同調率99%の少女(12) - 鎮守府Aの物語

同調率99%の少女(12) - 鎮守府Aの物語

=== 12 大幕間:懇親会! ===
 川内と神通の着任式の後は、鎮守府に関わる関係者同士による懇親会。那珂たちはもちろんのこと、五月雨たち、そして提督・妙高ら大人勢もしばしの歓談を楽しみ始める。

懇親会開始

懇親会開始

 懇親会会場に移動した一行は、会議室で色とりどりの料理と飲み物が用意されていることに驚いた。

「うわぁ~すんごい料理とお菓子の数。提督よくこんなに用意したねぇ?」
 那珂が感心すると、提督は皆を手招きでテーブルの周囲に案内しつつ答えた。
「半分は買ってきたお菓子や料理で、もう半分は、妙高さ……黒崎さんと大鳥さんのお二方のお手製料理だ。お二人がうちの近所にいてくださってよかったよ。本当にありがとうございます。」
 提督は那珂たちに向かって答えた後に妙高と大鳥親子に向かって感謝の言葉を述べた。言葉を受けた3人はゆっくりと会釈をした。

「よろしければ、ぜひ。」
 大鳥婦人がその場にいた全員に向かって遠慮がちに言葉をかけた。続いて妙高も言葉丁寧に促す。
「私のも皆さんのお口に合うかどうかわかりませんけれど、腕によりをかけたのでぜひ召し上がれ。」

 那珂は近くにいた時雨に妙高のことを聞いてみた。
「ねぇねぇ時雨ちゃん。」
「はい?」
「前に提督が言ってたけどさ、妙高さんって鎮守府のご近所に住んでいる人妻なんだよね?」
「人妻ってなんか言い方が……えぇそうです。」
「ふーん、お子さんは?」
「すみません。そこまでは……。」
 那珂は密やかな声で確認のため時雨に問いかけるが、最後の質問で彼女はつまってしまう。
「そっか。ありがと!」

 時雨から情報を聞き出した那珂はやっといつもの調子でその場を賑わために茶化しの言葉を発した。
「さっすが妙高さんと大鳥さん!妙高さんはさしずめお艦ってところですかぁ~!?」
 突然妙な言葉が聞こえてきて言われた妙高はもちろんのこと、提督や他のメンツも驚きの声をあげる。

「な、那珂さん……おかんって?私まだ子供いないんですよ。」
「違います違います!軍艦の艦のほうで、お艦!だって妙高さんも艦娘でしょ~?」
「あ~なるほどって。那珂さんったらもう……お上手なんだから。」
 妙高は口に手を当てて口元を隠しながら上品に笑う。提督はもちろん中高生の艦娘たちですらはっと息を飲んでしまう、妙齢の艦娘の微笑む様だった。妙高に釣られてその場に笑いが漏れる。これから歓談を進めるにあたり掴みはバッチリ、相応しい雰囲気が完成した。

「さ、みんな、コップ配るから好きな飲み物注いでくれ。」
 提督がそう合図すると時雨、続いて五月雨、そして大鳥婦人の隣にいた娘の少女が率先して動いて、全員に紙コップを配り始める。3人から紙コップを受け取った各々は好みの飲み物を注ぎ、乾杯の準備が整った。

「それでは、今回着任した川内と神通を祝って、それから、今後の鎮守府と艦娘みんなの良き関係が長く続くことを祈って、かんぱーい!!」
「かんぱーい!!!」
 提督が乾杯の音頭を取る。残りのメンツはその場で飲み物を入れた紙コップを軽く掲げて乾杯をし合った。
 時間は14時半を回った頃。艦娘同士、関係者同士による飲食を含めた楽しい歓談が始まった。


--

 提督は明石含めた工廠の技師3人組と、那美恵たちの高校の教師、阿賀奈と一緒に飲食とおしゃべりを楽しんでいる。

「ホントならお酒があると嬉しいんですけどね~。」
 明石と技師の数人は愚痴にも満たない希望を口にした。提督はそれにツッコミを入れる。
「明石さん……一応勤務中でしょ。経費でお酒なんか買えないって。」
「も~冗談ですよ~提督。飲むつもりなら最初から自前で持ってきてますって。ねぇ○○さん、××さん?」
 明石は同僚の技師に同意を求めて、ケラケラと笑いあった。

「あの~あかしさん?それともあかいしさん?」
「本名は明石 奈緒であかいし なおです。艦娘名は明石であかしなんです。はい、なんでしょう?」
 阿賀奈が名前を確認すると、明石は本名と艦娘を交えて簡単に紹介した。
「じゃあ明石さん。うちの高校の生徒たちがこれからお世話になります。よろしくお願いいたします~。」
「あぁ~お任せ下さい。すでに那美恵ちゃん…那珂ちゃんとは仲良くしてますので。」
「光主さんは~あの娘面白いですよねぇ。きっとみなさんのお役に立てるのでぜひ使ってあげてくださ~い。」
阿賀奈は自身の高校の生徒たちを任せるよう熱願する。が、声の軽さのためにせっかく吹かせた教師風がいまいち決まらない。提督や明石たちはうっすら苦笑いをするに留めて話の流れを変える。

「ところで、先生は一体どんな艦娘になるんですか?」
 明石は話題を変えて質問した。
「うふふ~聞いていただけるの待ってたんですよぉ~。実はですね~、軽巡洋艦阿賀野に合格したんです!」
「阿賀野ですか!?それめちゃくちゃ新しい艦の艤装ですよ!?つい4~5ヶ月前に運用開始されたもののはずです!」
「えっ!?そうなんですか!?阿賀野って、私の名前と似ていて運命感じちゃったんですよね~。」
「あ、それは私と一緒ですねー。わかりますわかります~。これって運命なのかな~って思ってますよ私も!」
 自分の名前と艦娘名に運命を感じた者同士通ずるものがあるようで、明石と阿賀野はアハハウフフと笑いあっている。

 明石のことが少し気になった阿賀奈は、どういう人物なのか質問してみた。
「明石さんはなんで艦娘の艤装にお詳しいんですかぁ?」
 明石はその言葉を聞いた瞬間に興奮し、鼻息荒く阿賀奈に説明しだす。
「えぇ。実は私たち、艤装開発・製造を請け負ってる会社の一つ、○○重工業のものなんです。私達は派遣というかたちで鎮守府Aにお世話になってるんです。ちなみに艤装に関する情報は毎日仕入れてるので、聞いていただければ何でもお答えしますよ!」
「へぇ~!明石さんって○○さんの社員さんなんですか~おいくつなんですかぁ?」
「私25です。」
「あら!私もですよぉ!同い年の人いて嬉しいぃ~!」
 阿賀奈は明石の業種とその自信に満ちた話しっぷりに感心し、そして自身と同年代たるその存在に喜びを感じていた。阿賀奈の感心と歓喜を適度に受け入れ受け流して、明石はさらに続ける。

「それでですね。私、工廠長任せてもらえてるんです。今の会社と現場、天職ッて感じです。それでですね……」
 気分が乗ってきたのかクドクドと全然関係ないことを次々に口にし始める明石。その内容が全然わからない阿賀奈はポカーンと口を開けて笑顔で明石を見たまま固まっている。
 提督や同僚の技師は「また始まった」と溜息をついて目を覆う。さすがに阿賀奈のような雰囲気の人に明石のヲタトークは厳しすぎると思い、提督は同僚の技師に目配せして助け舟を送り出した。

「奈緒ちゃん。奈緒ちゃん。先生困ってるよ~一杯飲んで落ち着こ?」
同僚の技師の女性が声をかけ、それを見たあと提督も明石に注意を喚起する。
「はいはい。そこまでそこまで。明石さん現実に戻ってこーい。」
「へっ?何です……あーやっちゃいましたか私?」
 提督と技師たち2人、計3人はウンウンと頷いた。
 3人から指摘されてようやく喋りをストップする明石。飲み物を一口コクリと口にして気分を落ち着かせた後、改めて阿賀奈に質問した。

「し、失礼しました。私ったら得意分野になるとどうしても止まらなくて……。それで、先生はいつこの鎮守府に着任されるんですか?」
「まだ阿賀野は配備されないよ。」
 代わりに提督が答えた。その後阿賀奈が個人としての思いと教師としての思いを述べる。
「最新の艤装というなら嬉しいし生徒たちと一緒に着任したかったんですけどね~。でも提督さんがおっしゃるんならまだなんですよね~残念ですけど、今はあの子たちが提督さんのお役に立てれば私も鼻高々で満足です!」
「阿賀野、私も早く艤装いじく……整備に携わりたいですね~。提督、上にぜひお願いしていただけますか?」
「おいおい。俺にそんな権限ないって。来るときには来る。我慢しなさい。これ提督命令。」
「アハハ」
「ウフフ」

 提督が冗談めかして命令口調で言うと、明石たちは吹き出して一切真面目に取り繕うとはしなかった。もちろん互いにわかっていたゆえの会話であった。

五月雨・時雨・夕立・村雨たち

五月雨・時雨・夕立・村雨たち

 五月雨達は大鳥婦人の娘を取り囲んでおしゃべりに興じている。

「ねぇさつきちゃん。」
「え?なぁに高子ちゃん?」
 大鳥婦人の娘が五月雨を本名で呼ぶ。最初の艦娘であり大鳥親子とは提督ともども他の皆より面識がある五月雨は彼女と最も親しい。五月雨は大鳥婦人の娘へ向いた。

「みんなお友達同士で艦娘のお仕事って、どう?楽しい? 学校では人気とかある?」
 一般人の純粋な質問を受け、五月雨は時雨たちと顔を見合わせて答え始める。
「ん~そうだね~。仕事って言っても、私達にとってみれば部活動そのままって感じだから、時雨ちゃん、ゆうちゃん、ますみちゃんたちと一緒にお仕事出来て楽しいよ。学校で人気って……どうなんだろ?」
 最後の問いかけに対し五月雨は再び時雨たちに視線を向けて返事を確認しようとする。それを受けて時雨たちも口を開いて答え始めた。
「艦娘部作って最初の頃は学校中で注目されたけどすぐに落ち着いたよね。だから今も特別目立ってるわけでもないし、みんなもう日常になった感じかな。」と時雨。
「でも私達の活動は新聞部がすぐに取り上げてくれて、毎回みんな興味津々に読んでくれてるから、密かに注目されまくってるかもしれないわねぇ。」
 村雨も時雨に続いて、自身の中学校の事情を伝える。
「そういや白浜さん、その新聞見るたびにグヌヌって言って拗ねてるっぽいけどね~。」
 夕立は自身の中学校の艦娘部にいるもう一人に軽い口ぶりで触れ、オチをつけたのだった。

 大鳥婦人の娘、高子はそれを聞いて質問した。
「その白浜さんってだぁれ?艦娘?」
「私達の艦娘部の部長で、私達の友達。白浜貴子ちゃんっていうの。」五月雨がまず最初に答えた。
「私と同じ名前なんだぁ。」
「漢字は違うわよぉ。」
 五月雨からの回答を聞いた高子が自身の名と同じだとどうでもいい感想を発すると、村雨は空中で字を書いて違いを知らせて促した。

 引き続き五月雨が白浜貴子についての紹介を再開した。
「でも一人だけ合う艤装がまだ見つかってないから、うちの鎮守府に来てないの。」
「一番お姉さんっぽいんだけど、ヘタするとゆうを差し置いて一番子供っぽいからね、白浜さん。」
「ウフフ、それは言えてるかもねぇ。」
 五月雨がその友人を説明すると、時雨は夕立を引き合いに出して白浜貴子を冗談めかして評価し、村雨はそれに同意した。そのとき、食べ物を取りに行って口に入れて戻ってきた夕立が自分に触れられたのを耳にして、時雨と村雨に文句を言った。

「フグァ!もぐもぐ!!もがふごご!!」
 時雨は額を抑え、ジト目で夕立に突っ込んだ。
「……そういうところが子供っぽいって言ってるんだよ、ゆう。」
「アハハ……貴子ちゃんもああいうところ、あるもんね~。」
「そうそう~。」
 五月雨と村雨は時雨のツッコミにウンウンと頷いて激しく同意していた。高子はそんな4人の様子を見て苦笑いしつつ、仲の良さを見て羨ましいと感じていた。


--

「ねぇ高子ちゃんの中学校は艦娘部ってないの?」
 何気なく五月雨は聞いてみた。高子は頭を振って返事をする。
「多分ないと思う。あんまりわかんないなぁ。」

「高子ちゃんは何部に入ってるの?」時雨も高子に質問した。
「私は弓道部入ってたけど……1年の終わりでやめちゃった。」
「そうなんだ。何か理由あるの?」
 時雨のさらなる質問にやや影を落としながら答えた。
「お姉ちゃんの真似で始めたのはいいんだけど、才能ないって先生や同じ部の先輩から言われて……辛くなって、それで。」
 少々地雷に踏み込みそうな答えが返ってきたので時雨はまずいと思い、村雨と見合わせて話題を変えることにした。なお、夕立は皿いっぱいに持ってきた料理をモグモグしている最中のため一同は無視した。

「ねぇ高子さん。あなたも艦娘やってみたら?」
「私が!?」
「うん。2年生の途中から何か部に入るのって時期的にもう気まずいだろうし、だったら例えばこの鎮守府で艦娘になれば、私達と楽しくやれると思うの。どう?」
 村雨が提案すると、高子はゆったりした口調で歯切れ悪く返事をする。
「う~~ん。お姉ちゃんが職業艦娘っていうのになったから興味はあるといえばあるんだけど……。」
「「「えっ!?お姉さん艦娘なの!?」」」
 何気なく触れた姉の存在に五月雨たちは驚いて聞き返した。
 なお夕立は(以下略)

「うん。お姉ちゃん大学生でね。この前、県のなんかの募集に行ったら、それでこの前なったって。」
「な、なんていう艦娘?」
「えーっとね。空母っていう種類の、たしか祥鳳っていう艦娘だって。」
 五月雨が聞くと高子は思い出すような仕草をした後答える。時雨と村雨はその回答を聞いて?を顔に浮かべた。
「空母って……なんだろう?」
「さぁ~私達駆逐艦って種類だから違うのだとは思うけれど。提督に聞く?」

 その場にいた4人+1人は誰も空母という種類がわからなかったのでいまいちピンとこない。そのため少し離れたところで明石たちと雑談していた提督に向かって聞いてみた。
「ねぇ~提督さぁ~ん!」
 村雨が大声で叫んで提督を呼んだ。那珂や妙高たちも反応を示すが、言葉が提督に限定されているためすぐに自分らの話に戻る。


「なんだー?」
 提督は明石たちに手で謝る仕草をして離れ、村雨たちのいる一角に近づいていった。
 提督が来たので一同を代表して時雨が聞いてみた。
「あのね提督。高子ちゃんのお姉さんが祥鳳っていう空母の艦娘らしいんだけど、空母って何?」
「えっ?大鳥さんの上の娘さんって艦娘だったのか!?」
「はい。そうなんです。」高子が答える。

「そうか。空母っていうのは戦闘機とか飛行機を載せる船のことでね、艦娘の世界ではドローンナイズされた空飛ぶ物を自在に操る艦娘のことなんだ。」
「「「ドローンナイズ?」」」
五月雨・時雨・村雨は同時に反芻した。

「あぁ……駆逐艦担当の君たちは知らないか。色んなものに取り付けて飛行できるようにする装置のことだよ。それを取り付けたのが、艦娘の世界では攻撃機とか、偵察機として扱われるんだ。そして実際の船としての空母よろしく、空母艦娘も攻撃機や偵察機を発艦させて操り、深海凄艦を離れたところから攻撃して戦える、スペックの高い種類だよ。うちにはまだ着任してないけどな。」
「へぇ~じゃあ私達駆逐艦よりも強いんですかぁ?」と村雨。
「スペック上はね。ただ俺は空母の艦娘を管理したことないから本当のところはどうだか。というか五月雨、君は初期艦研修の時に駆逐艦だけでなく他の艦種も一通り教わったって聞いたけど?」

 提督は説明をした後にふと気づいて五月雨に指摘をする。直後はポカーンとしていた五月雨だったが、すぐに顔を真赤にして慌てた様子を見せ始める。
「あ、アハハ……あのぉー。ゴメンなさい、忘れちゃってました。」
「な~んだ!さみったら、実は教えてもらってたのぉ?それ早く言いなさいよぉ。」
 村雨が肘で五月雨の二の腕や脇を突っついてすかさずツッコんだ。
「うぅ~、だから忘れてたんだってばぁ。」
 五月雨は困り笑いしながら村雨のツッコミをなんとか逃れようと身をモジモジと小刻みに動かす。時雨や高子はそのやり取りを見てアハハと苦笑いをして眺めて傍観している。
 提督も五月雨たち女子のイチャイチャ空間にまったりと飲み込まれようとしていたが話の流れを本来の流れに戻した。
「そうそう。操れるっていえば、那珂も一応艦載機を使うことができる艦娘の種類だったな。」

 提督は以前報告を受けた合同任務の時の那珂の行動を思い出した。鎮守府Aとしては当時は常備していなかったため持たさせられなかったため、那珂は任務のとき都の職員からドローンナイズドマシン、つまり超小型の飛行機を偵察機としてを使った。
 那珂から詳しくその時の状況を聞くために提督は那珂を呼んだ。

「お~い、那珂。」
 突然呼ばれた那珂は提督の方を振り向いた。
「は~い!なぁに提督?」
「ちょっといいかな?」
 那珂は三千花らと話していたがそれを中断し、飲み物を入れた紙コップだけ持って提督や村雨たちのいる一角まで歩いてきた。
「どしたの?」
「那珂は以前の合同任務のときに、偵察機を使ったって報告してくれたよな?」
「あ~うん。東京都の人から借りたよ。それがなぁに?」

「こちらの大鳥さんのところの大学生の娘さんがね、どうやら艦娘らしいんだ。それも空母の。」
「空母?確か艦載機使える艦だったよね。ってかその人も艦娘なんだ!?」
「あぁ。それでさ、那珂も操ることができる艦娘だろ? みんなに説明して欲しいんだ。」
 提督は五月雨や高子らを手のひらで指し示す。そう促された那珂だったが少々困惑気味だ。
「って言われてもなぁ~。あたしだってすべてわかってやったわけじゃないよ?本読んだことを試しただけだし。」
 そう言って那珂は合同任務の時につかった偵察用の艦載機たるドローンナイズされたおもちゃの飛行機を使った時の状況を説明した。その当時側にいた五月雨だがきちんと見ていたわけではないのでその説明に興味津々で聞き入っている。説明が終わると、五月雨はもちろん提督含め全員拍手をした。

「やめてよやめてよ!提督も拍手しないで!恥ずかしい!」
「いいじゃないか。俺も実際に動かした艦娘のこと聞けて嬉しいんだよ。それが那珂ならなおのことさ。」
「う~~~あとで覚えてろよ提督ぅ。」
 自分が意図せぬ注目を浴びて恥ずかしがる那珂だったが、求められた説明は最後まできちんとした。那珂から艦載機を扱うことについて聞いた一同は思い思いの感想を述べる。

「すごいね那珂さん。あと空母の人もそういうことができるなら無敵じゃないかな?」
「うんうん!うちにも空母の艦娘来てほしいわよね~。」
 時雨と村雨は素直に感想を口にした。
「なんかどういう話題っぽい?あたしも欲しい~。」
「ゆうちゃん……話聞いてないなら変な入り方しないほうがいいよ……。」
 夕立はようやくモゴモゴした口が落ち着いていたのか、さきほどまで全然聞いていなかった提督らの話に突然入ってきた。そのため話題に乗り遅れたがとりあえず欲しがるという反応を示してみたのだった。それに五月雨が弱々しくツッコミを入れる。

「お姉ちゃんもそういうことできるんですね~。すごいなぁ~私もそういうことしてみたいなぁ~。」
「ははっ。なんなら高子ちゃんも、うちの艦娘の試験受けに来てみるかい?」
「私なんか……お姉ちゃんやそちらにいる那珂さんみたいにすごくないし。」
 高子が羨ましそうに言葉を漏らしたのを聞き提督は彼女に誘いかけてみた。が、自信ないのか返事は芳しくない。

 それをそばで聞いていた夕立が無邪気に提案に乗った。
「あたしたちみたいな駆逐艦なら一緒にやれるっぽい?ねぇ高子ちゃん、一緒にやろーよ?」
 それに時雨が乗る。
「そうだね。まあ駆逐艦とも限らないけど、高子ちゃんに合う艤装が配備されるといいね。」
「うーん……機会があったら。」
「じゃあその時は、お母さんを連れて正式に試験受けに来てくださいね。」
 提督はややからかうように高子に誘いの言葉をかけた。高子は家族以外の大人から冗談めいた言葉をかけられて照れくさそうに「はい。」と答えて俯いた。
 五月雨は目の前にいる高子のことも気になるが、それよりも自分らの方の友人の白浜貴子のほうが心配で気になっていた。


「それはそうと。那珂だけじゃなくて、川内と神通も艦載機を使うことができるから、当面は3人がうちの最大のホープだな。」
 提督は何気なく那珂、そして離れたところで学校の友人と話に興じている2人を眺めて展望を口にする。
 那珂は口に出して返事こそしなかったが提督からその言葉を聞いて頷く。連装砲・魚雷でただ戦うだけではない、現状、川内型の3人にしかできないとされる艦載機の操作、その方面でも川内と神通の二人を教育し、適切な活躍ができればとなんとなく考えを膨らまし始めていた。

 ひと通り話すと、提督はその場を離れて明石たちのいる場に戻っていった。

那珂と五十鈴

那珂と五十鈴

 那珂も五月雨たちの場から離れて三千花らのところに戻った。

「なんだったの、西脇さんと五月雨ちゃんたち?」
「うん。ちょっとね。艦娘の装備についての話だった。」
「ふ~ん。」

 特に細かく言う必要もないだろうとふんだ那珂は三千花の質問に簡単に答えるだけにした。

 那珂たちはやはり身内の高校生で固まって会話に興じている。五十鈴も少し話すうちに同学年の三千花とも打ち解けあい、お互いの学校のことや趣味のことについて喋り合っている。
 一方で1年生組の川内、神通、三戸、和子は、唯一残った中学生の不知火こと智田知子を囲んで話している。不知火は神通・和子の近くにいることで妙な安心感を醸し出していた。話すよりも黙ってそばにいるだけで良いという雰囲気だ。ロビーで少し話した時以来、彼女は神通と和子の側にすぐに近寄っていた。

 そんな5人を2~3人分離れた位置で見ている那珂たち高校2年生3人組。
「不知火さんさ、なんだか神通ちゃんとわこちゃんにベッタリだねぇ~。」
「そうね。私もなんだかんだであまり話したことなかったから、彼女のことよく知らなかったけど……ああしてるとちょこんとしていて可愛いわね。」

「ねぇ、なみえ、それに五十鈴さん。」
「なぁに?」「何かしら?」
「私イマイチわからないんだけど、艦娘同士って仲良くしないものなの?」
 三千花の問いに那珂と五十鈴は顔を見合わせ、そして那珂がクスッと笑みを含んで答えた。
「そんなことないよ。あたしは五十鈴ちゃんはもちろん、他の子とも仲良くするし。」
「けど不知火さんとは……その、話したことなかったんでしょ?」
 本人に普通に聞こえてしまう距離にいたため、三千花は肝心の部分は小声で、そして言い方を変えて再び問いかけをした。その問いには五十鈴が答えた。

「いくら仲良くするしないといっても、私達はお互い普通の生活もあるし、結局のところ提督から出撃や遠征任務のスケジュールもらって動くから、どうしても一緒にならない・なれないケースも出てくるわ。それが彼女ってところかしら。」
「ま~つまるところ提督の編成のせいってことですなぁ~、ね、五十鈴ちゃん?」
「ん!ま、まぁそうね。……そうね、提督のせいよね。」
 一瞬言葉につまる五十鈴を見て那珂は瞬間的にいやらしい顔をする。真向かいにいた親友はそれを見逃さないが、あえてそれに触れなかった。

 二人の回答を聞いて三千花はさらに尋ねる。
「そうなんだ。改めて思うんだけど、西脇提督のやってることっていまいちわからないなぁ。なんだっけ、正式名称?さっき着任式のとき長い役職名言ってなかった?」
「ん~あたし初めて鎮守府来た時に説明受けたけど、本当は支局長とか支部長とか、総責任者とか総管理者とかなんとか?」と那珂。
「そうそれ。それなのにIT企業の人?」
 三千花は疑問を投げかけた。すると五十鈴が話に乗ってきた。
「彼は普段のIT企業のお仕事と国のお仕事の二足のわらじを履いてるのよね。突然管理者に選ばれたって聞くし、苦労が耐えないと思うわ。」
「昼間はパソコンに向かってお仕事、夜は鎮守府で艦娘たちの面倒……西脇栄馬の実態やいかに!?」
 那珂は提督を茶化した冗談を口にしてわざとクネクネと悶える。それを聞いた三千花と五十鈴は苦笑しながらも那珂の冗談に揃ってツッコミを入れた。
「なみえったら……それじゃ西脇さんどんな変な人なのよ!」
「よ、夜の面倒ってあんたねぇ……冗談にも言い方ってもんがあるでしょう?」
 三千花は至って冷静に、五十鈴は那珂の言い方に良からぬ妄想を一瞬してしまい少しドモリつつも冷静にツッコんだ。


--

 その後3人はとりとめもない流行の話題や日常の話題で盛り上がる。そのうち三千花が思い出したように鎮守府の話題を口にした。

「そういえばさ、前に提督から説明受けたけど、艦娘や鎮守府って言い方、現場の人が使いまくって広まったんだっけ?」
 艦娘の世界に顔を出しているとはいえ一般人である三千花。彼女の発言に那珂と五十鈴は知っている限りのことと自身の感じ方をひと通り述べ始める。

「そうそう。本当の名前は長ったらしくて味気ない呼び方よねぇ。私は艦娘になった当初、他の鎮守府の艦娘とたまたま接する機会があってその時にその人たちに聞いてみたんだけど、みんな鎮守府っていう昔の海軍の基地?の名前で呼ぶのは、そのほうがカッコいいし一発で似たような存在感やその役割を表現できるからなんですって。」
「へぇ~。そうなんですか。それじゃあ艦娘っていうのは?」と三千花。
「艦娘って言い方の由来は複数あるらしいわ。一つは艤装っていう艦船のデータを入れた機械を装備をする人、つまり艦の名を受け継いでその役割を担う人。だから艦になった女、または娘っていうじゃないかって。艤装と同調できるのは圧倒的に女性が多いかららしいわ。あとは大昔に流行ったゲームで、似たような言葉が使われていたって。死語にもなったその言葉を掘り起こして流用したんじゃないかって。もうネットでも探すのが困難なくらい文献が残っているかどうかもわからない、古いゲームらしいわ。まぁ私としては前者のほうが有力だと思うけどね。」
 五十鈴の長々とした説明に三千花はなるほど~という表情をして感心して頷いた。

「へぇ~って五十鈴ちゃんすんげぇ知ってるね。驚き~。」
 五十鈴が説明している様子を見て那珂も素直に感心していた。五十鈴は照れくさそうにしながらも説明を続ける。
「ンンッ!あんたに褒められると調子狂うわね……。あたしはあんたと違って普段から真面目に調べ物したり頑張ってるんだから。……ともかくも、他にも由来みたいなの聞いたんだけど、どれも艦娘制度が始まった当初から使われてたそうよ。多分時期的な話だけは本当なのだと思うわ。」

 五十鈴の想像混じりの説明を聞いた三千花は呆れた様子で感想を口にした。
「今じゃ雑誌とかネットでも普通に現場から広まった言葉使ってるのよね。最初に艦娘って使った人すごいね。」
「うんうん。今じゃ普通に艦娘って言葉使ってるしね~。もしホントだったら、『あたし艤装装着者になって、深海凄艦対策局および艤装装着者管理署○○支部に着任して活躍するんだ~』とか言ってたのかと思うと舌噛みそうで大変~笑っちゃうよね~。」
 長々とわざとらしく正式名称を使う那珂の言い回しに三千花と五十鈴はほぼ同時に似たようなツッコミをする。二人からツッコミを受けて満足気な那珂は両腕を後頭部に回して組みながらエヘヘと笑ってごまかした。


--

「ま~あたしたちはそんな艦娘になりましたが、五十鈴さんや。」
「なによ?」
「真面目な五十鈴さんは今気になってる人、いらっしゃるのでしょーか?」

 急に話題を変え、姿勢を前かがみにして上目遣いで五十鈴の顔を覗き込む那珂。二人の間にいた三千花は親友が時折人を多大にからかう時のいやらしいニヤケ顔になっていることに気づいた。と同時に嫌な予感しかしない。
 このままでは五十鈴の危険が危ない!などと三千花は悟ったがとりあえずそのまま見ていることにした。

「え……何よ突然!?」
「え~あたしたちは艦娘である前にぃ~、花の女子高生ですし、ねぇみちかさんや。」
 同意を求められて三千花は心臓が一瞬跳ねた。
「私に同意を求めないでよ!それにその言い方、いちいち古いのよ。」
「え~だっておばあちゃんやママが女子高生だった時に使ってたって言い方さ、逆に新鮮じゃない? それはそうと。みっちゃんも気になるでしょ? 艦娘の恋愛事情。」

 親友が言葉巧みに誘いかけるのを聞いて、三千花は実はそれなりに気になっていた。艦娘というよりも、艦娘になった他校の生徒の素行が気になっているというほうが正しい。三千花には那美恵、あるいは後輩の流留や幸がいる。その二人であってもそれほど知っているとは言えないが、せっかく知り合えた同学年の五十鈴こと五十嵐凛花についてもうちょっと知りたいと思い始めていた。
 そんな思いが湧き上がっていたため、那珂の言うことに微妙な反応を示し始めす。三千花は心のなかで、"五十鈴さん、ゴメンなさい"と謝りつつ今の考えを口にした。

「んーと。ええと。そう言われてみるとそ、そうかな?せっかくこうしてお招き頂いてるんだし。なみえ以外のか、艦娘の方のこと知りたいかな……?」
 親友からその言葉を聞き出したその瞬間、那珂はしてやったりの薄らにやけた顔になる。三千花だけでなく五十鈴もその表情の示さんとするものを感じ取るのは難くなかった。

「じゃあちょっとこっちこっち。」
 那珂は三千花と五十鈴を手招きして会議室の端っこに連れて行った。そうすることで川内たちのいる場所とも、五月雨たちのいる場所ともほぼ等間隔で間が開くことになった。
「なになに?なんなのよ端まで来させて。」
 五十鈴は那珂の意図がわからずに問いただしながら移動する。三千花はもうどういう展開になるのか想像がついていたためあえて何も言わずに親友の動きに追随する。
「じゃあ準備おっけ~ということで。五十鈴さんにインタビューです!」
 那珂は箸をマイクに見立てて箸頭を五十鈴の口元に近づけた。

「あ、あんたねぇ~何のつもりよ!?」
「え~、アイドル目指すたるもの、街行く人や他の艦娘の皆さんにも積極的に話しかけられないといけないでしょ?あたしが艦娘アイドルになるための練習だと思ってさぁ。付き合ってよ?なぁに、恥ずかしいのは最初だけだよ。」
「アイドルって……。」と五十鈴は呆れて一言。
 那珂は五十鈴の反応なぞ気にせず続ける。
「うちのみっちゃんなんか長年あたしに付き合ってくれたおかげで今じゃ黙ってたってペラペラ語ってくれるんだよぉ~。そりゃもうあんなことやこんなことまで恥じらいなんてなんのそn
「コラ!ホントだと思われたらどうするの!?」
 言葉の途中で三千花から怒られて遮られ、たじろいで見せる那珂の仕草は誰が見ても演技丸出しだった。いつもの調子でエヘヘと笑ってごまかすのみ。

 五十鈴はそんなやりとりをする二人を見て額を抑えてため息一つついた後、三千花に向かって労いの言葉をかけた。
「中村さん、那珂…那美恵の友人やってるの大変でしょ?」
 それはねぎらいというよりも同情の念が強い言葉だった。三千花はコクリと頷いて返事をする。
「アハハ……なんというか、はい。よそ様に申し訳ないというかなんというか。」
「お気持ち察するわ。私にもそれなりに変わり者の友人いるけれど、那珂ほどじゃないわ。」
「まぁ、これでも10年位付き合いあるんで。なみえの手綱の締め方とでもいったらいいのかな。わかってくれば楽して頼もしい娘なんで、どうかよろしくお願い致します。」
「フフッ。わかってるわよ。こっちでは任せて頂戴。」
 二人は学校と鎮守府、お互いそれぞれの場所で那珂の手綱を締めるべき似た立場なのかもと共通認識を得て、分かり合っていた。

「ブー!二人とも勝手にわかり合わないでよぉ!!インタビューの途中だぞ~」
 那珂はやはり演技丸出しの憤慨する仕草でもって三千花と五十鈴に文句を突きつける。
「え、それ続けるつもりだったの? ちょっと中村さん、彼女に何か言ってあげてよ。」
 五十鈴は話題をはぐらかすつもりで確認の言葉を投げかけた。しかし三千花の反応は芳しくない。
 三千花はそれとこれとは別、と言わんばかりに先ほどの分かり合えた感情とは違う感情でもって五十鈴に向き合い、そして視線を外した。五十鈴はそれを見て頭に?がたくさん浮かび困惑する。
 五十鈴の混乱を察知した那珂は彼女の様子を一切に気にせずインタビューごっこを再開した。

「むふふ~。じゃあ改めて聞きます。五十鈴さんは今気になってる人はいるのでしょーか?」
 親友のサポートを受けて那珂は改めて手に持った箸の頭を五十鈴に向けて問いかけた。
 五十鈴は深く大きくため息をついた。この女、この表情ということは、きっと何を言っても茶化す気満々だなと悟った。ならば逆に驚かせてやれという考えが五十鈴の頭の中に浮かぶ。
 そして目を細めて視線を下向きにしながら答え始めた。

「わかったわよ。答えればいいんでしょ答えれば。……いろんな意味であんたが気になってるわよ、那珂!」
「ドキッ!! 五十鈴ちゃんそーいう趣味だったの!?あ、あたしにはまだ早いよぉ~。五十鈴ちゃん不健全~!」
 頭をブンブンと横に振ってわざとらしく拒絶と照れを演出する那珂。ただ五十鈴の回答は那珂にとっては予想の範囲内である。平然と五十鈴の回答に鋭く反論した。

「も~五十鈴ちゃんったら。それは反則ぅ。ダーメ!ちゃんと答えなさい!」
「だ、誰が真面目に答えるのよこんな場で!」
「すみません五十鈴さん。この娘こういうノリになったら止まらないんで、ノってあげてください。」
「ちょっと中村さん!?あなたちゃんと那珂の手綱締めてよ!」
「大丈夫です。締めるときは締めるんで。」
「今が締め時じゃないの!?」
 五十鈴の叫び(周りに人がいるので小さな声だが)は那珂と三千花の耳から耳へと素通りしていった。観念したのか五十鈴は半泣きになりながらも答えた。

「私の学校、女子校だからそういう人なんて外でもない限りできないわよ!!」
 五十鈴の心の叫びであった。それを聞いた那珂はその回答を受けて言い回しを変えて再度問いただそうとした。
「ん~そっか女子校だったよね○○高は。そうですか~。だったらねぇ、将来的に五十鈴ちゃんがその巨大なおっぱいでぇ~、落としたい人を…あいたぁ!!」

 五十鈴に比べて遥かに"ない"自身の胸を両脇から押して寄せてナニかをするアクションを取りつつ、視線をこの部屋にいるアラサー男性にチラリと視線を向けつつも質問しようとしていた那珂だったが、言い終わるが早いか三千花が那珂の頭をチョップで叩いた。
「さすがに今のはダメ。セクハラ。五十鈴さん確かにその……だけど。てかなみえさぁ、内田さんにも神先さんにもそうだけど、どれだけ胸見てるのよ? ……もしかしてコンプレックス?」

 三千花が鋭くツッコむと那珂は凍るようにピタリと止まった。今度のその態度にはいつものおどけた様子がない。三千花は親友ではあったが、親友の(密かな)コンプレックスまでは知らなかったのだ。
「う…え~っと。その……。アハハ!」
 目が泳ぎまくっているこの反応はマジか、と三千花と五十鈴は驚きを通り越して呆れてしまった。

「なるほどね。そうなのね。ふ~ん、これはいいこと知ったわ。感謝するわ中村さん 。」
「いえいえどうしたしまして。手綱ってこういうふうに締めていけばいいんですよ、五十鈴さん。」
 五十鈴は三千花に視線を向けてウィンクをし、三千花はニコリと笑って返事を返した。
 二人は那珂がこれまで見せたようないやらしい顔をして逆に那珂に向け始めた。


--

「それじゃあ次はあんたの好きな人を言ってもらいましょうか。」
 目を細めて艶やかな仕草で視線を送る五十鈴。
「てか五十鈴ちゃんまだ言ってないじゃ~ん!?」
「あんたのそのうすらとぼけた顔見てたら言ったら負けな気がするから言わない。」
 那珂が困り笑いをしながら五十鈴を指差して言うと、五十鈴はプイとそっぽを向いて言った。

「ずりぃ! じゃああたしも! それにア、アイドル目指すたる者、恋愛は
「なしとか家族が好きとかはナシだからねなみえ。それこそずるいよ。」
 先ほどの態度とは打って変わって本気のうろたえ方をする那珂。わざとらしく身体をクネクネするが、本気の照れ隠しも交えてのことだった。
「う~みっちゃんずりぃ~。さすがあたしの親友や~。てかあたしと一緒に五十鈴ちゃんの気になる人聞き出してくれるんじゃなかったのさ!?」
 本気半分嘘半分の半泣きしながら那珂は三千花に食って掛かった。それを三千花は慣れた扱い方であしらう。
「私はなみえに一矢報いるためならなんだってするわよ。それになみえの好きな人も気になるのよねぇ~~。」

 逆の立場になってしまい逃げ場がなくなった那珂は、あくまでケロッとした軽い口ぶりで観念して答えることにした。
「はいはい。あたしは提督が好きだよ。これでいいんでしょ?」
「ウソくさ……真面目に答えなさいよ。」
 あまりにもあっさりと答えてきたので五十鈴はそれを一蹴する。

「え~だって好きってのはホントだよ?あたしのこと色々見てくれてるしぃ~、彼もあたしのこと好きな気配あるっぽいしぃ。両思いってやつ?」
 わざとらしく頬に指を当ててぶりっ子よろしく答える那珂に呆れる五十鈴。
「あ~もういいわ。あなたもマジで答える気がないのだけはわかったわ。」
 そう言う五十鈴ではあったが、心の奥底ではホッとする安堵感と心に霧がかかったような不明瞭感を抱いていた。那珂の告白が本当ではないことを祈りつつ。

 一方で三千花は、親友の答えを茶化す気にはなれなかった。これまでわずかではあるが西脇提督と那珂(那美恵)のやりとりを目の当たりにして、度合いはどうであれ、その思いは限りなく真実になりうるかもと気づいていた。
 口では一矢報いるなどと言ったが、本気で親友のその手の思いをバラして辱める気は三千花にはなかった。そのため五十鈴の言い方に合わせることにした。

「なみえはほんっと適当だよね。親友の私も呆れるくらいよ。」
「エヘヘ~。」
 那珂は親友の察しに気づくことなく微笑むのみだった。

 ふと那珂が視線の向きを変えて提督を見ると、先程明石のところに戻ったはずがすぐ側、つまりは先ほど自分たちがいたところで残りのメンツと話に興じているのに気づいた。

((まずっ!?今の聞かれた!?))
 那珂につられて視線を向けた三千花と五十鈴も似た反応を示した。

川内・神通・不知火たち

 川内と神通は三戸と和子、そして不知火と話していた。川内は夕立と同じく皿いっぱいに料理を盛って手に持って食べながら会話に参加している。

「内田さん結構食べるよなぁ。女の子でその量って珍しくない?」
 三戸は同意を他の女子3人に求めると、その意見に賛同したのか3人共コクコクと頷いた。
「え~そうかなぁ~。あたしは普通に食べてるつもりなんだけどなぁ。てか三戸くんもっと食べなよ。君だって食べるでしょ?」
「いやまあそりゃ食べるけどさ、さすがの俺もこういう他の場じゃ遠慮するって。内田さん遠慮しなさすぎ。」
「あたしは無駄に遠慮したら負けと思ってるから。それにこれから鎮守府はあたしの居場所でもあるんだし、いいじゃん。」
 流留のついこの前までの状況を知っている三戸と和子は川内の言い分に歯切れ悪く相槌を打った。当然、川内がその手の細かい仕草や思いに気づくわけもない。
 咀嚼し終えると不知火の方を見て質問した。

「ところで不知火さんだっけ。どこ中?」
 非常にぶっきらぼうな言い方で川内は黙りこくっていた不知火に尋ねる。傍から聞いて言い方が気になった神通だったが、同じような無口なタイプの不知火は言い方なぞまったく気にすることなく、数秒してから口を開いてハキハキと答え始めた。
「○○中学です。2年です。」
「ふーん。艦娘になって長いの?」
「はい。私は五月雨のすぐあとなので。」

 川内が話題の口火を切ったため、和子も話題に乗ることにした。
「そうなんだ。五月雨ちゃんの後ということは鎮守府Aでは2番めに長いってことですよね。なにげにここにいらっしゃる艦娘の皆さんのほとんどの先輩なんですね。」
 和子の感想に神通も相槌を打つ。言われた当の不知火は褒められていると捉えたのか照れて遠慮しがちな返事を返す。

「いえ。まだまだ若輩です。まだ精進あるのみ、です。」
 不知火が発した言葉、その言い回しに高校生4人はまったくもって彼女の遠慮や照れなどを感じ取れないでいた。むしろ、年代の割に固い言い方だという感想しか持てなかった。
 誰もが思っていてあえて言わなかったことをズバリ口にしてしまったのは川内だった。
「不知火さんかったいなぁ~言葉遣いなんだかババくさいよ~!もっとゆるく行こうよ。あそこでキャイキャイ話してる五月雨さんたちみたいにさ。」
「!!?」
 和子と神通はもちろん、三戸も気にはなったその言葉遣い。ただ不知火のことをほとんど全く知らないため、あえて触れて反応を得る必要もないだろうと思って言わなかったことを、川内はサラリと言ってツッコんでしまった。
 さすがに3人も呆れたというより逆に反応に困る羽目になった。

 神通は川内の服のスカートにあたるアウターウェアを軽くクイッと引っ張って注意した。
「んっ、さっちゃん何?」
「内田さん。そういう言い方はちょっと……」
「え~だって不知火さんホントに固いじゃん。今の言い方時代劇とかでもたまにしか聞かない言い方だよ。」
「それは……人それぞれだから。」
 それ以上は言葉がうまく出てこず、口ごもってしまう。そんな神通を見かねた三戸が代わりに川内を叱責した。
「内田さん内田さん。さすがに歯に衣着せなさすぎだよ。もうちょっとオブラートに包もうよ。相手は中学生だぜ? な、神先さん?」
 神通は三戸のフォローを得てわずかに自信を持ち、川内に言葉ではなく目で訴える。
 以前の神通こと幸からは到底考えられぬ、他人への気にかけだった。別段迫力らしい迫力はなくつつけば簡単に退せそうな雰囲気で弱々しいものだが、思うところがあったのか川内は神通の目を2秒ほどジッと見た後態度を変えた。

「ん~わかった。さっちゃんがそういうならあたし言い過ぎたのかも。ゴメンね不知火さん。気にしないでね。」
 川内は後頭部をポリポリ掻いて不知火のほうに頭ごと視線を移して謝った。不知火は言葉こそ発さなかったが、頭をブンブンと横に勢いよく振って態度で気にしてないですという意思表示をした。


 その空気が悪いままだと気まずいと思い、三戸が話題を逸らすために改めて声を誰へともなしにかけ、話し始めた。
「そ、そういえばさ、智田さんの中学校って艦娘部はあるのかな?」
 不知火は一瞬頬をピクッとさせたあと、聞こえないくらいの音で口の中から息を吐き出した後答え始めた。先ほどまでの川内や和子という少し年上の同性への応対とはうってかわって戸惑いの色が見えていた。

「ええと。あります。この前司令に提携してもらって、友達と。」
 不知火は説明する内容を必死に考えながらしごく冷静に言い放つが、実際は焦りがあった。そのためか発した説明が断片的になる。声は張っていたため聞き取りやすいものの彼女のポーカーフェイスぶりはほぼ完璧で、実際は説明に戸惑っていたことなど三戸を始め和子・川内・神通が気づくはずもない。高校生組の間では、必然的に彼女の印象は次のもので共通した。


 口下手


 それは不知火こと智田知子の世間的(自身の中学校とその周辺)からの評価と一致していた。本来の感情を読みづらい分、彼女が発した言葉が余計にストレートに足りなさを感じさせてしまうのだった。
 さすがに彼女が実際に発した言葉から物事を察するのは無理だと悟り、まず三戸は和子に視線を送り支援を求める。和子はそれに気づき、不知火との会話の主導権を握って進めた。


「そうなんですか。不知火さんのところもあるんですね。お友達は何人艦娘部にいるんですか?」
「…5人です。」
「5人ですか!うちの艦娘部より多いです!うちはあそこでこそこそ話してる那珂こと光主那美恵という人と、ここにいる川内こと内田流留、神通こと神先幸の3人なんですよ。」
 不知火は和子から説明返しをされてコクコクと頷いた。
 和子は続いて質問する。

「お友達は5人が部にいるんですね。じゃあ艦娘になってるのは何人いるんですか?」
「……私だけです。」
「不知火さんだけですか。不知火さんはこの鎮守府で艦娘になって五月雨ちゃんの次に長いんですよね。その間自分の学校から一人で大変だったのではないですか?」
 不知火は無言で頷く。

「そうですよね。不知火さんは普通の艦娘?それとも学生艦娘ですか?」
「はじめは…普通の艦娘でした。」
「私達も会長から艦娘のこと色々聞いてやっとわかってきたんですけど、普通の艦娘だと学校の授業とのやりくり大変ですよね?それで学校と鎮守府の提携を西脇提督にお願いしたんですか?」

 和子の一つ一つの質問に答えていく不知火だが、この質問に対しては初めて(本人的には)長々と回答した。
「私は別にそうでもなくて、陽子と雪がずっと学校にお願いしてて、この前司令が来て提携してくれたのです。」
 また断片的になってしまっており、なおかつ新たな人物名が出てきたため、和子はそれを一つ一つ噛み砕くように聞き出す。

「えーっと、不知火さん自身はそんなに気にしてなかったですか?」
 不知火はコクリと頷く。
「で、その陽子さんと雪さん?というお友達は気にしていたと。まだ艦娘になってないお友達がどうして気にしてたのでしょうか?」
 不知火は首を傾げよくわからないという意思表示をした。和子はこの聞き方ではダメだと悟り聞き方を変えた。

「不知火さんは艦娘のお仕事と授業がバッティングしたときはどうしてましたか?」
 不知火は目をぱちくりさせ、数秒して答えた。
「志保と…桂子先生に頼みました。」
 また新しい人物が出てきた。これは面倒になってきたと和子は内心思ったが口に表情にも出さずに落ち着いて聞き返した。
「お友達と……先生ですね。その二人に代返というんでしょうか。相談したということですか?」
「……はい。話して休ませてもらいました。」

「なるほど。じゃあ先程の陽子さんと雪さんは、不知火さんのことを志保さんと桂子先生から聞いていたから気にして学校提携をお願いしていた、こういう感じでしょうか?」
 和子の長めの確認に不知火はまたしても首をかしげるが、何かに気づいたのかわずかにハッとした表情になり(和子と神通しか気づかなかった)、返事をした。
「はい。多分。」

 そこまで聞いてやっと和子以外のメンツはハァ…と息を吐き出して感想を言い合った。
「毛内さんすごいなぁ。よく聞きだせるよね。」
 三戸が素直に感心する。和子は少しだけ照れて前頭部につけている髪飾り付近を撫でた後答える。
「似た友人そばにいますからね。お手の物です。」
 そう言いながらチラリと神通を視線を送る和子。その視線の先に気づいた三戸は
「あぁ~納得納得。」
 とだけ言い、誰が好例だったのかには言及しなかった。

 神通は友人の視線には気づかず、不知火に対して感想を口にしていた。
「色々……大変なんですね。艦娘と学校の両立って。不知火さん…偉い。」
不知火は頭をブンブンと思い切り横に振り、そして一言だけ神通に向かって言葉を発した。
「神通さんも、きっとやれます。」

 違う学校とはいえ後輩、しかも自分に似た雰囲気の少女に鼓舞されて神通は心の底から嬉しさがこみ上げてくるのを感じた。艦娘になっていなければ自分には話せる後輩なんて絶対できないだろうと思っていた。自分を変えるために艦娘になった効果が、早速あったかもと、心の中でわずかに微笑んだ。
 ただ、傍から見ると二人とも黙りこくったまま見つめ合っているようにしか見えない。
 この二人、将来的には鎮守府Aで一二を争う、何を考えているのかわかりづらい二人組の誕生であった。

 時折口に料理を運びながら聞いていた川内は箸を休めて、同じく感想を口にした。
「なんか面白いね。艦娘って言ってもやっぱ普通の人の集まりなんだな~って改めて思ったわ。色んな人いて楽しいかも! いつかあたしたちもこうして新しく入る人に話す日が来るのかなぁ~。ね、さっちゃん?」
 神通はコクリと頷き、展望を語る。
「うん。自信持って話せるように……なりたい。」

 そう口にした神通の思いは、川内はもちろんのこと、艦娘になってない普通の立場の人間である三戸と和子も通ずるものがあった。三戸は流留を、和子は幸がそうなるよう、陰ながら支援していこうと密かに決意をしていた。


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 一同が引き続き話そうとしていたその時、神通の顔と表情がこわばっていることに気づいた和子が友人の視線の方向、つまり背後を振り向くと、そこには提督がいた。残りの3人も一斉に振り向いて提督を迎える形になった。

「提督(司令)!」
「や!楽しんでる?」
 提督は紙コップを片手に持ち、もう片方の腕でシュッと前に手首を振る仕草で挨拶をして近づいていた。

「提督、明石さんたちのほうはいいんすか?」と三戸。
「あぁ。あっちはあっちで勝手にやってるよ。それよりも若い子と話したくてね。」
「提督おじさんくさ~い!」
 川内は軽い口ぶりで茶化す。
「おいおい。まだ俺33だぜ?十分イケてるだろ?」
 提督の口ぶりに川内や三戸は失笑する。本気でからかいの念を含んでいるわけではないのは提督自身にも分かった。
 和子と神通、不知火も一瞬クスッと笑うがその様子を隠し、すぐに提督をフォローする。
「はい、西脇さんはイケてると思いますよ。」
 神通と不知火は和子の言葉にコクコクと頷いて同意する。
「ハハッ。ありがとう。ところで割り込んで申し訳ないんだけど、どんなこと話してたのかな?」
 提督が誰へともなしに聞くと、それには和子が答えた。
「不知火さんの学校とも提携したって聞いたんですけど、それ本当なのでしょうか?」
「あぁ本当だよ。時期的には……そちらの高校に最後にお邪魔した翌週だったかな。ね、不知火。」
 提督の確認に不知火はコクリと頷く。

 提督が最後に和子達の学校に来たのは、学校提携の正式な書面での調印と艦娘部勧誘の展示の記念すべき初日であった。それを思い出した三戸と和子は事情をわかっていたので相槌を打つ。一方で川内と神通はその当時まだ艦娘の"か"の字も触れていない頃だったため、よくわからず口を挟めずにいる。

 それを見た三戸は二人に向かって解説した。
「あのさ、西脇提督がうちの高校に来たのって、うちの高校と正式な提携をした日なんだ。んで、艦娘部の勧誘の展示を始めた日。」
「あっ、そうなんだ。じゃああたしらが知らなくて当然かぁ~。」
 川内と神通は納得したという様子を見せた。

「でもうちでさえ会長が最初にお話持ちかけてから3ヶ月ほどかかっていたのに、よく急に翌週に不知火さんの中学校にいけましたね?」
 和子が聞くと、提督はその当時のことを思い出しながら語った。
「急でもないんだよ。不知火の中学校とはもともと、五月雨たちの中学校との提携が成った直後に、あちらから話をもちかけられたんだ。」
 和子達4人は黙って提督の話に耳を傾けている。

「当時は俺も鎮守府の責任者になったばかりで色々管理面でまだ勝手がわかっていなかった頃だからさ、五月雨…つまり早川さんたちの中学校でさえやっとこさだったのに、先方から話を持ちかけられて、ある意味手間が省けて楽だ思ったけれど、とても次の提携やよその学校から艦娘を迎え入れる体制を整えられてなくてね。それで止むなく返事を保留にしていたんだ。」

「提督…てか責任者ってのも大変なんっすねぇ……。」
 と三戸は同情にも似た感想を口にする。提督は三戸の言葉にフフッと笑った後説明を再開した。

「当時は五月雨の後に白露型と呼ばれる姉妹艦の艤装が立て続けに配備が予定されていてさ、姉妹艦なら五月雨になった早川さんの学校の生徒さんに着任させてあげたいと思っていたんだ。そうしたらいきなりまったく関係ない型の艤装が配備されたんだ。そこで不知火…智田さんの学校の生徒さんで試しにどなたか試験受けてみませんかと提案したんだ。提携はうちの運用が固まってないから、とりあえず普通の採用でいかがですかってことで。そうしたら、お友達とこぞって試験受けに来た智田さんだけが不知火に合格したというわけさ。」


「へぇ~それで五月雨さんたち白露型の艦娘の中に一人だけ陽炎型の子がいるんだね~」
「お?不知火が陽炎型ってことわかってるってことは、川内はもしかして軍艦のこと結構知ってる口かい?」
 川内が現状を確認して述べると、提督は川内の口ぶりに関心を示す。

「あたしだけじゃないですよ。三戸くんも知ってます。二人ともゲームで知ったんですけどね。」
「そうか。その手の知識があるのは助かるよ。」
 川内と三戸の思わぬ知識に感心を示した提督。そして続きを語り出した。

 智田知子が不知火に合格したことで、彼女の中学校は鎮守府との提携に俄然やる気をみせるのだが、提督は運用や交渉の手順がいまだ固まっていないことを理由に彼女の中学校へ提携は保留にさせてくれと再び断っていたのだ。

「……それから7~8ヶ月経つ間、早川さんの学校から生徒さんを迎え入れて着任してもらえた。そして普通に応募してきた五十鈴…五十嵐凛花さん、妙高になった黒崎さんとわずかだけど中学生以外の人を迎え入れて、俺も艦娘の責任者として運用がわかってきた。そして光主さんが那珂として着任して、今に至ると。」

「で、うちの高校なんすね!?」
 三戸が確認する。

「あぁ。正直言って、光主さんの着任とそちらの高校との提携話はタイミングがよかったんだ。俺も経験積んでようやく鎮守府の管理や艦娘の運用にも慣れてきた。光主さんは那珂としてよく働いてくれるし、アイデアもたくさんくれる。そして彼女は艦娘の活動と普段の生活で問題点と新しい運用の仕方を見出してくれた。」
「新しい運用?」
 三戸と和子、そして川内がハモった。

「三戸君と毛内さんは知ってると思うけど、艤装を鎮守府外に持ち出して同調を試す、このことだよ。」
「あ、なるほど。そういうことっすか。」
「三戸君たち君たちの行動も大変参考になったよ。提携を望む学校側でやる気のある生徒さんがこうして大人がやることを助けてくれるんだって。そして俺も自信がついたって言えばいいのかな。それで不知火と話して、保留にしていた彼女の中学校への返事を復活させて、無事に提携を取り付けたわけさ。実は一番時間がかかってるんだ。」

 提督は照れくさそうに鼻の頭を軽くこすって再び口を開いた。
「俺が自信ついたのは、光主さんがいてくれたからってところかな。突飛な発想でかき乱してくれるときもあるけど、俺や五月雨では思いもつかなかったことを教えてくれる。本当、助かってます。あ、これ、あそこにいる3人には内緒ね?」

 提督は人差し指を口の前に出して内緒の仕草をして三戸たちに念押しをした。三戸たちは深く相槌を打って、目の前のおじさんの密かなお願いに「はい」と小声で答えた。那珂たちはなにやらワイワイキャッキャと話していて夢中のようで提督が三戸や和子、不知火たちと話していることに気づいていないようであった。

「提督、もしかして会長みたいな人がタイプなんっすか?」三戸がにやけ顔で提督に尋ねた。
「な、何を言ってるんだ!違う違うそうじゃないよ。仕事上のベストパートナーっていうのかな?」
「あ~、提督赤くなってる~!」
 提督は顔を朱に染めながら平静を装って必死に言い訳をする。ただどう見ても落ち着けていない。それを見て川内が茶々を入れてからかった。
「お、大人をからかうんじゃない!」
「アハッ!提督ってばかわいいー」
 再びからかおうとする川内に対し提督は手刀をする仕草をして諌めようとするが、まったく迫力も説得力もない仕草になっていた。


--

 提督が落ち着いたのを見計らい、三戸は提督に尋ねた。
「ところで提督。不知火さ…智田さんが不知火になったってことは、五月雨ちゃんのとこと同じように姉妹艦になれる子をそこの中学校から着任させるつもりなんすか?」
 三戸の予想は当っていたのか、提督は彼の言葉を受けて答えた。

「あぁそのつもりだ。そうできればいいなと考えてるよ。」

 その答えを聞くと三戸と川内は顔を見合わせ小声で言葉を交わす。そののち川内が提督に向かって言った。
「提督さぁ、そうすると智田さんの学校から結構大勢入ることになるかもしれないけど、大丈夫なの?」
「ん?どういうことだい?」
 川内の言葉に三戸が続いた。
「陽炎型って、姉妹艦めちゃ多いんすよ。艦娘の姉妹艦が軍艦の方の姉妹艦と全く同じかはわからないっすけど、もし同じだとしたら大勢着任させることになるのかな~って思ったんすよ。うちの高校の艦娘部の川内型3人どころの話じゃないっす。」
 三戸の説明に提督は軽く呆けた後しかめっ面になって言葉に詰まり、考え込んだのち口を開いた。

「それは俺知らなかったよ。……そんなに多いのかい?」
「「はい。」」
 川内と三戸の返事がハモる。

「もし全艤装分の艦娘が着任したら、それだけで今のこの鎮守府の人数超えるっすよ。」
 と三戸はトドメにも等しいセリフを突きつけた。
 提督は軍艦の情報をもとにした艤装装着者、艦娘の種類について知らない点が多かったため、三戸や川内の言うことがピッタリ当てはまるなら、管理が大変になるかもと途方に暮れる。だが極めて平静を装ってこの場にいる学生たちに展望を述べる。

「ハハッ。まあそうだとしても、一気に全姉妹艦の艤装が配備されるわけじゃないからね。増えたら増えたで考えるさ。そうなったときは川内、君の持ってる知識で色々アドバイスほしいな。助けてくれるかな?」
「えっ、あたしなんかでいいんですか?」
「三戸君でもいいんだが、艦娘ではないしそのたびに連絡してアドバイスいただくのも申し訳ないからさ。二人は同じくらい艦隊の知識あるみたいだし、川内がいてくれると助かるんだ。」
「アハハ~。まだ艦娘として活動してないのに頼られるのってなんか不思議な感じ。うんいいよ。那珂さんほどとはいかないだろうけど、ゲームで得た知識なんかでいいならどんどんあたしを頼ってよ。」
「あぁ。よろしくな。」
 提督は川内に笑顔で声をかける。川内も、これまでの日常で趣味話を語り合っている時のような心から嬉しそうな笑顔になっていた。

「じゃあ若い子同士でごゆっくり。」
「提督?」一言で尋ねる川内。
「トップたるもの皆の様子をちゃんと見ないとな。ってことで別の島へ。」

 川内が見つめる提督は紙コップを持っていない方の手をひらひらさせて身体の向きを変えて別の集まりの方へ足を動かした。
 川内は提督と以前話したような趣味の話でもっと盛り上がりたかったが、(三戸は別として)不知火や和子たち話の合わなそうな人もいたことと、タイミングを逃したためこの場で会話を続けることはできなかった。


--

 提督と川内、そして三戸が仲良さそうにしていたのを見て一人だけ距離を感じていた神通は気付かれないように和子の後ろ隣に来ていた。和子は途中で気づいたが特に触れる必要もないだろうと思い神通を側にいさせた。
 ただ和子は、提督が川内に頼るような言葉をかけたその直後、斜め後ろからか細い声の
「いいなぁ~…」
という言葉を聞いてしまった。チラリと和子が斜め後ろに視線を送ると、長い前髪で隠された顔の奥の神通の瞳が半分ふさがっているのが見えた。川内が艦娘として活躍する前から頼られ自信をつけているのに対し、神通は真逆を行きそうだと感じた。
 このままではこの友人は思うように活動できないかもしれない、どうにか彼女のためになることをしなければと、和子は密かに思った。

提督と艦娘たち

提督と艦娘たち

「今の…聞かれちゃったかな?」
「どうだろ?うちら小声だったから大丈夫なんじゃない?」
 普段の様子と裏腹に本気でさきほどの自分の発言に対する反応を気にする那珂。三千花は無事であるだろうと想像して平然と適当なフォローをする。

 五十鈴は何度かチラチラと背後の提督を見るが彼と川内や神通たち5人が気づいた様子はないとふんで一息つく。
「って、なんで私までドキドキしなきゃいけないのよ!」
 努めて小声で那珂に怒鳴る五十鈴。
「知らないよぉ~。勝手に五十鈴ちゃんドキドキしちゃってさ~。あたしの発言のほうが聞かれたらまずいよ~。」
 またしてもわざとらしくクネクネと身体をツイストしておどけながら恥ずかしさをアピールする那珂。三千花も五十鈴もその行動にはもはや触れずに那珂の言い分だけに反応して返す。

「あんたこそいつもの冗談なら平気でしょ?」
「だから言ってんじゃん。ホントだってぇ~。」
「……え?ほ、本当…なの?」
 五十鈴は上ずった声になって那珂に確認する。那珂は大きくコクンと首を縦に振った後、声に出した。
「ホントホント。那珂ちゃん嘘つかない。」

 那珂の言い方と態度には普段のおちゃらけが混じっている。五十鈴は那珂の今の言葉さえ、本当かどうか怪しいとふむ。つまり、那珂の告白はすべて信用出来ない。判断しかねる。一緒に艦娘の仕事をし始めてある程度経つとはいえ、五十鈴は那珂のことを大して理解できていない。真面目な点では信じる・頼るに値すると思っているが、普段の様はからっきしである。

 疲れる。
 五十鈴の心境はこの一言に満ちた。真面目に振る舞うときは割りと好きになれるが、目の前の少女は妙に他人の感情や思いを察するのが得意ときている。自分の思いに感づいていておちょくるためにわざと発言している可能性も否めない。
 中村三千花という彼女の同級生は、よくこんな人と幼い頃から付き合えるものだ。きっと彼女なりの苦労があったからこその今なのだろうが……。いっそのこと光主那美恵使用マニュアルでもいただきたいものだ。
 そう頭の中で思いを張り巡らせる五十鈴。

 とりあえずは、真に受けないこと。五十鈴は三千花からそれとなく聞けたその忠告を念頭に置いて那珂に反応することにした。
 五十鈴はジーっと那珂を真正面に見つめる。那珂はまさか五十鈴が黙ってじっと見つめてくるとは思わなかったので少し焦りを見せた。
「な、なに五十鈴ちゃん?あたしのこと見つめちゃって。」
「……ま、いいわ。そういうことにしておきましょ。」
「?」

((もし本当だったら、一番やっかいなライバルだし、嘘だったら私の気持ちを弄ぶ那珂を許すことはできない。))


--

「あ。」
 三千花が少し上ずった声で一言だけ発した。
「どしたのみっちゃ……あ!?」
 那珂と五十鈴は三千花と向きあうように立っていた。それは川内たちに背中を向ける形になっており、そこから近づいてきた提督にすぐには気づけなかった。三千花が一言発した拍子に振り向くことで初めて後ろに迫っていた気配に気がついた。

「や!3人は何を話してたのかな?」

 五十鈴は心の中で思いを張り巡らせていた直後、那珂は自身の発言の後だったため提督の何気ない語りかけにすぐには対応できない。二人とも「あ。ええと……」と焦りで言葉を濁している。
 そこで至って平常心な三千花が助け舟を出して先に対応した。

「ガールズトークですよ。だから西脇さんは聞いたらいけません。」
 決して強い言い方でもなく、本気で言ってるわけでもないがピシャリとした言い方の三千花の一言。
「ありゃ。それはおじさんにはつらいな。それじゃあ引き続きお楽しみくださいな。」
 提督は肩をすくめて軽くおどけて冗談を言いながら踵を返し、食べ物を置いてあるテーブルのほうに向かっていく。
 提督が背を向けたので視線が交わう心配がなくなりホッと胸をなでおろした那珂らはいつもの調子で提督に一言だけ茶化し混じりの声をかけた。

「自分でおじさん言わない~!提督十分若いよ!ちょっと歳の離れたお兄ちゃんで通じるって~。ね、五十鈴ちゃん。」
「へっ!?あ、そ、そうね。そうよ提督。……私はどっちでもいいけど。」
「ははっ、ありがとう。」
 五十鈴は急に振られて焦りつつも平静を取り戻しつつ同意する。最後の一言は非常に小さな声でモゴモゴ言ったので提督"には"聞こえなかった。

((てか五十鈴ちゃん、分かりやすすぎるよぉ~!さすがにこんな五十鈴ちゃんはいじったらかわいそうか~))

 なお五十鈴の頬は少し赤らみ、引きつっていた。対する那珂は赤らめてはいなかったが、引きつるというよりも頬の感度が少しだけ高ぶっていて、誰かに触れられたら非常に危ないところであった。


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「あ~今度はマジでビックリしたね~。」
 那珂は自身の胸元に手を当ててホッと撫で下ろす。五十鈴もそれに倣って行うが、ノリツッコミのような態度になってしまった。
「ホントよ……ってだからなんで私まで!ち、違うんだからね!?」
「五十鈴ちゃん逆ギレかぃ。わけわかんないよぉ。」

 三千花の目の前でそんなやりとりをする那珂と五十鈴。三千花はそれを眺めていた。自分と那美恵とは違い、かなり凹凸あるコンビだが、五十鈴こと五十嵐凛花ならば、なんだかんだで良き付き合いをしていけるだろうと評価した。

 ただ五十鈴があまりに感情出しすぎ、反応しすぎなところが気になっていた。そこを親友である那美恵に突かれすぎないか、それだけが目下最大の心配事である。
 そんな、ついでの心配をする三千花であった。


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 ひと通りのグループに顔を出して語らった提督は飲み物がなくなった紙コップを手に、中央にあるテーブルへと近寄った。テーブルの端、川内たちがいる方向とは対角線上の逆の場所では妙高と大鳥婦人がおしゃべりをしている。妙高と歳は近いとはいえ、さすがに主婦の井戸端会議に首をツッコむほど空気の読めない野暮な男ではない。
 まったくの同業ではないが近い業種のためにお互い理解のある明石たちのところに戻って会話に参加してみようかと思ったが、見るとかなり会話が弾んでいるようでとても提督が話に入れる雰囲気ではなかった。
 冷静に考えると提督はボッチだった。会社や地元に戻れば気楽に会話できる友人や同僚はいるが、この場では友人と呼べるほどの知り合いはいない。仕方なしに皿を手に料理を2~3取って適当な椅子に座って食事を再開した。
 もともとそれほど社交的ではない西脇提督は、自分で懇親会という場を設けてこの雰囲気を作っておきながら、この空気にやられて若干胃が痛かった。

 提督の様子に最初に気づいたのは妙高と大鳥夫人だった。近くにいるのでさすがに二人は気付き、提督に近寄って話しかけた。二人ともおっとりしているが気が利くため、話題は当り障りのないところで、鎮守府Aの艦娘10人突破の祝いの言葉や、今後の出撃や遠征任務のことを持ちかける。



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 提督が愛想笑いをしながら話していると、そこに夕立が突撃してきた。彼女は料理を取るために中央のテーブル側に来ていた。提督が一人で食べているのチラリと見て、夕立の対提督レーダーがうなりを上げて彼女にビビッとさせた。つまるところ、彼女の行動はいつも突発的な思考によるものだ。

「てーとくさ~~ん!!」

 ガバッという効果音がリアルにしそうな勢いで夕立は提督の座る椅子に飛び込んでぶつかりそうになるが、ブレーキをきかせて寸前でピタリと止まる。
「うお!?あぶないな夕立は。なんだなんだ?」
「お食事するならあたしがあ~んしてあげるから、あ~んしかえして。一緒に食べよ? ……あー!?」

 夕立は提督の肩と腕をつかみながら無邪気に誘いかける。だがその刹那、いきなり素っ頓狂な声を上げた。
「てーとくさん、ポテト取ってる~!!」
「そうだけど、それがどうしたんだ?」
 提督が手に持つ皿にフライドポテトが入っており、なおかつテーブルのほうの大皿にフライドポテトがすでにないことを現実として理解した夕立は地団駄踏んで怒り始める。

「それぇ!あたしがぁ!最後にたべよーと思ってたのぉ~~!!」
「えー、そんなの知らんよ……。」
 駄々っ子のように怒る夕立に提督は呆れつつもやりすごそうとする。提督のすぐ側で見ていた妙高は彼女に優しく声をかけて慰めた。
「夕立ちゃん。また今度作ってきてあげるから、今日は我慢して。中学生なんだから我慢できるでしょ?」
「う゛~~でも食べたいんだもん……」
 今にも泣き出しそうな表情で提督の手に持つ皿rを見つめる夕立。提督はハァ…と溜息一つ付き、皿を夕立の前に差し出した。

「ほら。いいよ食べても。俺まだ箸つけてないからさ。」
 その瞬間、夕立の表情はパァッと明るくなり、提督が差し出した皿と提督の顔を交互に見て一言口にした。
「ほ、ホントにいーの?もらってもいいっぽい!?」
「そんな顔されたんじゃ譲らないわけにはいかないだろ。」
 提督は困り笑いをしながら皿を持っていないの方の手で夕立の頭を軽く撫でた。
「わ~~い!ありがとてーとくさん!大好き大好き!」
 提督は夕立に許可を与えると、彼女はすかさず提督の皿から自分の皿にポテトを移し替え始めた。

 年の割に精神的に幼い夕立。五月雨たちの学校のメンツの中では身体の発育はかなり良いが精神年齢の幼さが天真爛漫ぶりに拍車をかけていて、提督と妙高らアラサー組にとっては手のかかるでかい娘なのである。


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「あっ!ゆうちゃん!また提督におねだりしてるー!」
 夕立の行為を斜め後ろから見てそう言ったのは五月雨だ。先ほど夕立が地団駄踏んで怒りだした時にその光景に気付き、いち早く近寄ってきていたのだ。

「ん?さみも食べる?」
「私はいいよ……。それよりも提督を困らせたらダメだよー。」
「だってさぁ、提督がポテト独り占めしたんだもん。」

「してない。してないぞ!?」
 五月雨は夕立の言葉を受けて提督の方を見ると提督は頭を振ってそれを否定した。なんとなくわかっていた五月雨は夕立の手をクイッとひっぱり連れて行こうとした。
「も~ゆうちゃんは我慢しなきゃ。同級生として恥ずかしいよ?」
「ドジっ子なさみに言われたくなーい。」

 五月雨のツッコミにぷいっとそっぽを向いて言い返し、夕立はポテトを盛った皿を手にして時雨たちのいる場所へスタスタ歩いていった。その場に取り残された五月雨は提督の方を振り返りお辞儀をする。
「提督。ゆうちゃんがご迷惑かけてほんっとゴメンなさい!大丈夫でした?」
「あぁ気にしないで。俺も気にしてないからさ。」
「でもお食事が……。」
「大丈夫大丈夫。まだあれだけあるんだし。まぁ本当はじゃがいも料理好きだったから全部譲ったのはちょっと残念だけど。」

 提督が何気なく口にした好みを聞いて五月雨はきょとんとした表情になる。
「提督、お芋好きなんですか?」
「うん。子供っぽくておかしいかな?」
「いいえいいえ!素敵だと思います!あ!違くて、おかしくないと思います!」
 微妙なフォローをする五月雨。
「ありがとう、五月雨。」
「エヘヘ。じゃあ失礼します。」
 微笑みながら軽く会釈をして五月雨は夕立を追いかけて時雨達の元へ戻っていった。


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 一部始終を見ていた大鳥夫人は苦笑いしながら感想を述べる。
「西脇さんも大変ですね。いろんな子の面倒見ないといけないなんて。」
「ハハッ。さしずめ父親か兄か学校の先生になった気分ですよ。」
「でも皆楽しそう。ここがきっと安心できる場所だからなんでしょうね。」
「そう思ってくれてるといいんですけどね。今はまだ10人程度だからいいですけど、今後艤装が配備されたら人増やさないといけないし、その時俺がみんなの面倒見切れるかどうか。」

 提督の思いを耳にして妙高と大鳥夫人は相槌を打った。
「そうですよね。提督だけでは大変でしょうし、私のような者でよければどんどんご指示ください。子供好きなので、今のあの子たちくらいの子でしたら喜んで協力いたしますよ。」と妙高。
「ありがとう、妙高さん。助かりますよ。」

「あの…西脇さん。素朴な疑問よろしいでしょうか?」
「はい、なんでしょう?」
 大鳥夫人は申し訳なさそうに遠慮がちに提督に声をかけた。夫人が質問してきたのは艦娘のことだった。大鳥夫人の質問の意図に気づいた妙高は婦人に確認する。
「大鳥さん、もしかして艦娘にご興味が?」
「興味といいますか、提督の今のご様子見てると子どもたちのお世話大変そうなので、もっとお手伝いできればいいなと思いまして。下の娘の高子も中学生になって、それほど手がかからなくなってきたので、パート代わりにと思いまして。」

 大鳥夫人は、主婦友の妙高が艦娘として鎮守府に通い、艦娘らしいアクティブな活動からご近所様よろしくお手伝いさんのように振舞っているのを見て興味を持ち始めたのだった。その思いを打ち明けられた提督は、艦娘としての活動が完全なパート代わりになると思われると肩透かしを食う面もあるので、給与など金銭的な面を含めて説明した。するとそれでも納得したのか、大鳥夫人はかまいませんと意を表してきた。
 それならば今後お願いしますと言い、提督は一息ついた。ただひとつ、必ずしも希望の艤装との同調ができるとは限らないことを念を押しておいた。

 説明が落ち着いたところで、提督はふと思い出したことを口にした。
「ところで大鳥さんの上の娘さんは、すでに職業艦娘と伺ったのですが、本当ですか?」
 さきほど五月雨たちと一緒にいた大鳥高子から聞いたを提督は改めて確認するため問うた。大鳥夫人の側にいる妙高も初耳であり、尋ねるような表情で夫人に視線を向ける。

 大鳥夫人は最初は何のことかわからない様子であったが、思い当たる節があるのか微かに頷いて答え始めた。
「もしかして、あの子のバイトのことかしら? あの子ったらちゃんと話してくれないからわからなかったわ……。えぇ、今思うとそれらしいことを言っていた気がします。」

「鶴喜(つるぎ)ちゃんももう大学生ですし、夜遅くなることも多いでしょうから心配でしょ?」
「えぇ、普段は活発なんですけど、私に似ておっとり屋なところがあるので何かとねぇ……。」
 妙高は大鳥夫人の上の娘を知っているのか、名前で呼んで夫人の普段の苦労を想像して声をかける。大鳥夫人も苦笑いしながら妙高に応対した。
 提督は夫人二人の井戸端会議の雰囲気に若干飲まれつつも、冗談を交えて考えを述べた。
「その……娘さんの鶴喜さん?もいつかうちの鎮守府に着任していただけると運用者の立場としては嬉しいですね~。」
「あらそうですね!西脇さんとは面識ありますしこれだけ近くなら娘を安心して預けられますし、親子ともどもお世話になれるなら安心して勤められます。」

 大鳥夫人は両手を叩いて提督の何気ない希望に賛同し、にこやかにしていた。


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 五十鈴と三千花を話している間、那珂は離れたところで妙高・突っ込んでいった夕立・五月雨と何か話している提督のことが気になっていた。視線を送るわけでもなく、あくまで頭の中で意識しているだけである。
 そのため若干上の空になってしまっており、三千花から注意されてしまった。

「…ねぇ!なみえ聞いてる?」
「ふぇ!?あ、なぁに?ゴメン。ボーっとしてたよ~」
 横にかかる髪をサラサラと撫でながら弁解する那珂。
「とか言って、あんたまた何か茶化すこと考えてたんじゃないでしょね?」
それを見た五十鈴は那珂の普段の行動パターンを想像して冷やかす。

「ひっどーいなぁ~五十鈴ちゃん。あたしそんな毎日毎時毎分そんなこと考えてないよ!」
 那珂は小指と薬指で軽く五十鈴の肩を何度も突きながら言い返した。
「いたっ!いたい!そこ素肌だからやめてよ。あんたの爪当たってるのよ!」

 突付き突かれる那珂と五十鈴を見て三千花はプッと吹き出す。その吹き出し音を聞いた那珂と五十鈴は目を白黒させて見合う。
「ど、どしたのみっちゃん!?」
「な、なにかしら!?」
「ううん。ゴメン。二人のやりとり見てたら思わず。」
 那珂と五十鈴は顔を再び見合わせて頭に?を浮かべる。那珂はその後自身もニカッと笑って三千花に返した。
「みっちゃんが何気なく笑うなんて珍しー。」
「珍しいってなによー。それじゃ私が全く笑わないみたいじゃない。」
「エヘヘ。ゴメンゴメン。みっちゃんは笑わなくても可愛いよ~。」
 五十鈴とは違い、親友に褒められて悪い気はしない三千花。
「はいはいありがとね。なみえだって十分イケてるよ。」
「フヒヒ~。またみっちゃんから褒められちゃったぜぃ。」
 ニンマリとする那珂。五十鈴はそんな二人の親友としての掛け合いを見て遠い目をしながらも微笑んでいた。

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 ふと三千花は鎮守府に来る前に那珂が川内と口約束していたことを思い出し、確認してみた。
「なみえさ、そういえばなんか忘れてない?」
「ん?なにが?」
「……忘れてるわね。まぁ私としてはどうでもいいんだけどさ。なみえ、内田さんと約束してたでしょ?」
「約束ぅ? ……あっ!」

 那珂はハッとした表情になった。三千花の指摘通り、すっかり頭の片隅に追いやっていたのだ。
「そうそう。そうだよ。あたしとしたことがぁ~~!」
「どうしたの?」
 わざとらしく頭を両手で抱える那珂に五十鈴が質問した。
「着任式が終わったらさ、川内ちゃんと神通ちゃんに記念に艤装フル装備させて同調やらせてあげたいねってこと。ここ来る前に話してたの。」
「へぇ~。いいじゃない。訓練してないから動けないでしょうけど、いい記念にはなるわね。」
 仔細を聞いた五十鈴は那珂の言に賛同した。

「お~い!川内ちゃん!神通ちゃぁ~ん!」
 那珂は先ほどまでいた場所、川内たちが今もおしゃべりしている場所にスタスタ歩きながら声を上げて二人を呼ぶ。


 那珂が自分たちの集まりのすぐ後ろまで近づいてきたので体ごと振り向く川内たち。
「はい。なんですかぁ?」
「あたしすっかり忘れてたよ。二人の艤装フル装備お願いするの。」
 那珂から言われて初めてハッとした表情になる川内。神通は前髪で隠れているが、似た表情をしている。つまり二人とも今の今まで頭の片隅に欠片ほども残っていないほど失念していた事が伺えた。

「あ~~あたしも忘れてました。自分でお願いしといてなんですけど。」
「あたしも川内ちゃんもうっかりしてたね~~」
アハハと笑い合う那珂と川内。
「じゃあお願いしちゃいましょうよ。」
「うん。そーだね。」
 神通は密かにノリ気ではなかったが、彼女の要望はは乗り気になっている那珂と川内の耳には届かない。川内の賛同を得た那珂は二人でその足で今度は提督のところに行った。
 後ろからは神通がもそっとした仕草でついていった。


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 一方の提督は妙高と大鳥夫人との話が途切れる頃だった。主婦らと合う話題なぞ彼の頭の引き出しにはないので内心焦っていたが、そこに助け舟が来た。
 那珂である。
「提督。ちょっとお願いがあるんだけど、今話せますかー?」
 妙高と大鳥夫人が側にいたため、那珂は普段の軽い調子を少し抑えて淑やかに提督に話しかける。
 少なからず嬉しく思った提督は快く返事をして反応する。
「あぁいいとも。どうしたんだ?」
 提督の座っている椅子のすぐそばに那珂と川内、その後ろには神通が立っている。
「あのね。川内ちゃんと神通ちゃん、今日正式に着任したでしょ。それでね、初日の記念に艤装全部装備して海に出させて欲しいの。どうかな?」

 那珂の提案を聞いて提督は眉間にしわを寄せて表情をこわばらせる。那珂はそれを見てなにかまずいこと言ったのかもと不安を身にまとう。
 提督は川内とその後ろにいる神通をチラリと見て口を開いた。
「それはダメ。二人ともまったく訓練を受けてないからまともに動けないと思うから危ないよ。軽い気持ちでOKを出して初日に大怪我でもされたら、俺は責任者として失格だ。お互いの身を守るためにも、基本訓練をこなすまではダメ。」

「え~~!?あたしが監督役で側にいても?」
「ダメ。」
「じゃあ身につけて写真取るだけ。ね?ね?」
「……まぁ、それくらいなら。」
「やった!!!やったよ川内ちゃん!神通ちゃん!」
「やったぁ!」

 提督からしぶしぶの許可をもぎ取ると、那珂は川内と神通の手を取ってブンブンと振って喜びを伝え合う。海に出るのではなく装備をするだけであればと神通もわずかに乗り気になった。
 当事者以外の妙高が不安に感じて提督に尋ねた。
「提督、本当によろしいのですか?」
「まぁ、身に付けるくらいだったら。」
 そう妙高に言い訳的に言い返し、そして川内たちの方に向いて改めて言い渡した。
「でも同調するのもダメだからな。地上で同調してうっかりにでも地面や周りの施設壊したら大事になりかねないからな。」
 提督の許可する範囲は神通は自身の望む範疇の事だったため、僅かに表情を柔らかくして頷いた。

「え~~、同調したらいけないのぉ?せっかくスーパーヒロインの川内ちゃんと神通ちゃんを見たかったのにぃ。」
「あたしもスーパーパワー出してるところ見てもらいたかったのに~~。」
「そんなの基本訓練した後ならいつでもさせてあげるから。今回はそれで我慢してくれ。」
「「はーーい。」」

 同調すらしてはいけないという提督の許可に不満を持つ那珂と川内だったが、基本訓練とやらをクリアすればいつでもさせてもらえるという言を聞き、おとなしく従うことにした。
 これから始まる夏休み、早めに訓練を終わらせて、川内と神通にガンガン海に出て艦娘になった実感を得てもらおうと密かに頭に思い浮かべる那珂であった。

終演

「さて、宴もたけなわではございますが、このあたりで懇親会を一旦閉めさせていただきます。」
 提督の音頭の声が響き渡る。
 時間にして16時。夕方にさしかかっている。片付けの時間や、主婦組の妙高と大鳥夫人からすると、家事に戻らないといけないため、タイミング的にはちょうどよい。

「ねぇてーとくさん!余ったお料理はどうするのぉ?」
 夕立が声を張って質問した。
「そうだなぁ。食べられそうなものは食べきってもらって、あとは処分するか。」
「もったいなーい!」
「そうだよ提督もったいない!」
 夕立の声に続いたのは川内だった。鎮守府Aのメンツでよく食べる2人の言い分だった。

「って言われてもなぁ。」と渋る提督。
「ねぇねぇ!パックない?あたし持ち帰りたーい!」
「夕立ちゃん、それいいねぇ!!」
「エヘヘ~でしょ?でしょ?」
 こと食事周りの事に関すると、同じノリでどうやら波長が合うと直感した二人。パックに入れて持ち帰りたいと言い出す二人に突っ込んだのは、夕立に対しては時雨、川内に対しては神通だった。

「ゆうったら食い意地が張ってるんだから控えてよね。」
「私も……時雨さんに同意です。」
「さっちゃんさぁ、そんなこと言ったって、食いきれないから捨てちゃうなんてもったいないじゃん。これ生活の知恵だっての。」
 川内の言い分にも一理あるのですぐさま意見を引っ込めて俯いて神通は大人しくなってしまった。
「そーだそーだ!川内さんの言うとおりっぽいー!」
「はぁ……ゆうったら。わかったよ。」
  夕立はノってガッツポーズをすると、時雨もしぶしぶ折れることとなった。

「それでしたら家からちょっと包むもの持ってきますね。」
「えーと。大鳥さんが戻ってくるまでは片付けられるものだけ片付けておこうか。」
「はい!」
 大鳥夫人はすぐに気を利かせて必要な物を取りに自宅に戻っていった。提督の一言に全員返事をし、片付けを始めた。



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 片付けを始めてから十数分して大鳥夫人がラップやプラスチックのパックを持って戻ってきた。片付け自体は椅子や長机を並び替える程度で済んだので全員早々に作業が落ち着いていた。
 夫人が持ってきたラップやパックは持ち帰りたいと率先して言っていた川内と夕立、そしてさりげなく希望してきた那珂や五月雨・村雨らが受けとリ、お菓子や余った料理を入れていった。
 持ち帰りきれない余ったものは男子の三戸と提督になぜか促されて集中し、二人は困り笑いをしながらも食べることで処分とした。

 片付けが終わり、懇親会の会場は普通の会議室にその姿と役割を戻した。この後は各自自由解散となる。妙高と大鳥夫人は提督とその場にいた全員に会釈をして自宅へと帰っていった。五月雨たちは大鳥夫人の娘、高子を連れて待機室に戻って行った。その場には那珂たち高校生組と教師の阿賀奈、唯一の中学生不知火、明石たち工廠の技師組、そして提督が残った。

「それじゃあここ鍵締めるけど、那珂たちは本当に艤装装備するのか?」
「うん。そのつもりだよ。ねぇ?」
 那珂は隣にいた川内と後ろにいる神通に目配せをして同意を求めた。二人はコクリと頷く。

 提督は苦々しい顔を保ったまま、明石たちに向かってお願いをした。
「明石さん、四ツ原先生、すみませんが那珂たちの監視役お願いできますか?」
「えぇ。いいですよ。どうせ私は改修中の武装のメンテもまだ残ってますし。」
「はい!任せて下さいー!」
 一同は提督の合図で廊下に出る。全員が出て会議室が空っぽになると提督は鍵を閉めた。 そして明石たち技師3人と教師の阿賀奈に任せるよう願い入れて執務室へと向かおうとする提督。その様子に反発したのは川内だった。

「え~!提督見てくれないの?」
「いや、俺やることあるからさ。だから明石さんたちに任せたんだよ。」
「でも~、新しい艦娘のかっこいい姿を見てくれたっていいじゃん。」
 川内が提督に食ってかかると、提督は怪しい口調で反論した。
「訓練のときに君たちのあんな姿やこんな恥ずかしい姿いくらでも見られるから、楽しみはあとに取っておくよ。三戸君もどうせ二人のフル装備の姿見るなら、そっちのほうがいいだろ?」
 同じ男として同意を三戸に求める提督。
「えっ!? 今俺にフるっすかぁ~!?」
 全員の視線が三戸に集まり、三戸は冷や汗を垂らす。すべては三戸の答えに委ねられた。そして三戸が出した返事は次のものだった。
「お、俺も……内田さんと神先さんのかっこいい姿とかエロい姿両方とも見たいかなぁ~なんて……ハハハ。うっ!?」
 言い終わるが早いか、三戸は周囲の女性陣、特に中高生組の軽蔑的な視線を浴びまくる。一方で大人の女性陣の同様の視線を浴びたのは提督だった。

「まーったく、男ってみんなこうなのかなぁ……?」と那珂はジト目を提督と三戸を交互に向けながら言い放つ。
「…提督のそういうところ、あまり好かないわ……。」小声で五十鈴が照れながらボソッと呟く。
「三戸くんもあたしのことそういうふうに見てたんだ……はぁ。」川内はジト目をしながら大きくため息をつく。
「さっちゃんをそんな目で見ないでくださいね、二人とも。」
 和子は神通を三戸と提督の視線からかばうように立ちふさがった。当の神通は顔をやや赤らめて和子の後ろで俯いていた。

「提督さんったら……、うちの生徒を変なことしたらめっ!ですよ~。」
 阿賀奈は失笑しながら、教師風を吹かせてオーバーリアクション気味に提督を注意する仕草をした。
「提督、もし対象が五月雨ちゃんたち中学生だったらアウトですからねぇ~?」
 明石は提督の側に行き肘打ちしながら茶化して言い放つ。明石の同僚らも提督を茶化す。
「アハハ。西脇さんったら。清い高校生を変な道に誘い入れないでくださいね~?」

 提督と三戸は一様の反応を示す女性陣のため気まずい空気に押しつぶされそうになっていたが、どうにか踏ん張って耐えた。
 そして那珂が流れを締める言葉を発する。

「まぁいいんじゃない?提督には後でた~っぷり見ていただくとして、今回はあたしたちだけで行こ!」
「ま、那珂さんに免じて許してあげるわ。三戸くん、ちゃんと写真撮ってよね?変なポーズなしだよ?」
「わかってるって!させないさせない!」
 頭をブンブンと振って否定する三戸。

 気を取り直して提督は明石と阿賀奈に再三のお願いを口にした。
「じゃあ俺はホントに行くから、明石さん、四ツ原先生、後はよろしくお願いします。」
「「わかりました。」」

 明石たちの返事を確認したあと、提督は途中の階段まで那珂たちとともに歩き、そして階段を登って執務室へと向かっていった。一方の那珂たちは、全員揃って工廠へ行くことにした。
 直接関係ない五十鈴と不知火も一緒だ。五十鈴は那珂と三千花に、不知火は神通に従う形でついて行った。


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 16時すぎ、夕方にさしかかっているとはいえ日差しは強く照りつけ、コンクリートの地面づくしの工廠付近は反射熱で熱が逃げないため、立ち止まっているのはやや危険な暑さであった。そのため一行は明石の案内のもと、工廠の中、空調が効いている一角に集まってそこで待機することにした。

 しばらくして明石が台車で那珂・川内・神通の艤装を運んで持ってきた。
「あれ?3人分ある。あたしのも?」
「そうですよ。だってどうせなら川内型3人揃って装備して撮ってもらったほうがいいでしょ?」
 明石の配慮で川内と神通だけでなく、那珂も艤装をすべて装備することになった。

「せっかくなので五十鈴ちゃんと不知火ちゃんのも出してきましょうか?」
「いいえ。遠慮しておきます。だって、せっかく揃った3人の邪魔をしたくありませんし。」
「私も遠慮しておきます。」
 明石の追加の提案で五十鈴と不知火の艤装も用意されようとしたが、二人はそれを断った。五十鈴はプライベートでは完全に部外者・別の学校の人間であるため、、那珂(実際は川内の思いつきでだが)が望んだ3人揃っての記念撮影、それを邪魔する無粋なことはしたくなかった。不知火も神通たちの晴れ姿を邪魔したくないという思いは一緒だった。

「それじゃあ、3人とも艤装つけちゃいましょう。」
 明石の合図と案内でもって那珂たち三人は工廠の一角で、五十鈴たちや三千花たちが見ている前で艤装を装備し始めた。
 三千花たち高校の生徒会組は那珂が一から艤装を装備するところを見るのはこれで二回目だ。川内と神通が一から装備するのを見るのは全員初めてである。一度フル装備しているとはいえ、那珂と違い二人は明らかに装備の手順を手間取っている。
「那珂さ~ん、これはどこにつければいいんでしたっけ?」
 川内はやや泣き声で那珂にすがる。一方の神通は黙々と艤装を手に取り撫で回している。彼女は艤装の仕組みを身に付けながら調べているのだ。
「これはね~ここの留め具を一旦外してからこうやってつけるんだよ~。ん?神通ちゃんはだいじょぶ?」
「……はい。なんとなくわかりました。」
「おぉ!?さっちゃんよくわかったねぇ!あたしこういうの苦手だわ。プラモとかだったら得意なんだけどなぁ~」
「……内田さん、落ち着いて。ちゃんと手に取ってこうやって……見ればわかるから。」

 那珂から装備の仕方の手ほどきを受けた川内と神通はあーだこーだと言いながらお互い話し合って艤装を装備を終えた。神通は、川内とはかなり普通に話せるようになっていた。

 数分後、先に装備が終わっていた那珂のあとようやく神通、その次に川内の装備が完了した。今までは制服だけで同じ姿であったが、ここにいるのはフル装備した3人。
 ほぼ同じ姿になった3人を見て、その場にいた誰もが歓声をあげた。それは、今までは那珂だけしか見られなかった、軽巡洋艦の艦娘の中でもっとも軽装なタイプの艦娘であった姿、それが三人キレイに揃っているという不思議な感覚から来るものだった。

「あ…アハハ。二回目だけどなんか感動!同調しないと重いなぁ。三戸くん!早く早く写真撮って!!」
「はいはい。そんな慌てなくても。まずは会長と神先さんと一緒に撮ろうよ。」
「そっか。せっかくの川内型の記念だもんね。」
「そうそう。」
 早る川内の催促をなだめる三戸。3人揃っての撮影がまず最初というのは、那珂や神通、それから三千花たちの意識としても一致していた。

 同調してはダメという提督の言いつけを律儀に守ると、軽巡洋艦艦娘の中では軽装とはいえ、女子高生が身につけるものとしては十分に重量がある川内型の艤装。体力がある那珂や川内はまだましなレベルで動けるが、おとなしくて運動らしい運動が習慣になかった神通は、初めて自分で装備した(装備自体は二度目だが)艤装の驚きの重量に動けず、その場で目を白黒させている。
 その様子を見た那珂はさすがに彼女にはつらいと感じ、監視役の明石に提案する。
「ねぇ明石さん。あたしはまだいいけど、神通ちゃんは相当辛いみたい。一瞬だけ。一瞬だけ同調させてもいい?」
 明石も神通の様子が気になっていたので提督に内緒で同調させるべきかどうか迷っていた。が、那珂からの懇願を受けて押し返しきれずに決断した。
「うーん。提督には内緒ですよ。あの人ああ見えて怒るとめちゃくちゃ怖いですから。特に今回は3人の身を心配して指示したことですから、守らなかったと知られたら……。」
「うん。わかった。川内ちゃんも神通ちゃんも、みっちゃんたちもこのこと内緒ね?」

 各々頷いて意識合わせした。全員から賛同を得られると、那珂は一足先に同調することにした。
「いい、二人とも。同調の仕方はもう大丈夫だよね?艤装を装備してるからっていっても、まったく変わらないよ。ただね、艤装が全体的にエンジンみたいな動作音するからビックリすると思うけど、気にせず同調し続けてね。そんじゃまあ、あたしからいきまーす!」

ドクン


 宣言したあと川内たちから1m弱離れてから、呼吸を整えた後同調した那珂。腰につけたコアユニットが精神状態を感知し、その他の艤装のパーツに同調したという人体の情報を伝達する。
 艤装がかすかに動作音をさせる。
 次の瞬間、光主那美恵は軽巡洋艦艦娘、那珂に完全に切り替わった。

「ふぅ。じゃあ二人とも、やってみて。」
「「は、はい。」」

 顔を見合わせる川内と神通。なんとなしにアハハと笑いを漏らす。とりあえず二人は那珂のしたとおりにすることにした。
 川内は神通から1m弱距離を置く。そこは那珂や明石、三千花たちからも十分離れた場所だ。川内が移動したことで、神通も他のメンツからは十分離れた距離になった。

「それじゃあ、内田流留、行きます!」
 宣言通り先に同調をし始める川内。
 呼吸を落ち着ける。その後川内は同調し始めると、那珂と同じく腰につけたコアユニットがその同調したという情報を感知させる。コアユニットがそれをその他の部位の艤装に伝達し、装着者の精神状態と各部位の艤装がシンクロし始めた。
 次の瞬間、内田流留は完全に軽巡洋艦艦娘、川内に切り替わった。
 それは、光主那美恵がなった川内、中村三千花がなりかけた川内とも異なる、これからの鎮守府Aを担う、本当の艦娘川内だった。

「……ふぅ。あー、動きたい動きたい動きたいー。」
「川内ちゃん。同調したら地上ではむやみに動かないで。ホントに普通の人の数倍以上にパワーアップしてるんだからね!」
 那珂のかなり真面目な質の声が響く。川内は腕を動かしたり足を蹴り出そうとしていたが、その声に驚き、寸前で止まる。
 多分この生徒会長も怒らせるとかなり怖いのではとなんとなく察した。

「はーい。じゃああたしの同調は終わりました。次はさっちゃんね。頑張ってよ!」
「はい……。」
 神通は弱々しく返事をした。


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 那珂と川内の同調する様子をマジマジと捉える神通。見た目は変わらないが、はっきり感じ取れた。今自分の側にいる那珂と川内は、一般的な人間とは呼べない存在になった。人ならざる者と言ってしまっても過言ではないかもしれないと神通はうつむきながら、心の中で思う。
 昔艦娘になったという近所の女性も、こうして変身したのかと思うと、途端に怖さが湧き上がる。外見は変化がないのに、中身がまったくの別物になるということ。
 自分を変えたいと願って志願し、そして艦娘部として加わり正式に着任した。それはもしかしたら、考えの甘い迂闊な行為だったのかもと思考がネガティブな方向に及ぶ。
 神通の精神状態は不安定だったが、彼女は頭を軽く振り、思考を切り替えたつもりで同調し始めた。

ドクン

 神通の精神状態がコアユニットに伝わる。コアユニットがその精神状態を感知して各部位に伝達し始めた。前回と同じ感覚が一瞬全身を支配する。コアユニットからその他の艤装のパーツに、幸としての精神状態と意識、その状態を媒介として、軍艦神通のありとあらゆる情報が流れ込んで馴染んでいく。
 先ほどの那珂の説明通り、各部位の艤装からかすかに響く動作音が神通の耳に入ってくる。自分で一から装備した艤装と同調できている。先程までの妙な恐怖やネガティブな思考が消えた。そう感じた。
 次の瞬間、先の二人と同様に神先幸は、軽巡洋艦艦娘神通に完全に切り替わった。


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 これで、同調した完全な川内型艦娘が一同の前に揃った。最後に同調した神通は先二人のような一息をつくことなく、黙ったまま立っている。

「神通ちゃんには特別にかるーく腕や足を動かすのを許したげる。やってみて。」
 那珂の指示を聞いた神通は、本当にそうっと腕を上げてみた。前回の時はほとんど動くことなく同調を切って戻ってしまったが、今回は違う。そうっと動かしたつもりの腕振りが、ボクサーがジャブを打つかのようにシュバッと風を切る音を立てた。神通は今までの自分とは違う感覚で行動を起こしたことに驚きを隠せない。それで満足した神通は那珂に伝える。

「全部装備した艦娘って、こういう感覚なんですね……。すごい……。」
「喜んでもらえてなによりだよ。まだ動くのに慣れてないだろうから、一旦同調切って。重くてしんどくなるだろーけど、写真撮るから場所移動しよ?」

 そう言った那珂は光主那美恵だった頃となんら全く変わりなくテキパキ動いて移動し始める。一方の川内と神通は那珂の言いつけどおり同調を切っていたため艤装の本来の重さがのしかかっていた。三千花や和子・三戸からすると少々面白いくらいにスローな動きで移動しようとしている。

「プッ。フハハハ!なんだよ内田さんその動き!面白すぎだよ!」
 三戸は思わず笑いを漏らしてしまった。そんな彼に川内はキッと睨みをきかせる。本当は冗談っぽく腕をあげたかったが、そんなことをする気も失せたので表情だけで怒ってみせた。
「さっちゃん……ゴメンね。面白い……!」
 和子は両手で口を塞いでうつむいて肩をプルプルさせながら笑っていた。そんなに友人の姿を見て俯いてショック隠せないでいる。

「そういえば、私も一番最初の頃はあんなだったわ。提督に大笑いされたの思い出しちゃった。不知火はどうだったのかしら?」
 五十鈴は遠い目をして自分の訓練初日の様子を思い出していた。聞かれた不知火もコクリと頷いて思い出すように言った。
「……似たようでした。」

 すでに艦娘である二人も似たような状態であったことをポロリと打ち明ける。そのことは一番近くにいた三千花や三戸の耳に真っ先に入ってきた。
「五十鈴さんもそうだったんですか?想像したら……笑ったらいけないんでしょうけど、フフッ。ゴメンナサイ。」
「中村さんにまで笑われるなんてショックだわ……。それはそうと、私のことは本名で呼んでもらってもどっちでもかまわないわよ。」
「え? ……それじゃあ私のことも、気軽に名前で呼んでもらってもいいですよ、凛花さん。」
「了解よ。三千花さん。」
 懇親会でたくさん話して打ち解けたためか、五十鈴は三千花と軽く冗談を言える仲にまで進展していた。そのため五十鈴は自身の本名で呼ぶことを三千花に許す。それを受けて三千花も逆に自身を苗字ではなく、名前で呼ぶよう願い入れて返事とした。

 それを側で見ていた三戸はすかさず話に割って入る。
「じゃあ俺も五十鈴さんのことそう呼んd
「申し訳ないけどあなたは勘弁して頂戴。」
 言い終わるがはやいか、五十鈴から口調は丁寧だが鋭い拒否の言葉が三戸に突き刺さる。五十鈴と三戸の関係のなさからして、当たり前の反応だった。

「おーい、あたしたち準備おっけーだから、早く写真撮ってよ~。」
 那珂が三千花たちに催促の言葉を投げかける。カメラを持っていた三戸がそれに反応した。
「はーい。了解っす。そこでいいんすね?」
「三戸くん!早く早く!」
 カメラを掲げながら数歩進んで近寄る三戸が再確認すると、那珂のとなりにいた川内が両手で手招きをして三戸を急かした。三戸はそんなに急かさんでもと文句を言ったその顔はにやけていた。

「じゃあいくっすよ~。はい。一足す一は……」
「にっ!!」

 言葉を発したのは那珂と川内だけだったが、黙っていた神通も、珍しく和子以外の人でもわかるくらいのはにかんだ表情を浮かべていた。その後、那珂だけ、川内だけ、神通だけ、川内と三戸、神通と和子、仲の良い者同士で撮りあって、川内型艦娘の真の姿を青春の思い出の一つにした。
 川内と神通はこれからの艦娘生活に期待と不安を持ちながらこれからに臨む決意をした、三千花、三戸、和子の三人は大事な友人が少しだけ遠い世界に行くことに一抹の寂しさを覚えつつも門出を祝った、大切な土曜日となった。

同調率99%の少女(12) - 鎮守府Aの物語

なお、本作にはオリジナルの挿絵がついています。
小説ということで普段の私の絵とは描き方を変えているため、見づらいかもしれませんがご了承ください。
ここまでの世界観・人物紹介、一括して読みたい方はぜひ 下記のサイトもご参照いただけると幸いです。
世界観・要素の設定は下記にて整理中です。
https://docs.google.com/document/d/1t1XwCFn2ZtX866QEkNf8pnGUv3mikq3lZUEuursWya8/edit?usp=sharing

人物・関係設定はこちらです。
https://docs.google.com/document/d/1xKAM1XekY5DYSROdNw8yD9n45aUuvTgFZ2x-hV_n4bo/edit?usp=sharing
挿絵原画。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=59765870
鎮守府Aの舞台設定図はこちら。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=53702745
Googleドキュメント版はこちら。
https://docs.google.com/document/d/14ngeBtlJ5dP9crGfubou04K_9I7fLAnjHMeqpi0grmo/edit?usp=sharing

同調率99%の少女(12) - 鎮守府Aの物語

川内と神通の着任式の後は、鎮守府に関わる関係者同士による懇親会。那珂たちはもちろんのこと、五月雨たち、そして提督・妙高ら大人勢もしばしの歓談を楽しみ始める。 艦これ・艦隊これくしょんの二次創作です。なお、鎮守府Aの物語の世界観では、今より60~70年後の未来に本当に艦娘の艤装が開発・実用化され、艦娘に選ばれた少女たちがいたとしたら・・・という想像のもと、話を展開しています。 ===2016/12/31 - 全話公開しました。

  • 小説
  • 中編
  • 青春
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-17

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work
  1. 懇親会開始
  2. 五月雨・時雨・夕立・村雨たち
  3. 那珂と五十鈴
  4. 川内・神通・不知火たち
  5. 提督と艦娘たち
  6. 終演