繰り返し繰り返し 2
キリエは不満顔でテレビをつけると、通販番組では焦げないフライパンが映っていた。いつも通りの朝だ。母だけがいない。その時、突然、屋根から轟音がした。驚き、この状況の不気味さも合わさり立ち尽くした。
屋根からの轟音は雨だと気づき、キリエは部屋のカーテンを開けると外には白く煙る豪雨が見えた。
判断間も無く天井から滝のように雨水が漏れ出し、みるみる床に雨水が溜まった。
「どうしよう」
キリエはサッシの窓を開け外へ逃げようとしたが、窓は開かない。鍵は開いているが溶接したかのようにピタリと閉じられている。
「なになに、なんなの?」
慌てふためき他の窓も試すが同じだった。どの窓も開かない。
「え? え? やだ。やだあ!」
足元の雨水は水位があがり、足首から膝上まできている。ピンクのスウェットが汗と涙と雨水でびしょ濡れだ。
「そうだ。玄関! 玄関!」
急ぎ駆け出し玄関の引き戸に手をかけた。
「開いた!……え?」
玄関を開いたら2分で玄関だった。
白いスニーカーと母親のパンプス。焦げ茶色の靴箱の上の花瓶には、母が採った黄色い山吹が生けてある。廊下に並ぶ本棚には漫画本。ほんのり香る芳香剤。
「なに…これ…」
某然としていると廊下には川のように雨水が流れてきた。慌てて引き戸を閉め、再び、もう一軒の以前と変わらぬ自宅に入ると背後で地鳴りがした。
恐る恐る玄関の引き戸を開くと、今、キリエがいた自宅が無くなっていた。
足元には、どこ迄も続く大穴が広がっていた。
よく分からない理屈だが、初めの自宅はその大穴に落ちたらしい。
ヒザがガクガクと震え、体の力が抜けた。歯の根も合わず、脳内にはガチガチとした音が響いた。
何が何だが理解できずにいると、屋根に轟音が響いた。
雨だった。
つづく
繰り返し繰り返し 2