名前のない卵。
維角 作
理佐ちゃん 編
※研究のために、複数の人が共同で使用しているアカウントです。作品に感想を入れてくださると嬉しいです。宜しくお願い致します。
維角さんによる作品です。
寒いな。そう思って目を覚ます。するとそこは、卵の中の様なとても狭い所だった。
「やや! これは一体どういう事だ!」私は躰を小さく縮こめていた。よくこの体制に耐えられたものだ。
困った。実に困った。私は何故ここにいるのか、一生懸命頭を巡らせた。しかし何故なのか何も思い浮かばない。
いつの間にか、私の躰は暖まっていた。しかしだからと云って、ここを抜け出せる訳ではない。この事態が変わった訳ではない。
のんびり考えても、焦って考えても、時間は流れる!! いや、もしかしたらこの中には時間というものはないのかもしれない。私は卵の中を抜け出せずにいた。殻の中で閉じ籠っていた。
飢える事も、満腹になる事もない。息苦しくなる事はなく、私は透明で綺麗な液体の中にいながらも、呼吸をする事が出来た。
延々と同じ時間が流れていた。状況は変わる事はない。私は成長する事もなく、退化する事もない。同じ状態を延々と保っていた。そう、延々と。永遠に。
夢の中なのかと思ったが、そんな事はなかった。私は目を覚ます事はなかった。
私は永遠に同じ殻の中、永遠に死ぬ事もなく、生きる事もなかった。
名を思い出す事も出来ない。今までの事も。今の事以外は、何も覚えていない。私は、自分の世界に浸っていた。卵の外の事を忘れて、卵の中の世界に浸っている。
今も。これからも。永遠に。延々と。
名前のない卵。