尋ねる女

尋ねる女

彼女は何を探しているのか、何を見つけたいのか

Mさんですか?

 「Mさんですか?」商店街の人が行き交う通りで彼女は急に僕に話しかけてきた。「いえ、違いますが」と僕は一言そう答えた。「そう・・・ですか」と彼女は俯いた状態で残念そうにそう答えた。
 翌日私は昨日と同じように夕方、仕事への帰り道に同じ商店街で、昨日と同じ女性が「Mさんですか?」訪ねてきた。「いえ、違いますが」と僕は昨日と全く一緒の言葉を彼女に投げかけた。「そう・・・ですか」と昨日と同じように彼女は俯いた状態で残念そうにそう答えた。そのままその場を立ち去りしばらく進んだ後、なんとなくその女性のことが気になり後ろを振り返ると、行き交う男性にところかまわず「Mさんですか?」と尋ね回っていた。
 そして、その次の日も、また次の日もその女性は商店街の通りで僕に「Mさんですか?」と尋ねてきた。あまりにも毎日訪ねてくるものだから「探している人がいらっしゃるなら警察に捜査依頼を出されたらいかがですか?」と僕が話したら彼女は怯えながら「それは・・・ちょっと・・・」と言いながら何やらごにょごにょ呟いていた。
 僕が会社で仕事をしていると、同僚が僕にこんな話をしてきた。「なぁ、知ってるか最近商店街の通りで不思議な女が出るって話」「不思議な女?」と僕は同僚に聞き返すと「ああ、何やら商店街を通る男性をところかまわずに話しかけているらしいぜ」「へぇ~、それでなんて話しかけてくるんだい?」僕が同僚に聞くと「それが、Mさんですか?と尋ねてくるだけらしいんだ」「やっぱりか」と同僚の話に僕はそう答えた。「やっぱりかってお前話しかけられたことあるのかよ」と同僚が聞いてきたので「話しかけられたことがあるもなにも最近帰り道に毎日のように話しかけられてるよ」と答えた。「へぇ~、噂はほんとだったんだな~」と同僚は驚きながら椅子の腰掛に仰け反った。
 「今日俺も帰り道商店街の通りを通って帰ってみようっと」と同僚が言い出したので、「やめとけよ、話しかけれれるの結構怖いんだからな」と同僚に注意したが「いいじゃんか、最近暇なんだよ」と同僚は僕の言葉を聞こうとはしなかった。
 その日、同僚の方が僕よりも早く退社し、僕はその10分ぐらい後に退社した、今日もあの女性は訪ねてくるのだろうかと少し嫌な気持ちで商店街の通りを歩いていると人混みの中にあの女性が同僚に話しかけてる姿が見えた。どうやら、僕のときと同じように「Mさんですか?」と尋ねているようだった。しかし、同僚の方が笑いながら何かを話すと女性は今まで見せなかった不敵な笑みを見せた。その瞬間にちょうど二人が人混みの中に隠れてしまい、僕は二人を見失ってしまった。しばらくして、人がある程度少なくなった後に二人を探したがどこにも見当たらなかった。
 次の日会社にいつも通り出勤したが、同僚の姿がなかった。その次の日も、その次の日も同僚は会社に出勤してこなかった。会社の人もさすがに不思議に思い、同僚の家に行ったりしたが留守で何処にも見当たらず、現在は警察に捜索依頼を出している。同僚はあのとき彼女になんと話しかけたのであろう。それ以降、商店街の帰り道に彼女が僕に話しかけてくることはなくなり、彼女の姿も見かけることはなくなった。
 ただ、商店街の人の行き交う会話の中に「Mさんですか?」と時折聞こえると僕は背筋に寒気を感じていた。

尋ねる女

尋ねる女

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-24

Public Domain
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