地球の涯てを 突き刺すダンス

地球の涯てを 突き刺すダンス

   







   






   


   
「いつか僕が ボンネットの上で 幸せな最後の息を引き取るとき」



                           「うすれゆく 意志が 最後に看取ったもの」



                                                     「歪んでいった 君の眼 その中の

                                                                    やわらかな静謐・・・・・・」




                



      



                 









   
男の子はロンドンのクラブディスコで レイヴの最中に女の子に出会って、



   


二人はベルリンのアウトバーンで お互いの血を舐めあってから指輪を交わす。



   


大金を手にしたカップルは モスクワの検問所を自動小銃を乱射しながら突破したのち、



   


上海の波止場で売女を買った彼を 彼女は袋叩きにする。



   







   






   


   
                                     それでもデトロイトの廃車置場で彼女は 彼しか愛せないのだと呟いて、



   


                                  ついに彼はシドニーのハーバーブリッジに立って 彼女を宇宙一の女だと叫ぶ。



   


                                      二人の男女は覆い尽くすサハラの空の下 夢中で子作りに明け暮れて、



   


                              彼ら恋人たちは黄昏時のローマで 世界が終わるまで盗んだフォードV8を転がしている。


  


   







   






   

「虚ろな みなしごだった 

 わたしの

 冷えた魂を引き取って」



   

                               「生身の

                                心で 暖めてくれた

                                あなたの魂の優しさは」





                                                             「その 哀しい清らかさのために

                                                              いつか 時間を 永久に置き残したまま

                                                               ふたり 路上で 嬲り殺されてしまうだろう」


   



   







   






   




   
                            地球の涯てを 突き刺すダンス。


   
                            地球の涯てまでの 生死の舞踏。




                       夕方の衛星ニュースが 恋人たちの罪を数え上げる。




                         二人の終わり方が  二人の生の意味そのもの




                            運命と重力につながれた彼と彼女は、


   

                        二人が食べ残したまま死んでゆく  林檎みたい。




   







   






   


   




「きみは河 それとも湖」

「海よ」


        「あなたはバイク それとも自動車」

        「爆撃機さ」


                      「きみはピストルか ナイフか」

                      「マシンガンよ」


                                     「あなたは悪魔 それとも人間」

                                     「排水溝さ」


                                                  「きみは恋してる それとも恋してない」

                                                  「濡れてるわ」


                                                              「きみは恋する相手といるか いないか」

                                                              「いるわ いま、あなたとファックしてる」



   







   






   



   
                    突然、地上が傾斜する。



   

                    物語すべてが 滑り落ちてゆく。  



   

                    彼女が 滑り落ちてゆく。  



   

                    滑り落ちる彼女を 彼は抱き止めて、



   

                    彼と彼女は  詩篇の地下へ  滑り落ちてゆく。



   

                    火を噴くフォードV8   彼らは どこにもいなくなる。



   

                    カメラのアングルは 彼らの最後の瞬間を じっと見届けて、



   

                    この地球の涯ての物語に 最後のカップルの写真が残る。




                    彼と彼女の最後を 僕は ボニーとクライドのバラッドと名づける。



   



   







   






   

地球の涯てを 突き刺すダンス

「ボニーとクライド」は1967年のハリウッド映画『俺たちに明日はない』に描かれた主人公の男女。1930年代前半のアメリカに実在した銀行強盗のカップル。彼らの最期は警察の待ち伏せによって、走行中の車ごと150発以上の弾丸を受けて絶命したことで有名。二人の人生の詳細はウィキペディアなどで読むことができる。

元々は「ボニーとクライド」を意識して描いた詩ではなかった。
ドイツの映画監督ヴィム・ヴェンダースが1992年に発表した作品『夢の涯てまでも』にインスパイアされて作った。

作者ツイッター https://twitter.com/2_vich

地球の涯てを 突き刺すダンス

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-14

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted