高架下

嫌になるくらい怖いんだ。

君がこの街を離れて今日で1年になる。
はじめは寂しい、寂しいと続いていたLINEも今では無くなり、1ヶ月に1度くらいひょっこり便りが届くのである。

1年前の春。
その日も僕はここに居た。
君がいる大きな街へ行くこの街のたったひとつの駅。
そこの高架下が僕らの場所だった。
ぽつんと置かれた小さなベンチには今でも君の面影が腰掛けて見える。
通り過ぎようとした足を思わず止めては、がたんごとんと鳴るレールの音に我に返るのであった。

今思えば、好きだったんだと思う。
君のこと。
大事なものはなくなってからよくわかると言うが正にそのとおりで。
君がこの街から、僕の隣から居なくなって初めて僕は君がいない世界を見た。
気がついたら隣に居た当たり前が急に姿を消した。
その後の虚無感に。何気ない寂しさに。
気がつかされたのである。

1年前のこの日。
まだ少し肌寒い朝に。
ここへ来て、涙目で笑う君を見た。

大丈夫、寂しくないよ。わたし頑張るから。

自分に言い聞かせるように言う君が今でも、ここに居る。
僕の網膜に焼き付いて、住み着いて居る。
1年経って気がついた僕は、今でも伸ばさなかった腕に後悔を覚えている。
どうしてこんな単純で安直なことに気がつかなかったのかと。

旅立つ君の荷物を増やしたくないと言うのはきっと建前で。
本当のことをいえば、ただでさえ離れてしまって気づけなくなるのに。
君に伝えるのが怖かったんだ。
今になって痛いほどにわかるこの気持ちを押し殺すくらい怖かったのである。

向こうで君に恋人ができたのかはまだ聞けない。
これも同様に怖いのだ。
本当にいくじのない僕であるが、この街に足を踏み入れ真っ先にその目に映るものが。真っ先に飛び込むものが僕であって欲しいと勝手な願いの元、この場所に立っている。

今度こそ言えるのだろうか。

高架下

知っていたけど蓋をした事は後になって致命傷に。

高架下

もたついたおもい。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-10

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