コスモス
私は知ってる
あの花が
何故微笑むのか
遠くかなたに
私は知ってる
あの花が
何故美しいのか
澄んだ空に
私は知ってる
あの花が
何故光るのか
川面の水に
私は知ってる
あの花が
何故泣いてるのか
秋の風に
病気になった私の話相手は妻だけになってしまった。遠い昔の話を彼女は黙って聞いてくれる。
私は子供の時花を育てるのが好きだった。家のそばに土を盛ってひと坪ばかりの花壇をつくった。そして、あぜ道、野原、山に咲いている花を採ってきては植えた。母から貰った球根や種もあった。私は子供の時から社交的な性格でなかったから、他の子供達と遊ぶより一人で花畑の作業をしているほうが好きだった。私の花壇ではスイセンが春を歌い、チューリップがラインダンス、タンポポは空に舞って行った。ヒマワリが夏の太陽に向かって笑い、ドクダミは名前を嫌ってかげに隠れた。シラユリは蕾が膨らんでくるとすまし顔になり、まもなく誇らしげに咲き輝いた。
中学生の時、夏休みが終わって教室に入ったら、私の左斜め後の席に居るはずの女の子がいなかった。代わりに花が置いてあった。川遊びで深みにはまり逝ってしまったという。何と言う事だ、もういないなんて・・・。その子はコスモスのような優しい少女だった。田舎から町の学校に移って来たばかりの私は一度も話をしたことはなかったが、今でもその子の名前は忘れていない。 2016年12月15日
コスモス