未完 長月を待って

未完 長月を待って

「いまこむと いひしばかりに ながつきのありあけのつきを まちいでつるかな」
「なんだいそれは」
詩人になったとばかりに詠んだのは、友人の田沼である。
彼は時々オカシイのだ。
遠くを見たり、ただひたすら呆ける事に勤しんだりする。
付き合いの長い僕は大して動揺はしない。
それは付き合いが長いから慣れているだけだ。
常人なら恐らく一歩引くだろう。
「お前、知らないのか?素性法師の言葉さ」
「僕は博識ではないから」
ここは一歩引いておいてやろう。
なんだか表情からして今日の田沼は落ち込んでいる。
「さて、どうしたものか田沼。落ち込んでいるようだが」
「そう見えるか、そうかそうか」
田沼は腕を組みふんふんと頷くと語り始めた。
「実は隣の大学に好きな女の子がいてな。告白しようと思っていたんだ」
「ほう。それは大胆だ」
「けど無理なんだ」
「まだやってもいないんだろう。なのに何故そう思う」
女に告白する事を想像するだけで、そこまで落ち込めるのが凄いと賞賛してやっても良い。
なんて悩みの浅い幸せ者なのだろう、この男は。
「10月にあちらの大学では学園祭があるだろう。その時に彼女に告白をしようとしてたんだが、今年は学園祭が無いらしい」
「別に学園祭にこだわる必要はないじゃないか」
「きっかけがないんだ。いきなり好きだと言われても恐ろしい」
確かに恐ろしい事だ。
我々男はいきなり女に好きだと言われれば嬉しいのだが、女は逆なのだ。
恐ろしくて逃げていってしまうのを知っている。
僕の体験談では断じてない。
知り合いの話だということは覚えておいてほしい。
僕は表情を変えずに田沼に言った。
「田沼、諦めろ」
「お前までそんなことを」
田沼は溜息をつき手を頭に当てた。
彼自身も諦めたようだ。
「いくら長い夜を待とうが望みはないだろう」
「なんだお前、しってるんじゃないか」
「何の話だか」
「素性法師の言葉の話」
「知らないねえ」
僕は騙すように言った。
「お前みたいなやつの方がモテるんだろうな」
「僕は色恋沙汰には興味がないんだ」
「嘘をつけ」
知ってるんだぞ、またくだらない戯言を話し始めた。

未完 長月を待って

未完 長月を待って

恋に悩む男と僕の話 未完ですが、この先を書く予定はまだありません

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-09

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