黒髪

春乃

あのひとがきらいなのです。

わたしの大切を奪っていくから、どれだけ想っているかもしらないくせに。
きれいな袂をひるがえして、からんころん音を立てて歩くから。
さされた簪の贈り主なんて、知っているに決まっています。

あのひとがきらい
あのひとがきらい
あのおんながだいきらい。

白い手のひらでなにもかもさらっていく女。
赤い口唇でわらう女。
柳眉をちょっと寄せればなんだって手に入る。
嗚呼嗚呼いまいましい、ああうつくしい、いまいましい、



なんておろかな。



指の先まで気遣いのゆきとどいたひと。
ほそくてでも弱々しくはない後姿。
やわらかい笑みの、おちついた声の、あたたかい胸の、なんてやさしくうつくしいこと。

あのひとがすき
あのひとがすき
あのひとのこと愛してる。


ただの性悪だったらどんなによかったか、
ひとを嫌えないことはこんなにもつらいのか、
あの黒髪が三度揺れる間に、わたしあのひとに恋してしまった。



どうぞ兄をもらってやってください。
これからもよろしくお願いしますね、ねえさん。

黒髪

黒髪

お兄さんが大好きな女の子のはなしです。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
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