鍵穴
オルカ23号 作
理佐ちゃん 編
※研究のために、複数の人が共同で使用しているアカウントです。作品に感想を入れてくださると嬉しいです。宜しくお願い致します。
オルカ23号さんによる作品です。
このドアには、古びた鍵穴があった。頑丈に作られていたように見えるが、今は錆びついてここ最近使われた形跡はない。
その部屋の中には、男が一人閉じ込められていた。いつから、なぜそこにいるのか、その男自身にももはや遠すぎる記憶で定かではなかった。
男は、部屋の中ですべきこともなく、時間が経つのをただやり過ごしていた。まだ心が凍てつく前は、唯一の外界との接点である鍵穴を伺い、気を紛らわせていたが、特段外の様子に変化があるわけでもなく、いつからかそれすら忘れていた。
そのドアには、めったに人が近寄らない。ただ、一日に一度決まった時間に同じ男が規則的な足音とともに、無言でドアの下部にあるトレーに食べ物を放り込むだけであった。
もはやその男には、時間は意味を持たず、感覚すら遠のき、心のひだも凍てつきかけていた。
ある日、男は違和感を覚えた。
あの足音ではない。確かに違う。あの機械的で重い足取りとは違う。
不規則で浮ついたリズムで一定ではない。遠くから響いてくる。
忘れていた好奇心がよぎる。しかし、身体を動かすまでには至らない。眼球を動かし、ドアを眺める。
足音はまだ浮ついたリズムを響かせている。心なしか近づいてきているかのようだ。
男は、好奇心以外の何かしらの感情を抱いたが、それがどのようなものであるのか忘れ去っていた。
足音は大きくなる。確実に近づいてきている。
男は、重い身体を起こした。骨がきしむ。肉が悲鳴を上げる。男は一瞬たじろいだものの、ドアへ向かってその身体を運んでいく。
これほど、ドアまでは距離があったか。
足音が近づく。
ドアノブに手を掛け、身体を引き上げる。筋が引き割かれるかのように痛みが走る。
一瞬躊躇したものの、古びた鍵穴へ顔をあてがい、左目を押し当てた。
鍵穴の向かいには、同じように目があった。
鍵穴