むずかしい、ふつう

プロローグ 女

プロローグ 女


天気予報は随分前から、
気にしなくなった。

雨でも、晴れでも、曇りでも、
そんなに対して自分の一日を
大きく左右はしないからだ。

スマホの液晶に表示された時間は、
もう既に13時を過ぎている。

目覚まし兼用のスマホアラームに、
急かされ起こされる毎日を
少しだけ忘れる事ができる休日。

休日といえば聞こえはいいが、
予定が入っている訳でもない。

仕事以外のスケジュールなんか、
随分前からほぼ立てなくなった。

お気に入りの手帳を持つことと、
計画を立てる事に、
妙に大人っぽさを感じていたのは、
もう彼此いつの話だろうか。

現在時刻の確認と同時に、
メール受信の騒ぎっぷりに、
ウンザリしながら寝返りをうつ。

最近登録したばかりの婚活アプリ。

何十回も無理した角度で
撮影した自撮り写真と、
適当に綺麗ごとを
プロフィールに載せて登録すると、
出会いが勝手に発生するという仕組みだ。

女性という生き物の場合は、
登録は無料らしいので、
何かを期待して登録してはみたものの。

今ではすっかりアラームよりも、
目覚めの悪い寝起きを演出している。

会ったこともない、
誰かもよく知らない人から、
外見とプロフィールだけで精査され、
一方的にメッセージが大量に届く。

トキメク暇さえ与えられない、
ただの流れ作業的出会い。

こんな出会いにしか縋れない、
己の情けなさも混じり合って、
スマホをとりあえず枕元の隅に追いやる。

数秒後にはズレ落ちて、
バタンッと落ちるのも分かってる。

くたびれた充電ケーブルが、
視界に入るがこれまた、
やはり見慣れた光景だ。

普通の恋愛って、なんだったっけ。

そんな言葉が何故か、
ふと私の頭を過ぎる。

プロローグ 男

プロローグ 男

誰もいない
休日の会社の営業部署内。

カチカチとリズムを刻む
時代遅れの時計の針に。

少し耳を傾けながら、
来週のプレゼン資料を
カチャカチャと打ち込んでいく。

デフォルトの
聞きなれた携帯の着信音。

またこの音か…。

ウンザリしながら、
着信先を見ると例のお得意様からだ。

どうせ例の商品の
クレームに決まっている。

営業という仕事も慣れてしまえば、
感情を押し殺して、
謝ることに抵抗はなくなる。

が、やはりこの瞬間だけは、
嫌悪感が湧いてくるのが、
人間というものだ。

ふぅっと息を吐き、
気持ちを切り替えると同時に、
着信に出る。

とりあえず相手の言い分を
すべて聞く振りをしながら、
平謝りに次ぐ平謝り。

午後13時から約15分。

こうした仕事に慣れすぎると、
どこに自分の感情を持って
行けばいいのかたまに分からなくなる。

先ほど入れたばかりのコーヒーは、
言われなくても温度が分かる。

飲む気は当然起きる筈もないし、
もちろん数分前の集中力も、
どこか彼方に失せていた。

とりあえずネットニュースの
最新の記事をサーフしながら。

生き抜きという倦怠時間に突入。

会ったことも見たこともない、
くだらない芸能ネタに、
反応し慣れている自分に嫌気が刺す。

大物女優とアーティストの結婚。

自分とはまるで
かけ離れたドラマチックな
世界の話に祝う気持ちも
当然冷めている。

結婚、か。

社会人8年目、
今置かれている現実は、
思い描いていた理想とは、
まるで方向性が異なっている。

女性を好きになる暇と
余裕さえ今の自分には想像が出来ない。

恋って、そもそもなんだっけ。

異性に好意を抱く仕方すらも、
答えが今の僕には分からない。

むずかしい、ふつう

むずかしい、ふつう

当たり前に想い描いていた普通の恋。 ドラマや映画のように思うようにいかない 今を生きるふつうの男と女の話。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 時代・歴史
  • 成人向け
更新日
登録日
2016-12-05

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