『勇者』

紅蛇 作

※研究のために、複数の人が共同で使用しているアカウントです。作品に感想を入れてくださると嬉しいです。宜しくお願い致します。

紅蛇さんによる作品です。

 私はこの王国の村娘だ。
 名乗るほどではないほどの、平凡な、普通の一人の村人だ。なのに私は豪華な、私たちの税金で作られた金色の玉座に座っている王様に呼び出された。私何かしたっけ……?
 そうして王様は戸惑っている私に「勇者を呼んでこい!」と命令した。多分予言者か、占いをするオバちゃんとかに言われたんだと思う。この国の王様は『裸の王様』並みにバカだと私は思ってる。一人では何にも考えられなくて、あんな老ぼれなオバちゃん達に頼ったりして。でもそんなこと言ったら死刑台にたたさせちゃうから、誰にも言えないけどね。
 それで私は今、自分勝手な王様の命令で勇者を探している。
探しているといっても勇者の場所は知っている。隣町の町外れの古民家に住んでいるらしい。我が親友の可愛い情報屋が教えてくれたトップシークレットの国家機密情報だ。

そして私は今、その古ぼけた今に壊れそうな古民家の前にいる。インターホンもないドアを叩く。
トントン。良かった壊れなかった……
「すいませーん!勇者っていますー?」
応答しない。まるで私が一人で話してるみたいじゃないか…情報屋に勇者は引きこもりをして、いつも家にいると言ってたのに……
ま…まさか…魔王の手下に連れ去られた!?
いや、それとも引きこもりっていうことで、ゲームでもして聞こえていないのだろうか…?まぁどちらにせよ勇者が出てこない…

「すいません。何か様で?」
後ろの方から澄んだ、女性の声がする。私は振り向き、
「あっ、すいません。実は私隣町で村娘をやっていたら、王様に「勇者を連れて来い」言われてので、ここに来ました。そ、それで、貴方は?」

「私は勇者様の愛人です」
「え?」
聞き間違えちゃったのかな、「愛人」と聞こえた気がする。
「あの、よく聞こえなかったので、もう一度言ってくれます?」
「私は、勇者様の愛人です」
おうふ、どうやら空耳とかではなかったようだ。で、でも勇者が愛人など……もっと勇敢な男で、一途な叶わぬ恋をしてそうなのに……(よく物語ではこういう設定だから)
「ふふふ。そんな戸惑わないで、冗談よ。私は勇者様の姉です」
「あ……そうですよね。ははは……はい」
良かった、愛人じゃないくて。本当にそうだったらもう夢が壊れそうだったから……

「立ち話じゃ失礼ですし、是非中へ」
勇者のお姉さんはドアを開けながら、私に言った。
「あ……はい、失礼しまーす」
といって綺麗整頓されたテーブルが置いてある部屋に連れ出された。

「あの、それで勇者様はどちらに?」
「あぁ……弟ね……ごめんね。彼……」

勇者のお姉さんは言葉を濁しながら、ある衝撃の言葉を放った。
「彼、実はもう……この世にはいないのよ……」

「え……ははは、お姉さん。真面目にもう、冗談いいですから」
勇者はもう死んでる?冗談きついですよ、お姉さん。

「いえ、実はこれは私の冗談ではなく、本当の話なんです。彼、もう何年も前に亡くなったのに、魔王を探しに行ってくると言って……その生き残りが多くいる魔族の地域に行ってしまって……そのまま、帰ってこなくなったの。そうして数年たってある日、私の住んでるこの家に大きな荷物は届けられて来たの。中を見てみると……」
「な、中を見てみると……?」
「彼が……弟の遺体が入ってたの」
「え、勇者様が……じゃあなんでお姉さん、そのことを魔法警察に知らせなかったんですか?!」
「怖かったのよ……! みんなパニックになると思って……」
「そりゃ、パニックになると思いますが、早く知らせたほうが新しい勇者を見つけるのも簡単になりますし、あと私もこんな所まで来る羽目もなかったのに……」
もう面倒なことになったし……はぁもう帰りたい。
「ごめんなさい……もう何年も経ってるし、この世界も平和だから勇者なんてもういらないから、別に今更言っても……って思い始めちゃって……ごめんなさい」
お姉さんは泣き始めて私に何回も謝った。私に言われてもなぁ……

「もう謝らないでください。はぁ、これからどうします?王様のところに行っていったほうがいいと思いますけど」
「そうですね、私もそうしたほうがいいと思います……」

私たちはそういって王様のところへ帰った。ワガママ王様の所へ、めんどくさ。

「勇者は連れてきたか?」
と王様。心なしかワクワクしているようにも見える。うざ……

「実は王様、残念なお話があります」
私は王様に残念そうにいって、お姉さんを連れてきた。お姉さんは怖がりながら王様の前に膝まづき、私にもした話をした。

「なんてこと……勇者はもういないなんて……」
王様は相当ショックらしく、顔を真っ青にされて黄金の玉座から立ち上がった。

「ちょっと待ってくれ。大臣達とも相談してくる……」

「あらら……どうします、お姉さん?」
返事がない。ただの屍のようだ。

「お姉さん?大丈夫ですか?」
あらら、お姉さんの方も顔が真っ青だ。

「え……あ、はい。ごめんなさい。私……もっと早く言うべきだったわ……」
そう言ってお姉さんはまた、ワンワンと泣き出してしまった。

「えーと……お姉さん……な、泣き止んでくださいよ……きっと大丈夫ですから」
どうしよう。きっと周りからこの光景は、変であろう。誰も座ってない煌びやかな玉座の前で、綺麗なお姉さんは泣き崩れていて、その横で村娘がオドロオドロしながら慰めている。
あぁ……本当にどうしよう。 そうしてオドオドしていたら、助け船が来た。

「あのぉ、どうも……こんにちは」
弱そうな男だ。きっと喧嘩をしたらすぐ謝って逃げるタイプの人だろう。
「ごめんなさいね。まさか、勇者様はもうお亡くなりになっているとは、知らなくて」
「ごめんなさい。ごめんなさい。私がもっと早くお知らせていれば。ごめんなさい」
「大丈夫ですよ。落ち着いてください。ね?」
「は……はい。分かりました。ふぅ……」
「はい、顔色も良くなってますね。では本題を最初に伝えましょう。本当はお姉さんになって欲しかったんですけれども……ちょっとダメそうなんで貴方、村娘」
「は、はい!なんでしょう?」
「貴方はこれから勇者になってもらいます。今日から貴方はNEW勇者です。王様がお決めになったことです。残念ながら貴方には拒否権はありません」
なんとも酷い王様だ。とその時思ったが大臣は勇者になれば給料が入り、贅沢ライフを送れると言葉を続けた。そうして私は平凡な村娘を辞めさせられ、勇者になった。

私はこの王国の勇者だ。

『勇者』

『勇者』

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-23

Copyrighted
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