オレンジ
こっちを見てるのかわからないような時にだけこちらを射抜くような目を向けるそんなところまで再現しなくたっていいのに。
「…とこれやっといて?」
「今なんて言ったか野崎、分かった?」
「え、聞いてない。」
「ほんっとばか!笑」
「ばかとかいわなーい。あと叩かなーい」
僕はまだ、記憶の中の君に恋をしている。
「っていうね。久々に彼女の友達のフェイスブック見てたら見つけてしまった彼女のウェディングドレスの写真…っていう。野崎さん聞いてます?」
「聞いてる。」
「野崎さんはいないんすか。片思いの思い出の彼女的な。」
「思い出の彼女て。」
「田舎に残してきた彼女みたいな、ね!」
ー来世はきっと。生まれ変わったら。
「いねーよ。」
「えー?」
「思い出の彼女、可愛いらしい感じ。とか。二つ縛りの似合う思い出の地味な彼女的な。なんだったら初恋の女の子とかでもいいっす!なんか俺にときめきをください!」
「初恋の彼女ねぇ…」
「ほら、どんな子なんすか。」
「……背の低い、地味な、でも俺だけを想ってくれてた子」
「ひゅー!再燃とかはないんすか。」
「無いな、多分。」
「なんでですか。」
「もう五年もあってねーもん。多分もうおばさんだろ、相手も。」
「28でしょ!?まだ可愛いですって!」
「あーなんつーかな。俺が好きだったのは…」
覚えていてくれているの?もう俺のことは好きじゃないの?
ー私が好きだったのは思い出の中の貴方だもの
信じていたのに。
ー好きだったんだ。ほんとに。嫌いになった?
やり場のない気持ちはどうしたらいい?
ーどうか、あなただけは、幸せで…
「え、なんすか。」
「なんでもない。」
「えー…?」
会話が出来なくても
斜め下を向いていても
憎まれ口ばっか叩いてたって。
「俺は好きだっていうつもりだったんだけどな。」
オレンジ