ラッキー

ある寒い真夜中
恵比寿駅の近くで
優しい顔の外国人に声を掛けられた

彼は片手にカレーヌードルを持って
目黒駅を探していた

僕は彼を目黒駅まで連れていき
始発まで話をし、僕達は友達になった

彼の名はラクビンダー
インド人
あだなはラッキー
僕より少し年下
日本の女性と結婚したが、離婚して、
今は住み込みでカレー屋さんで働いている
カレー屋さんの寮は6畳で
その ひと部屋に6人のインド人が住んでおり
ラッキーは日本で違う仕事がしたいと言った

僕達は一緒にカレーを食べ、音楽の国際交流をし
新宿に大きなビルを見学に行き
（日本の建築物は美しいと彼は言った）
六本木にナンパをしに行った

彼は新しい仕事を探すためカレー屋の寮を出た

そのとき引っ越しするお金がないから
少し貸してくれないかと言われ、僕は少しだけお金を貸した

それからなんとなく、僕はラッキーに会いづらくなった
彼からはよく連絡が来たけれど、僕も忙しくなり
ふたりはだんだん会わなくなった

ある日またラッキーから電話があり
新しい職場が決まったと言う

自販機にジュースを補充する仕事

僕は祝いの言葉を送り、ラッキーはこれでお金が返せると笑った

それからほどなく、ラッキーの強制送還が決まった

僕は知らなかった
彼のビザが「結婚」のままだったので
就労してはならなかったのだ

ラッキーは僕に帰国の飛行機の日時を告げた

僕はその日仕事があって行けないと
嘘をついてしまった

どんな顔をして送ってよいか分からなかったのだ

けれど結局
僕はその日成田に向かった

僕が空港に着いたのは
飛行機の発つ瀬戸際の時間で
どうやって彼に会ってよいか分からなかった

僕はインフォメーションカウンターに飛び込み
呼び出しをかけてもらった

カウンターの女性は
友人の名字もスペルも知らない僕を訝ったが
ラクビンダーのラは恐らくLだと思いますと伝え
英語で呼び出してもらった

僕は待った

ニューデリー行きの飛行機が
とっくに飛び発っても

電話は解約されていた
メールも返ってきた

今 もう僕には祈ることしかできない

名よ
体を表せ

悲しい音楽が好きだった彼に
幸あれ