名前のない卵。

維角 作

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維角さんによる作品です。

 寒いな。そう思って目を覚ます。するとそこは、卵の中の様なとても狭い所だった。
「やや! これは一体どういう事だ!」私は躰を小さく縮こめていた。よくこの体制に耐えられたものだ。
 困った。実に困った。私は何故ここにいるのか、一生懸命頭を巡らせた。しかし何故なのか何も思い浮かばない。
 いつの間にか、私の躰は暖まっていた。しかしだからと云って、ここを抜け出せる訳ではない。この事態が変わった訳ではない。
 のんびり考えても、焦って考えても、時間は流れる!! いや、もしかしたらこの中には時間というものはないのかもしれない。私は卵の中を抜け出せずにいた。殻の中で閉じ籠っていた。
 飢える事も、満腹になる事もない。息苦しくなる事はなく、私は透明で綺麗な液体の中にいながらも、呼吸をする事が出来た。
 延々と同じ時間が流れていた。状況は変わる事はない。私は成長する事もなく、退化する事もない。同じ状態を延々と保っていた。そう、延々と。永遠に。
 夢の中なのかと思ったが、そんな事はなかった。私は目を覚ます事はなかった。
 私は永遠に同じ殻の中、永遠に死ぬ事もなく、生きる事もなかった。
 名を思い出す事も出来ない。今までの事も。今の事以外は、何も覚えていない。私は、自分の世界に浸っていた。卵の外の事を忘れて、卵の中の世界に浸っている。
 今も。これからも。永遠に。延々と。

名前のない卵。

名前のない卵。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-23

Copyrighted
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