていた。
「絵が完成しなければ……、俺がずっと絵を描いていたらずっと一緒にいられるからな」
「………なによ…!」
 七尾は声が震えていた。
「いつもいつも楽しそうに絵を描いていて、その動機なんて、あの司さんに見せたかったからでしょ!? そんなんだったら始めから私が介入する余地なんてなかったじゃない!? こんなとこにいるだけ無駄だったじゃない!? 私の時間を返してよ!?」
「煩わせんな餓鬼」
 松尾の声はひどく冷静だった。
「お前がどんな人生を歩んできたのかなんて俺はしらねぇよ。お友達関係が上手くいかないから独りでいて、偶然俺を見つけて、それで一緒にいたかった。そんなんじゃないのか? 俺は今までお前を拒絶なんてしてなかった。だからお前は今まで俺といたんだろ。俺が司を好きだったからってアイツに嫉妬してんのか? 嫉妬すんのは勝手だが、自分の理想像を押し付けて、自分の気に入らない現実見て拗ねて不貞腐れてんじゃねぇよ。 自分で選んだ結果なのに時間を返せ? 自分勝手に近づいてきて、自分勝手に傷ついて、自分勝手にキレてんじゃねぇよ。勝手なこと言うな」
「…ッ…。何よ!私を振り回してたのはアンタじゃない!? 拒絶しないで一緒にいて私は無駄に傷ついたじゃない!?」
「被害者面すんなって、言ってんだろ」
「………」
 七尾は歯噛みした。悔しかったのだろう。
 その場からすぐに走り出してしまった。
 橋の方へ走って背中がどんどん小さくなっていくのをずっと見つめていた。
「………チッ」
 松尾は軽く舌打ちをして絵を描き始めた。
 七尾に汚された分自分で取り戻さなくてはならない。もうすぐ世界が滅ぶんだ。
---べしゃ、べしゃ。カンッ、カンッ、カンッ。スーッ、スーッ。スーッ、ススッ。カンッ、カンッ、カンッ。
---べしゃ、べしゃ。カンッ、カンッ、カンッ。スーッ、スーッ。スーッ、ススッ。カンッ、カンッ、カンッ。
---べしゃ、べしゃ。カンッ、カンッ、カンッ。スーッ、スーッ。スーッ、ススッ………。
「………クソ」
 ハケを地面に投げつける。
 地面に跳ね返って回りながら遠くに吹き飛ぶ。
 松尾は無性に納得出来なかった。松尾自身、自分に非があるとは思っていない。
「だったら何で割り切れねぇんだ……!?」

3days ago -Matsuo-

「アイツ、なんで来ねえんだよ」
 いつもの場所に着くと何処にも誰もいない。
 あのまま中断した通りだ。
 しかし描かないわけにもいかない。
---べしゃ、べしゃ。カンッ、カンッ、カンッ。スーッ、スーッ。スーッ、ススッ。カンッ、カンッ、カンッ。
---べしゃ、べしゃ。カンッ、カンッ、カンッ。スーッ、スーッ。スーッ、ススッ………。
「………気ぃ乗らねぇ」
…………………ウッゼェ。
(どうしてあんなことしたんだよ。お前自身、俺の絵を楽しみだったんじゃねぇのかよ。お前だって、楽しく絵描いてただろ)
 裏切られたのはこっちだ。
(俺に嫌がらせをしてでも、一緒にいたかったのは……俺を好きでいんのは嬉しいよ。それで司が許せないのも分かる)
 だがそれを差し引いてみても、あんなことをされる筋合いも、開き直られる筋合いも、責任転嫁される筋合いもない。
(…でも、あいつだって、傷ついたし、辛かったんだよな)
 だったら俺は我慢すればよかったのか。
(……もうどうでもいい)
 さっさと来い。

 この絵は俺だけの作品なんかじゃねぇンだよ。

3days ago -Nanao-

 七尾は自室で電気もつけず、枕を抱きしめて項垂れていた。
 言い返そうと思えばいくらでも言い返せた。
 それでも出来なかった。
 自分が悪かったのは明白だ。
(私だって貴方に好きになってほしかった……)
 自分が勝手に貴方に近づいていたのはこれでも分かってる。
(プレゼントしてくれて嬉しかったの……)
 馬鹿みたいに夢見ててごめんなさい。
(貴方ならきっと私を助けてくれるって、想えたの……)
 貴方の絵を、貴方の大切な人の絵を、穢してごめんなさい。
(一緒にいたい、って想うだけでもいけないのかな…?)
 もうあの人には見てもらえない……、だけど、

 謝らなきゃ。お礼を言わなきゃ。

2days ago

---べしゃ、べしゃ。カンッ、カンッ、カンッ。スーッ、スーッ。スーッ、ススッ。カンッ、カンッ、カンッ。
「ごめんなさい」
 背後から声が聞こえる。
 七尾は開口一番謝ることを決めていたようだった。
 松尾は後ろを振り向いた。
 今日は頭に何も付けていない。
「あの後……、私なりに考えてみたの……。自分がどれだけ勝手だったのか。許してほしいわけじゃないけど謝りたかったの……。そして」
 そこで一端句切り、はっきりと告げた。
「今までありがとうございました。夢のような日々で、傍にいられるだけで嬉しかったです。……さようなら」
 最後の一言だけ、絞り出すように聞こえた。
 七尾はくるり、と後ろを向いて歩きだす。
「待てよ…」
 許してやるつもりは毛頭ない。
 こちらは無意味に怒られたのだ。
 けど…
「さっさと完成させるぞ。司が待ってんだ」
 潰した分しっかりと手伝えよ、と松尾は手を休めずに言い放つ。
「………うん!」
 七尾はいつものような笑顔で松尾に駆けていった。

1day ago

「ふ~ぅん。じゃあ、あの絵は七尾ちゃんとの合作なんだ」
 病院の屋上。空と司はなるべくあの絵が見えるように手すりの近くで座りながらあの絵をみていた。
「七尾ちゃんは来てないの?」
「絵が完成したからな。…多分、もう会わないと思う……」
 ふぅん、と司は何かを含めたように納得した。
「それにしても……『アナタは生きていますか』なんて、私が自暴自棄になって自殺しちゃうとでも思ってたの? 失礼しちゃうな」
 そう、空の描いたグラフィティは司へのメッセージが込められていたのだ。
「別に思ってねぇよ…。もし自殺するんじゃないかって勘違いしてたら……」
「毎日お見舞いに来て繋ぎとめてた、でしょ?」
「………………」
「フフッ。だから私に会わないで安心して絵に集中できたんだよね?」
 まるで司は空の考えていることなどすべてお見通しとでもいうかのようににこやかに笑う。
「でもその実、七尾ちゃんと逢引に二人の共同作業かぁ……」
「あ、逢引って!そんなんじゃ……!」
「ねぇ空」
 司は空の言葉を消すように重ねて言う。
「な、なんだよ……」
「私ね。空が来なくて結構寂しかったんだよ?」
「………ごめん」
「空は私と会えなくて寂しくなかったの?
 空は……。私の事をどう想ってるの?」
 寄りかかりながら甘えた声で司は訊ねる。
 寄りかかりながら何かを期待するかのような司の声。
 普段の司からは、いつも余裕で大人びた司からは全く予想だにできない仕草、態度、声音だった。
 そんな司に空は驚いていたが、そんなことはどうでも良い。
 誰の為に今まで絵を描いていたか、誰の為に毎日を過ごしたか。
 意を決して空は司の問いかけに答える。
「……司…俺は……」
「ねぇ空」
「な…、なんだよ」
 自分で空に答えを要求したくせに、最後まで聞かずに話を変えようとする司に一瞬ムッとする空。
 表情に出ていたかは知らないがそんなのお構いなしに続ける司。
「女の子はね、とってもデリケートなの」
「は?急に何を……」
「だから私、女の子に優しくない人は好きじゃないわ」
「……何が言いたいんだよ」
「空」
「なんだよ…」
「素直になりなさい」
「は?」
「言い過ぎたって、本当は思ってて、謝りたいんじゃない?」
 まるで司は空の考えていることなどすべてお見通しとでもいうかのようににこやかに笑う。
「私はずっと信じてたよ。だから、行ってきて。そして……、さっきの続き、絶対に、聴かせてね。」

 司の言葉に松尾は立ち上がる。
 階下まで急いで駆け下り目的地に向かう。
 壁グラの下にいるであろう七尾のところまで。



「あーあ本当に行っちゃった。私にも優しくしなさいよ、馬鹿」
まぁいいんだけどね、と笑いながら中庭を司は見降ろした。

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こちらは修正の予定がなかったので比較的楽な作業でした。

なんせただのコピーペーストですからね。

覚えてませんが、こちらを先に書いたのでしょうか?
「紅茶屋妖怪事件録」より文章の形が軽く非常に読みやすい気がします。

まぁ、もともとあちらは重い文章にしようと意識して書きましたからね……。

しかし、思い返してみると他人に
「文章が軽くて読みやすい」
といわれたことはありません。(別に重いともいわれませんが……)

まぁ、ともかく。
楽しいエンタテインメントとしてはこちらが正解でしょう。

まーそれはそれとして、
この小説は元々松尾の日記のとして書いていく予定でした。

一番最後のチャプターが 0days ago や today でないところが、その名残です。
だって日記はその日の最後に書くものでしょう?

最終日には死んでしまって書けないんですからこうなります。

ですので、本編で語られないところで松尾と司はイチャイチャしてます。
といっても、地球に落ちてくる隕石を流れ星のように眺めながら二人一緒にいるだけですが。
分かりやすく言うとムジュラのカーフェイとアンジュみたいな感じです。
(わかるかな?)

といっても、実際は普通の三人称小説なので続きとかを書いてもいいんですがね。
でも、ただのデートイベントを書くと言うのもそれは結構難しい……。

だって喧嘩させるわけにはいかないから、本当に終始イチャイチャしなきゃいけないし………。
話に緩急がつけ辛いんですよね……。

少女マンガ読んだら書けるようになるかな?

まぁともかく、だからこそ、最終日直前という時期設定のため、
本命の人を放っておいて友達(?)のところへ行ってくるオチに出来たのですがね。

読んでいてスッキリできたと思います。
それに司は甘えん坊なキャラというわけでなく、小悪魔的なキャラなのであんまり崩壊させずに済みますし……。

まぁ、個人的に甘えまくりの司を書いてみたい気もしますが………、
それは別のお話。

最後に「紅茶屋妖怪事件録」も一読お願いします♪

coloring

地球に隕石が衝突して人類が滅ぶ。 そうニュースで全世界に伝わってから既にカウントダウンが始まっていた。 七尾は一人工業地帯を散歩していると、何故か一人で絵を描いている松尾と出会う。 残りの日々を二人で楽しくを過ごしていると、 絵を描くためのインクがきれてしまった。 インク集めのために隣町まで出かけ、二人はいい雰囲気になるのだが……

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-07-16

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