名前

山村詩歌(しいか)は12歳で
自分の名前が嫌いだった

国語の先生をしている父親が付けた名
彼女は胸が薄く、眼鏡をかけ
教科書に載る詩が好きだった

彼女にとって彼女の名前は
少しく愛らし過ぎたのだ


山村詩歌は16歳で
3年生に恋をしていた
ブラスバンド部の先輩で
彼女の名前を褒めてくれた


山村詩歌は19歳で
国語の教諭になろうとしてた
アルバイトをしながら本を読み
時々詩などを書いたりもした


山村詩歌は22歳で
教員免許は取ったものの
アルバイトをしていた出版社に就職をした

引っ込み思案な性格が
教師にあまり適さないと
教育実習で気付いたのだ


山村詩歌は28歳で
5つ年上の背の高い上司と結婚した
その年父親が急逝し
彼女はとても忙しかった


坂上詩歌は30歳で
子供をひとり身籠った

その時彼女は母親に
自分の名前の由来を初めて聞いた

彼女の命が美しく響くように
そして誰かの記憶に深く刻まれるように


坂上詩歌は31歳で
息子をひとり無事産んだ


彼女は息子に名を付けた
自分の父の名を付けた

父の名前と思い出と
たましいのような情報が

少しでも長らえばと



山村詩歌は85歳で
家族を残して旅立った

ふたりの息子
五人の孫
一人のひ孫

夫は既に逝っていた


彼女は父と話すだろうか

あの頃国語の教科書で読んだ詩のことや

自分たちの名の思い出を

名前

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ある女性の一生を描いた詩です。良かったら読んでみてください。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-10

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