きみのウォークマンはうたえる
「ピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッ」
〈長い春の陽射しが続く季節(なんじゃそりゃ?)きみはウォークマンを耳にあて瞼の裏でそっと目を開き惰眠に溶けてしまったAVのなかにいる〉
長い春→春が来た ツイート
春が来た。なんというか巷じゃ、新学期とか入社とかで盛り上がっている季節。でもまぁ、外は外、俺は俺。いつも通りに顔面ノーフューチャーなライフを通り過ごす。
「いらっしゃいませー。ませー。」
何度となく繰り返してきましたとも。コンビニ店員歴1年半の俺は相当数の「ませー」の憂鬱波を乗り越えて、ここに立っている。つまりは、セブンイレブ○の一兵士。社会という戦場で戦っているんだぜ。どこも正社員で受からなかったからだけど。
「ピッ、ピッ、ピッピピ」
って俺はいったい誰に話しかけているのだろう。っていう疑問すら定型で、頭のなかに住む自分を見つめる存在的なものに一方的に話かけているんだよ、ってまた俺自身に。このパターン。
うほぉ。
訂正、うへぇ。
生まれそう。俺の俺ジュニアが。
でも、まあ大なり小なりみんながみんな見られるってことを意識していると思うんですよ、先生。人生はドラマ。演歌とか悲劇のヒロインとか超好き。
「あっ、お弁当は温めますか? あっ、いいですか。あっ、分かりました」
家に帰ったら、とりあえず鶴の恩返しだな。鶴の恩返し? うーん、ティッシュでハタを折る。
〈北国で吹きそうな白い風が吹いてきみによく似たお友達でいっぱいおっぱい。大丈夫、大丈夫。ノートのどのページを開いても真っ白だっていうのにこのまま冬が来るまでいっしょに騒いでいたいね、なんて抜かす、(ちなみに俺は抜く)〉
北国で吹きそうな白い風→まっしろな雪山
そして、まっしろな雪山ができたら、全部ゴミ袋に入れて、捨てに行くんだ。明日を生きる魔法の死体たち。ドピュと詠唱したら、まっくろな敵はヤラレタもの。きっと俺のブサイクフェイスも清々しいくらいに爽やかなクソブス顔に輝いているだろう。死ね。
そういえば何度か……。
「ませー。はい、あっはーい。はい」
そうそう、やる準備はした。完全自○マニュアルとか絶対自○成功法とか美しい自○の仕方とか一生懸命読んでね。でも踏み切りがつかなかったなぁ。
なんで人って自○しないんだ。もちろん、○のなかは慰めるじゃない。もし、そう考えたとしたならば、きみはそうとう想像力が豊かだねぇーって、きみって船漕いでてうつらうつらな俺だけど。
「したー。あしたー。」
こうやって、ひとりごちて、明け暮れがあって、魔法は使えないままなんかー。
SNSをはじめようかなって思うけれどそんなことをしたってこれがどうにでもなる訳がなく、むしろどうにでもなる明日がどうにでもならないということが頭のなかでいっぱい。太陽はいっぱいじゃないや。
「ピッ、ピッ、ピッ」
〈「おーい」と夕暮れが呼んでいたきみは振り返らずセミの抜け殻を見つけてはつやつやした桃色の爪でポケットに詰めていく。時間があふれて潰れてしまいそうで夕立が降ったら家に帰ろうと決めた〉
夕暮れ→夕暮れ景色だ ツイート
今日のどうしようもなさにそれがまた何時間か先も、何十時間か先も、何百時間か先も、来るという同じ夕暮れ景色だ、どうしようもなさという事実に、ほぼ未来すらも確定してしまったというその思いに、救われない気持ちに、頼むからテイクアウトで死んでくれ、そうやって自分に言い聞かせて、でもやっぱりねぇ。
「ピッ」
っていう自分をいじめて若干気持ちいいかもっていうそんなスタイルをいつまでもいつまでもどこまでも続けていて生きるということの意味がどこにあるんだという毎日で毎日がぼくを越えていく。抜け殻人間様俺何様?
「ピッピッピッー」
というか俺が毎日にいるのではなく、毎日が俺を俺のなかで投影しているという感じがして、ああ、やっぱりぼくは20代で死ぬのか、泣け泣け泣け泣けなんていう早死に妄想、もうよそう、寒い、ということをまた、します。
きっと死ぬまで、っていつまで。どこまで。歩いた、ぼくはもう十分すぎるほど歩いた。
でも、そこもここもどこもかしこもゴールじゃなく、まだ、まだ、まだ、まだ、歩かなきゃ。きゃ。きゃ。
「あっ、ませー」
〈気がつけばバイト先のコンビニレジを打つきみの視線の先でレシートにインクが刻まれていく。あの日のメロディはイヤホンから漏れたきりできみはまだジーンズのなかで眠ったままだ〉
コンビニレジを打つ→死ね=「ピッ」
死ね=「ピッ」。
「ピッ」=死ね。
「あっ、インターネット代金支払いですね。あっ、はい少々お待ちください」
死ね死ね死ね死ね死ね=「ピッピッピッピップープッ?」。
「すいません、こちらの商品は未成年のかたには販売できないことになっているんですよ」
あー、エロビデオ見せてくれ=死ね=「ピッー」。
「あっ、した。あしたー」=エロビデオ=雪山=ゴミ袋=「ピッ」=死ね=人生=エロゲー=「あっ、すいません、こちらの重さを測りますねー」=エロ本=エロエロ=エロ=エロコミック=エロ同人=エロ=エロエロエロエロエロエロエロ=「ピッピッ?」死ね死ね=「ピッ?」=俺=ぼく=死ね=終わり=めでたしめでたし=「あっ、ませー。いらっしゃいませー」=今日=明日=昨日=未来=今の俺=独白=神=エロ神=「ピッ、ピッピッ」エロ髪=エロ紙=死ね=「あっ、ませー」=60年後、無事に老衰で死にましたピよ=春=うほぉ=天丼=死ね=「ピッ」。
「あっ、ませー」「ピッピッピ」「あっ、あしたー」
「ませー」「ピッピ」「したー」
「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」
「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」
「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」
「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」
「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」
「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」「ませー」「ピッピ」「したー」
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「ピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッ
ピッピッピッピッピッピッピッピッピッ」
祝ってやる。
つまり……。
心の底からきみにエール電波を贈ろう。
ピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッ
ピッピッピッピッピッピッピッピッピッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
言葉をまともに扱えない人間には「」の魔法は使えない。だから、起きた現象や発せられた音や言葉を「」のくくりで現実に留めてやるぐらいのことしかできない。内的なぼくの内輪言語に「」の魔力は届かない。だから、心のなかでレジ打ちの音を再現することでしか怨歌を歌うことができない。
ぼくのウォークマンは死んでしまったのだ。
ぼくが3時間で書いた詩とも呼べないクソみたいな〈〉の言葉たちと、ぼくのコンビニ人生は等価だった。3時間と人生。どもってしまうぼくはピッピッでしか真の気持ちを言えない。ピッとほんとの気持ち。おんなじだピッ。
水没したぼくのソ○ー製のウォークマンをぼくは便所から拾う。音楽はもう鳴らない。大島亮介も佐藤伸治ももう唄わない。ビートルズも佐藤泰志もきみの鳥も。
だけど、そっち側のウォークマンならまだ歌えるだろう。たとえ箱舟が来なかったとしても、きみはきみの歌うべき歌を知っているはずだから。
もうオモテにはでられない。きっとぼくは一生この3時間のなかにいる。
エンドレス、ループ、リフレイン、なんでもいいけど。
そのなかでぼくは電波を贈ろう。贈りつづけよう。
「ピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッ
ピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッピッ
ピッピッピッピッピッピッピッピッピッ」
コンビニという電波塔から。〈〉の3時間のクソみたいな文章のなかから。80年の血と汗と涙のなかから。たとえ次の言葉に「」の魔力がなくとも、ただの現象音だとしても。
ドピュッ。
きみのウォークマンはうたえる