花束を

折れそうな僕が掲げる覚悟を君へ。


僕はどうしようもないことに君が好きだ。
まことに君から迷惑極まりない事かもしれないが。

確かに惚れてしまっている。


その優しい手だとか。
笑ってた時の柔らかい表情とか。
真っ直ぐにこちらを見据える瞳とか。

好きである。
しかし、どれを比べても及ばぬくらいに

何かを掴もうと手を伸ばす君が好きなのである。


進む道を決めた時にその足に込める力に。
踏み出す1歩目の熱に。
狙い定めた先を照らす眼光に。

なりたいと思うくらいに。


意気地のない僕は、君の隣が欲しくて仕方がない。
隣を許してくれる君に甘えては、背中を向けた途端君の邪魔になってはいないかと怯えて歩くのだ。

そんなことならと、君から離れる強さも自信もない僕は。
本当に格好が悪い。
欲するものを掴まんとするその指先が愛しいと説きながら、その指先をこちらに向けていて欲しいと願うのはなんたる勝手であろうか。

そして僕は君の思考の端ですら掴みきれない。
その半分も汲み取って、大丈夫だと支えることもできない。
なんとももどかしく、虚しい言葉が喉元につっかえる。
なんとも響かない。


けれども。
その目を見た僕は悟る。
君が見据えたものは何であるかを。

そして君を送り出す覚悟を望む。
この細く繋がった糸を放せば、君は2度とこちらへ振り向かないようなそんな気がしてならなかったのだ。

帰ってきて欲しいとはあくまで僕の傲慢である。
君は自由なのであるから。
気まぐれのままここへ戻るもよし、そのまま返らぬのもよしなのだ。
僕に繋ぐ権利など微塵も存在していないのだ。
縋りそうな腕を押さえて言う姿は君には安易に想像がつくだろうけれど。それが僕なのかもしれない。


なんとも卑しいこの僕が。
震える手で築いたこの決断をどうか許してほしい。
本当に頼りのない腕であることは承知している。

もし必要がないのなら余計な心配だと笑って欲しい。

君に忘れ去られるより、置いて行かれてしまうより、僕の最も愛しい部分の枷になることが遥かに恐ろしい。
遥かに哀しい。そして遥かに苦しい。


今こうして述べた言葉の陰では寂しさと不安が溢れかえりそうだ。
これ以上筆を持てば、晴れて未練が芽を出しそうだから。


これ以上格好悪くならないうちに。

本当に何度も何度も懲りないと笑われてしまうだろうけれど、


僕は君が好きだ。


隔たりができたからといって冷めるほど生半可な恋ではない。


だからというのもおかしいが、心配しないで欲しい。
いいや、してはいないか。


僕は君を想って待っている。
だから何時でも羽を休めに来たって構わないよう、冷え性なこの指を温めておくし、よく眠れるよう君が許すならその頭を撫でていようと思う。


行くというのなら、その道に幸あれ。
そして君が望むならばいつも傍にいる。
僕は無条件に君の味方でいよう。たいした才も力もないが、その目を見てしっかりと、はっきりと大丈夫と言おう。
何故だか知らないが君ならできるんではないかと信じている。
だからめいっぱいの根拠を持って言おう。

拙い言葉たちではあるが、君が行くと決めた時はどうか餞に。

花束を

花束を

餞に、僕の渡し得るすべてを。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-12

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