最後のドラゴンヴァルキリー

第Ⅴ部  最後のドラゴンヴァルキリー

第三十三話 
必殺!七竜剣

夜の人気のない通りを学校帰りの女性が一人、歩いていた。
ふと前を見ると苦しそうにうずくまっている人がいた。
彼女は慌てて駆け寄り、声をかけた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ミ…ズ…」
その人物は低い声で呟いた。
女性は聞いた。
「水ですか…?ちょっと、待っていてください。近くにコンビニがないか探してきますから!あっ、それよりも救急車を呼んだ方が…」
携帯を取り出し119番を押そうとした瞬間、相手は立ちあがり低い声で言った。
「ミズ!それよりもレイキュウシャをヨぶんだな!キサマのために!!」
服を脱ぐとそれはミミズの化け物であった。
「ギャー!誰か!!」
女性は叫んでその場から逃げだした。
ミミズ魔女は追いかける事もなくその後ろ姿をニヤニヤと見つめていた。

少し走ると人影が見えてきた。
彼女は叫んだ。
「助けてください!化け物が…化け物なんです!!」
「ミズ…そのバけモノは…こんなスガタじゃなかったかい?」
そう人影は答えた。
それは先ほどのミミズ魔女と同じ姿をしていた。
「ひぃ!?」
彼女は情けない声を出して腰が抜けてその場に座り込んだ。
ミミズ魔女は言った。
「ミズ…さあ、シュクセイのジカンだ…」
その時、フルートの音色が鳴り響いた。
驚いてキョロキョロとするミミズ魔女。
闇の中からフルートを吹いた友知と香矢が現れた。
友知は香矢にフルートを押しつけて言った。
「夜の静かな時間を脅かす愚かな魔女…聖女には寝る間もないのかねぇ?そうは思わないかい、かくさん。」
香矢はフルートをしまいながら言った。
「かくさんって、あちきの事かい…すけさんはどこスかってーの!」
ミミズ魔女は言った。
「ミズ…キサマはもしや聖女…」
友知は言った。
「そーゆー事!」
そして胸の十字架を握りしめ叫んだ。
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!!」
胸の十字架を引き千切り体が銀色に輝き、
「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ネクストドレス!!!」
そう叫んだ。
が、
「ミズ…そんなフルいスガタとは…ナめられたものだ…」
「友知~。変身詐欺っスよそれ~。」
ミミズ魔女と香矢は同時に言う。
友知が自分の姿を見るとネクストドレス…白い姿ではなく、イエロードレスに変身していた。
友知は驚いて言う。
「あれれれれ?どうしてですの?」
周りはシーンとする。
友知は気を取り直して言った。
「…まぁ、これはあれですわ。貴女如き、イエロードレスで十分って事ですわ!」
剣を構え、電撃をミミズ魔女にぶつけた。
「ミズ…ナめるなと言ったはずだ。このテイドの魔法がなんだ!!」
そう言うとミミズ魔女は電撃を払った。
香矢は言った。
「…まぁ、そうなるっスよね。強さのインフレが激しい後半戦に初期の装備で挑めばそりゃ…」
「ミズ…」
ミミズ魔女は地面に溶けるように潜って行った。
友知は叫んだ。
「逃げる気ですの!?」
地面から声がした。
「ミズ…どこにそんなヒツヨウがある?くらうがいい。ミミズ魔法!とぐろシバり!!」
突然、友知の足元からミミズ魔女が飛び出し、友知の体に巻きついた。
友知は叫んだ。
「この…離しなさい!ヌルヌルして気持ち悪いですわ!!」
「ミズ…このままシめあげてばらばらにしてくれる!!」
その時、二人の近くを風が吹いた。
それはネクストドレスになった志穂であった。
「ミズ…」
ミミズ魔女はバラバラに切り裂かれて息絶えた。
「危ないとこだったね。」
志穂が友知にほほ笑みかけて言ったが友知は頬を膨らませていた。
「ブー。」
その二人に香矢が声をかけた。
「ねぇねぇ、二人とも。このしと、気絶しちゃってるスよ…」
襲われた女性は気絶していた。
志穂が言った。
「とりあえず、鳥羽兎に帰って介抱しましょう。」
3人はその女性を鳥羽兎に運ぶのであった。
「ブー。」
帰り道、友知はずっと不機嫌そうであった。

「ミズ。」
彼女達が立ち去ってから数時間後、ミミズ魔女の亡骸の場所に別のミミズ魔女が出現していた。
「ミズ。イモウトよ、このカタキはカナラず…」
そこに別のミミズ魔女がさらに現れた。
「ミズ!アネよ、それよりも…」
「ミズ。ああ…」
そして二人の魔女は死んだミミズ魔女の亡骸を食べ始めた。

鳥羽兎で気を取り戻した女性に志穂達は事情を説明した。
女性は溜息をついて言った。
「そんな事が…あっ私、遠子(とおこ)って言います。トッコとか呼んでください。私も力にならしてください!」
香矢が言った。
「えー!?素人の力を借りるほどあちきらは困っていないスよ!?」
コーチが苦笑いして言った。
「お前も素人だろう…いいんじゃない?エミちゃんもミカちゃんもイタリアの方に調査で行ってしまったし…でも、危ない事は駄目だよ。ねっ?」
トッコは嬉しそうに言った。
「ありがとうございます!頑張ります!」
コーチはボソっと言った。
「これで二人が抜けたバイトの穴を埋められるねっ…」
そこで香矢が友知に言った。
「そういえば友知。さっきの変身失敗は何だったんスか?」
友知は志穂の方を見て叫んだ。
「それだよ!アタシはネクストドレスに変身したつもりだったのに…志穂、アタシの再改造の手を抜いたの!?」
友知に問われ、志穂は答えた。
「そんな事しないよ…かえって危ないもの。さっきみたくなるし…再改造じゃなくて他に原因があるとしか…」
香矢が腕組みをして考えながら言った。
「なんスかねぇ…そういえば、以前は感情によって変身する姿は変わってたんすよね?志穂さんにあって友知にない心…正義の心とかスかね?」
友知は言った。
「正義の申し子であるアタシに向かってなんて事を…!でも、志穂にあってアタシにないもの…そこに秘密がありそうかな?」
志穂は言った。
「分からないよ…でもこれ以上、人間離れしなかったから良かったんじゃないの?友知も私が守るから今のままでも…」
香矢も言う。
「そうそ、これからはアイテム係として志穂さんのサポートに徹するスよ。」
コーチが言った。
「二人とも、慰めているつもりかもしれんが逆効果だと思うね…」

次の日の夜、友知はトッコと二人で夜の街をパトロールしていた。
友知は歩きながらブツブツと呟いていた。
「アタシに足りないもの…足りないもの…思いつかない!逆ならたくさんあるんだけどな~。ユーモアセンスとかエロチズムとか。」
トッコは笑って言った。
「どちらも戦いには必要なさそうね…生まれ持った体質じゃないの?」
友知は言った。
「そうかなぁ…でも、ネクストドレスはアタシの体を調べて見つけた改造方法なんだよ?なのに、志穂だけに出来るとか…」
話しているうちに目の前に人がうずくまっているのが見えてきた。
トッコは青くなって言った。
「このシチュエーションは…」
友知は笑って言った。
「昨日の魔女なら志穂が倒したじゃん?」
しかし、トッコは言う。
「でも、私が最初に会ったミミズ魔女と志穂さんが倒したミミズ魔女が別人だとしたら?」
「ミズ。そういうコトだ!」
地面から別のミミズ魔女が出てきてトッコの体を締めあげた。
「ぐぐぐ…」
「トッコさん!」
友知は叫んでトッコからミミズ魔女を引きはがそうとした。
「ミズ。ムダだ…マリョクのヨワいキサマゴトきにハズせるものか!それよりもワがイモウトよ、もうヒトリの聖女をケイカイしておけ。ヒトジチをとっておけばヤツもコウゲキはできまい…」
「ミズ!」
そう言われてうずくまっていたミミズ魔女が立ちあがった。
トッコを締めあげているミミズ魔女は嬉しそうに言った。
「ミズ。これでワレらミミズサンシマイのショウリだ…ワがスエのイモウトよ、カタキをとるぞ。」
友知はミミズ魔女の体を引きはがそうと必死に力を入れながら言った。
「くそう…アタシが強ければ…志穂のように強ければこんな事には…!」
「友知…ちゃん…」
トッコは友知に話しかけた。
友知は聞いた。
「何?トッコさん?」
「私を…殺して…」
トッコの言葉に友知は驚いた。
そして友知は叫んだ。
「何を言っているの!?」
トッコはニコリと笑いながら言った。
「協力するって…言ったのに…足手まといになるぐらいら…このまま…いっそ…志穂ちゃんが…やられたら…犠牲は私だけじゃ…すまなくなる…でしょ?」
(アタシが弱いから…)
友知は強く思った。
そして声に出して言った。
「強く…強くなりたい!志穂みたいに…トッコさん、貴女みたいに!」
そして胸の十字架を握りしめた。
ミミズ魔女はニヤリとして言った。
「ミズ。シっているぞ!キサマはフルいスガタにしかなれんのだろう?スエのイモウトのカラダがオシえてくれたわ!」
友知は構わず叫んだ。
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!!」
十字架を引き千切ると
十字架は柄が白い宝石が入った剣になり
服は白のミニスカートになり
胸は爆乳になり
そんな姿に
なった。
「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ネクストドレス!!!」
そしてそう叫んだ。
離れていた方のミミズ魔女が驚いて言った。
「ミズ!バカな!フルいスガタにしかなれないはずでは!?」
友知は笑って言った。
「その通りですわ…その通りだったんですわ!でも、分かったんですの。ワタクシに足りないもの…それは強くなりたいという欲。貴方達3姉妹のおかげで気付けましたわ。ありがとう。」
ミミズ魔女は叫んだ。
「ミズ!しかし、ワれらにはヒトジチが…」
その瞬間、トッコを縛りあげていたミミズ魔女がバラバラになって崩れ落ちた。
「ミズ!アネ!!」
友知はくすりと笑い言った。
「人質をとられたままお話をしてるとでも?甘いですわね。」
そして剣を構えた。
友知の剣から竜巻が放出され、ミミズ魔女の体を打ち上げる。
さらに炎、水、雷、草、毒、5つの色が竜巻の中に入っていく。
友知は言った。
「この5つの色は5色の竜。そして周りを覆う竜巻は6色目の竜!名付けて六竜トルネード!」
ミミズ魔女の体がボロボロになって行いく。
「そして!」
そう叫んで友知はミミズ魔女に向かって飛びあがった。
「ワタクシが7つ目の竜!エンドドラゴン!」
叫んでミミズ魔女の体を縦一文字に切り裂いた。
「ミズ!アネよイモウトよ…」
ミミズ魔女は息絶えた。
友知は地上に降りて言った。
「これぞ必殺…七竜剣!」
「いや、どれが技の名前か分からないから…」
トッコが言った。
友知は変身を解いて言った。
「これでアタシも戦える…早く志穂に言わなくちゃ!きっと哀しい顔するんだろうけど…」

第三十四話
遊園地であたしと握手

「あっ、小枝子(さえこ)ちゃんだ。」
鳥羽兎でTVを見ていたルリが言った。
TVにはツインテールの女性が歌っている姿が映されている。
香矢が言う。
「はー、最近よく見るっスよねぇー?元声優もすっかり国民的アイドルっスか…やっぱりアイドルになるには顔や歌だけでなく一芸、必要なんすかね?」
友知が面白くなさそうに言った。
「けっ!必要なのは芸じゃないって!コネでしょ?」
香矢が言った。
「コネって…まぁ、確かに生い立ちとかプロフィールが謎の存在すよね。そこを隠したいからスかね?TVのお偉いさんの娘さんとかスかね?」
友知は言った。
「香矢は何を甘い事言ってるの?コネって言ったら男と寝たに決まってるでしょ!でなければこんなブス…」
香矢は溜息をついて言った。
「そう言うの何て言うか知ってるスか?志穂さん。」
志穂は頷いて言った。
「ブスのひがみ。」

「お疲れ様でーす」
小枝子はTVの撮影を終えてスタッフに笑顔を振りまいていた。
そこに共演していた男性歌手が近寄ってきて話しかけてきた。
「お疲れ様、小枝子ちゃん!この後も仕事?」
小枝子は手帳を開いて言った。
「えっと、今日はこれで終わりですね。」
「小枝子ちゃんはマネジャーもつけずに自分でスケジュール管理までしてて偉いなぁ…それじゃあ、ボクと食事にでもいかない?」
そう言って男性歌手は小枝子の肩に手をかけようとした。
しかし、小枝子はその手を華麗にかわし言った。
「ごめんなさい!美容のために夜の食事は抜いているんです!それでは私はこれで!!」
不満そうな男性歌手に背中を向けて小枝子は走り去った。
エレベーターに乗って一人になったところで小枝子は呟いた。
「…臭い。」
小枝子はハンカチを取り出し、鼻を覆って言った。
「ああ!人間は本当に臭い!!息が詰まる!!」
「クマー!それならば、あいどるなぞやらなければヨいでしょうに…」
頭上から声がした。
天井が開いて熊魔女が顔を出した。
小枝子はハンカチをしまって言った。
「臭いのは嫌いだが、見るのは好きなのさ。バラバラに解体した姿を想像するだけもう…そのために多くの人間を見る事ができるアイドルをやっているのさ!」
熊魔女は降りてきて言った。
「クマー!どちらかとイうとオオくのヒトにミられるシゴトでは?」
小枝子は言った。
「ふん、それも好きなのさ!…それで?お前はアタシと世間話をするためにエレベータの上に隠れていたのかい?」
熊魔女は姿勢を正し言った。
「クマー!ウィッチサイゴのカンブである、女手(じょしゅ)サマにミチビいてイタダきたくサンジョ…」
そこで女手は熊魔女を遮って言った。
「待って、最後の幹部?他の3人はどうした?」
熊魔女は表情を曇らせて言った。
「クマー!はっ、女医サマも女教授サマも女帝サマもゼンイン、聖女にヤブれました…ゴゾンジなかったのですか?」
女手は背伸びしながら言った。
「んー?アタシは他の3人とは連絡とってなかったし、興味もなかったし…」
熊魔女は絶句した。
女手はそんな熊魔女を見てニヤリと笑い言った。
「「こいつ、大丈夫か?」とか思ってる顔ね!心配しなさんな!あたしが他の3人と連絡とっていなかったのは別格だったからだよ!何しろあたしは始まりの魔女、ドラゴン様と唯一コンタクトがとれる魔女だからね…」
熊魔女が歓声をあげ言った。
「クマー!おお、ウワサはホントウでしたか…それではワタシをおミチビきを…」
女手は少し考えてから言った。
「じゃあ、こんな導きはどう?」
やがてエレベータが目的の階に到着しドアが開いた。
そこには熊魔女の姿はすでになく、女手は一人で降りてきた。
誰にも聞こえない声で女手は呟いた。
「そっかー。あの3人死んじゃったんだー。」
表情も変えずに続けて呟いた。
「せっかくドラゴン様に力を頂いたのに…馬鹿な奴ら。」
そして、タクシーに乗った。
いつもの小枝子の顔に戻って。

「大変スよ!大変スよ!」
香矢が鳥羽兎に大騒ぎしながら飛び込んできた。
友知が言った。
「どしたの、シフトでもないのに…朝起きたら下着にキノコでも生えてた?」
香矢は叫んだ。
「んなわけあるかい!ちゃんと毎日洗ってるスよ!!ゼイゼイ…走ってきたんだから余計な突っ込みをさせんなっス…」
志穂が水を差しだし言った。
「まぁまぁ…で、何が大変なのですか?」
香矢は水を一気に飲み干し言った。
「小枝子ちゃんが…誘拐されたって!マスコミには隠してるみたいっスけど…」
友知が言った。
「どうだか…案外、男でもできて雲隠れしたんじゃないの?今まで、コビてきたパトロンにばれるのが怖くなってさぁ!」
香矢は溜息をついて言った。
「まーだ、ひがんでるんスか?この譲ちゃんは…警察には犯行声明まで出てるんスよ?」
コーチが奥から出てきて言った。
「香矢、よくそこまで調べたね…」
香矢は胸を張って言った。
「もはや、情報収集でサポートできるのはあちきだけっスからね!問題はこの犯行声明なんスよ。身代金とかを要求せずにドラゴンヴァルキリーの身柄を要求してるんスよ、これが。」
志穂と友知の顔が変わった。
そして志穂が言った。
「香矢さん、場所とかも…」
香矢はポケットから地図を取り出して言った。
「モチのロン!この遊園地にドラゴンヴァルキリーだけで来いって事スね。」
志穂は立ちあがり友知の方を見て言った。
「アイドルが嫌いなら、私一人で行くけど?」
友知も立ち上がって言った。
「からかわないでよ…人の命がかかっているんだよ?」

二人は遊園地に着いた。
友知は言った。
「静かだね…てっきり警察が包囲してるもんだと思ったけど。」
志穂は首を振って言った。
「警察に犯行声明を出したのは私達が突きとめるのを分かっててやったんでしょ?警察にはウィッチの息がかかってるんだから動くわけがないよ。」
遊園地には警察どころか人の気配もなかった。
友知は周りを見渡して言った。
「あーあ、この状況が魔女事件じゃなければなぁ…アトラクション乗り放題なのに…」
志穂はクスリと笑って言った。
「でも、誰もいないのは寂しいよ。私はガヤガヤした遊園地の雰囲気が好きだよ。」
その時であった。
「パンプキン!」
「パンプキン!」
かぼちゃ魔女があちこちの物陰から姿を現した。
友知は溜息をついて言った。
「良かったね志穂…ガヤガヤしてきたよ。」
奥の方から熊魔女が歩いてきて言った。
「クマー!やはりキたか聖女よ!!スベては女手サマのケイカクドオりよ!」
志穂がその言葉に疑問を持って言った。
「助手…?」
熊魔女は叫んで否定した。
「クマー!そのカきカタではない!タスケるにテではなく、オンナにテとカいて女手サマだ!!」
友知はあきれて言った。
「げっ、こいつ小説や漫画でしかできないツッコミをしやがった…それにしても、また新しい幹部?」
志穂は思い出して言った。
「多分、最後の幹部だよ。最高幹部のドラゴン以外では。おか…女教授が死に際に話してたの。ドラゴンの封印は4人で解いたって。」
熊魔女は言った。
「クマー!そういうコトだ!サイゴにしてサイキョウのカンブ、それが女手サマだ!」
友知は言った。
「何でも良いけど、小枝子はどこよ?」
熊魔女は首を上に向けた。
観覧車に縛り付けられた小枝子がいた。
熊魔女は言った。
「クマー!さあ、ワれらとタタカえ」
友知は溜息をついて言った。
「盾にするとかそういうのはないのかね、このバカ熊は。」
熊魔女は怒って言った。
「クマー!これだけのカズの魔女がいるのにどこにそんなヒツヨウがある!それともたったフタリでカてるとでも。」
志穂と友知は言った。
「もちろん。」
「楽勝だわ。」
そして胸の十字架を握り叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!!」
胸の十字架を引き千切り二人とも白い聖女の姿に変身した。
そして
「「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ネクストドレス!!!」」
同時に叫んだ。
熊魔女は尚も怒りながら言った。
「クマー!ナめおって…やれ、かぼちゃ魔女ども!!」
「パンプキン!!」
かぼちゃ魔女が一斉にかかってくる。
その瞬間に志穂と友知は消えた。
そして次々と倒れていくかぼちゃ魔女達。
熊魔女は驚いて泣き叫ぶように言った。
「クマー!ええい、ツカまえてしまえばかぼちゃ魔女のバクハツで…」
風の中から友知の声が響いた。
「無理無理無理ですわ。ネクストドレスは通常の3倍のスピードで動けますもの。」
そして30人以上いたかぼちゃ魔女は全て倒れた。
そして志穂と友知は姿を現す。
志穂は熊魔女の方を見て言った。
「これで後はあんただけね!」
熊魔女は後ずさりしながら言った。
「クマー!フタリがかりでワタシとタタカうつもりか!!ヒキョウな!!!」
友知は溜息をついて言った。
「何言ってますの…さっきまで30人がかりだったくせに…」
しかし、志穂が言った。
「ならば…正々堂々1対1で勝負よ!」
その言葉に友知が驚いて言った。
「ちょ!?志穂、何を言って…」
「友知は手を出さないでね。あ、今のうちに小枝子さんを助けてきて。」
志穂の言葉に渋々と小枝子の方に向かう友知であった。
熊魔女はニヤリと笑い言った。
「クマー!かかったな!ヒトリヒトリかたずけてくれるわ…熊魔法!」
しかし、熊魔女が魔法を唱えるより先に志穂は剣を構え叫んでいた。
「六竜トルネード!」
志穂の剣から竜巻が放出され、熊魔女の体を打ち上げる。
さらに炎、水、雷、草、毒、5つの色が竜巻の中に入っていく。
熊魔女はもがきながら叫んだ。
「クマー!女手サマ!女手サマ!おタスけください!!」
ボロボロになった熊魔女のところに志穂は飛びあがり叫んだ。
「エンドドラゴン!」
そして横一文字に熊魔女の体を切り裂いた。
「クマー…女手サマナゼ…ワタシをミスてるのですか…」
断末魔の声を上げ熊魔女は息絶えた。
「必殺…七竜剣!」
そう言ってから志穂は剣を胸に持っていき変身を解いた。
「今日の志穂はやけに気合が入ってますわね…」
小枝子を救出して降りてきた友知がそう言って変身を解いた。
小枝子が震える声で言った。
「あたし助かったの?あなた達が助けてくれたの?」
友知が何か言う前に志穂が喋った。
「小枝子さん、実物に会えるなんて…感激です!」
友知はずっこけた。
そして座り込んだまま友知は言った。
「ファンだったんだ…知らなかった…どおりでカッコつけるわけだ。」
志穂は続けて言った。
「あの、握手とかしてもらってもいいですか?」
小枝子は驚いていたが、すぐに営業スマイルになり言った。
「良いわよ!可愛いお譲さん。」
小枝子は手を差し出してきた。
志穂はズボンのすそで手をゴシゴシと高速で拭き始めた。
友知が呆れて言う。
「火でも着けるつもりか!つーか、汗かかないでしょ!!」

小枝子は二人に送られ自宅のマンションに着いた。
ソファーに座って呟いた。
「あれが聖女か…」
その顔は女手に戻っていた。
そしてさらに呟く。
「あれがドラゴンストーンをその身に宿す者の力…見てみたい!あの体をバラバラに解体して成長した輝きを放つドラゴンストーンを…」
よだれが流れていた。
女手はよだれも拭かずに呟き続けた。
「でも、まだ駄目だ…もっと成長させねばドラゴン様は復活できない…そう、もっとだ…ドラゴン様が復活した時…その時こそ…」
ドラゴンの復活…
その時こそ、志穂と友知の最後の戦いになるのであった。

第三十五話
双子の別れ、分かり合い

私はいつもお姉ちゃんの背中ばかりを見てきて育ってきた。
気の弱い私は小さい頃からよくいじめられた。
「お前の双子の姉は勉強も運動もできるのにお前は何もできないな?」
「双子の悪い部分の余りがお前なんだな?」
「やーいみっそかす!」
そんな心ない悪口に泣かされてきた。
「ヨッコをいじめんなー!」
そんな私をお姉ちゃんはいつも守ってくれた。
「恐怖の姉がきたぞー!」
「わー逃げろー!!」
TVに出てくるような小悪党みたいなセリフを吐きながら私をいじめていた奴らは逃げていった。
「ったく、誰が恐怖だよ。…もう、泣くなってヨッコ。」
お姉ちゃんの優しい言葉に私は言う。
「…うん、ありがとうお姉ちゃん。」
お姉ちゃんは照れ臭そうな顔をしながら言った。
「気にすんなって!あんたは私が守るよ。姉妹でしょ?」
いつも私を守ってくれたお姉ちゃん。
いつも私に勉強を教えてくれたお姉ちゃん。
いつも遊んでくれたお姉ちゃん。
口下手な私の考えを完璧に理解してくれたお姉ちゃん。
大好き。

彼女はそこまで日記を読むと本を閉じた。
彼女の名前は洋子。
日記の中でヨッコと呼ばれた少女…
つまりこの日記の主である。
「いつからだろう…お姉ちゃんと話をしなくなったのは…」
ヨッコはボツリと独り言を言った。
「どこに行ってしまったの…キョウちゃん…」
ヨッコは双子の姉、鏡子(きょうこ)の無事を祈った。

次の日。
香矢は学校で昼食をとりながら友達と雑談をしていた。
香矢は特定の誰かとつるんだりせず、その日の気分で適当なクラスメイトを捕まえて食事をするのが日課であった。
「香矢。」
突然、自分の名前を呼ばれ振り向いた。
ルリであった。
ルリとは他のクラスという事と、バイトで一緒にいる時間が長いため、学校ではあまり会わないようにしている。
香矢は席を立ち上がり言った。
「およっ珍しいスね、ルリっち。バイトのシフト代わってとかはお断りっスよ。友知にでも押し付けてくだせい。」
ルリは少し笑って言った。
「いつも代わってあげてるのに…そうじゃなくて、あんたに相談があるって子を連れてきたのよ!」
そう言うとルリの後ろからヨッコがおずおずと出てきた。
香矢は言った。
「ええと、確かルリっちのクラスメイトのヨッコさんスよね。何の御用ざんしょ?あちきは恋愛相談、学業相談、金銭相談、何でもござれっスよ!聞くだけなら。」
香矢のノリに少し緊張が解けたのかヨッコは話し始めた。
「ええと、田鶴木さんって探偵みたいな事もしてるって聞いたんだけど…」
ルリがフォローした。
「彼女はわらにもすがる思いなんだって。」

放課後、香矢はヨッコを連れて鳥羽兎に来た。
「コーヒーをどうぞ。」
志穂がヨッコにコーヒーを出して下がって行った。
それを見てヨッコは言った。
「可愛いね!お家のお手伝い?」
香矢は頷いて言った。
「そんなとこっス…それよりも事件の話を聞かせてくらはい!どんな難事件も即解決しちゃうっスよ!!」
はりきる香矢を見て呆れたコーチが呟いた。
「うさ耳バンドのメイドにそんな事を言われてもねぇ…」
「コーチが言う事じゃないと思いますよ。」
志穂がすかさず、突っ込みを入れる。
ヨッコは写真を取り出し言った。
「人を探してほしいの。探してほしいのは私の姉。」
香矢は写真を見て言った。
「そっくりスね。まるで双子みたい!って、そういえばヨッコさんは双子でしたっけっ?」
ヨッコは感心して言った。
「よく知ってるね。キョウちゃんは学校が違うし、私が双子なのはあんまり言ってないのに…」
香矢は胸を叩いて言った。
「あちきに知らない事は何もない!」
コーチと志穂が
「だから…」
「だから…」
と先ほどのやり取りを繰り返しそうになった。
香矢はもう一度写真を見ながら言った。
「何でも知ってると言ったスけど…失踪したとか、何があったスか?」
ヨッコは言った。
「ちょっとした姉妹喧嘩。よくそれで家出するの。私と違ってキョウちゃんは社交的だから友達の家にほとぼり冷めるまで泊まったり…だからお父さんもお母さんもあんまり心配してなくて…だけど…」
香矢がニヤリと笑って言った。
「姉妹の絆が何か危険を知らせてるスね?あちきも双子じゃないけど弟がいるから何となくその感覚は分かるスよ!」
ヨッコは言った。
「そんな大層なもんじゃないけど…どちらかというと女の勘かな?今、見つけとかないと大変な事になりそうな…」
香矢は立ちあがって言った。
「あい分かった!早速、探しに行きやしょう!!心当たりのあるところは?」
そこでコーチが言った。
「っておい、バイト中だねっ…」
「心配なし、友知に代わってもらいやすよ!友知は部屋したっけ?」
そう言うと香矢は店の奥に入って行き、2階からギャーギャーと争う声が聞こえ、しばらくして香矢が降りてきた。
そして言った。
「こころよく引き受けてくれました!さささ、行きましょうヨッコさん。」
コーチは言った。
「絶対、嘘ね…そうだ、香矢ちゃん。ついでにマユの散歩もしてくれない?番犬代わりになるし…」
香矢は首を傾げながら言った。
「えー!?こいつ、そんな役に立つスかねぇ…」
マユは任せておけと言わんばかりにワン!と吠えた。

「見つからないスねぇ…」
香矢が疲れた表情で言った。
鏡子の友達の家からまず周って行き、次に行きそうなところを渡り歩いたのだが、鏡子が失踪してから訪れた様子はなかったようだ。
ヨッコは申し訳なさそうに言った。
「すっかり遅くなっちゃったね…今日はもう終わりにする?」
香矢は言った。
「いいや、ここで辞めたら探偵の名がすたる!ねっ、マユ!」
マユはあくびをした。
その時、ヨッコが指をさして言った。
「あの建物…」
その先には使わなくなった倉庫があった。
ヨッコは続けて言った。
「小さい頃、お姉ちゃんとの二人だけの秘密基地にしたんだっけ…懐かしい…まだあったんだ。」
香矢は少し考えてから言った。
「キョウさん、あそこに潜んでるって可能性はないスか?」
ヨッコは首を振って言った。
「まさか…子供の頃の話だよ?生活できるような環境じゃないから…」
香矢は言った。
「まぁ、行ってみる価値はあるんじゃないスか?何かしらの痕跡を残してるかもしれないスし…」

倉庫の中は予想以上に狭く、殺風景であった。
香矢は苦笑して言った。
「はずれみたいっスね…」
その時、暗い部屋の中で影がゆらりと動いた。
「キョウちゃん?」
ヨッコが声をかけると影は答えた。
「チー…ニンゲンはシュクセイ!」
それはチーターの姿をした魔女であった。
ヨッコが小さく叫ぶ。
「ば、化け物…」
香矢も叫ぶ。
「もー、魔女はお呼びじゃないっスよ!」
マユが激しくワン!ワン!と叫ぶ。
そんなマユにひるむことなくチーター魔女はじりじりと二人に近づいていく。
その時、フルートの音色が響いた。
友知が香矢達の後ろから現れた。
香矢が叫ぶ。
「友知!さすがっスね!頼りになる!」
友知はフルートから口を離し言った。
「香矢、アタシの息抜きを邪魔してくれてありがとね。今度、カンチョーするからお尻の穴はしっかり締めておくことね。」
そして胸の十字架を握り叫んだ。
「ドレスアッ…」
「キョウちゃん!?」
ヨッコが突然、叫んだので友知は変身を中断させられた。
チーター魔女も動きを止める。
「チー…?」
ヨッコは続けて叫んだ。
「キョウちゃんでしょ?そうなんでしょ!」
「チー…シらん、知らん!」
そう叫ぶとチーター魔女は姿を消した。
香矢が言った。
「消えた…瞬間移動?透明になる魔法?」
友知が十字架から手を離して言った。
「いや、人間の目では追えないくらい早いだけ…それよりもヨッコさんでしたっけ?あの魔女は知り合い?」
ヨッコは言った。
「…何でキョウちゃんだと思ったんだろう。でも、分かるの。あれはキョウちゃんだって。理由はないけど…分かるの。分かってしまうの!」

「ヨッコ?ヨッコ…」
チーター魔女は頭を抱えながらブツブツと言った。
「誰だ?私を知っている…私は知っている!私は…私は…」
「ああ、臭い!」
突然、声がした。
闇の中からハンカチで鼻を覆った、女手が現れたのであった。
女手は続けて言った。
「人間臭いったら!本当に嫌になる!!」
チーター魔女は女手に言った。
「女手様、ここには人間など…」
「ここだよ!」
女手はいつの間にかチーター魔女の目前に移動しチーター魔女の頭をコンコンと叩いて言った。
「人間の記憶で臭いわ!…そうだ消してしまおう。そうしよう、そうしよう!」
そう言ってハンカチをビリビリと真っ二つに切り裂いた。

ヨッコは家に帰ってきた。
鳥羽兎に戻った後に香矢達から魔女の事を聞かされた。
ヨッコは呟いた。
「キョウちゃん…化け物にされてしまったの?」
両親は出かけていた。
自分の部屋に真っ直ぐ向かう。
「例え、化け物にされたとしても…」
そして、扉を開けるとそこに人影があった。
チーター魔女であった。
ヨッコは言った。
「キョウちゃん…!」
チーター魔女はヨッコの方を見て言った。
「チー…女手サマがワタシのアタマのイタみをケしてくれた。」
先ほどと違い、チーター魔女の頭は切り開かれ、脳が剥き出しになっていた。
「チー…アトはおマエをケせばカンペキだとおっしゃった…シュクセイ!」
そういってヨッコに飛びかかり、ヨッコの体は引き裂かれ…
なかった。
間一髪のところを志穂が助け出した。
志穂は言った。
「大丈夫ですか?」
その後ろの友知が言った。
「げー、脳を再改造ってところかしら…それにしてもずさんな手術!」
志穂はヨッコをかついで言った。
「馬鹿な事言ってないで一旦、外に出るよ!」
3人は家から飛び出した。
そこには
「パンプキン!」
無数のかぼちゃ魔女が待ち構えていた。
友知はそれを見て言った。
「どこから湧いて出たんだか…まぁ、調度いいや。さっきは変身できなくって鬱憤がたまってたとこなの!志穂?」
志穂は言った。
「うん、やるよ友知。」
二人は手を叩くように合わせた後に、胸の十字架を握りしめ叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!」
二人は白い聖女の姿に変身し叫んだ。
「「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ネクストドレス!!!」」
「チー…聖女か…」
チーター魔女は身構えた。
志穂は友知に言った。
「友知はかぼちゃ魔女の相手をして…あいつは私が止める!」
友知は頷いて言った。
「ええ。面倒なのは志穂にお任せしますわ。」
友知はかぼちゃ魔女の方に向かって行った。
チーター魔女は叫んだ。
「チー…チーター魔法!チョウカソクソウチ!」
チーター魔女の姿が消えた。
しかし、志穂の目線は何かを追っていた。
「ツバメ魔女よりも早いかも…でも、今の私なら!」
そう言って志穂の姿も消えた。
キン!キン!と何かがぶつかり合う音だけがヨッコには聞こえた。
ヨッコは友知の方を見る。
友知はかぼちゃ魔女を全て倒していた。
一息つこうとした瞬間に友知の体がドン!と大きな音を立てて吹き飛んだ。
友知は叫んだ。
「ちょっと志穂!気をつけてくださいな!!」
志穂が動きを止め言った。
「ごめん、友知…相手が予想以上に強くて…何とか倒さずに動きだけを止めたいんだけど…」
その時、ヨッコは小さい頃の事を思い出した。

「すごい、お姉ちゃん!何で私のしたい事が分かったの?」
自分の行動を先読みされヨッコは声を上げた。
鏡子は言った。
「ヨッコにもできるって!双子だもん。自分がこうして欲しいって事を考えれば簡単だよ?」

ヨッコの目から涙が一粒、流れた。
「ドラゴンヴァルキリー!」
ヨッコの叫びに志穂と友知は振り向いた。
ヨッコは続けて言った。
「お願い、キョウちゃんを倒して!」
その言葉に二人は驚き、友知は言った。
「でも…」
ヨッコは涙を流しながら言った。
「あれはもうお姉ちゃんじゃない…もう見てられないの!これ以上、手を血に染めないうちに…」
その言葉を受けて志穂が剣を構え叫んだ。
「六竜トルネード!」
志穂の剣から竜巻が放出され、チーター魔女の体を打ち上げる。
さらに炎、水、雷、草、毒、5つの色が竜巻の中に入っていく。
チーター魔女はもがく。
ボロボロになったチータ魔女のところに志穂は飛びあがり叫んだ。
「エンドドラゴン!」
そして横一文字にチータ魔女の体を切り裂いた。
「チー…」
断末魔の声を上げチーター魔女は息絶えた。
「必殺…七竜剣!」
そう言ってから志穂は剣を胸に持ってゆき変身を解いた。
ヨッコはチーター魔女の横に行き呟いた。
「これで良かったんでしょ?これがあんたの望みだったんでしょ?私達、双子じゃなければ良かった…あんたの考えてる事なんか分からなければ良かった!お姉ちゃん…うぅっ…」
そしてヨッコは泣き崩れた。

第三十六話
裏切られし者

「カチカチ…ワタシがナニをしたとイうのですか、女手サマ!?」
カイコの幼虫の姿をした魔女が手術台に縛り付けられ叫んだ。
その手術台はかつて志穂が縛り付けられていたものと同じであった。
女手は面倒臭そうに口を開いた。
「トゲウオ魔女からさー。あんたが裏切るって報告があってね…今のうちに手を打ておこうと思ったわけ。」
その言葉にカイコ魔女は必死に訴えた。
「カチカチ…でたらめだ!ワタシは女手サマチョクゾクの魔女のナカでもとっぷくらすのジツリョクだとジフしております…そんなワタシがどうして女手サマをウラギるとイうのでしょうか?」
女手は頭をかきながら答えた。
「それはあたしも認めるよ…だーかーらーこそなわけ!あんたは実力だけではなく人望もあるしね…魔女だから魔女望かな?そんな奴に反乱とか起こされたら困るでしょう?」
そし手術台についていたレバーを引いた。
その途端にカイコ魔女の体に電撃が走る。
「ぐああああああ!」
カイコ魔女はたまらず叫ぶ。
女手は言った。
「まずはその優秀な魔力を奪わせてもらう…それが終わったら今度は命を…ね?」
そして女手はウインクをカイコ魔女に向けてした。
その時、カイコ魔女を襲っていた電撃が突然止まった。
それだけでなく部屋の照明も消えた。
女手は驚いて怒鳴った。
「何事なの!?」
部屋の外からかぼちゃ魔女が入ってきて言った。
「パンプキン!ナニモノかがキチのデンキケイトウにだめーじをアタえたようです…」
女手は舌打ちをしてから言った。
「聖女かしら…魔女対策本部かしら…ったく、ろくな事をしない。それじゃあ、また後でねカイコ魔女。次の次はないけど。」
そして部屋の外に出て行った。
「カチカチ…」
魔力を奪われただけとは言え、カイコ魔女の意識はもうろうとしていた。
その時、カチャカチャという音が耳に入ってきた。
自分の拘束している器具を外す音であった。
(ダレだろう…)
そう思いつつも目の前が暗くなっていった。

次に目を覚ましたのは別の廃工場の中であった。
カイコ魔女は呟いた。
「カチカチ…ここはどこだろう?ワタシはどうなったのだ?」
周りを見渡すと見慣れた顔があった。
「カチカチ…クジラ魔女とモグラ魔女じゃないか…」
カイコ魔女は盟友にそう言った。
クジラ魔女が口を開いた。
「シオー!ダイジョウブか、カイコ魔女?」
カイコ魔女は言った。
「カチカチ…もうスコしヤスめばモンダイはない…マリョクをウバわれたイガイはな…まさか、オマエタチがタスけてくれたのか?ナんてコトを…おマエタチまでショブンされるぞ?」
モグラ魔女は首を振って言った。
「ドリ!おマエのウラギりはヌレギヌなんだろう?あの、シュッセイヨクのツヨいトゲウオ魔女にはめられたんだろう?」
カイコ魔女は頷いて言った。
「カチカチ…モチロンだ。ワタシが女手サマや…ドラゴンサマをウラギるわけがない。」
その答えにクジラ魔女が嬉しそうに言った。
「シオー!ならばモンダイはない。おマエはここでマっていろ。ワタシタチがゴカイをトいてきてやる。」
そう言うと二人の魔女は部屋から出て行った。
カイコ魔女は呟く。
「カチカチ…ダイジョブだろうか?いや、あのフタリがワタシをシンジじてくれたようにワタシもシンじよう…」
そして再び目を閉じた。

何時間経っただろうか、カイコ魔女は気配を感じて目を覚ました。
(フタリがモドってきたのか?)
カイコ魔女は外の様子を窺いに部屋の外に出た。
廊下の影から覗き込むとかぼちゃ魔女が何人かうろうろしていた。
(キュウエン?いや。)
その中にはトゲウオ魔女の姿があった。
(いかん!ニげなければ…)
そう思った時に後ろから声がした。
「パンプキン!いたぞ!!」
振り向く間もなく、かぼちゃ魔女達は集まってきてカイコ魔女を取り囲んだ。
「ククク…やれ。」
トゲウオ魔女の声にかぼちゃ魔女は一斉にカイコ魔女に飛びかかり自爆した。
ものすごい煙が引いた後にはそこには何も残っていなかった。
トゲウオ魔女は叫んだ。
「ククク…女手サマ!ウラギリモノのシマツはオわりましたよ!!」

カイコ魔女は致命傷であったが生きていた。
何とか、かぼちゃ魔女の自爆に耐えきり、煙に紛れて逃げ切っていたのであった。
(しかし…)
廃工場からある程度離れてから倒れこんだ。
(ここまでか…)
夜空を見上げながら思った。
(どうせシぬならアオゾラをミナガながらシにたかったが…ホシゾラをナガめながらもワルくはないな…)
「コーチ!あれ!!」
そこで叫び声が聞こえた。
友知とコーチが歩いているのであった。
(ニンゲンか…)
カイコ魔女は立ちあがり叫んだ。
「カチカチ…ニンゲンはシュクセイする!」
しかし、そんな力は残っていなかった。
それは彼女のプライドであったのだろう。
友知は胸の十字架を握りしめたが、コーチがそれを制止した。
「やめなよっ、夜葉寺院。ひどい怪我じゃないか。ねっ?」
その言葉にカイコ魔女は憤慨して怒鳴った。
「カチカチ!ニンゲンがナめるなよ!キサマラをヤツザキに…」
最後まで言い切らずにカイコ魔女は倒れた。

友知とコーチは鳥羽兎にカイコ魔女を連れてきた。
鳥羽兎にいた志穂とトッコは驚きを隠せなかった。
トッコが言った。
「今のうちに倒した方が…」
しかし、コーチが首を振った。
「倒れている相手を攻撃するなんて聖女のする事じゃない…ねっ?」
友知は呆れ気味に言った。
「まぁ、その通りですけど…でも、連れてくる事はないんじゃないですかぁ?こいつ、ほっとけば勝手に野垂れ死にしますよ?」
コーチはコツンと友知の頭を叩いて言った。
「野垂れ死にしそうだから連れてきたんだろ?ねっ田合剣、こいつの怪我を治せないかな?」
志穂は溜息をついて言った。
「出来ますけど…治った後、どうするんですか?」
コーチは笑って言った。
「それは後で考えよう。ねっ?」
トッコも溜息をついて言った。
「危ないなぁ…寝首をかかれたりしたらどうするんですか?」
コーチは言った。
「大丈夫ねっ。こいつはそんな事しない。眼を見れば分かる。悪い魔女じゃないね。」
「魔女はどこまでいっても魔女でしかないのに…」
友知は誰ともなしに言った。

翌朝、志穂が2階から降りてきたのでコーチが声をかけた。
「おはよう。どうだったねっ?」
一晩かけて志穂がカイコ魔女の怪我を直していたのあった。
「怪我は何とか…目を覚ましてしばらくすれば動けると思います。見かけより頑丈な体をした魔女みたいですから。」
友知が言った。
「徹夜、御苦労さま。」
志穂が友知の方を向いて言った。
「別に寝る必要もない体だから御苦労でも…って友知もそうでしょ!少しは手伝ってよ!!」
友知は手をヒラヒラと降って言った。
「お生憎様。敵に塩は送らない主義なの。」
コーチが呆れ気味に言った。
「おいおい、魔女だからってすぐに敵扱いは駄目ね…」
その時、2階の窓が割れる音がした。
慌てて3人とも2階に行くとカイコ魔女が抜け出した後であった。
志穂が言った。
「まだ、動ける体じゃないと思ったのに…すごい精神力ね。」
友知は頭を掻いて言った。
「そんだけ早く人を殺したいってことでしょ。さっ、行くよ志穂。魔女退治に!」

カイコ魔女はウィッチ基地に来ていた。
(ブジか?クジラ魔女…モグラ魔女…)
基地の中は以前に比べて殺風景になっていたがカイコ魔女は気にしなかった。
いや、気にしないようにしていた。
最後の扉を開ける。
そこは、かつて自分が処刑されそうになった部屋であった。
(そんな…)
そこにはバラバラに引き裂かれたクジラ魔女がいた。
「ククク…おマエのせいだよ、カイコ魔女。ワかるか?」
トゲウオ魔女が嬉しそうに喋りながら現れた。
カイコ魔女は悔しそうに言った。
「カチカチ…ふざけるなよ!ワタシのヌレギヌも…クジラ魔女も…スベておマエのサクリャクだろう!?」
トゲウオ魔女は涼しい顔で言った。
「ククク…ユウザイかムザイかのサイバンはジゴクでやるんだな。ヒトリで。おいっ!」
その声に反応してかぼちゃ魔女が群れて出てきた。
「パンプキン!」
「ククク…さてと、マリョクをウバわれたんだってな?ウィッチサイキョウの魔女とウワサされていたおマエもイマではサイジャクの魔女だな。やれ。」
トゲウオ魔女の声にかぼちゃ魔女が一斉に飛びかかってくる。
カイコ魔女はその辺に転がっていた鉄パイプを拾い上げて言った。
「カチカチ…マリョクもなく魔法もツカえないが…ワタシはマけない!!」
鉄パイプを器用に操り、かぼちゃ魔女を吹き飛ばしいく。
「パンプキン!?」
かぼちゃ魔女は自爆のタイミングを狂わされ、カイコ魔女から離れた場所で爆発する。
「ククク…ネバるねぇ。」
トゲウオ魔女は小馬鹿にしたように言った。
カイコ魔女は叫ぶ。
「カチカチ!トゲウオ魔女!キサマだけはユルさない!」
飛びかかってくるカイコ魔女を涼しげな顔で見ながらトグウオ魔女は言った。
「ククク…イったろう?魔法もツカえない魔女はサイジャクの魔女だと!!トゲウオ魔法!ハリセンボン!!」
無数の針がカイコ魔女を襲う。
しかし、カイコ魔女は鉄パイプで無数の針を撃ち落とした。
トゲウオ魔女は驚きの声を上げる。
「ククク!?」
カイコ魔女は言った。
「カチカチ!どうだ、マリョクがなくってもキサマごときにオクれは…」
「ククク…なぁんちゃって。」
トゲウオ魔女がそう言うと撃ち落としたはずの針が再びカイコ魔女に襲いかかった。
慌ててカイコ魔女は再び撃ち落とそうとしたが不意をつかれて防ぎきれなかった。
「カチカチ…」
今度はトゲウオ魔女が勝ち誇って言った。
「ククク…これがマホウをツカう魔女とツカえない魔女のサ。じゃあ、さよなら。」
動けなくなったカイコ魔女をかぼちゃ魔女達が取り囲む。
その時、フルートの音色が響いた。
「ククク?ナンだ?」
「カチカチ…」
友知と志穂であった。
友知はフルートから口を離し言った。
「こんな内輪もめ、ほっとけばいいのに…そこの魔女!別にあんたなんか助けるつもりないんだからね!!これはただの魔女退治なんだからね!!」
志穂がクスリと笑って言った。
「嘘ばっか。」
友知も笑って言った。
「にひ、ばれた?」
カイコ魔女が呟いた。
「カチカチ…サキほどのニンゲン…ナニしにきた!?ハヤくニげろ!!おマエらも…コロされるぞ!!」
志穂は言った。
「大丈夫です。今、助けますから。」
二人は胸の十字架を握りしめ叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!」
二人は白い聖女の姿に変身し叫んだ。
「「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ネクストドレス!!!」」
カイコ魔女は驚いて言った。
「カチカチ…聖女だったのか…」
トゲウオ魔女が叫ぶ。
「ククク…聖女がなんだ!?やれ、かぼちゃ魔女ども!!」
「パンプキン!」
かぼちゃ魔女が襲いかかってきたが…
もちろん、二人の敵ではなかった。
全てのかぼちゃ魔女を倒してから友知が言った。
「さてと、後はあなただけですわね…ってあんれ?」
すでにトゲウオ魔女はいなかった。
志穂が言った。
「逃げられたみたいだね。」
友知が地団駄を踏んで言った。
「これからが見せ場でしたのに!必殺技を使えなかったストレスでハゲそうですわ!!」
そな友知を無視して志穂がカイコ魔女に言った。
「大丈夫ですか?怪我を見せてもらえますか?」
その時、カイコ魔女は持っていた鉄パイプを志穂に投げつけた。
それを見て友知が怒った。
「ちょっと!何をしますの!?」
カイコ魔女は立ちあがり言った。
「カチカチ…ふざけるな!おマエラが聖女ならワタシタチはテキドウシだろう?さあ、タタカえ!!」
しかし、志穂は変身を解いて言った。
「無理ですよ…貴女を手術した時に分かりました。貴女、魔力を抜かれていますね?」
友知は変身を解かずに言った。
「それにあなたはトゲウオ魔女と戦っているように見えましたわ…敵の敵は味方ってわけにはいきませんの?」
カイコ魔女は部屋の出口に向かいながら言った。
「カチカチ…タシかにワタシはトゲウオ魔女とタタかった。しかし、クサってもワタシはウィッチの魔女だ!トゲウオ魔女にフクシュウをしたらキサマらをタオす!女手サマの…ドラゴンサマのために!!よくオボえておくのだな!!」
そして、カイコ魔女は出て行った。

第三十七話
温もりが欲しくて、母を求めて

「よっと。」
「うまいね、ヨッコちゃん!」
ヨッコとコーチがスキーで滑って降りてきた。
鳥羽兎の店員達は雪山にスキーに来ていた。
ヨッコはピースをして言った。
「3回目ですから滑るぐらいでしたらね。それにしても…」
二人は自分たちが降りてきた中級者コースとは別の上級者コースを見る。
タイミングよく友知が滑ってきて、その後ろを香矢が滑ってきた。
友知はスキー板を履いたまま器用に飛びあがって言った。
「おっしゃ!これで3勝4敗だ!あと1回で並ぶ!!」
香矢は笑って言った。
「何の何の!このまま勝ち越してやるっスよ!」
ヨッコは溜息をついて言った。
「子供の頃から経験がある香矢ちゃんはともかく…友知ちゃんは初めてだよね?コーチに少し教わっただけなのに…」
コーチも苦笑いをする。
「さっきまで転がって雪だるまになっていたと思ったのにね…スポーツだけは得意だな、夜葉寺院は。」
その言葉に友知はプクーと膨れて言った。
「スポーツだけはってひどい…否定はできないけど。そういえば、もう一人のスポーツだけは少女は?」
「あれっスよ。」
香矢が指をさした方向には人だかりができていた。
香矢が説明する。
「小枝子ちゃんのTVロケみたいっスよ。気付いた瞬間に志穂さん、スキー板外していっちまいやした…」
友知は首を鳴らしながら言った。
「ふーん…まぁ、ああなると手に負えないから放っておこうか。香矢、次の滑りに行くよ!」
「望むところっスよ!」
友知と香矢はリフトの方に向かって行った。
コーチも遅れてリフトに向かいながら言った。
「さてと…もう一人の初心者の面倒を見に行くかね?」
ヨッコはクスリと笑い言った。
「トッコちゃんですよね?結構、時間が経つのに初心者コースから帰ってきませんね…」
コーチは笑って言った。
「まぁ、それが普通なんだけどな。」

「寒い、冷たい、足痛―い。」
トッコは初心者コースの途中で転んでもがいていた。
滑っていく人達にクスクス笑われながら。
トッコは呟いた。
「そして恥ずかしーい!」
そこでクスクスと笑い声がした。
また、笑われたと思いその方向を見ると女の子が立っていた。
年は5、6歳といったところだろうか。
しかし、違和感がある。
(この子、スキー板とか履いてない…それに格好も…昔の雪国ドラマとかに出てくるみたいな…地元の子?)
女の子は話しかけてきた。
「ねえねえ、何やってるの?面白い格好。」
トッコは大股開きで寝転がる姿で倒れていた。
トッコは苦笑して言った。
「確かに客観的に見るとひどい姿…じゃなくて!手を貸してくれませんか、お嬢さん?」
女の子はトッコの頭の近くで屈んで言った。
「そんな事よりも何か面白い話を聞かせてよ?」
トッコは言った。
「そんな事って…まぁ、起き上がるのも面倒だし、救援がくるまでいいか。どんな話がいい?」
女の子は嬉しそうに言った。
「何でも!お姉さんの町の話とか。」
トッコは言った。
「そうだなぁ…その前に君の名前は?私はトッコって呼ばれてるよ。」
「ウチの名前は雪子。普段はもう少し山の下の方におじいちゃん達と一緒に住んでるんだけど、今日はお母さんに会いに来たの!お母さんはもう少し山の上の方に住んでいるの。」

「それは雪ん子って奴じゃないかね?」
スキーを終えた夜、旅館でトッコの話を聞いたコーチが言った。
ヨッコが口を挟む。
「雪ん子って言うと雪女の娘のですか?」
友知が言った。
「雪女なら知ってるよ!雪山で遭難した人とエロい事する妖怪でしょ?」
志穂が言った。
「微妙に違う気が…」
トッコが言った
「もう、普通の人間の子供でしたよ!勝手に妖怪扱いしないでください。」
コーチが笑って言った。
「あはは、すまんね!その方がロマンがあるかなと思って…」
友知はつまらなそうに言った。
「妖怪の方が面白いのに…あっでも、子供の雪女じゃ面白くないか。エロい事できない。」
香矢が指をチッチッチと振って言った。
「甘いっスよー。最近はそんぐらいの年齢でも需要が…」
トッコが溜息をついて言った。
「妖怪と変態、どっちがマシかなぁ…」

「ただいまーお母さん。」
雪子は山奥のバンガローにやってきた。
「今日は町の事とか教えてくれるお姉さんに出会ったよ。あんねー、町にはドラゴンヴァルキリーってかっこいい人がいるんだって!それでねー…」
雪子が話しかけていたのは人間ではなかった。
ハンガーにかけられた白い着物。
それに向かって「お母さん」と話しかけていた。
その着物は他界した雪子の母親が来ていた物であった。
なぜ、このバンガローにかかっているのかは分からない。
だが、これを見つけた雪子はこれに話しかけるのはお母さんに話しかけるのと同じ、そう思うようになったのだった。
夢中で話す雪子の後ろに人影があった。
話し終えて一息ついた雪子は後ろの気配に気付き叫ぶように言った。
「!だっ誰!?」
「ちょっと遅れてきたサンタクロースだよ。」
それは女手であった。
TVを見ない雪子は目の前の人物が小枝子であると知らなくて言った。
「わー綺麗な人!サンタさんって綺麗なお姉さんだったんだね!」
女手はテクテクと着物の前まで歩いて行き、言った。
「お前、お母さんに会いたいか?」
雪子は満面の笑顔で言った。
「もちろん!」
女手はハンカチで鼻を覆いながら言った。
「会わせてやるよ。」

次の日の朝、香矢とヨッコはスキー場の近くの商店街を歩いていた。
香矢が口を開いた。
「全く、買い出しジャンケンに負けるなんて…でも、納得いかないっスよ!足腰痛くて起き上がれないトッコしゃんはともかく朝早くに追っかけに姿を消した志穂さんまでじゃんけん免除なんて…」
ヨッコが香矢をいさめて言った。
「まぁまぁ…こうして普段とは違うところを歩くのも楽しいじゃない?」
香矢は言った。
「それは確かに…あれ、あの店は何スかね?入ってみましょう!」
香矢が店に入って言った。
「すみませーんス。この店は何を売っている店っスか?」
「ひ、ひどい質問…」
香矢とヨッコの会話に返事は返ってこなかった。
「おろ?いらっしゃらない?」
店の奥に入っていくと人の形をした氷の彫像が置いてあった。
「よくできてるっスね…まるで本物の人みたい!」
「!違う!!これは本物の人間が凍ったものよ!!」
トッコの叫びに香矢がギョっとする。
その時、近くの店で悲鳴が上がった。
「行ってみやしょう!!」
香矢の叫びにヨッコは頷き走り出した。

「ほ、本物の…雪女!?」
スポーツ用具店の店主が驚いて叫ぶ。
その目線の先には白い着物を着た肌の白い女性…雪女が立っていた。
雪女は無言で口を開いた。
その口から白い煙が放出され、店主を襲う。
「ひい!冷たい冷た」
店主はたちまち氷の彫刻と化した。
「ひどい…」
店に着いたヨッコが言った。
香矢も言う。
「こいつも魔女なんスかね…でも、今までの奴らと違う感じがするっスよ。まるで感情がないみたいな…」
雪女はゆっくりと二人に近づいてくる。
ヨッコが言った。
「とりあえず、逃げて志穂ちゃんか友知ちゃんを呼ばないと…」
香矢が走り出そうとするヨッコを引きとめて言った。
「そう、焦らなくても大丈夫っスよ。こういう時、黙ってても現れるもんスから。」
雪女が口を開く。
ヨッコが叫んだ。
「そんな事言ってて死んだら間抜けそのものじゃないの!!」
その時、フルートの音色が鳴り響いた。
雪女は口を閉じ、周囲を見渡す。
ヨッコが言った。
「本当に来るなんて…」
香矢が得意げに言った。
「だから言ったじゃないスか!!」
そして、外から友知が現れた。
フルートから口を離して言った。
「悪い子はいねえがー?」
ヨッコが言った。
「…どうしちゃったの?」
香矢が呆れて言う。
「多分、雪女に対抗してなまはげをやってるんでしょうスけど…対抗できたのは寒い空気だけっスね。」
友知は手をブンブン振って叫んだ。
「せっかく助けに来たのにこの扱い!」
ヨッコが言った。
「いや、そんな事を言ってる場合じゃ…」
雪女が再び口を開く。
友知は言った。
「なまはげとか関係なく…悪い子にはお仕置きが必要なのは世界共通ね。」
胸の十字架を握りしめ叫んだ。
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!」
友知は白い聖女の姿に変身した。
そして叫んだ。
「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ネクストドレス!!!」
雪女は相変わらず無表情のまま、口から白い息を吐きかけた。
友知は水のバリアで息を防ぐ。
「この水は凍らないの?」
友知の後ろに隠れたヨッコが言った。
友知は答えた。
「この水はね、高温の水ですの。ワタクシは炎も水も操る聖女。凍らせない水を作るのはお手の物ですわ!」
今度は香矢が口を開いた。
「もし、相手がこの熱湯を上回る冷凍息をかけてきたら…」
友知はニヤリと笑って答えた。
「温度の下限は-273.1℃が限界。絶対零度ってやつですわね。一方、高温は何万度までいっても限界はない。つまり冷気を武器にした時点でもう勝負はついてますわ!」
雪女は口を閉じた。
冷気を吐き続けるのも限界になったのだろう。
友知は剣を構えて言った。
「さてと、とどめとまいりましょうか?」
「やめて!」
その時、店の外から女の子の声が響いた。
雪子であった。
もっとも、3人とも彼女の事は知らないが。
雪子は泣きながら叫んだ。
「お母さんを…お母さんを殺さないで!!」
友知はビクっとして言った。
「お母さん…?」
その隙を見て、雪女は外向かって走り去った。
後には3人と泣きじゃくる雪子だけが残っていた。

この戦いの様子を伺っていた人物がいた。
女手だ。
女手は呟いた。
「単なる暇つぶしだったが…聖女が出てくるとは面白くなってきたな。」

3人は雪子を連れてホテルに戻ってきた。
ホテルにつくまでブスっとしていた雪子であったが、ホテルでトッコの姿を確認すると表情をやわらげた。
トッコに懐いている雪子をトッコに任し、3人は話し合いを始めた。
「…雪子ちゃんはお母さんって言ったけど…」
ヨッコが口を開いた。
「もしや、お母さんを魔女に改造されたのかな?」
友知は首を振って言った。
「あれは魔女では…生物ではなかったよ。魔力の塊とでも言うべきかな。あんな事ができるのは、女手レベルの魔法だね。」
香矢が言った。
「でもでも、雪子ちゃんは「お母さん」って言ったスよ?」
「それはねっ、雪女が着ていた着物のせいだよ。」
コーチが外から部屋に入ってきて言った。
「雪子ちゃんの保護者…祖父母に電話で今聞いてきたね。あの子の母親は1年前に他界している。生前に着ていたのが雪女が着ている着物らしいぞ。」
ヨッコが溜息をついて言った。
「あのぐらいの年では母親の死なんて理解しづらいでしょうに…だからあの子にとっては母親の着物の化身である雪女は本物のお母さんと一緒なんだろうな…残酷な話だわ…」
その時、ホテルのロビーの方から悲鳴が響いた。
そしてトッコの叫び声も続く。
慌ててトッコと雪子が遊んでいた部屋に行くと、雪子の姿がなかった。
トッコは腰を押さえながら言った。
「筋肉痛じゃなければ止められたのに…いてててて。雪子ちゃん、「お母さんだ!」って言って飛び出して行っちゃった。」
友知は胸の十字架を握りしめながら部屋を出て行こうとする。
香矢が叫んだ。
「どうするんスか!戦えるんスか!?」
友知は振り向かずに言った。
「大丈夫。あの子の事はよく分かってるよ。アタシも似たような境遇だから。」
そして白い聖女の姿に変わって部屋を出て行くのであった。

ロビーはまるで冷凍倉庫のようであった。
ただし、凍っているのは豚肉などの食材ではなく人間であった。
「お母さん!」
嬉しそうに飛び出してきた雪子であったが、ロビーの惨状を見て青くなった。
雪女は無表情に雪子を見つめている。
雪子は泣きつくように言った。
「どうしちゃったの!?こんな事止めてウチと遊んでよ!」
雪女は口を開いた。
雪子は必死に訴える。
「やめて!ウチの事を忘れたの!?雪子よ雪子!お母さんの娘だよ!!」
雪女の口から白い息が放出され雪子の体を…
凍らさなかった。
間一髪のところを友知の水のバリアが防いだのあった。
二人の間に入り友知が言った。
「忘れましたの?絶対零度がある限り、いくらでも上昇できる高温には敵いませんわよ!」
(とは言っても時間稼ぎにしかならないのよね…さてどうしたものか。)
その時、異変が起こった。
友知のバリアが凍り始めたのであった。
友知は驚いて言った。
「何事ですの!ワタクシは温度を下げたりしてませんのに…!!まさか、絶対零度を超えた冷気を出してる…!?」
慌てて後ろに隠れていた雪子を吹き飛ばした。
次の瞬間、友知の体はバリアごと凍ってしまった。
雪女はゆっくりと友知に近づき凍った友知を殴り飛ばした。
友知は派手な音を立てて床に倒れ、手足が砕け散った。
雪女はまるで小学生が氷の張った水たまりを割るように友知のバラバラになった体を踏み砕いた。
ボキボキと嫌な音を立てて友知の体は砕けていく。
「そんな…」
コーチ達が遅れてあらわれその惨状に絶句した。
香矢が唖然としながら言った。
「嘘っスよね…うつせみとかそんなのスよね…友知!」
友知をバラバラにして満足したのか今度はコーチ達の方に雪女は向かってきた。
「待ちなさい!」
反対方向から叫び声がした。
志穂であった。
「これ以上、犠牲者は出させないよ!!」
二人は胸の十字架を握りしめ叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
志穂は白い聖女の姿に変身し、叫んだ。
「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ネクストドレス!!!」
「志穂ちゃん!友知ちゃんが!!」
ヨッコの叫びに志穂はバラバラになった友知を見る。
志穂はニヤリと笑って言った。
「心配いりませんよ。私達はバラバラになったぐらいなら、少し時間があれば元通りになれますから。」
「んな、でたらめな!」
香矢がこけながら叫んだ。
「それよりも…」
志穂は剣を構えながら言った。
雪女は口を開く。
コーチが叫んだ。
「気をつけろ田合剣!そいつは絶対零度より低い冷気を出せるみたいだぞ!夜葉寺院はねっ、それでやられたんだ!!」
雪女は冷気を吐き出した。
「なるほどね。友知は受け止めようとして失敗したわけね…なら、私は跳ね返す!」
志穂の剣から竜巻が放出され冷気ごと雪女の体を包み込む。
雪女は窓を突き破り外に投げ出された。
地面に叩きつけられると凍った右腕がポキリと音を立てて折れた。
志穂が外に出てきて言った。
「絶対零度を超えた冷気は雪女でも耐えられないってわけね…とどめよ!」
「駄目!」
雪子が叫ぶ。
「お母さんなの!殺さないで、ドラゴンヴァルキリー!!」
志穂は固まる。
(お母さん…?それじゃあ、攻撃できないじゃない!)
雪女は口を開いた。
(どうする?このままじゃ私も友知みたいに…どうする!?)
その時、志穂の目に氷漬けにされた人の姿が入ってきた。
志穂は雪子の方を向いた。
泣いて訴えている。
背中を向けて言った。
「…許して!」
志穂が剣を構え叫んだ。
「六竜トルネード!」
志穂の剣から竜巻が放出され、雪女の体を打ち上げる。
さらに炎、水、雷、草、毒、5つの色が竜巻の中に入っていく。
雪女はもがく。
ボロボロになった雪女のところに志穂は飛びあがり叫んだ。
「エンドドラゴン!」
そして横一文字に雪女の体を切り裂いた。
雪女は氷の結晶となって飛び散った。
「必殺…七竜剣!」
志穂は変身を解きながら言った。
雪子が志穂の背中を叩きながら泣き叫んだ。
「バカバカバカバカ!やめてって言ったのに何で殺したんだ!返してよ、お母さんを返してよ!!」
「甘ったれるな!」
その時、元通りになった友知が怒鳴りながら歩いてきた。
「あれは君のお母さんなんかじゃない…分かってたんでしょ!?」
雪子の動きが止まった。
友知は続けて言った。
「君のお母さんはもういないんだ…」
雪子はその言葉に泣き崩れた。
「お母さん…うわー!」
友知は無言で雪子を見つめていた。

第三十八話
カイコ魔女、再び

「ゲコゲコ…」
「ば、化け物!」
カエルの姿をした化け物が女性を襲っていた。
「ゲコゲコ…女手サマのナのモトにおマエをシュクセイしてやる…コウエイにオモうのだな!」
「そこまでよ!」
その時、舌足らずな幼い声が響いた。
「ゲコゲコ…?まさか、聖女か!?」
カエル魔女が振り向くと背の小さな女の子がポテトチップスを片手に立っていた。
「ゲコゲコ…?ナンだ、ただのがきじゃないか!」
カエル魔女を無視して少女は顎をクイクイと引いた。
カエル魔女がその動作に疑問を持っていると後ろから走り出す音がした。
襲われていた女性が逃げたのであった。
カエル魔女は怒鳴った。
「ゲコゲコ…!エモノがニげてしまったじゃないか!こうなればキサマをカわりのイケニエに…」
「それはどうかな?」
その言葉を受けて少女の後ろから黒いフード付きコートを着た長身の人物が現れた。
カエル魔女は四つん這いになって飛びかかる構えをして言った。
「ゲコゲコ…エモノがフえただけではないか!女手サマのナのモトにシュクセイする!」
カエル魔女がコートの人物に向かって飛びかかってきた瞬間、
ザシュン
コートの中から取り出した剣でカエル魔女は斬り飛ばされた。
「ゲコゲコ…!?」
「カチカチ…ダイジョウブだ、キュウショはハズしている。」
そう言うとコートの人物はフードを外した。
その顔は
「ゲコゲコ!?キサマはカイコ魔女!?」
カイコ魔女はカエル魔女を掴み起こし言った。「カチカチ…そうだ、ウラギリモノのカイコ魔女だ!イえ!トゲウオ魔女と女手はどこにいる!!」
「ゲコゲコ…シらん!フタリともサイキンはスガタをミせないのだ!」
「カチカチ…ワがメイユウ、クジラ魔女にしたツミのダイショウをシハラってもらうぞ!」
「ゲコゲコ!マってくれ、ワタシはナニもしとらん!クジラ魔女のショケイのトキにそのバにはいなかったのだ!」
「カチカチ…ウソをつくな!」
「ゲコゲコ…ホントウだ!ショウニンもいる!」
カイコ魔女はカエル魔女を投げ飛ばし言った。
「カチカチ…イけ!おマエにはヨウはない。」
「ゲコゲコ!」
カエル魔女は一目散に逃げて行った。
「あらら、いいの?逃がしちゃって?」
少女がポテトチップスを食べながら言った。
カイコ魔女はフードを被り直してから言った。
「カチカチ…チョコよ、テオイいのワタシをカクマい、科学のサイシンソウビまでアタえてくれたコトはカンシャしている。」
チョコと呼ばれた少女は誇らしげに言った。
「まぁね。その超振動ブレードよくできてるでしょ?魔女の堅い体もチェーンソーのように細かく振動したその剣なら豆腐みたいに簡単に切れるってもんだ。」
カイコ魔女は続けて言った。
「カチカチ…しかし、ワタシはおマエタチニンゲンのミカタをするつもりはない!」
そこまで言うとカイコ魔女は歩きだした。
チョコはポテトチップの裏地を舐めて言った。
「でもね、あたいの大富豪である母親譲りの能力、「人の善悪を見極める勘」ってやつが言ってるのよ。貴女は正義の味方だって!」
そしてカイコ魔女の後をちょこちょことついて行った。

「せっかく魔女対策本部をも吸収したのに…まーたライバルっスよ!」
鳥羽兎で不機嫌そうに香矢が言った。
志穂が言った。
「どっちかと言うと吸収されたように思えますけど…で、何の話ですか?」
香矢がパソコンからプリントアウトした紙を見せた。
ネットの記事のようだ。
「これっスよ!」
近くにいたヨッコが読み上げる。
「ええと、「聖女ドラゴンヴァルキリーに代わる新たな救世主か!?黒いコートの謎の正義の味方が魔女の脅威からみんなを救う!」…何か宣伝文句みたいだね。」
香矢が言った。
「そんな文章表現方法よりも!「聖女ドラゴンヴァルキリーに代わる」って何スか!?勝手に過去の人にしないで欲しいスよ!先日だって、魔女退治したのに…」
コーチが言った。
「まあまあ、一般の人達にとってはドラゴンヴァルキリーの存在自体が希薄なんだから…ねっ?」
友知が言った。
「そういえば先日倒したカエル魔女のお腹にでっかい傷があったっけ…もしかしてコートの人がやったのかな?」
志穂は立ちあがり言った。
「どちらにしろ、味方になってくれれば…いいなぁ…」

「ほら、見てよカイコ魔女。こないだのカエル魔女の手柄、ドラゴンヴァルキリーに持って行かれたみたいだよ。」
そう言ってパソコンからプリントアウトした記事を見せた。
カイコ魔女は溜息をついて言った。
「カチカチ…さすがだな聖女。それにしてもカエル魔女め。ミノガしてやったのにウンのないヤツ。」
ここはもう使われていない廃ビル。
カイコ魔女が隠れる場所に使っているのだが、そこにチョコが押し掛けてきた。
チョコは記事をしまって言った。
「そうじゃなくって!悔しくないの!?」
カイコ魔女は顔を伏せて言った。
「カチカチ…イマのワタシには聖女にタイしてドウリョウのカタキをウラむシカクはない…」
今度はチョコが溜息をついて言った。
「駄目だこりゃ…会話がずれとる。」
カバンからポッキーを取り出し1本ポキリと食べてから言った。
「食べる?」
カイコ魔女は首を振って言った。
「カチカチ…いらん。」
その時突然、カイコ魔女はチョコを抱き寄せた。
チョコはカイコ魔女の胸元で叫んだ。
「ちょっと!もう抱っこされる年じゃないわよ!」
「カチカチ…ダレだ、デてこい!」
扉の外から姿を現したのは…
女手であった。
カイコ魔女は呟いた。
「カチカチ…女手…」
女手は睨みつけて言った。
「サマをつけろよ、裏切り者。私を誰だと思っているんだ?」
カイコ魔女は睨み返して言った。
「カチカチ…もう、おマエをジョウシだとオモってはいない…それにウラギられたのはワタシのホウだ!」
女手はハンカチで鼻を押さえ言った。
「それにしても、人間臭いと思ったら…それがお前の新しい仲間かい?」
カイコ魔女は言った。
「カチカチ…ワタシのナカマはおマエがコロしてしまったのだろう!?」
飛びかかろうとするカイコ魔女を制止して女手は言った。
「まぁ、待て。お前に面白い事を教えてやりたんだ。ついてこい。」
カイコ魔女はチョコを引き離し言った。
「カチカチ…チョコ、おマエはカエれ。」
チョコは言った。
「でも…」
「カチカチ…カエるんだ!アトでそのおカシをイッショにタべよう。」
そしてカイコ魔女は一人で女手について行った。

「カチカチ…ここは…」
そこはクジラ魔女が処刑された基地であった。
クジラ魔女の死体はカイコ魔女が墓を掘って埋めたのでもうないが。
女手はハンカチをしまって言った。
「やはり真相を話すには現場でなくてはな…おい、出てこい!」
すると部屋の奥から一人の魔女が出てきた。
「ドリ!」
「カチカチ!モグラ魔女!ブジだったのか!?」
カイコ魔女がかつての仲間に話しかけると女手は笑いながら言った。
「ははは!そりゃあ、無事だろうさ!何しろクジラ魔女を処刑したのはこいつなんだからな!」
カイコ魔女は叫んだ。
「カチカチ!でたらめを…イうな!」
「でたらめかどうかは、後はこいつに聞きな!」
そう言うと女手は煙のように消えてしまった。
「ドリ!シカタがなかったんだ…」
モグラ魔女のその言葉にカイコ魔女は言った。
「カチカチ…どういうコトだ…」
モグラ魔女は泣き叫ぶように話し始めた。
「ドリ!コワかったんだ!女手サマのホントウのオソろしさ…それをおマエはミたコトがないから…あれをミればダレだって!!」
カイコ魔女は茫然としながら聞いた。
「カチカチ…だからコロしたのか…シンユウであるクジラ魔女を…だからコロしたのか!」
モグラ魔女は言った。
「ドリ!カったホウを…アイテをコロしたホウをタスけてやると女手サマはイうから…だから…」
その時、カイコ魔女の体が重くなった。
「パンプキン!」
「パンプキン!」
部屋の隅に隠れていたかぼちゃ魔女がカイコ魔女を取り押さえたのであった。
カイコ魔女は力なく言った。
「カチカチ…モグラ魔女…」
モグラ魔女は右手をドリルに変化させ言った。
「ドリ!女手サマはおマエをコロせとメイじた!」
カイコ魔女は言った。
「カチカチ…やれ。それでおマエがタスかるのならワタシもマンゾクだ。」
その時、フルートの音色が鳴り響いた。
モグラ魔女とかぼちゃ魔女は辺りを見回す。
部屋の外から志穂と友知が現れた。
友知がフルートから口を離して言った。
「アタシは満足しなーい。」
志穂が言った。
「どちらかが死んで助かるなんて…そんなの友情じゃないよ!!」
そして胸の十字架を握り叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!!」
胸の十字架を引き千切り二人とも白い聖女の姿に変身した。
そして同時に叫んだ。
「「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ネクストドレス!!!」」
モグラ魔女は叫んだ。
「ドリ!かかれぇ、かぼちゃ魔女ども!」
カイコ魔女を押さえているかぼちゃ魔女以外が一斉に襲いかかってきた。
友知が溜息をついて言った。
「だーかーらー。学習能力がないんですの?ネクストドレスのスピードは」
二人の姿が消えた。
かぼちゃ魔女達のそばを風が通ったかと思うと再び友知が姿を現した。
「雑魚如きでは捕らえられませんわよ?」
そう言うと、かぼちゃ魔女達はバタバタと倒れた。
モグラ魔女は叫んだ。
「ドリ!くそぅ…!もうヒトリはどこだ!」
友知は指を指した。
「あそこですわ。」
志穂はカイコ魔女に怪我がないか見ていた。押さえていたかぼちゃ魔女は既に倒されていた。
「ドリ!聖女が魔女をタスけるなんて!」
「余所見禁物ですわよ!」
そう言うと友知はモグラ魔女の右手のドリルを叩き斬った。
「ドリ!」
「とどめですわ!」
友知は剣を構えた。
その時、カイコ魔女が叫んだ。
「カチカチ!マってくれ!そいつをタスけてやってくれ!」
友知はカイコ魔女の方を振り向いて言った。
「何を言ってますの?こいつは貴女の命を狙ってますのよ。」
カイコ魔女は言った。
「カチカチ…それはそいつのイシではない…ワルいのはそいつではない!スベてはそいつのヨワさにつけこんだ、女手がワルいのだ!!」
志穂が言った。
「でも、またその弱さにつけこまれたらあなたの命を狙ってきますよ?」
カイコ魔女は叫んだ。
「カチカチ!そんなコトはもうさせない!モグラ魔女がヨワいというならワタシがマモる!!」
友知が剣を下ろして言った。
「力なきものは力を持つものが守るか…嫌いじゃないですわ、そういうの。」
志穂もカイコ魔女の体をポンポンと叩いて言った。
「じゃあ、私達も守るとしましょうか。力を持つ者として。」
モグラ魔女は地に伏せて言った。
「ドリ…すまない、すまないなカイコ魔女…ユルしてくれるのか?」
カイコ魔女はモグラ魔女の肩に手をかけて言った。
「カチカチ…サイショからおマエのことはウラんじゃいないさ…」
「ドリ!?」
その時、モグラ魔女の様子がおかしくなった
「ドリ!?ドル!?ドリャ!?ドリリッリ!!!」
モグラ魔女の体が真っ赤に変化し、やがて爆発した。
基地もろとも。

炎上する基地を眺める三つの影があった。
志穂、友知、そしてカイコ魔女であった。
友知は呟いた。
「危ない所でしたわね…女手は最初からこうするつもりで?」
志穂は頷いて言った。
「最後まで利用されていたのね。あの魔女は。カイコ魔女の言うとおり、犠牲者だったのね…」
カイコ魔女はコートを再び着て、二人に背を向けて立ち去ろうとした。
志穂はその背中に叫んだ。
「待って!私達と共に戦う事はできないの!?」
友知も言った。
「それとも、まだワタクシ達も敵だとでも…?」
カイコ魔女はポケットに手を入れると異物を感じた。
取り出して見るとポッキーが一本入っていた。
チョコがこっそり入れたのだろう。
「カチカチ…さあな。」
カイコ魔女は振り返らずに言った。

第三十九話
三番目の聖女

「時は満ちた。」
女手は呟いた。
ここは日本最大の湖である琵琶湖。
その中心の水の上に女手は立っていた。
「魔力の高まりはもう十分だ…さぁ、ドラゴン様!今こそ復活を!!魔法世界の始まりだ!!!」
女手が両手を上げて叫ぶと、その目の前に黒い城が水の中から生えてくるように現れた。
女手はその光景を満足そうに見ながら呟いた。
「ドラゴン様を迎える前に…あたしの汚点を消しておかなくちゃねっ!」
その後ろにはトゲウオ魔女が水面から顔だけを出していた。

「見えますか、みなさん!昨夜のうちに琵琶湖の中心に現れた中世の城風の遺跡…一体、何が起こっているのでしょうか?」
TVでリポーターが琵琶湖に現れた城をヘリコプターの上から中継していた。
鳥羽兎でその光景を見守るメンバー。
トッコが言った。
「これって魔女関係だよね、やっぱり…」
香矢も口を開く。
「遂にラスボスのお出ましっスかね…」
志穂がみんなの方に向けて言った。
「みなさん、家族を連れて日本から離れてください。」
全員が驚く。
ヨッコが言った。
「何を言ってるの?私達も最後まで一緒に…」
友知が頭を掻きながら言った。
「足手まといだよ…もう、そういう次元の話じゃないんだよ。いくらあたし達でも守りきれる自信はないよ…」
香矢がむっとして言った。
「そこまで言うスか!?たかが、敵の城が出てきただけで何を弱気に…」
友知が言った。
「分かるんだよ…この先の地獄が…」
志穂も言った。
「そう、私達の胸の奥の何かが告げるんです…この城が出てきた意味を、これから何が起こるのかを!」
コーチがそこで口を開いた。
「みんな、二人の言う事を信じよう。ねっ?」

「カチカチ…チョコ、おマエはせめてガイコクにニげろ。」
チョコの家にきていたカイコ魔女はTVの魔女の城を見ながら言った。
チョコはカイコ魔女の方を振り返って言った。
「何で!?魔女さん、貴女は何をそんなに怯えているの…?」
カイコ魔女は震えていた。
そして言った。
「カチカチ…ワタシはウラギリモノだからな。まだ女手のブカのままであったら、あのシロをミてカンキしていただろう。だが、イマはギャクだ。あのシロのマリョクがジブンにムけられているとオモうだけでオソろしくて…」
チョコはポシェットからとんがりコーンを取り出し、カイコ魔女押し付けて言った。
「じゃ、一緒に逃げようよ。」
カイコ魔女は驚いて言った。
「カチカチ…だが、ワタシにはやることが…」
チョコは言った。
「復讐?そんなの自己満足でしょ。それよりも生きようよ。」
カイコ魔女は言った。
「カチカチ…イきていたって…」
チョコはカイコ魔女をポカっと叩いて言った。
「そんな事言わないで!少なくとも、あたいは生きていてほしいと思っているだって…」
「カチカチ…」
「あんたはあたいの家族なんだから!!」

次の日、琵琶湖はなくなっていた。
魔女の城の面積が広がり、琵琶湖全てを覆ったのであった。
リポーターはTVに向かって叫ぶ。
「皆さん、見えますか!?これは一体何事なのでしょうか…まるであの城が琵琶湖を食べたかのように…?」
その時、リポーターを乗せていたヘリコプターが城に突っ込み消えた。
まるで引き寄せられて吸収されたかのように。

その光景を満足そうに城の頂上から女手が眺めている。
そして呟いた。
「そうだ、食え…科学文明など全て食ってしまえ!そしてドラゴン様復活の糧にするのだ!!」
「ククク…女手サマ」
トゲウオ魔女が女手の後ろに手を地につけながら現れた。
「ククク…ウラギリモノのショケイのジュンビができました。」
女手は言った。
「手早くね…もう、時間はないんだから。」

「カチカチ…どうしたのだ?」
チョコの屋敷が騒がしかった。
メイドの一人にカイコ魔女が聞くと狼狽しながら答えた。
「蝶子お嬢様が…いらっしゃらないんです!昨夜、確かにベッドでご就寝になられたはずなのに…」
カイコ魔女は駈け出した。
すぐに分かった、連れ去られた事が。
すぐに分かった、自分をおびき寄せるためである事が。
すぐに分かった、連れ去られた場所が。
それは今、自分が最も行きたくない場所…

カイコ魔女は魔女の城にたどり着いた。
門の前に来ると大きな音を立てて門が開いた。
そして中からトゲウオ魔女がたくさんのかぼちゃ魔女を従えて出てきた。
トゲウオ魔女は楽しそうに言った。
「ククク…ようこそ、ウラギリモノ。いや、おかえりなさいとイったホウがいいかな?」
カイコ魔女は超振動ブレードを取り出し言った。
「カチカチ…どけ。キサマにカマってるヒマはない。」
トゲウオ魔女はおどけたポーズをとて言った
「ククク…そうつれないコトをイうなよ。カタキをウちたいんだろう?ほら、おマエのカタキがメのマエに…」
「カチカチ…3ドメはイわない。キサマにカマっているヒマはない。」
「ククク…ああ、そうかよ!」
トゲウオ魔女が叫ぶとかぼちゃ魔女が取り囲んだ。
「ククク…こっちもそうオモってたところだよ!さっさとショケイをカイシしようじゃないか!」
かぼちゃ魔女が一斉に飛びかかってきた。
しかし、カイコ魔女は器用にそれをかわし、次々とかぼちゃ魔女を切り捨てていった。
トゲウオ魔女は言った。
「ククク…科学のチカラをウマくアツカうもんだ。しかし、それがゲンカイだ。魔法をツカうエリート魔女のワタシのマエではザコ。トゲウオ魔…」
トゲウオ魔女が魔法を唱えようとした瞬間、何かがトゲウオ魔女の体に刺さった。
トゲウオ魔女はうろたえて言った。
「ククク!?これは!」
それはモグラ魔女の右手のドリルであった。
かぼちゃ魔女達を全て倒したカイコ魔女は言った。
「カチカチ…どうだ、エリート魔女とやら?ジブンがミクダしていたモノにヤブれるキブンは!?」
カイコ魔女はトゲウオ魔女の首元に超振動ブレードを突き付けて言った。
「カチカチ…サッキはおマエにヨウがないとイったが…このシンユウのカタミはそうではないらしい。」
「ククク…タノむ、イノチだけは!ワルいのは女手…なのだ!!ユルしてくれ!!!」
「カチカチ…それはあのヨでクジラ魔女とモグラ魔女にイうのだな。」
カイコ魔女が力を込めようとした時に城内からチョコの悲鳴が響いてきた。
「カチカチ…」
目の前には親友たちの仇がいる。
もう、仇を討つのに1分もいらないだろう。
「カチカチ…ナニをマヨうヒツヨウがあるのか!!」
カイコ魔女はトゲウオ魔女の体を投げ飛ばし、チョコの悲鳴が聞こえた方へと急いだ。

「助けて!父様、母様!魔女さん!!」
眼を覚ましたチョコは縛られながら必死に助けを求めた。
それを鬱陶しそうに女手がハンカチで鼻を押さえながら見ている。
そして女手は呟いた。
「ただでさえ人間臭くてたまらんのに…けたたましく騒ぐな!…もう、粛清しちゃってもいいかな?カイコ魔女をおびき寄せればそれで終わりだし。」
女手はチョコの首に手をかけようとした。
その時、フルートの音色が鳴り響いた。
女手は周囲を見渡す。
志穂と友知が部屋の外から現れた。
志穂が言った。
「まさか小枝子ちゃんが女手だったなんてね…よくも騙してくれたわね!!」
友知がフルートから口を離し、呆れ気味に言った。
「アタシは騙されてないけど…まぁ、いいか。志穂の怒りはアタシの怒りって事で。」
二人は胸の十字架を握りしめ叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!」
二人は白い背女の姿に変身し、叫んだ。
「「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ネクストドレス!!!」」
女手はハンカチを破り捨てて言った。
「聖女だと…貴様らの出番はまだだぞ?」
友知は剣を構えて言った。
「お生憎様。脚本はワタクシ達が決めますわ。」
女手は睨みつけて言った。
「いいや、アタシが決める。」
睨みつけられた途端、志穂と友知の体が熱くなった。
「ぐ!?」
「がぁ!?」
二人はその場に倒れこむ。
女手は笑いながら言った。
「どうだい、これが女手の魔法だ!あたしは睨むだけで相手の魔力を暴走させる事が出来るんだ!魔力はどんな生物も持っている血みたいなもの。しかし、さすがは聖女だな。並みの魔女ならもう即死してるレベルだぞ?」
その時、カイコ魔女が現れた。
「カチカチ!チョコ!!」
しかし、その場に無言で倒れこんだ。
女手は言った。
「ほら、こんな風にな。」
女手は閉めきった窓に近寄っていき、窓を開けた。
外の空気が流れ込んでくる。
女手は呟いた。
「ああ、気持良い!今日は良い一日になりそう!!裏切り者の始末は終わったし、ドラゴン様は復活するし…」
その時、女手の体が重くなった。
「!?」
振りかえるとカイコ魔女が羽交い締めにしていたのであった。
女手は驚いて叫んだ。
「何故だ!?確かに魔力を暴走させたはずなのに…」
「カチカチ…おマエのせいだよ、女手。おマエがボウソウさせるマリョクをスベてウバったんだよ…」
女手は無力にさせたつもりが、女手の魔法が通じない天敵を作り出していたのであった。
女手は叫んだ。
「だからどうした!?アタシの動きを封じただけでお前に何が出来る!?」
女手は貫手でカイコ魔女の腹に指を指した。
腹の中でガラスのカンという衝撃を感じる。
女手は驚愕して言った。
「今のは…何だ!?」
カイコ魔女は静かに言った。
「カチカチ…ニトロだよ。ちょっとのショウゲキでバクハツするカガクのヘイキだよ…ハラのナカには魔女をコッパミジンにするだけのリョウがハイっているぞ。」
「…お待ちなさい。」
友知が起き上がって言った。
まだ、フラフラしている。
「…早まっては駄目。」
志穂も起き上がって言った。
女手はその隙に首を動かし、チョコの魔力を暴走させようと…
したが、間一髪のところでカイコ魔女が目を覆った。
カイコ魔女は言った。
「カチカチ…こいつはスコしでもイかしちゃおけない…イッコクのユウヨもない!!」
「魔女さん!」
チョコが泣きながら言った。
カイコ魔女は志穂と友知の方を見て言った。
「カチカチ…タノむ。チョコをタスけてやってくれ。聖女ドラゴンヴァルキリー!」
「…分かったわ。」
「分かりましたわ。」
二人はフラフラしながら言った。
チョコは泣き叫んだ。
「魔女さん!いやよ!!」
カイコ魔女はチョコをしばらく見つめてから言った。
「カチカチ…チョコ、カゾクってイってくれて…ウレしかったよ!!」
そして、女手を掴んだまま窓から飛んだ。
しばらくすると、遠く離れた地面から巨大な爆音がした。
志穂と友知はまるで天国に昇っていくような煙を眺めながら言った。
「あなたも守るもののために戦ったのね…私達と同じで。」
「あなたはもう魔女ではなくってよ。そう、聖女…貴女こそ聖女ドラゴンヴァルキリーⅢ!!」
やがて煙は消え、青空が広がっていた。

最終話
聖女の死、終わる科学

「どうしますの?」
泣きじゃくるチョコを見ながら友知が聞いた。
志穂はチョコの頭を撫でながら答えた。
「連れてはいけないよ…一旦、戻ってコーチや香矢さんに預けよう。」
友知はチョコをおんぶして言った。
「最終決戦を前にとんだ回り道ですわね…」
志穂は先に窓から飛び出し言った。
「悪態つかないの。」
その後ろを追いかけながら友知は言った。
「…言ってみただけですわ。コーチ達はもう、空港でしたっけ?」

空港は人であふれかえっていた。
ヨッコが呟いた。
「私、空港って初めてきたけど…こんなに混んでるもんなの?」
香矢がポカーンとしながら言った。
「前年比250%ってとこっスよ…でも、何で?旅行がブーム…って雰囲気でもないっスよね。」
どちらかという空港の雰囲気は重苦しかった。
警備員と喧嘩をしている人までいる。
トッコが言った。
「例の城の影響みたいだよ…「日本の終わりだー!」って言う意見が多いみたい。まぁ、魔女事件も多いし、その上あんな人食い城まで出てきたんじゃね…」
香矢が溜息をついて言った。
「まぁ、こないだのヘリコプター吸収は衝撃的放送事故だったスからねぇ…それよりも」
キョロキョロ周りを見渡しながら続けて言った。
「店長は?」
ヨッコが答えた。
「マユを飛行機に乗せる準備で遅れてるみたいだよ。何かあの子、ぐずってるみたい。」
トッコが言った。
「珍しいね、大人しい子なのに。」
「あっ、みんなぁ!」
大声で3人に声をかけてきた人物がいた。
鳥羽兎で一緒に働いているルリであった。
「みんなも海外に?やっぱり魔女事件だけでなく、あんな城まで出てきちゃねぇ…」
ルリの話を聞いて香矢が言った。
「って事はルリっちも?」
ルリはコクンと頷いて言った。
「うん。本当は外国なんて行きたくないけど…もう、日本には戻ってこれないのかなぁ…」
ショボンとするルリに香矢が言った。
「大丈夫っスよ!すぐに解決するっスから!だって、」
ドラゴンヴァルキリーが何とかしてくれるから、と続けて言おうとして香矢は止まった。
(そういえば、ルリっちは志穂さんと友知の戦いの話を知らないんだっけ。)
キョトンとしているルリの両肩をガシっと掴んで香矢は話し始めた。
「実はルリっちには言ってなかった事があるんスよ…」
ルリは香矢の目をジっと見つめて言った。
「私もね、香矢に言ってなかった事があるの。」
意外な返答に香矢は面食らった。
そしてルリは言った。
「実は私の正体ね、ドラゴンなの。」

「…何、これ?」
空港の惨状に志穂は唖然として呟いた。
正確には空港だった場所である。
空港の建物はなく、あるのは死体の山であった。
「何?」
チョコが聞いたが、友知が抱きしめて見えないようにしていたのでその惨状を見る事はなかった。
「…見ない方がいいですわ。」
友知はチョコを固定しながら言った。
死体の山の頂上に一人の人間が立っていた。
それは身近な人間…ルリであった。
ルリは志穂達に気付いて言った。
「あらあら、城で待っててくれてると思ったのに…そっちから来ちゃったの?」
志穂は叫んだ。
「どういう事ですかルリさん!これはまさか…貴女の仕業ですか!!」
ルリは不機嫌そうな顔で答えた。
「ドラゴン。」
「えっ?」
「人間だった時の名前で呼ばないで。ドラゴンよ。それが私の本当の名前。」
そしてルリの体が光り輝いた。
見る見るうちに姿が変わっていき、
黒かった髪は青色に変わり、
服は白のミディスカートになり
胸は爆乳になり
背中には黒い小さなコウモリの羽が生え
お尻には恐竜のような緑色の短めの尻尾が生え
志穂達と同じ…ドラゴンヴァルキリーの姿になった。
友知が呟いた。
「その姿…」
ルリは背中の羽や尻尾を触って気持ちよさそうな顔をした。
「ああ、この感覚…似たような姿のあんた達なら分かる?一度なくした手足が再び戻ってきた感覚…」
友知はチョコを離した。
チョコは死体の山の光景を見て卒倒したが、友知は気にとめず叫んだ。
「答えなさい!これは貴女がやった事ですの!?この中にはコーチや…香矢がいたんですのよ!あなたにとっても友達の!!」
ルリはニヤニヤしながら言った。
「友達ぃ?人間がぁ?」
ルリはゲラゲラと笑い言った。
「人間なんかと私が仲良くするわけないじゃない!600年以上前に裏切った、人間なんかと誰が!!」
志穂が言った。
「600年…?魔女狩り裁判の話?」
ルリはピタリと笑いを止めて言った。
「よく知っているな。…ここで話す事ではない。城で待ているよ、娘達よ。」
そして、ルリの姿が消えた。
消えると同時に走ってくる音がした。
マユを連れたコーチであった。
コーチは志穂と友知の姿を見つけて叫んだ。
「これは一体!?ねっ、田合剣、夜葉寺院。何があったの!?」
志穂は言った。
「…ドラゴンです。敵のボスが現れたんです。」
友知は気を失ったチョコの体を抱きかかえ、コーチに渡して言った。
「この子の事をお願いしますわ。カイコ魔女…ドラゴンヴァルキリーⅢからのお願いなんですわ。」
二人はドラゴンの城に向けて飛び立とうとした。
その背中にコーチが叫んだ。
「帰ってくるよな!?ねっ、絶対に戻ってくるんだぞ!!」
二人の姿はすぐに見えなくなった。
(信じてるぞ…)
コーチは足にすりよってくるマユの頭を撫でながら強く思った。

ドラゴンが魔女の城の頂上にある玉座の間についた。
玉座の前にはトゲウオ魔女が手をついて控えていた。
「ククク…ドラゴンサマ、おカエりなさいませ。」
トゲウオ魔女の声が聞こえないかのように玉座に着いたドラゴンはルリの姿に戻った。
そしてトゲウオ魔女を睨みつけて言った。
「何故、ここにいる?」
トゲウオ魔女は驚いて言った。
「ククク?」
「カイコ魔女…いや、今はドラゴンヴァルキリーⅢだったかな?あの子ぐらいの実力者ならともかく、貴様如き雑魚が最後まで生き残っているのは何故だ?」
「ククク!そんなドラゴンサマ、ツメたいコトを!」
ドラゴンはトゲウオ魔女を指差し言った。
「消えろ。少しでも生きながらえたいならな。」
それは死刑宣告であった。
トゲウオ魔女は慌てて玉座を飛び出して行った。

「…わざわざ、入口から入りなおさなくても。飛べるんですから、さっきの窓から再び入ればよかったんじゃありませんの?」
先ほども歩いた城の廊下を歩きながら友知がブツクサと文句を言った。
志穂がなだめて言った。
「急がば回れて言うでしょ?下手にショートカットして罠があったら危ないでしょ?」
「でも…」
友知が言いかけると壁がゴトゴトと音を立てた。
「…入口から入った方が罠にはまる確率が高いって言おうとした矢先にこれですわ。」
二人は身構えた。
壁に穴が開き出てきたのは…
かぼちゃ魔女であった。
しかし、絶命している。
友知が力を抜いて言った。
「…この罠にどんな効果があるのでしょう。」
「ククク…それはただのごみだよ。」
廊下をトゲウオ魔女が歩いてきて言った。
「ククク…ドラゴンサマはヤクタたずはいらないそうだ。だからショブンされた。」
志穂は言った。
「じゃあ、何で貴女は生きてるの?」
「ククク!?」
友知も言った。
「処分する価値もない雑魚って事かしら。」
トゲウオ魔女は憤慨して怒鳴った。
「ククク!どいつもこいつも!!だが、キサマらをシュクセイすればドラゴンサマもワタシのコトをミトめてくれるはずだ!」
友知は呆れ気味に言った。
「大方、幹部が全員いなくなってドラゴンに取り入ろうとして失敗してきたんでしょうけど…哀れですわね。同情しますわ、心から。」
「ククク!ダマれ!」
志穂は歩きだしながら言った。
「どいて。私達が用があるのはドラゴンだけよ。あんたはすでに私達ドラゴンヴァルキリーに敗北している…Ⅲにね。もはや、戦うまでもない。」
トゲウオ魔女が怒鳴った。
「ククク!どこまでもバカにしおって!ワタシはまだマけてはいない!!まだ、ブキがあるぞ!!!」
そう言って取り出したのはラジカセであった。
かつて友知を苦しめた女医のラジカセ。
友知は言った。
「今更、そんな過去の遺物を持ちだすなんて…言っておきますけど、脳改造による洗脳を克服したワタクシにはそんなものは通用しませんわよ?」
「ククク…それはどうかな?ウィッチのセンノウはそうカンタンにトけんぞ。」
そしてトゲウオ魔女はラジカセのスイッチを入れた。
「ククク…サイシンのギジュツでカイリョウされたものだ…さぁ、魔女にモドれドラゴンヴァルキリー!」
友知は耳を押さえながら膝をついた。
「ぐわぁ!?がぁぁぁ!」
トゲウオ魔女はラジカセをブラブラ振り回しながら言った。
「ククク…さぁ、聖女ドウシでコロしあえ!!」
友知の変身は解けてしまった。
そして志穂の方に向かって行く。
志穂も変身を解く。
「ククク?ニンゲンのスガタでコロしあいたいのかい?」
友知は呟いた。
「憎い…憎い!うぐぐ…お母さんの仇ぐぐ。あたしを巻き込んむぐぐ。憎…」
そして志穂の首に手をかける。
志穂は抵抗せずに友知の目をじっと見ている。
トゲウオ魔女は嬉々として叫んだ。
「ククク!そうだニクめ!オモいダせ!!そいつはおマエのテキだ!!!」
友知は手に力を入れて呟いた。
「思い出すうううぐ…」
志穂は静かに目を閉じた。
しかし、すぐに手を離し頭を抱えた。
トゲウオ魔女は叫ぶ。
「ククク!どうした、オモいダせ!」
志穂は目を開いて言った。
「そう、思い出しなさい友知。」
(思い出す…何を?お母さんの事?改造された事?今まで戦い…香矢、コーチ、みんな…志穂!)
そして友知はゆっくりと顔を上げトゲウオ魔女を睨みつけた。
トゲウオ魔女は驚いてラジカセを振りながら言った。
「ククク!?ナニをしている!ハヤくコロせ?」
友知は頭を振って言った。
「分かんないの?もう効いてないっていうのが…思い出したんだよ。あたしにとって一番の目的を。」
トゲウオ魔女はラジカセを投げ出し一目散で逃げ出した。
友知は志穂の方を見て言った。
「一番の目的…これ以上の悲劇を重ねさせない事…だよね、志穂?」
志穂はほほ笑んで言った。
「そうだね。そのためにも進もうか。」
友知は頷き言った。
「それよりも、何で抵抗もせずに目を閉じたりしたわけ!?「お前に殺されるなら仕方がない」とかくだらない事を考えてたんじゃないでしょうね!?」
志穂は歩きだしながら言った。
「違うよ。信じていたから。」
「ふん、ごまかしちゃって。」
友知は照れ臭そうに言った。
「ククク!?おマエ!!」
進む先に逃げて行ったトゲウオ魔女の悲鳴のような声が響いた。
そして何かが破裂するような音がした。
志穂と友知が音の方に走っていくと、トゲウオ魔女の形をした影が壁にこびりついていた。
友知が影を指でなぞりながら言った。
「この魔法…魔力を暴発させたような魔法…」
「ひひひ…ひーひっひひひっひ!」
笑い声が廊下に響いた。
ゴロリゴロリと何かが近づいてくる音がする。
それは頭だけになった女手であった。
女手はニタニタしながら言った。
「ひーひっひひひっひ!お前達には感謝してるぞ!おかげでドラゴン様は復活できたんだからな!」
志穂が言った。
「…どういう事?」
女手は笑いを絶やさずに言った。
「ひーひっひひひっひ!お前達の胸の奥に埋め込まれている…ドラゴンストーン!ドラゴンストーンの魔力の上昇こそがドラゴン様復活のキーだったのさ!!ひーひっひひひっひ!」
志穂と友知は自分の胸を思わず押さえた。
女手は続けて言った。
「今までの戦い、全てそのためだったんだよ…お前達が逃げ出すのも!魔女をお前達が倒すのも!女医を、女教授を、女帝を、倒したのも!全てお前達の、ドラゴンストーンの成長のため…ドラゴン様復活のための計画だったのだ!!ひーひっひひひっひ!ひーひっひひひっひ!」
友知が言った。
「それじゃあ、あんたの死も…?」
女手の顔から笑みが消え、叫ぶように言った。
「そうだよ…何であたしが死ぬんだよ!あたしだけは違うと思ったのに…ドラゴン様の声を聞けたあたしだけは他の3人と違って計画から外されてると思ったのに…あたしも利用されていたんですか!?ドラゴン様、答えてください…」
女手が溶けていく。
消え入るような声で言った。
「声が聞こえない…ドラゴン様の声がもう聞こえない…」
そして完全に女手は消えた。
志穂は言った。
「ドラゴンは私達の事を娘って言ったわ。ドラゴンストーンとやらを身に宿してる私達はドラゴンにとって娘みたいなもんだったからそう言ったのね…」
友知は志穂の背中をパシンと叩いて言った。「でも、私達はあんなやつを母親だなんて思わない!さ、早く決着をつけてコーチのところに…家族のところに帰ろう!!」
志穂は頷いた。

二人は玉座の間にたどり着いた。
「いらっしゃいませー。」
ドラゴンは鳥羽兎に勤めていたルリの時のように言った。
「いかんな。癖が抜けない。」
小馬鹿にしたように笑いながらドラゴンは言った。
友知は睨みつけて言った。
「また、ルリさんの姿になって…あたし達を惑わせようって魂胆?」
ドラゴンは立ちあがって言った。
「そうだな、正装でないのは失礼だったな。」
そして叫んだ。
「ドレスアップ!…こうでよかったかな?」
ドラゴンの体が輝き再び白い魔女の姿になった。
「そういえば自己紹介がまだだったね…我こそは始まりの魔女ドラゴンなり!」
志穂が言った。
「始まりの魔女ですって…」
ドラゴンは言った。
「そう、魔女は最初、我だけであった…しかし、孤独を悲しみ人里におりて才能ある者に我が魔法をさずけていったのだ。彼らは魔法の便利さに我に感謝した。我も友達ができた事を喜んだ。なのに!600年前に人間どもは我を、我の友達を、悪魔扱いして裏切ったのだ!我は共存を望んだ。人間が科学をシンパするならそれも良いと。しかし、科学を持った人間は魔法を悪と決めつけて排除しはじめたのだ!!自分達には使えないからと!!妬んだのだ!!!」
友知が呟いた。
「魔女裁判…」
ドラゴンは深呼吸してから続けて言った。
「我の仲間はみな殺された…我も力を奪われ身を隠すしかなかった…そして残ったのは科学への、人間への、復讐だけであった。お前達にも分かるだろう?この気持ちが。」
友知は叫んだ。
「分からないね!分かりたくもない!!」
志穂も言った。
「あなたと私達は違う…私達の周りには魔法を妬み迫害したりする人はいなかった。それどころか私達の力になってくれた。」
ドラゴンは言った。
「それは今だけだ。我という巨大な力のためにお前達を利用しているにすぎん。もし、お前達が我を滅ぼしたとしよう。その後、お前達は人間どもに迫害されるだろう。我のように。」
志穂が胸の十字架を握りしめて言った。
「それでもいい!私が苦しんで他の人が救われるなら!!」
友知も胸の十字架を握りしめて言った。
「香矢、トッコさん、ヨッコさん、母さん…アタシ達に力を貸して!!」
そして胸の十字架を引き千切って叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
「ドレスアップ!ドラゴンヴァルキリャー!」
二人は白い聖女の姿に変身し叫んだ。
「「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ネクストドレス!!!」」
友知が剣をドラゴンに向けて叫んだ。
「これが正真正銘最後の戦いですわ!決着をつけましょう!!」
「ふふふ…さぁ、お前らの力を我に見せてみよ!」
そう言うとドラゴンは両手を掲げた。
その両手に2本の剣が現れ、握りしめられた。
志穂と友知は同時に斬りかかる。
しかしドラゴンは、器用に二人の剣を受け流した。
二人は尚も斬りかかるがドラゴンに上手く流されてしまう。
「そらそらそら、そんなもんか?もっと本気を出せ!」
挑発するドラゴンに友知は距離をいったんおき、剣を構えて言った。
「見せてあげますわ…ドラゴンヴァルキリーの本気を!」
そして友知は叫んだ。
「六竜トルネード!」
剣先から竜巻が放出され、ドラゴンの体を覆った。
しかし、ドラゴンの体は微動だにしない。
ドラゴンはせせら笑って言った。
「これが本気か?では、そろそろ…」
「まだよ!」
志穂が叫び、剣を構えた。
「六竜トルネード!」
志穂の剣からも竜巻が放出される。
二人の六色の竜巻の力にドラゴンの体は宙に浮いた。
「ぬぬ!?」
ドラゴンの体がボロボロになっていく。
そして二人は飛びあがった。
「「エンドドラゴン!ツイン!!」」
二人の剣がドラゴンの体を十字に切り裂いた。
ドラゴンは無言で落下する。
志穂と友知は手をとり合って着地し叫んだ。
「これが本気の…」
「七竜剣!!」
ドラゴンは微動だにしない。
友知が呟いた。
「…やりましたの?」
志穂が頷いて言った。
「これで長かった戦いも終わりね…」
その時、重く低い声が部屋を揺るがした。
「ドーラゴン!ミゴトだ!ホウビにワレのシンのスガタをミせてやろう。」
そしてドラゴンの胸を突き破って巨大な何かが飛び出した。
それは…
「ドラゴン…」
おとぎ話に出てくるみんながイメージするドラゴン、そのものであった。
重い声が部屋中に響く。
「ドーラゴン!ニンゲンどもはワレのスガタをミてクウソウジョウのドウブツをエガいていたからな…このスガタにはミオボえもあろう。さてとそろそろハジめるか、タタカいを。」
「!?何を言ってま…」
友知が言い終わる前に、二人ともその場に倒れこんだ。
志穂が呻く。
「う、動けない…体が重い…」
ドラゴンは言った。
「ドラゴーン!このスガタになるとテカゲンができなくてな…もう、オわってしまったか。すまんな。」
友知が起き上がろうとして再び倒れ言った。
「重力を操ってますの?それにしてもこの力は…」
「ドーラゴン!さてヨキョウはオわりだ。いよいよ、ニンゲンどものシュクセイをハジめよう。ミろ!!」
ドラゴンがそう言うと、水晶玉のようなものが部屋中に浮かび上がった。
その中にはコーチの姿や他の国にいる魔女対策本部の人間の姿が映し出されていた。
志穂はその光景を見ながら言った。
「これは…?世界中の映像?」
ドラゴンは言った。
「ドーラゴン!そのトオり!ではワが大魔法をおミせしよう!!」
その途端、世界中が光り輝いた。
そして建物が、人が、生き物が、次々と吹き飛ばされて行った。
ドラゴンは言った。
「ドーラゴン!科学もたいしたものだよ。カクバクダンだっけ?600ネンでようやくワレとオナじチカラをエるコトができたのだからな!」
「やめて!!」
志穂の声もむなしく、世界は全て吹き飛んだ。
後に残ったのは乾いた大地だけであった。
ドラゴンは言った。
「ドーラゴン!これで科学のジダイはオわった…これからは魔法のジダイのハジまりだ!!」
「そんな…」
志穂は立ちあがる事が出来なかった。
ドラゴンの魔法はもう解けているのに。
この時、地球上で生き残っているのはドラゴン、志穂、友知の3人だけ。
その事実が志穂の体から力を奪っていった。
ドラゴンの笑い声だけが部屋中に響き渡った。

「ドーラゴン!ナンだ?」
乾いた大地だけを映し出していた水晶に異変が起こった。
まるでビデオの巻き戻しのように世界が再生されていったのだ。
「ドーラゴン!どうなっている!?ありえない!!」
やがて、ドラゴンが魔法で滅ぼしたのが嘘のように世界は元に戻った。
「ドーラゴン!そんなばかな!ナゼだ!まさか、キサマラが!?」
ドラゴンは二人が倒れている方向を見た。
志穂もその再生された世界の映像に唖然としていた。
友知は…いなかった。
確かにそこにいたのに。
その時、フルートの音色が鳴り響いた。
玉座の間の外から友知がフルートを吹きながら現れた。
しかし、その姿はネクストドレスではなかった。
黒いロングスカートであった。
ドラゴンは言った。
「ドーラゴン!いつのマに?それにそのスガタは!?」
友知は志穂の近くまでくると言った。
「これが限界みたいですわ…志穂、後始末をお願い…」
そして倒れこんだ。
志穂は一瞬哀しい顔で友知を見てから言った。
「分かった…」
胸の十字架を握りしめて叫んだ。
「ドラゴンヴァルキリー!ドレスアップ!!」
十字架を右手で引き千切ると十字架を中心に体が光っていき、
剣の柄の中心は黒い宝石になり、
服は黒いロングスカートになり、
胸は膨らみ、
そんな姿に
なった。
「聖女!ドラゴンヴァルキリー!!ラストドレス!!!」
そして、そう叫んだ。
ドラゴンは言った。
「ドーラゴン!ラストドレスだと!?」
志穂は頷いて言った。
「そう、あなたが始まりの魔女なら、私は終わりの魔女…友知が教えてくれた。この最後の姿を!!」
「ドーラゴン!」
ドラゴンが叫んだ。
志穂に再び重力の魔法をかけたのだろう。
しかし、志穂は微動だにせずに言った。
「無駄よ。」
「ドーラゴン!ならばこれは!!」
今度は志穂の体を先ほど世界を滅ぼした光が覆った。
しかし、光は志穂の体に吸い込まれるように消えていった。
「ドーラゴン!ナンだと!?」
志穂は無表情で言った。
「無駄よ…今の私とあなたには魔力に差がありすぎる。だから通用しない!!」
ドラゴンの体が消え始めた。
「ドーラゴン!?」
志穂は淡々と話し続ける。
「これがラストドレスの力…さっきは友知が世界の時間を巻き戻したの。そして今度はあなたの存在を、いや全ての悲劇を歴史から消滅させようとしている…時間を操る、それがラストドレスの力。」
「ドーラゴン!こんなばかな!」
「終わりよ、ドラゴン…もう、あなたは始まる事もできない。」
「ドーラゴン!ワレのソンザイをヒテイするというコトはスベての魔女のヒテイだぞ!これではキサマも…」
言い終わる前にドラゴンは消えた。
志穂は呟いた。
「ええ、分かってるわ…その前に時間を操るなんて無茶をしたんだもの。無事でいられるわけがない。」
そして志穂と友知の体も消え始めた。
志穂は友知に膝枕をして語りかけた。
「ごめんね…最後まで巻き込んじゃって…」
友知は意識を失っていた。
しかし、志穂の心に声が響いた。
(だーかーらー。)
それはいつもの口調であった。
(志穂は本当にずれてるんだから!こういう時に言う言葉が違うでしょ?)
志穂は少し笑って言った。
「ありがとう。私を一人にしないでくれて。」
(アタシも一人でなくってよかった。ありがとう。)
意識のないはずの友知がほほ笑んだ。
そして、志穂も友知もドラゴンも城も…魔法も全て消えた。
歴史からも何もかも。

最終話、改題
          聖女の死、終わる魔法

エピローグ

「おあよーっス!」
鳥羽兎の扉を香矢が開け挨拶した。
「はい、おはよう!」
「おはよう!」
コーチとルリが同時に返す。
ルリが言った。
「なぁに、ニタニタして気持ち悪い…」
香矢はニヤニヤしながらカバンからノートを取り出して言った。
「いや、新しい小説書いてきたっスよ…今度は自信作!!」
コーチがコーヒーを淹れながら言った。
「ねっ、今度はどんな話?」
香矢はノートを開いて言った。
「いやあ、15世紀ぐらいに魔女狩りってあったっしょ…これはその時に迫害された人々が復讐する物語れす。」
ルリがプッと笑って言った。
「馬鹿ね、魔女狩りって空想の話よ!こないだ授業でやったじゃない!」
香矢がノートをマジマジ見ながら言った。
「あり?むがー、誰か歴史を変えたんだなー!これはあちきの小説を陥れる陰謀だー!」
ルリはノートをひったくって言った。
「あんなひどい事が本当に起きるわけないじゃない。」
香矢は頭を掻いて言った。
「はぁ、世の中平和なんスね…」
コーチは二人にコーヒーを出して言った。
「きっと、正義の味方みたいのが平和な世の中にしてくれてるんだよ。ねっ、どうせなら正義の味方の話とか書いてみたら。」
香矢が爆笑しているルリからノートをひったくりペンを片手に言った。
「ほうほ、例えば?」
コーチは言った。
「みんなのピンチに帰ってくる…その名は聖女ドラゴンヴァルキリー!」
(そうだよね?田合剣、夜葉寺院!)

聖女ドラゴンヴァルキリー 完

最後のドラゴンヴァルキリー

最後のドラゴンヴァルキリー

あらすじ ※第Ⅳ部http://slib.net/6479の続きです。 今、ドラゴンヴァルキリーの最後の戦いが始まる… ※自ブログにて連載中小説の転載です。 http://ameblo.jp/balu-r/ よろしくお願いします!

  • 小説
  • 中編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-07-15

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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