老いた画家は、己が見たいものを描き、
若き画家は、世界を写しとる。

老いた画家は、青き絵筆を掴み、
坂を登る。
坂の向こうの海は、遥か昔のことだ。

最早、見るものすべてが、見えるもの。
積み重ねられた遺跡のように、
掘り進まねば辿り着けない。

されば、丘を駆け降りてくる
あの影は何者か?
我が目に写る見覚えのある姿は?

信じることができるか?
その姿は、かつて我が筆に写し取られた
純真なる愛おしき女だ。
再び、我が苦悩を呼び戻すために、
駆け降りてきたのか。

否!
我が青き筆、
もはや、汝が望む色など
この手には入らない。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-07-15

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