風との約束
きょうまで
ぼくが 果たすことのできた 約束は
いったい いくつ あったのだろう
数えきれないほど おおくの
約束を ひとと 結んだ
きょう ぼくは それを
数えることは できない
果たせたものは
どこにも ないのだから
たいして 生きてもいない
みじかい いのちの あゆみのなか
まもれると 信じた
まもりたいと 願った
だからこそ 交わした
いくつもの 約束は
きょう 在る ぼくのまわり
それを 見渡しても
あゆんできたであろう みちを
首をひねって ふりかえっても
みえない
さがしても どうやら なさそうだ
やぶりたくなんて なかった
けれど やぶったんだ
粉々に なってしまったんだ
それは 風が 攫っていった
のこったのは
ただただ 悔やみ続ける
ぼくを 許さない ぼくだ
風は
ぼくが のこってはほしくない
ぼくのことは 攫っては いかなかった
攫わない のか
攫えない のか
ちがう
攫う気なんて 到底ない 甘えるな と
彼は そう 言っているのだ
ぼくのなかで
ぼくが 生きようとする
意志の 火が いのちの火が
もう 在り続けることなど
無理なのだ と 限界を 悟り
もう いまに 消えそうな
いのちの 火を
消してほしいと
そう 願った日
風は
去っていくばかりで
消してくれは しなかった
風は 彼は そういう タチだ
滅んでしまったものは 攫っていくが
滅ぼうと している 故意は 攫わないのだ
風は いう
「おわったものは つれていくが
まだ おわっては いないものには
興味がない」
かれの その 嫌味は
まぎれもない 愛 なのだ
いつかは 攫ってやる
だから それまでは 生きろ
と 愛の 嫌味
狂おしい いとおしい 風の 嫌味
ひとと
果たすことのできなかった
約束に 悔やみ くるしむ ぼくは
かならず 果たされる約束を
風と 結ぶ
ぼくは
「生きる」
と 風に 約束をする
せめて 風と だけでも
風は
「いつか むかえにいく」
と ぼくに 約束をする
それは
生き抜くことで
かならず 果たされる
この いのちが
「おわったもの」 へと
変化を遂げた そのときに
また 会いましょう
いつの日か
ぼくは そう 風と 約束をした
風との約束