エヴァはいいやつだった
猫のエヴァはクリスマスイブに
どこからともなく室外機の下に現れた
彼女は窓を開けた隙に我が家に入り込み
家中を駆け回り かすれた声で鳴き続け
やがてうちの猫になった
彼女はなかなか なつかなかった
鶏肉が好きだった
撫ですぎると噛みついた
ときどき雀をくれた
グレーの毛並みで美しい顔をしていた
かすれた声は治らなかった
エヴァは人の心が分かるようだった
僕が泣くと
泣き止むまでよりそってくれた
やがて僕らは年をとり
エヴァが来たクリスマスイブから
13年がたっていた
エヴァは仔猫を4匹産み
去勢手術を受け
顔つきも性格も
少し子供っぽくなった
ある時エヴァの呼吸が急に荒くなった
堀りごたつの床で丸まり
あまり動かなくなった
エヴァのまぶたが
二度と開かなくなる前日
僕は堀りごたつの中のエヴァを撫でた
やわらかくてちいさくて
か細かった
むかしエヴァが慰めてくれたように
僕は彼女を暖めた
最後のコミュニケーションは
それと分かるものだ
涙は
止まっても
意識されなくなっても
心の底で流れ続ける
いくら撫でても
エヴァはもう噛みつかない
エヴァはいいやつだった
エヴァはいいやつだったんだ
エヴァはいいやつだった