蔵入りレコード

毎年、投稿しては落選している某童話賞のために書いたものです。ここに載せるということなので結果は察して下さい。タイトルは忘れたので先程考えました。

 僕の田舎には大きな蔵がある。扉から中を覗き込んだことはあるけど、中へは入ったことがない。だって、薄暗くってヒンヤリしていて、何だかカビ臭くてホコリっぽい。まるで妖怪の巣のような場所だ。そんな怖い場所へ入るくらいなら、嫌いな野菜を食べた方がましだからだ。
でも、僕ももう四年生だ。今年の夏は蔵に入ってやろう。そう思って、コッソリと借りてきた大きくて鉄臭い鍵を握りしめる。少し錆びているのか鍵はなかなか開かない。カチャカチャとやっていると不意に確かな手応えと一緒にガチャリと重たい音がした。体重をかけて扉を引っ張る。ビクともしない。また、引っ張る。ギギギと音を立てて少し扉が動いた。さらに力を込めて引っ張る。その時、勢いよく扉が開き、僕は尻餅をついてしまった。ちょっぴり痛いお尻をさすりながら立ち上がると目の前では、蔵が真っ暗な口を開けて待っていた。
僕は恐る恐る蔵へと一歩、踏み込んだ。ヒンヤリとしていて暗い。さっきまで聞こえていた蝉の声も遠く、ほとんど聞こえない。まるで、蔵の中の時間は止まっているようだ。止まった時間の中を僕は歩き回っていろいろな物を見た。大きなお皿や絵。何だかよくわからない置物。僕はだんだんと楽しくなってきた。きっと何か宝物があるに違いないとそう思った。
 僕は蔵の片隅にある布が気になった。いかにも何かを隠すかのように被せられている。ワクワクしながら布を引きはがすとそこには箱があった。何がしまってあるのだろうと蓋を開けると中には丸い台と先の方がクニャリと曲がった棒があった。見たことのない機械だ。
「コラ! こんな所で何をしている」
 僕がビックリして振り返るとおじさんがいた。
「ごめんなさい。僕、あの、ちょっと……」
 僕はあまりおじさんと話した事がない。だから、おじさんが少し怖かった。
「一人でこんな所に入ったら危ないじゃないか」
 おじさんは怒っている。僕は何も言えないでジッと床を見ている。おじさんが僕の頭を見ているのが分かった。しばらくして、おじさんが嬉しそうな声を上げた。
「おっ、懐かしい物を見つけたな」
 おじさんが何を言っているのか分からなかった。僕が顔を上げるとおじさんは、あの変な機械を見ていた。
「ねえ、それは何なの?」
 僕は怖さよりも、知りたかった。
「うん。これはレコードプレイヤーだ」
「レコードプレイヤー?」
「レコードを聞く道具だ」
「レコード?」
 僕には何だかサッパリ分からない。
「さあ、もうここから出なさい。危ないからもう一人で入っちゃ駄目だぞ」
 それでも僕は機械が気になって仕方がなかった。
「分かった。これが動いてる所を見せてやるから明日の晩、俺の部屋へおいで」
 おじさんは、僕の気持ちを理解してくれたのかそう言った。僕は大きく頷き蔵から出た。
 そして、次の夜、僕はおじさんの部屋へ行った。部屋には昨日の機械とスピーカー。それに紙芝居ぐらいの大きさの写真や絵が置いてあった。
「さあ、どれが聞きたい?」
 おじさんは紙芝居を選ぶように言う。僕は何だか分からなかったけど、綺麗だと思った物を指さした。
「おっ、なかなか良いセンスだな」
 おじさんは紙芝居の中から黒い円盤を取り出した。
「これがレコード」
 おじさんがそう言ながら円盤を機械にセットすると円盤が回りだした。そして、円盤の上に棒を動かし、そっと落とす。その瞬間、音楽が流れ始めた。
 僕はグルグル回る円盤と音楽に夢中になっていた。その内におじさんが話を始めた。この曲を聴いていた頃にあった面白いこと。その頃の僕のお母さんの話。僕の知らない、おじさんの子供の頃の遊び。とにかく色々な話をしてくれた。
 レコードが終わる頃には、僕はおじさんが大好きになっていた。
 その日から帰る日まで、僕はおじさんと遊んだりレコードを聴いたりして過ごした。
「おじさん、またね」
「おう、また来いよ」

蔵入りレコード

蔵入りレコード

レコードを通して交流する伯父と甥っ子の夏のお話。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-24

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