俺は異世界で『一級フラグ建築士』
プロローグ
俺が異世界に飛ばされるわけない
フラグというの『パターン』からそうなるであろう、という可能性が高いときに使われる言葉である
先の展開を知っている場合などはネタばれを含め本当にフラグが成立したことを示唆する場合もある
では、フラグは勝手に立つものなのか?
答えは否
フラグは己が作るもの、誰にだってできる。
しかし、その中でもフラグを立てる天才が存在する
この物語の主人公「光圀透(みつくにとおる)」は
フラグを立てる天才。
そう、彼の職業は『一級フラグ建築士』
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「…んっ…届かねー」
仰向けに寝転びながら手を伸ばし、青空の太陽を掴もうとする
「はぁー、腕重っ…」
学校の屋上で寝転び黄昏ている1人の少年がいる
チャイムの音が鳴り響き、昼休みの時間が終わるが一向に起きる様子はない
階段を上がってくる音が聞こえ、屋上のドアが開く
「ちょっと!透! あんたまたサボるつもり!?」
ドアの前には長い髪で自分のよりも高身長、幼稚園から高校まで一緒だった幼馴染『青崎恵(あおさきめぐみ)』だった
「お前、よく俺の居場所が分かるよな…透センサーとかつけてんの?」
「んなわけないでしょ、ほら行くよ!」
彼女は透の耳を掴み教室まで連れて行った
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俺には才能がない、それにやる気も
でもやる気があって努力しても才能があるやつにはどんなに頑張っても勝てっこない
それがわかった時が一番虚しくなる、やってきたことが無駄になるあの感じ……凡人にしかわからないだろうよ
夏の一階の教室は風が通りやすく気持ちがいいが、
窓の外にはグラウンド以外本当に何もない学校だった
「はぁー…」
何となくため息がつきたくなる気持ちになった
自分が平凡なら、人生も平凡
急に頭を固いものでバシッと叩かれた
「ため息つきたくなるのは先生なんだが?」
黒く焼けた顔で野球部の顧問を務める向井先生
最近買ったらしい指示棒で殴られたみたいだ
「先生…目…どこですか?黒すぎて…」
「ここについてるだろ!?」
クラス中が笑い、先生もため息をつき教卓に戻り授業に戻る
再び窓の外を見てため息をこぼす
「ほんと…面白くねぇーな…」
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「透!帰りに行きたいお店あるんだけど!」
放課後になると同時に話しかけてきたのは幼馴染の青崎恵だった
「え?どこの店」
カバンを取り教室を出て歩きながら話す
「前に言ってた新しくできたシュークリーム屋さん!」
「そんなこと言ってか?」
「ずっと言ってたよ!」
幼稚園から同じということは家も近く、帰り道も同じなのでいつも帰りはいつも一緒だ
そして、時々こうやって彼女がいう店に寄って奢らされる事が多々ある
「ねぇ、透!進路決めた?」
「んー…まぁぼちぼち…」
「ぼちぼちって…あんたねぇー」
彼女の言いたいことは分かる、もう高校2年の夏
高3になったら迷ってる暇なんかない、遊んでる暇も
「んーでも、やりたいことないんだよな…俺 」
やりたい事、目標、夢、そんなものを考えたことは小学生以来かもしれない
いや、あったとしてもそれは全部夢で終わる
やる気だけじゃどうにもならない…
「才能がないと…」
「才能?なんで?」
「才能があったらそれが夢になったり、目標になるだろう?それなら楽でいいよなって」
愚痴混じりの透の発言に彼女は笑う
「才能が無かったら夢とか目標にしちゃダメなの?」
「んーどうだろうな…無駄だったていう結末なら俺は目標にしないな…」
川沿いを歩きながら自分の愚痴と嫉妬を吐き出す
それをしっかり聞いてくれるのは横にいる彼女だけ
だから、こうやって真の底から話せる
「あっそうだ!透って小学生の時は勇者になるのが夢だったよね?」
彼女は笑いながら小学生の頃の作文の話を持ち出す
「ほんといつの話だよ 、けどそんなのあったな…急に異世界へ飛ばされて勇者になってお姫様と結婚して、魔王倒すのは後回し!って子供の頃の俺平和ボケしすぎだろ…」
「なにそれっ、面白っ、急に異世界に飛ばされるとか強引な設定も面白いよね」
「強引なのも嫌いじゃないな!分かんないぜ急に異世界に飛ばされたりしてみたり!」
目の前には巨大な門がありその先にはディズニーランドでしか見た事がない城が建っていたのだ
周りにも知らない風景が広がっていて、青崎恵はいなくなり、自分だけがただ1人
「もしかして、今のフラグってた?」
城への手招き
一級フラグ建築士の定義を説明しよう
フラグが立つというのは「その場の雰囲気」「言葉」この二つが重なった時に起こるルートのこと
そして、気付いた時には案の定暗示した事が起こる
ここまでが、普通のフラグ建築士
その中でも
天賦の才がごとく無造作無差別無尽蔵にフラグを増築していき、老若男女おろか、二次元や三次元の壁すら越えるツワモノが存在する
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巨大な城を目の前にして生唾を飲み込む
圧倒的な存在感で立ち尽くす城に思わず手を伸ばす
「ははは、こんなのアリかよ…」
「おい!貴様何の用だ」
門に近づこうとすると門番が一人鎧をまとった剣士が透の行く手を一本の槍で塞いだ
「用は無いんだけど、この城は入れないの?」
鎧を着た大男が一歩前に出てトオルを睨みつける
その顔は今日の朝見た向井先生に似ていた
「顔黒いっすね、目がどこか分からん」
「なっ!この無礼者、この場から直ちに消え失せろ
さもないと痛い目を見ることになるぞ」
腰の剣に手を重ねトオルを脅す
「ちょ待ってくれ!悪い冗談だ」
トオルがその脅しにビビり一歩後ろに下がると背中にドンっと誰かが当たる感覚がした
「ドーフ、何かあったのか?」
爽やかな声が聞こえ振り返ると銀髪をした美形の男性がトオルの肩を支えていた
「エル様!おかえりなさいませ!このよそ者が城の周りで怪しい動きをしていましたので話を聞いていました!」
トオルの肩を離し、顔を見てくる
この門番の態度とかなり高価そうな白いローブをはおって手にはいくつか宝石をつけているこの男
おそらく、城に住む人の一人だろうと推測できた
「いや、俺はただこの城が綺麗で見てただけだ!別に怪しいことなんてしてねぇーよ」
慌てて弁明をするトオルの目を見つめ、嘘は言っていないのと同時に彼はトオルの目の中に光る何かに目を奪われる
トオルの目の中にポツンと光るものが見えたのだ
「なるほど、もういいよ この城に招待してあげるよ」
「エル様!なにをお考えしなさるのですか!?この者は!」
「ドーフ、僕が招待するって言ったよね?」
門番の男はその言葉に口を閉じ、門は開かれ、エルに手招きされる
「さぁ、どうぞ」
「えと…こんだけ怪しい俺を入れるとか大丈夫なのか?」
これほど上手く事が進むとかえっておかしいと思い、頭に手を当てて笑い混じりに呟く
「ああ、ちょっと興味が湧いてね…」
「え、今なんて?」
「さっ、入って!」
エルは誤魔化すようにしてトオルの手を引き、城へと招待した
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城の中は、外で見た時の期待通り素晴らしかった
床には赤いカーペットが敷かれ、部屋がいくつもあり廊下の一番奥がとても遠い
エルの後ろをついて二階の部屋に招かれた
客間らしきところだった、長テーブルが一つあるだけで他はなにもない
「さぁーどうぞ、座って」
トオルは手が指す方の椅子に座り少し離れた場所にエルが座った
「どうしたの?トイレかい?」
「いや、こんな広い部屋は初めてで落ち着かないだけですよ それにしてもすごい城ですね」
周りを見渡せば高そうな絵や花瓶が置いてあり、天井には絵画も描かれている
「この城を初めて見たのかい?」
「ええ、こんなの初めてで興奮しますよ!」
エルは机に肘をつきトオルの顔をじっと見つめる
「ふーん…やっぱりね…」
「やっぱりねって?」
「君、異世界からの使者だね?」
エルが笑いながら異世界という言葉を口にする
「なんで…」
俺は異世界で『一級フラグ建築士』