昨日、今日、これから。
今日
幸せな世界に産まれました
目に映る物全てが綺麗で
誰もが誰かを愛していて
どこに行っても人気者で
苦手なことは無くて
みんな笑っている
そんな世界に産まれました
隣のあの子は。
私
私はずっと引っ込み思案です
極度の引っ込み思案です
最近は友達となら話せるなあ
友達となら。
大人とは話せないのです。
嘘で塗り固められた愛が見えるから。
そんな事を考えながら毎日を過ごしています。
まだ少し寒さが残っている春
中学生になった私は
憧れていた中学生になれた喜び
思っていたより汚い校舎に絶望
そして左腕には筋肉痛
昨日、あんなに大きいカバンにあんなに重たい教科書を沢山詰めて持って帰ったせいだ。
想像していたキラキラした学校生活とはかけ離れていて、
今までと変わらないメンバーの中、いつも目線を下げていた私は、もっと顎を引いたのです
なんだか苦しくて息ができないくらいに。
1日を振り返ってトボトボ歩く帰り道は
すごく長くて
空気が重くて
目的地が無いみたいに思えるのです
何か刺激が欲しくて
小さい頃、ずっと見ていたヤンチャな子供達を真似して、転がっていた石ころを蹴った
溝に落とさないように。慎重に、慎重に。
でも運動神経が悪いからか、なかなかうまく蹴ることが出来ない
イライラしてきて、蹴ることをやめた
それに、石ころが自分のように思えて
だから、このまま蹴り続けたら
ただでさえ酷い自己嫌悪が
もっと酷くなって
心の中で熱くなって
マグマみたいに熱くなって
噴火して
スッキリしても
きっと誰かに迷惑かけて
余計に苦しくなるから
だから、考えるのもやめた。
今日は好きなジュースを飲もう。そうしよう。
嫌なことは無かった。
特別嬉しいことも無かった。
だから何か幸せな事を1つ作るのです。
明日も頑張れますように
明日は頑張れますように
後ろのあの子と友達になりたい。
隣のあの子と話してみたい。
不登校のあの子が何してるか気になるから、先生に尋ねてみたい。
苦手な大人に話しかけてみたい。
家に着いて、ドアを開けて、姿見をのぞいて、笑顔でのぞいて。
吐き気をこらえて。にっこり笑って。
今日は、好きなジュースを飲もう
窮屈な糸を解いて
それだけで幸せだと思えた
明日も、うまく誤魔化そう。
分からない
目が覚めた
早めに寝て
早く起きて
ゆっくりする時間が好きだ
朝ごはんが用意されてると尚良いけど
両親は忙しいので
毎朝1人で自分で用意したご飯を食べる
少し優雅に紅茶をいれて
少し優雅にパンを焼いて
自己嫌悪ばかりで苦しい真夜中より
清々しい朝が大好きだ
少し鏡をのぞき込む勇気が朝にはある
前髪はおかしくないだろうか
髪の毛は跳ねていないだろうか
いつもよりうまく笑える気がしたけど
可愛くない私は笑っても可愛くなくて
鏡に向かって笑いかけてもなんとなくやるせなくて
気分が落ちるのが怖いからそそくさと家を出て
鍵をかけて、回す方向を間違えなかった。
よし。今日は良い日。
いつも見かける犬を連れたおばあさん。
カラスを驚かせて逃がすおじいさん。
この間引っ越してきた若い女の人。
いつもと変わらなくて何に悩んでるのか分からなくなって
こんな風景の中で特別な出会いをして
非日常的な何かが起こればいいのに。
その時は日常を思い出して嘆いてそうだから
人間っておかしい。
教室にはいる。
まだ誰もいない教室。
なんとなく自分が世界の主人公に思えて
少し嬉しくなる
目立つのが怖いから中庭の隅で本を読む
皆が来る頃に教室に戻る
そんな生活がすごく楽しい。
友達や恋人が居なくても良いって思えた。
「おはよう」
教室に戻ると、クラスの人気者が声をかけてくれた
クラスの人気者は明るい子だった
クラスの人気者は可愛い子だった
クラスの人気者に挨拶をした
「おはよう」
声は届いただろうか
よく声が小さいから会話の途中で「え?」と言われるけれど
今日のおはようは届いただろうか
でも言えた。言えたから嬉しかった。
「結原さんって暗いよね」
「…」
うれしかった
うれしかったから
悲しかった
西岡さんだって。
人気者ってだけで。
そんな風に。
人のこと悪く言う人は嫌われるんだよ。
って
言えるほど強くない
言えるほど
私の弱虫は弱くない
目立たないようにしてたのに
なんか視線を感じてて
ああもう 居場所が無いなって
私は学校に行くことをやめた
お腹が痛かった
思い出すだけで吐き気がした
お母さんに連れていかれて
病院で私が先生に聞いたことは
ただの便秘で。
気休めにって浣腸してもらって。
そうか。
便秘か。
それなら仕方ない。
そう思ったけど
お腹が痛いのは治らなかったから
後で聞いた
本当は便秘ではなくて
精神的なものらしい
ストレスらしい
お母さんだけ先生から聞いたらしい
医者はいつもそうだ
ストレスといえば診療した気持ちになって
はやく治るように薬が欲しいのに。
小学生の時もお腹が痛くなった気がする
ほとんど同じ理由だった
あの時は、仲の良かった友達のお母さんに
…つまりは引き裂かれた。
理由が分からなかったから苦しくて
毎晩涙が止まらなくて
お腹が痛くなって
病院に行って
精神的なものだって、その時もお母さんにだけ伝えられたらしい。
今は覚えてない。
多分、お母さんは私がその事を忘れられるように、頑張ってくれたんだと思う。
感謝していいのかな。
私を産んでくれたこと、育ててくれたこと、全部。
でもたまにイラついて、当たっちゃう度に、しねばいいのにって思っちゃう。
皆そうだと思う。
だからその度に想像してみる
響く電子音と、今にも息絶えそうな自分の母親と、その周りを囲んで泣く身内と、それを見守る先生と、母の手を握る私。
想像したら悲しいから、私は母を愛していると思う。
その母を、また精神的な痛みで精神的に苦しめるのかと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
今日は学校に行こう。
そう決めて何度も支度をして玄関まで行くけど、勇気が出なかった。
でも今日は。
行かなくなってから2週間。もうみんな忘れてる。
大丈夫。
忘れてるって思うと、安心できなかった。
私はみんなに覚えていてほしいんだと思う。
重い気持ちでドアを開けた。
意外とたやすく開いたドアの先に見えたのは同じ制服を着た男の子だった。
嘘でしょう。
もう後に戻れないじゃないか。
今日は運が悪い。
しかも目が合ってしまった。
本当に運が悪い。
「結原じゃん」
…覚えていてくれた。
運が悪すぎる。
「………おはよう…」
………
「ございます」
付けられずにいられなかった。
同級生に敬語なんて、やめたくても、癖だからやめられないんです。
「なんだよそれ」
怒られる
怒られると思った
けど、彼は笑っていた
なんだ。
「ごめん」
笑ったことを謝られたのだろうか
笑いながら謝られても…。
「こちらこそ…。」
「一緒に行こう?」
ありえない。
今日は運が悪い。
「うん。」
今日は、運が良い。
昨日、今日、これから。