クリスマスイブ、オレは勝負にでる

 イルミネーションにも毎年流行がある。今年はやけに白っぽいライトばかりが目につく。街路樹を中心に街のいたるところにダイヤモンドがちりばめられている。赤と緑のディスプレイや天使のオーナメントが気持ちをたかぶらせ、皆の心も、財布の紐も緩む。
 どこのショップも強気に商品の仕入れをする。そして高額の贈答品や、なにに使うのか分からない飾り物が次々と売れ、品切れをおこす。
 クリスマスを目前に、オレも気合が入っていた。今年のクリスマスは特別だ。この日、オレは勝負にでる。

 ケーキにも流行がある。圧倒的人気の生クリーム、根強い人気のバタークリーム。ここ何年かで急に売り上げを伸ばしているのは、チーズクリーム。ちょうど二人分くらいの小さなサイズはワインにも合うからと別のケーキのおまけみたいに買う人もいる。
 サンタクロースのマジパンは、いつの頃からか、サンタ服を着たネコやくま、キャラクターに人気を奪われた。代わりと言ってはなんだが、化粧箱には豪華なソリに乗ったサンタが描かれることが増えた気がする。
 普段は会社勤めをしているオレだが、毎年クリスマスイブの一日だけケーキの売り子になる。じいちゃんのケーキを売りに街に出るのだ。

 ランチ時の弁当のワゴン販売よろしく、クリスマスケーキの販売カーを出す。サンタの衣装を着て常連さんの予約の品を届けつつ、ところどころで街中にくるまを停め、リアゲートをあげて、のれんのような看板を下げる。今年の看板には、ケーキの写真やまだ熱々の焼けたばかりのスポンジ台、バラのように絞り出された生クリームなんかの写真が何枚もコラージュしてある。写真はオレの趣味だ。作業をするじいちゃんに邪魔だと怒鳴られながら撮影した。その甲斐あって、美味しそうな写真につられて客足は悪くない。
「聞いたことのないケーキ屋だな」
 そんなことを言って通り過ぎるおじさんも、娘さんに手を引かれて戻ってくる。
「見て、この写真。美味しそう!」
 甘い物好きな女性はぜったい幸せになれるとオレは確信している。じいちゃんのケーキは絶品なんだ。一口食べれば伝わるだろう。
 完売を目指して、とにかく売る。夕暮れてきてからが勝負だろう。

「洒落た今どきのケーキじゃなくちゃ、もう喜んではもらえん。次が最後のクリスマスケーキになるかもしれんな」
 売れ残ったケーキを前に、去年、じいちゃんが父ちゃんに言っていた。オレも父ちゃんも、子供のころから、毎年クリスマスにはじいちゃんのケーキを食べて来た。だからこれからも……。

 今日が勝負だ。とにかくオレはケーキを売る。楽しそうな家族連れに、幸せそうなカップルに、一人で家に帰る人にも。じいちゃんのサンタになるために。

(了)

クリスマスイブ、オレは勝負にでる

クリスマスイブ、オレは勝負にでる

2014年のクリスマス、こんなお話を書きました。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-23

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