椿

冬の庭に咲く
赤い椿の花が、
雨に濡れた敷石の間に落ちる。

風が吹き飛ばさぬ限り、
二度と見ることもあるまい。

君が証明しようとした代表値が、
僕の前で、入れ替わる。

あの庭石の下で、
闇の生き物が、椿の花びらの
千年の香りを、身に纏う。

もう一度、
納戸部屋でカビで曇った
化粧台の鏡を引き出してくれ。
誰も咎める者は、すでにいない。ーー

雨が上がり、
夕陽が椿の棘の葉を光らせる。
庭の向こうに広がる野の草が、
両手を結び合わせている。

草原を渡る人影が
両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、
此方の方へ近づいて来た。

彼は、椿になどに興味は無い。
彼が描くものは、己の自画像だけだ。
ただ一つ、くすんだ鏡にこびりついた紅の主を除いては。

椿

椿

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-07-15

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