呪い 【代わり雛】
第一話 【鏡】
5月半ばに中途採用で今まで、見た事の無い物凄い化け物が業務課に配属になった。
その化物は、都内課の得意先のSS業者社長に頼まれた跡取り息子で大学を卒業していた。
そして、経営者勉強として商品構成や営業のイロハ学ぶためにイーストに入社した。
私たちと同じく、一ヶ月の見習い研修を終えて、東京麻布支店業務課に出荷要員から営業部までの仕事を覚えるために配属されて来た。
歳は23歳、背は1m80cm、色白でヒゲがなく、細身の骨皮筋ヱ門で手足が長くマンボズボンを履き、細長の輪郭に前歯が二本揃って出っ張り、笑うと上の歯茎がせり出した。
垂れ下がった眉毛の下の細い一重のやや吊り上がった目に、高く上を向いた鼻を挟んだメガネを右手の人差し指でかけ直す仕草はファッションモデルにしても十分通用する程垢抜けていた。
この、骨皮筋ヱ門こと、米田研二はナルシスト気取りで、言う事が、人を、おちょくっていた。
そして、態度が憎たらしいほどキザな野郎だが、何処か憎めない奴だった。
『中さん!上行く?下行く?』
『下!!』
『じゃ!これ持って行って』
『自分で持って行けよ』
『いいじゃない!ついでなんだから』
『俺は忙しいんだよ』
『どうせ、手ぶらなんだから、持っていってよ』
『なんだよ!これ!!』
『品違い!!』
『なら、自分で持っていけよ』
『歩いている人間は、上司でも使えだよ』
『なんだ!そりゃ!!?』
『発送のおやじさんたち待っているから』
『しょうがねけなぁ!1回だけだぞぅ』
『わかった!分かった!!』
『なんか!調子が狂うな!!』
『前田さん!これ、何処の分!?』
『こっち!!』
『ありがとう』
『品違い分は、エレーベーターで2階に上げおいてください』
『あいよ!!』
毎朝、出僅して来る時は、750のバイクでマフラー音を響かせて、フルフェスのヘルメットを被り、颯爽と走って来て、会社の玄関前に停めていた。
エンジンを切り、ヘルメットを取り7:3に分けた乱れた髪を銀色の櫛で綺麗に整えた。
そして、黒縁の細長いメガネを、バックミラーを見て、両手でかけ直した。
すると、ドンキーカルテットの猪熊虎五郎にそっくりだった。
確かに、顔が似ていると性格も似ると言われるが、やはり、声も似ていて脳天から突き出すような甲高い奇声を発していた。
『あのキザオ、銀座4丁目のスクランブル交差点でフルフェイスヘのルメットを取ったら通行人はどんな反応を示すかな!?』と噂した。
そして、顔を見合わせると、皆同じ答えを想像していた。
『(/≧∇≦)/にゃー!』
恒例の歓迎会が三階食堂で始まった。
毎回、新人教育で品出ししながら、酒と女の話をしていた。
『米田くん!七半なんか乗っていると女にモテルでしょ』と背が高からず高からずの藤井が聞いた。
『いや、それほどでもありませんよ』
『今まで、何人切りしてきたね』
『想像に任せますよ』
『(*^□^)ニャハハハハハハ!!!!』
『食えねぇ!ヤローだな!!』
『何処に、飲みに行くの!?』
『赤坂六本木ですかね』
『気に入れねぇなぁ』
『高級なところばかりだから、金がかかるでしょう』
『いや、僕のポケットマネーで十分ですよ』
『(T-T )( T-T)チクショウ…』
『今週の金曜日に新人歓迎会をやるから、出席してねぇ』
『今週ですか!?』
『そう!まずい!?』
『まぁ!いいでしょう!!』
『コノヤロー!!』
『何処でやるんですか!?』
『3階の食堂だよ』
『せこいですね』
『ふたけんなよ!!』
『じゃ、七半置いてきてね』
『はい』
マニュアル通り、平幕全員で酒を注ぎ変わり替わり攻め始めた。
『じゃ!米田くんの歓迎会を始めます』と幹事の松永が言った。
『☆拍手!!(゚∇゚ノノ\☆(゚∇゚ノノ\☆(゚∇゚ノノ\喝采!!☆』
『しゃ、主任!ご挨拶をお願いします』
『挨拶なんか何時もと同じだからいいよ』
『けじめですから』
『米田くん!地方業務課勤務おめでとう』
『それだけですか』
『そう!』
『しょうがねぇな』
『じゃ、乾杯の音頭をストックコントロールの斉田さんお願いします』
『米田くんの前途を祝して、乾杯!!』
『乾杯~!!!!!』
そして、和気あいあいで30分経った。
米田くんは、かしこまってビールを飲んでいた。
『米田くん!飲みなよ』とフカマンが言った。
キザオもそれを受けて、最初は遠慮して『すいません、すいません』とペコペコ頭を下げて静かに飲んでいた。
『日本酒は飲めるの!?』
『舐める程度です』
『いけそうに見えるけどね』
『何時も、スコッチのロックで飲んでいますから』
『かっこいいね!家でも飲んでいるの』
『そうでうね』
『金のある家は違うな』
『それほどでもありませんよ』
『スタンド経営もしているんでしょう』
『都内に10店舗ありますね』
『なるほどね』
『それで、系列店に用品部品を卸しているわけか』
『そうですね』
『一人っ子!?』
『姉が1人います』
『じゃ、将来は社長だね』
『と、思います』
『試しに日本酒も飲んでみなよ』
『はい!』
『どう!?』
『美味しですね』
『剣菱だからね』
『辛口ですね』
『そこがいいのよ』
『口に合いますよ』
『俺たちと飲むと日本酒が多いから、徐々になれてよ』
『わかりました』
そして、一時間経った。
『あっ!!』
『どうした!?』と私が聞いた。
『彼女に電話するのを忘れた!!』
『かの女いるにかねぇ!?』とニノがからかった。
『いますよ!!』
『へぇ~いくつ』と藤井が言った。
『僕と同じ23歳』
『かわいい!?』
『当たり前じゃないですか』
『妄想じゃないの!?』
『違いますよ!!』
『名前!なんていうの!?』
『キヨミ!!』
『何処の飲み屋の女よ!?』とニノが聞いた。
『堅気の仕事ですよ!』
『どうやって知り合ったの!?』
『大学の時からの付き合いですよ』
『何処の、大学!?』
『城東経済大学です』
『!?!??』
『何処に住んでいるの?』
『京橋のマンションです』
『何階よ!?』
『10階です』
『すげぇ!お嬢さんなの!?』
『じゃないですかね!!』
『ガックン!!』
『恐れ入りました!!』
『この電話使えますか!?』
『これは、内線用だから、宿直室からかけなよ』とデコ斎が言った。
『じゃ~行ってきます』
『!?!?!?』
『ホントかよ!!?』とフカマンが疑った。
『本人が言うんだからいるんじゃねぇ』と松永が言った。
『(*●∧●*)』
『もしもし』
『はい!』
『僕!!』
『なによ!?』
『これから出てこられる』
『ダメよ!』
『まだ!8時前だよ』
『やることがあるの』
『麻布にいるから来てよ』
『飲んでいるの!?』
『軽くねぇ!!』
『その割には、ろれつが回っていないわねぇ』
『そんなことないよ』
『酔っ払っているんでしょう』
『正気だから、電話しているんだよ』
『信用できないわ!?』
『会いたいんだよ』
『何時も、そんな事言わないでしょう』
『ウィ~!!』
『そんなに酒癖が悪いと思わなかったわぁ』
『ごめん!!』
『今度は、シラフの時に電話して』
『はい!!』と15分ほど話して、しょぼくれて出てきた。
『どうだった!?』
『やだって!』
『本当に付き合っているの?』と私が聞いた。
『付き合っていますよ!!!』
『振られたんじゃしょうがないから飲み直そう』
『よし!飲むぞ!!』と歯を剥きだした。
『かなり効いているから、そろそろ潰しに掛るか』と潰す準備をした。
『米田君、酒が強いからおチョコは辞めてこれにしなよ』とコップ酒に換える事にした。
すると、嫌がらず当たり前のように左手で取、注がれたグラスに口を付けた。
そして、飲むのではなく、口を大きく開けて上を向いて咽喉チンコの奥に投げ込んだ。
『わぁ~すごいな』と本当に驚いた。
そして、酒を注げと催促するように空コップを突きだした。
『中さん!もい、1杯!!』
『えぇ!!!』
『どうぞぉ』
そして、並々と注いだ酒を、次から次へと咽喉奥に放り込んでいった。
『( ゚∀゚)ウァハハ八八ノヽノヽノヽノ \』
その、大胆な飲み方は八岐大蛇か?又は酒呑童子を見ている様だった。
『世の中には上には上が居るものだな』と恐怖を感じた時には、私達平幕は見事に叩き潰されていた。
『負けました、ごめんなさい』とキザ男に完敗した。
『悔しいけど、キザ男に酒を飲ませるのは勿体無いな』と後悔した。
『メチルアルコールで良いかも知れない』と酒の飲ませ方を心配した。
『目がつぶれるよ』
『もともとないような目じゃねぇ』
『悪い子言うなぁ』
『( ゚∀゚)ウァハハ八八ノヽノヽノヽノ \』
そして、東西両の横綱も一目置く存在に祭りあげた。
都内課と地方課が合併して、わたしが第二課に左遷されてから、半年後に都内課から営業に出た。
キザ男は初対面でも笑ってはいけないが、何故か笑ってしまう顔で、営業マンとしては適していたと思う。
しかし、得意先回りをしても顔が面白い割にはキザなところが嫌われたようだ。
その上に、飲み仲間も営業所に転勤してしまい、下り坂になった本社では持ち前の武勇伝も発揮できなかった。
『米田君!今月の売上目標は、解っているな』と都内課営業部石野係長が言った。
『はい!』
『ハイじゃないよ』
『訪問しても、買ってくれないのですよね』
『売り込み方が悪いんだろう』
『営業マニアル通りにやっています』
『営業なんて、生ものだぞ!応用を効かせて話をしろよ』
『はい!!』
『笹岡くん!引き継ぎの時に得意先の癖を教えたのかい』
『はい』
『!?!?!?』
『下村主任!同行してやって』
『今日ですか!?』
『無理かい』
『午前中に重要な得意先を片付けてきます』
『そう!午後から行けるね』
『はい』
『米田君!いいな』
『はい』
『下村主任!頼むね』
『分かりました』
そして、鳴かず飛ばずの間々倒産を迎えた。
また、運悪く実家の会社も、新興勢力の量販店に押されて売上が減少した。
そして、倒産してしまい帰るところが無くなった。
イースト亡霊会の慰め合いでも話題に上らず、何時の間にか姿を消していた。
酒と女のケツを追い回すしか芸のない不器用な鈍臭いオヤジは何処にもいた。
そして、必ず一人気狂水がいて飲むと気が大きくなり、見境なく因縁つけて喧嘩ばかりしていた。
それでも、世渡りだけは上手く、先輩や同僚と後輩には絡む事はなかった。
繁華街に飲みに出ると通行人とすれ違いざまに目が合っただけで喧嘩を吹っかけていた。
6人で渋谷の繁華街で飲んでいた。
『次は、何処に行く!?』とニノが言った。
『五反田に行こうか!?』と藤井が提案した。
『どうする!?』
『俺は、それでいよ』と私が同意した。
『じゃそうしよか』
そして、4人で先頭を歩いていた。
『面白そうなとこらがあるかな』と藤井が聞いた。
『大村さんがあるようなことを言っていたよ』とニノが言った。
『何処の店か聞かなかったの』と私が聞いた。
『いゃ、行く気もなかったからなぁ』
『じゃ、それらしいところを探すか』
『そうだな』
『誰が覗く』と藤井が聞いた。
『俺がやるよ』と私が言った。
歩道橋を降り始めた。
すると、下から3人の大学生風の男が歩いてきた。
酒を飲んでいたかは判らない。
そして、歩道橋に上がる手前で何もなくすれ違った。
後ろから、喧嘩パヤイ内山と川村が歩いていた。
『内山さん!3人とも先に行っているよ』
『置いていかれるから急ごう』
『何処に行くのかな!?』
『わかんねぇ』
そして、歩道橋の階段を下り始また。
すると、上がってきた3人と中段でスレ違った。
『てめぇ。眼付けやがったな』と内山が真ん中を歩いていた男に因縁をつけた。
『なに、このヤロー』といきり立った。
『なめんじゃねぇよ』と殴りかかっていった。
そして、取っ組み合ったまま階段から転げ落ちた。
『あれ!内山は!?』
『はぐれたか?』
『まさか!?』
三人で後ろを振り返った。
すると、渋谷の歩道橋下で内山と男が取っ組み合いをしていた。
内山は足がもつれて倒された。
相手に組み伏せられて下になり足をバタバタさせていた。
『なに!やってんだよ』
『意気地の野郎だ!!』
わたしは戻り、上になっている男の顔を見る為に髪の毛を鷲掴みにした。
『誰だ、てめぇは』と顔面を蹴り飛ばし引き離した。
男は、仰向けに転がった。
すると、男は援軍が来るとは思わなかったのか?鼻血を出して腰を抜かせていた。
また、周りにいた2人の男は見ていた。
『てめぇらも仲間か』と威嚇した。
『いいえ、僕たちは違います』と慌てて手を振り否定した。
『今度、舐めた真似したら、ぶっ殺すぞ』と凄んでみせた。
『中さんこのくらいにして』とニノが仲裁した。
しかし、助け舟が来ないと、からっきし意気地のない気狂水だった。
『可哀そうに、中さん、止めれば良かったのに』と大山後輩が言った。
『喧嘩なんてぇのは、仲裁するモンじゃないのさ。なまじ止めると、勝てる方が『俺が怖くて、怯えて止めているな』と勘違いして、尚更、調子に乗り勢いづいて暴れるんだよ。だから、舐められないように勝てる方を殴り倒すのさ。すると、自分より強いのがいると正気に戻り、大人しくなるんだよ』と偉そうに正当化した。
『なるほどね』と納得した。
『下手に仲裁すると、こっちが、とばっちり食うからな』と喧嘩なれしているような事を言った。
『そうかもしれないねぇ』と私と並んで歩き出した。
『昔から、仲裁するほど難しい事はないんだよ』と結論づけた。
内山武は細身で身長は175cm、成田三樹夫似の、苦みばしった顔をした渋い男で『女の顔は性器にしか見えない』と真面目に言うほど、女のためなら恩人でも平気で裏切る男だった。
女を見ると、しつこさで女をねじ伏せて、次から次へと乗り換えて女に不自由はしていなかった。
しかし、女方も遊人が多く別れ方が綺麗でトラブルは起こさなかった。
また、気狂水が回ると、ジャズとソールミュージックを熱く語り、マイクを握ると何故か【カスバの女】をコブシ(*´○`)o¶♪をきかせて歌っていた。
各課の事務員には三・四人は手を出していた。
後に、登場する魔性の女にも手をつけていた。
その証拠は、慰安旅行の時に、前日の宴会ではスキがあれば新人事務員をモノにしょうと絡んでいるスケベオヤジは気づかなかった。
そして、20代の若手事務員に4~5人で真っ赤な顔で絡んでいた。
『あゆ美ちゃん!飲んでいる!?』と40代半ば独身の塚原地方課営業マンが言った。
『はい!』
『そんな!ビールなんかやめて酒にしなよ』
『わたし、飲めませんから』
『潰れても俺が介抱してやるから大丈夫だよ』
『いいですよ!』
『あゆ美ちゃん!卓球やろう』と30代後半独身の山倉都内課営業マンが誘った。
『わたしは卓球ができません』
『俺が教えてやるよ』
『結構です!!』
万年独身は結婚願望が強かった。
しかし、シャイで好きな女性のタイプの前では上がってしまい、まともな話ができなかった。
そして、飲まないとおとなしく、飲むと気が大きくなり焦りと共に本音が出て絡んでいた。
『おはようございます』と朝食で宴会場に集まると魔性の女が、しおらしく顔をほのかに赤くして言った。
そして、横に座って背中を丸めていた。
『おはようございます』とサッパリした顔で、内山が軽く頭を下げにやりと笑った。
その、わざとらしさが、何となくよそよそしく『こいつらやったな』とモテない男の妬み節の感が『ピン~ぴ、ぴ、ぴィ~♪゚+.o.+゚♪゚+.o.+゚♪』と歌ったからだ。
一年前の慰安旅行で、オタク系のムサイ同僚の田端慎二と三角関係になった。
しかし、女扱いに慣れている気狂水が騙し取った形で決着がついた。
それから、お互いに気まずくなり、同じ都内課営業部だったが、話をしなくなった。
忘年会で山中湖に泊まりで地方課の若手男7人と女3人の10人でマイカーに3台で分散して行った。
その日は、雨模様だった。
次の日は、夜明けから本降りになった。
『この嵐に中!帰れるかな!?』と中井主任が空を見上げて言った
『高速道路に載ってしまえば大丈夫だよ』とギャランGTOに乗っているニノが言った。
『よし!予定を変更して帰るか』とデコ斎が言った。
そして、
『俺たちは会社に戻るよ』と中井主任・ミエちゃん・フカマン・田端・デコ斎・藤井・山本さん・わたしの8人は2台に分かれて乗った。
中井主任のサニープーペKB110にはミエちゃん・デコ斎・私が乗った。
ニノのギャランGTOには、藤井・フカマン・田端が乗った。
しかし、
『俺は、このまま家に帰るよ』と内山が言った。
『私も家に帰る』と川田さんが言った。
『じゃ、俺が送っていくよ』とサバンナローターに乗っている内山が言った。
『じゃ、お願いします』
そして、帰りが同じ神奈川方面に内山と川田さんが2人で帰った。
『昨日はどうだった』と藤井が内山に聞いた。
『帰れなかったよ』
『そうだろうな』
『あの、土砂降りじゃ帰れないよな』
『何処かに泊まったの!?』と田端が聞いた。
『俺!川田さんとモーテルに泊まったよ』
『やったのかよ』
『何もしなかったよ』と白々しく言ったが、誰も信用しなかった。
『それで、よく寝ていられたな』と田端が疑った。
『俺は!女癖が悪くないし、女に不十しないからなぁ』
『じゃ、ブスには手を出さないって事か?』とムッとして言った。
『そう言う訳ではないけど、人の女を取るような非常識な事はしないよ』
川田さんは、一ヶ月後に原因不明で退職した。
そして、女心が判らない田端が負けた。
また、本社の経理の篠田美沙子事務員にも手をつけた。
そして、姉妹で住んでいるアパートに転がり込み同棲した。
しかし、邪魔になる妹に金を出しアパートを借りて追い出した。
『文子ちゃん、ここは狭いから、アパート借りてやるよ』
『わたしは、ここでお姉さんと一緒に寝るから構わないわ』と言った。
『そうもいかないよ』
『わたし、東京に出てきたばかりで、ここから出ても暮らせるか判らない』
『大丈夫だよ!ここから10分ぐらいのところに借りてやるから』
『お姉さんはどうなの!?』
『近いから、何時でもこられるからいいんじゃないの』
『じゃ、行くわ』
しかし、妹は高校を卒業して田舎から出て来たばかりで、一人暮らしは寂しく毎晩泊まりに来ていた。
すると、気狂水は怒り出し家出した。
『なんで、毎晩文子ちゃんが来るんだよ』
『来てしまうんだから,仕方ないでしょう』
『アパートを借りてやったじゃないか』
『文子は、まだ子供なのよ』
『高校卒業して、19にもなれば、大人だろう』
『まだ、田舎から出てきて友達が出来ないから、寂しいのよ』
『それなら、聞いてみろよ』
『貴方が聞きなさよ』
『俺が聞いても答えないよ』
『そうね。貴方のこと好きではないみただしね』
『俺は、義理の妹になるから可愛いと思いっているよ』
『それなら、毎日来てもいいじゃない』
『それとこれとは別だよ』
『男と女と言う事だけで変わりはないじゃない』
『しかし、新婚家庭なんだから、少しは気を使って欲しいよ』
『結婚式は上げてはいないじゃない』
『先週、コアの喫茶店を借り切って、会社の仲間が祝ってくれただろう』
『あれは、飲み会の延長みたいなものじゃない』
『そんなことはないよ。皆本気で祝ってくれたよ』
『でも、男ばかりで女性は本社経理の山田さんと長谷川さんの二人だけで麻布店からは、誰もこなかったじゃない』
『本社には声をかけなかったからな』
『声をかけると、不味い事でもあったの』
『いや、ないけど』
『そうかしら』
『本社には行かないから仲のいい社員もいないよ』
『集荷には来ていたんでしょ』
『一階のサービーカウンターだけに行っていたから、二階には上がった事はないよな』
『そんな事はどうでもいいけど、文子には、そこまで気が回らないのよ』
『回してくれよ』
『そのうちに、会社で好きな人が出来れば来なくなるわよ』
『それまで、毎晩来るのかよ』
『そうかもしれないわね』
『俺は、我慢が出来なよ』
『じゃ、どうするの』
『出て行くよ』
『我慢しなさいよ』
『出来ないよ』と手提げバック一つ持って家を出た。
朝礼が終わってから理由を聞いた。
『暫く、会社の宿直に泊まるよ』
『どして』
『これと、喧嘩したんだよ』と小指を立てて言った。
『もう、夫婦喧嘩か』
『そう』
『何が原因だよ』
『いろいろあってな』
『中井主任に言っておけよ』
『分かった』
しかし、本当に理由は、一番大好きな夜の営みができない事で欲求不満になり、頭にきて出て来た。とのことだった。
流石に、姉妹丼をいただく好色の飽食まではなかったようだ。
また、麻布店まで、飯倉坂下歩いて15分弱のアパートに住んでいた。
しかし、雨が降ると会社を休んだ。
『何で、雨が降ると会社を休むんだよ』と中井主任が問いただした。
『傘がないから来られない』と屁理屈を言った。
『コンビニいけば、100円で売っているだろよ』と言い返した。
『それに、自慢のイエローカラーマツダサバンナロータークーペRX―7があるじゃねぇか』と畳み掛けた。
『雨の時に走るとボディーが汚れるから使わない』と笑って言いやがった。
『ふたけんな。バカヤロー』と怒鳴りつけた。
しかし、女もしたたか者で、遊びに関しては一味違っていた。
そして、薄っぺらな気狂水に飽きてしまい、性格の不一致で3ヶ月後に分かれた。
こう云った、せこくて、見栄っ張りで,女好きする、ハッタリだけの男に女は魅力を感じて惹かれるのかも知れない。
新宿に鶴見と2人で飲みに行った。
薄暗い公園を、酔を回らせて2人で歩いていた。
すると、前から身長180cmほどの男が2人歩いてきた。
そして、相手をよく見ず気狂水を呑んだ勢いで、すれ違いざま2人に喧嘩を吹っかけた。
『おい!デカイツラして歩いているんじゃねぇ』
『なんだぁ!コノヤロー!!?』
『デカツラしているんじゃねって言ってんだよ』
『なんだてえめぇは!!』
『やるのか!コノヤロー!!』
『てめぇ!酔っ払ってんのか!?』
『シラフだよ!!?』
『なら!喧嘩なんか吹っ掛けてくるんじゃねぇよ』
『うるせっぇ!このやろー』と殴りかかった。
しかし、相手が強すぎてボコボコにされた。
次の朝、出勤してくると顔面青タンだらけで腫れ上がっていた。
『勝ちゃん、逃げちゃうから、2対1じゃ敵よ』と見苦しい言い訳をした。
『何で、こんなタコヤローが女にもてるんだ』とモテない、わたしは不思議に思うけど悔しかった。
愛宕山神社に、若手都内課・地方課社員合同で夜桜見物に行った。
女子社員も5人参加して、ゴザを敷き20人で車座になった。
そして、幹事のわたしの乾杯の音頭で始まった。
徐々に話も盛り上がり30分たった。
『これから、一升瓶の飲み回しをします』とわたしが嬉しそうに言った。
『チュウー、いいねぇ』とニノが鼻の下を伸ばして言った。
『左回りで、佐々木から行くよ』と私の偏見と独断で決めた。
そして、わたしの右隣から始まった。
先輩の船田さんから剣菱の一升瓶がラッパ飲みで、次の手に渡っていった。
『チュー、山本さんの口をつけた後から、間接キッスで飲みやがって、うまいことやるじゃねぇか』と羨ましそうにニノが言った。
『ニノさん、幹事の役得だよ、クックック』としてやったりで満足した。
また、私たちと同じ女子社員を連れた同数の連中が、隣で同じく車座で盛り上がっていた。
隣同士の馴染みで和やかな話で酒を酌み交わし、業種は違うが情報交換をしていた。
宴もたけなわになり、酒が十分回りだすと、話の弾みで自慢話が始まった。
そして、中井主任が(後に、独立して社長になるが、八つ裂きにしても飽き足らない、根っからの悪党だった)学生の頃剣道部で腕には自信があった。
また、相手も剣道をやっていたらしく、お互いに実力見せたくなり、そこらに落ちている棒きれを拾った。
『一手、ご指南を』と中井主任は中段に構えた。
『お相手いたす』と敵が言い試合が始まった。
しかし、中井主任は酒を飲むとだらしがなくなり、足がもつれて負けてしまった。
それを見ていた気狂水の内山が暴れだした。
『てめぇ!!何しゃがんだ!?』と勝った相手を殴り倒した。
すると!
『コノヤロー!!!』と双方総立ちになった。
そして、上司への不満や仕事のストレスでエネルギーの溜まった活火山が爆発した。
『いけッ!!』
『イケッ!!』と火蓋が切られた。
そして、男どもが双方入り乱れて大乱闘になった。
それを聞きつけて神社の宮司が来た。
『なに、やっているだぁ!お前たちは!!』と怒鳴った。
『ここ、何処だと思っているのだ。他人の迷惑を考えろ』とわたしたちのグループを見て凄んだ。
喧嘩の種を蒔いた中井主任と気狂水が悪かった。
『イースト㈱会社の社員は二度と来るな』と宮司も酒を飲んでいたのか、真っ赤な顔で怒鳴られた。
そして、次の年から出入り禁止になった。
呪い 【代わり雛】