ねこ恋。

このお話は、恋愛ものです。
しかし、普通の恋愛ものではありません。

主は普段、鬱小説ばっか書いていて壮大になりすぎてまとまらなくて挫折することが多々あったので、今回はガラッと雰囲気を変えてみました。

このお話を読んで何かを感じ取ってくれた、または感動していただけたら本望です。
よければコメント等もいただけると次回も頑張れます。

序章

 私、ねこが好き! 大好き!!
小さい頃から動物が好きだった。
特に、ねこが好き。

よく、ダンボールにいられているねこや、野良ねこを見かけた。
私の家はペットを飼えないので、こっそり給食で残した食べ物をランドセルから出して、ねこ達にあげていた。

そういう私も、もう高校生。好きな男の子だっている。
私はいつしか、野良ねこを見かけても通り過ぎるようになった。

その様子を、一匹の動物が見ていた。

第1章

 片耳が垂れている。身体の模様も薄い、ヒョコヒョコ歩く一匹のねこがいた。
首には『こたろう』と書いてあるリボンを付けている。
このリボンは小さい頃に女の子から貰ったものだ。
お腹が空いて動けなくなっていたときに、あの子がきた。



小さい頃に母ねこが車に轢かれて死んだ。
それからは苦しい生活だった。
食べ物も落ちていない路地を歩いて、ごみ箱をあさった。

空腹で目も開けられないときに、不意に上から声が降って来た。

「ねこちゃんだ」
しまった、人間だ。逃げなきゃ。
……そう思うが、身体が動かない。

かろうじて目をあけると、自分の前にしゃがんでいる女の子が見えた。
その女の子は、ランドセルを開けて一個のパンを取りだした。
「お腹空いてるんだね。みなとが食べさせてあげる!」
半分ちぎって口の近くに持ってこられたので、堪らず頬張った。
その様子を満足そうに見てから、女の子が言った。
「おまえ、名前ないんだねぇ」
それからまたランドセルをあさって、ピンクのリボンとペンを取りだした。

「んー……とらもようかぁ……」
おでこにペンを当てながら考えて、閃いたようにしきりにリボンに何かを書いていく。
僕は黙ってそれを見ていた。
お腹も膨れたし、逃げようと思えば逃げられたのだが、そうしなかった。

できた! と叫んだと思ったらいきなり首の後ろに手を回されて、一瞬のどが絞まった。
何事かと思ったら、どうやら首に紐のようなものを巻き付けられたようだ。

すっくと女の子は立ち上がり、僕を見下ろして言った。
「今日からおまえの名前は、こたろうだよ!」

その時、コトン……と何かが落ちた音が聞こえた。

ねこが、恋に落ちた音だった。

第2章

 それから一人と一匹は毎日のように遊んだ。
「ねぇこたろう! みなとねぇ、漢字テストで百点とったんだよぉ」
背中を撫でながら話しかけられた。
僕には<かんじてすと>がわからないので、ただゴロゴロを喉を鳴らした。

じゃぁ、そろそろ帰るね。と言って立ち上がった彼女を目で追って、寂しそうに鳴いた。
すると、湊は振り返って「また来るね」と笑顔を見せた。

次の日、みなとは足を少し引きずりながら会いにきた。
どうしたの? と言うようにすり寄ると、足を擦りむいていた。
急いで舐めてあげると、少し照れたように笑った。

「ありがとう……こたろう」
その言葉を聞いた途端、いつも息をしている辺りがトクンと言った。

なんだろう……彼女の笑顔を見ただけで、息が苦しくなる。

自分の気持ちが理解できず、思わす彼女の周りをグルグル回った。

★★★

 ある日から、湊が会いに来なくなった。
風邪なのかな……と思った。

一年くらい経っただろうか。
相変わらず、湊は来なかった。

いつの間にか、雪が降ってきた。
寒いな……湊は病気にかかってはいないだろうか。
すっかり冷えた身体を丸めて、目を瞑った。

★★★
「あー……さむさむ!」
マフラーを何度も巻きなおし、手を擦る。
「湊ぉー」
後ろから声をかけられ、少し照れたように振り向いた。
「涼!」 軽く息を切らせて現れた男は、待った? と言いながら手を取る。
「うわ、お前 手冷たいじゃん!」
「涼が暖かいんだよー。それに、今来たとこだよ」

湊は、恋する女の子になっていた。

「今日はししゃも食べられたからいい方かな……」
待ってられなくなって路地裏から出た。
ぼんやりとししゃもを食べながら、行き交う人を眺めていた。

すると、見たことのある顔が見えた。
「みなと……?」
ししゃもの尻尾が口から零れた。
彼女は、見たことのない人間と歩きながら、僕を通り過ぎた。

息をする辺りが苦しくなった。
苦しくて苦しくて、目が熱くなった。

足がもつれて、顔を擦った。
路地裏に逃げ込んで寝た。

第3章

「今日は楽しかったな?。涼と手も繋げたし!」
ボフッとベッドに飛び込み、ゴロゴロと寝転がりながらケータイを弄る。
「そういえば、最近野良ねこと遊んでないなぁ……」
小さい頃は名前付けて遊んでいたのに……。
懐かしくなって、ねこの名前を思いだそうとした。
すると、手に持っていたケータイが震えた。
「涼だ!!」
待っていたようにケータイ画面を見て、指を動かす。

ねこの名前を思い出していたことも忘れて……。

この家……なんだよなぁ。
次の日、自分でもわからないモヤモヤをなんとかしたくて、成瀬家に来てしまった。
小さい頃に、家の前まで付いていったことがあったから、どうにか道は覚えていた。

「にゃぁ」 小さく鳴いてみる。
すると、後ろから小さい頃から聞きなれた声が聞こえた。
「ねこ……」
み、みなとだ!
こんなにも早く湊に会えるとは思わず、湊の周りをグルグル回った。
「野良ねこなんて久しぶりだなぁ……」
顎の下を撫でて貰えたら、心臓の鼓動が早くなった。

ん? 彼女が首周りを撫でていたら、あるものを触った。
「リボン?」
『こたろう』と書いてある、ピンクのリボンだった。
しかし、もうそれは大分汚れていて、所々切れていた。
「おまえ、こたろうって言うんだ」
そういって湊は立ち上がる。

「可愛い名前だね。名前があるってことは、飼いねこかなぁ……」
スカートを整えながら、うーむと僕を見る。

ちがう。ちがうよ。
僕の名前は、君につけてもらった名だ。
子ねこの僕を救ってくれて、僕が恋した君から。

……だが、虎太郎の心の叫びも空しく、彼女は言った。

「早くお家に帰りなさいね」
バタン……と重い扉が閉められた。

あぁ……もう君は変わってしまったんだね。
壁にリボンを擦り付けて、外した。

僕は野良ねこ。
名前はもうない。

第4章

 昨日の晩、みゃーみゃー言っていたねこが今朝にはいなくなっていた。
「なんか引っかかるなぁ……」
記憶のどこかで何かが警告している。

あのねこ……どこかで……。
髪を弄りながら、考えた。
「みーなと! 何暗い顔してるの?」
涼が後ろから抱き付いてきて、一気に頬が赤くなった。
「あわわっ! り、りょう!?」 手をバタバタさせて、なんとか涼の腕から逃れる。

「ちぇー。寒いんだからこれ位のスキンシップはいいだろぉ?」
口を尖らせて涼はぶうたれる。
その顔が可愛くて、少し笑った。
「いきなり後ろから抱きつかれたら、誰でもビックリするよ」
「そか?」
そうそう! と言って私は涼を置いて先に歩きだす。
赤くなった顔を見られないように。

そういえば涼に抱きつかれる前、何考えてたっけ?
……まぁいっか。

★★★

 ここはどこだろう。
体力の限り歩き続けて、気づけば全く知らない土地に着いていた。

湊のいない処に行きたかった。
湊に会ったら、またどうにかなりそうで、離れた。

とある空き地に来たら、一匹の野良ねこがいた。
「見ない顔だな。お前、名はあるのか?」
名前……。

ドクンと心臓が鳴った。

「……名前は……ないんだ」
俯きながら呟いた。

落ち込んでしまった僕を見て、慌ててそのねこが言う。
「ま、まぁ野良には名前のない奴だってゴロゴロいる! 聞いただけさ」
そして、その後に付け加える。
「俺は、レオって言うんだ」
「レオ……」
「お前は見た所、敵じゃねえな。俺達の巣に来るか?」
顎で、こっちだと示す。
「いや、僕はいいよ」
そう言って後ろを向いて、空き地を出る。
「ま、待て! ここら辺で一匹だと、他のグループのねこにやられるぞ!?」
「それでもいいよ」
「…………」

それ以上、レオは言わなかった。

この世界が嫌だった。
湊が忘れてしまった僕が存在する、この世界が……。

第5章

「うー……今日もすっかり遅くなっちゃったなぁ」
涼と放課後残っていたら、夜になってしまった。

速足で家へと向かう。

とある空き地を通り過ぎようとしたら、野良ねこ達に喧嘩が視界に映った。
うわー……喧嘩っていうか、リンチに見えるなぁ。と思って、そのリンチされているねこを見たら、思わず足が止まってしまった。

心臓がドクドク言うのがわかった。

「この間家の前にいた虎ねこだ……」

バックも放り出して空き地へと乱入する。
周りのねこを追い払い、虎ねこに駆け寄った。

「だいじょうぶ!?」
そっとそのねこを抱き上げると、うっすらと目を開けた。

「すぐ家に連れて手当てしてあげるからね。もう大丈夫だからね」
私は涙が零れそうになるのも構わず、ねこを抱えて走り出す。

しかし、しだいにねこの体温は無くなっていき、鼓動が弱くなっていった。

「こたろう……こたろう……」

その時、私は思い出していた。
このねこの名前は、小学校の頃の私が付けた名前だということを。

なんで今まで思い出さなかったんだろう。

石につまずいて、転んだ。
とっさに横向きになったので、ねこは怪我しなかった。

ばかだなぁ……私。
鈍感にも程があるよ……。

ググッと足に力を込めて立ち上がり、また走り出す。
痛いのと悲しいのと悔しいので、涙がボロボロ零れてきた。

「ぜったいに死ぬんじゃないんだからね!?虎太郎っ!!」

嬉しいなぁ……湊が僕を抱っこしてくれてる。
こうしてると、昔みたいだね……。
やっと僕のこと、思い出してくれたんだね……。

でも、ごめんね。

僕はもう、ムリそうだ。


「みゃぁ」

虎太郎が小さく鳴いた。
何かを訴えたのかと思って。虎太郎を見る。


虎太郎は、私の腕の中で幸せそうに息を引き取っていた。

終章

 数年後、成瀬家に一匹のねこが来た。
母親の友達のねこが、沢山子供を産んだから、一匹分けてもらったのだった。

「わぁー! 可愛い!」
ダンボールの中でうずくまっていたねこが、蓋を開けられて小さなあくびをした。

「ねぇ、抱っこしていい?」
「乱暴に扱うんじゃないわよ」
わかってるよ。と言って抱き上げた感触に、数年前のあの日を思い出しそうになる。

「名前、私が決めていい?」
ねこの頭を撫でながら母親を見る。
「いいわよ」

部屋からピンクのリボンを取ってきて、ねこの首にそっと巻きつける。

そのねこの名前は、虎太郎。
片耳が垂れている、可愛いねこだ。


「おかえり、虎太郎」
                          おわり

ねこ恋。

ねこ恋。 最後まで読んでいただいた方も、飛ばして読んでしまった方も、俺はあとがきから読むんだよ という方も、ありがとうございました。

どう、だったでしょうか。。。
実際どう感じていただけたか、ガクガクブルブルしています。

楽しんでいただけたら、次回の作品(書いたらですけどね!)も読みに来てくれると嬉しいです(*・ω・*)

ねこ恋。

ねこ *虎太郎 女の子*成瀬 湊 男の子*神崎 涼 ねこ2*レオ ねこが女の子に恋するお話です。。。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-01-29

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 序章
  2. 第1章
  3. 第2章
  4. 第3章
  5. 第4章
  6. 第5章
  7. 終章