家庭教師はアリストテレス

失った思想は?

 天体望遠鏡を覗き見ていたのは夜中の十一時前だった。少年は眩く臆することなく光る星に照らされていた。
「おや? めずらしですね、キミが星を見ているだなんて」
 背後から聞こえてた声に少年は反応して振り向く。
「あっ先生」と少年は会釈して挨拶をした。
「どうしてこの時間に?」
「いや、君のお母さんにちょっとした用件で呼ばれてね。寄ったんだよ」
 そういって先生と呼ばれた男は答えた。
「まぁ、気になる子が星が好きって言ったんです。それで僕も気になりまして眺めているんです。星たちを」
 少年は照れた顔つきになり頬の皮をポリポリと掻いた。
「へぇ、それはいいですね」
 男はクスリと笑い手招きをして言った。
「さぁ気温も低くなってきました中に入りましょう」
 男の言葉に少年は頷いて白い石造の柱を横切って建物の中に入った。
 少年は絨毯の上に座り木の机に頬杖をついて言う。
「先生。何か面白い話をして下さいよ」
 男も絨毯に座りあぐらをかいた。
「嫌ですよ」
「即答ですか!」
「だって時間外ですよ」
「何時も勉強教えないで適当な事を言ってる癖に!」
「失敬な! 私は常に考え深い教えを与えていますよ」
 男はふてぶてしく述べた。そしてガサゴソと袋を何処からか取り出して少年の前に置いた。
「何です? これは?」
「これは写真集です。今、ちまたで人気のあるエジプトのギャルです。褐色系がそそるんですよ」
 男はニマニマとしながら笑う。
「知らねー! 先生の趣味なんて知りませんよ! って言うより生徒の前にそんな雑誌を持ってくるな!」
「ほぉ……では君は何がタイプと言うわけで?」
「僕はペルシアの女の子方が……って何を言わせるんですか!」
 男はクックッと笑う。
「そうか、そうか君はそっち系か……確かにペルシアの子も捨てたがいな」
「同感されるのは嬉しいですが、先生と一緒の趣味は僕に取って恥です!」
 少年は机を叩いて言った。
 それから少年は真剣な顔つきになり男に話始めた。
「で、今回の旅行はどうでした?」
 男はその言葉にニヤリとして次は包装紙にくるまれた品物を置いた。
「はいお土産」
 途端に目を輝かせて少年は包装紙を破って中から取り出した。
「何ですかこの細くて板に似た四角いものは?」
 少年の手には四角くて、表がガラスで裏が黒い素材の物体があった。
「タブレットって言う名称ですよ今回行ってきた時代ではね」
 男はその四角い板の窪みを押した。するとパァアっとガラスには文字が浮きだした。そして指でスライドをし始めて建物や風景が映し出されていく。
「へぇえ、この時代は高層な建造物があるんだ。にしても写真も綺麗だ。この間持ってきた奴は白黒だったのに」
「この間行ってきた時代は今回の時代の百五十年前ほどですから。時の進歩です。」
 男はそう言うと四角い板を戻した。
「にしても、最近は全然驚かないのでつまんないです。君は」
「だって慣れちゃうもん」少年はそう言った後に「この時代のファッションはどうだった?」と聞いた。
「よくぞ聞いてくれました! えぇ! 私のお勧めは何と言ってもニーハイ! 白も黒も最高ですな」男は四角い板を起動させて少年に見せつけてくる。
「いやいや、先生のフェチとリンクした俗物を見せられても困るんだよ。所謂、民の服装だよ」
 男はつまらなそうな表情して「つまんないですよそんな事を聞かれても、都で働く者の殆どが黒の喪服。まぁ国によりますけどね。」
 そうして男はガラスの画面をスライドさせて少年に言う。
「見てください! これ、ハンバーガーって言って美味かったですよ。太りそうな味でしたが」
 少年はあくびをして言う。「でも持ってきたもの消えちゃうんでしょ」
「その通り。行った時代が遠い程に消滅が早い。おそらくこの四角い板も後二分後には元の時代に戻っているでしょう」
 男の言葉に少年は羨ましそうに「いいなぁー、先生は色んな所に行けて、僕もこんな場所にいるよりも先生と時代の旅をしたいよ……」
 少年は寂しそうに言った。男はその少年の手を優しく取り外に出た。そして先ほど少年の覗いていた望遠鏡の傍に立ち夜空を指した。
「ベテルギウス、シリウス、プロキオン、その三つの星を結んで斜め右上に伸ばすと赤い星アルデバランに辿り着きます。この星々たちは何時の時代になってもこの様に輝いてるのです。不思議です。私たちが存在する前から彼らは私たちを見ている」
「いやいや! なにロマンチック的な発言して誤魔化しているんですか! 取り合えず僕をあと二千後の時代に連れて行って下さい! 先生は二千年後の時代がキーとか言ってる癖に全然僕に秘密を話さない! どうしてですか!」
 男は少し悪戯に唇を上げて「嫌です」と言った。そして「もう遅いから寝なさい」と述べた。
 しかし少年は諦めがつかない表情を浮かべて「納得しませんよ……明日、また聞きます」
 少年は部屋に戻って行く。そして、その少年の背中を見て男は「蜂に気を付けて……」とポツリと言った。

 後に少年はアレクサンドロス大王となりペルシア、エジプトを征服した。しかし祝宴の最中に突如高熱を出して数日後死去した。

家庭教師はアリストテレス

家庭教師はアリストテレス

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-11

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