エヴァはいいやつだった

猫のエヴァはクリスマスイブに
どこからともなく室外機の下に現れた

彼女は窓を開けた隙に我が家に入り込み
家中を駆け回り かすれた声で鳴き続け
やがてうちの猫になった


彼女はなかなか なつかなかった
鶏肉が好きだった
撫ですぎると噛みついた
ときどき雀をくれた
グレーの毛並みで美しい顔をしていた
かすれた声は治らなかった 

エヴァは人の心が分かるようだった

僕が泣くと
泣き止むまでよりそってくれた


やがて僕らは年をとり
エヴァが来たクリスマスイブから
13年がたっていた

エヴァは仔猫を4匹産み
去勢手術を受け
顔つきも性格も
少し子供っぽくなった


ある時エヴァの呼吸が急に荒くなった
堀りごたつの床で丸まり
あまり動かなくなった


エヴァのまぶたが
二度と開かなくなる前日


僕は堀りごたつの中のエヴァを撫でた

やわらかくてちいさくて
か細かった

むかしエヴァが慰めてくれたように
僕は彼女を暖めた



最後のコミュニケーションは
それと分かるものだ


涙は

止まっても
意識されなくなっても
心の底で流れ続ける


いくら撫でても
エヴァはもう噛みつかない


エヴァはいいやつだった

エヴァはいいやつだったんだ

エヴァはいいやつだった

エヴァはいいやつだった

美しい雌猫 エヴァの詩です。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-04

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