坂
老いた画家は、己が見たいものを描き、
若き画家は、世界を写しとる。
老いた画家は、青き絵筆を掴み、
坂を登る。
坂の向こうの海は、遥か昔のことだ。
最早、見るものすべてが、見えるもの。
積み重ねられた遺跡のように、
掘り進まねば辿り着けない。
されば、丘を駆け降りてくる
あの影は何者か?
我が目に写る見覚えのある姿は?
信じることができるか?
その姿は、かつて我が筆に写し取られた
純真なる愛おしき女だ。
再び、我が苦悩を呼び戻すために、
駆け降りてきたのか。
否!
我が青き筆、
もはや、汝が望む色など
この手には入らない。
坂