セイナル夜ニ
「さあ、次が最後の家だ」
サンタクロースは寒空の下ソリを走らせ、目的地に急いだ。
決して裕福とはいえない安アパートの二階、その窓際にソリを停めて室内に入る。部屋は街の活気とは裏腹にひどく寂しかった。
ツリーも飾り付もない部屋で、ひとりの男の子が眠っている。
(ぼうや、約束通りきたよ)
サンタクロースの脳裏にある光景がうかんだ。
それは去年の冬。プレゼントを配り終え、帰り支度をしているときのことだった。
「今年はなにも買ってやれなくてごめんね」
申し訳なさそうな女性の声が聞こえて下界に目を向けると、そこに綺麗な女性と小さな男の子の姿があった。
「ぼく、へいきだよ。おかあさんといっしょにいられればそれでいいんだ」
「ありがとう。タケルはほんとうにいい子に育ってる。お父さんも天国でタケルの成長をきっと喜んでいるわ」
親子は互いに微笑んだ。
その様子を眺めていたサンタクロースは猛烈に感動した。殺伐とした世の中で、こんなにも清い親子がいるだろうか。
来年は必ずこの家にプレゼントを届けてあげよう、サンタクロースは深く深く心に刻んだのだった。
寝息をたてている男の子の枕元に、かわいい靴下が置かれていた。
起こさぬよう近づくと、静かにそれを拾い上げる。
サンタクロースはなんでもプレゼントするつもりだった。最新のゲーム機でも大きな家でも、望むものはなんでも用意してあげようと思っていた。
靴下の中にある、願い事が書かれた紙には拙い字で、
「サンタさんへ。ぼくはいい子なのでプレゼントはいりません。プレゼントはぼくよりめぐまれていない子にあげてください。でもおかあさんがおしごとにいくとぼくはひとりになるので、かわいいいもうとがほしいです」
そう書かれていた。
サンタクロースは泣いた。年甲斐もなく泣いた。男の子の純粋な想いと優しさに、ただただ泣いたのだった。
「わかった、わかったよ…ぼうや」
サンタクロースは涙をぬぐうと腰のベルトをゆるめ、となりの部屋にいる母親のもとに急いだ。
(おわり)
セイナル夜ニ