街コンの神さま

街コンの神様に会うと幸せになれるーー

神様の外見はメガネをかけて、髪を1つに束ねた女性

神様のIDを教えて貰った人は運命の人に出会える

自信満々の人より自信がない人のほうが神様に会える可能性が高い

神様に怒られると結婚できる

神様のおかげで結婚した人は神様を結婚式に招待しなければならない

まことしやかに伝わる都市伝説。
嘘か真実かーーー

01.飯島英夫(27)

初めての街コンに、心臓が落ち着かない。

大してかっこ良くもなく、口ベタな俺がなぜ街コンなんて無理ゲーに参加することになったかというと1週間前に遡る。


俺には3年間つき合った彼女がいた。
そう、過去形だ。

高校の同窓会で再会して、なんとなくつきあい始めた。

まぁ、よくある話だ。

なんだかんだ気が合ったし、一緒にいて楽な存在だった。

歳も歳だし、生活に余裕も出てきたからそろそろ結婚かなーと思っていた矢先。


「好きな人が出来たの」


彼女はアッサリと俺の前から消えた。

既に用意してあった結婚指輪を見ながらヤケ酒を呑んでいたら、テレビで街コンが取り上げられていた。

すぐにスマホで街コンを探し、勢いで申し込み。
まぁ自暴自棄だったってこった。

そして冷静になり後悔…。

でもクレカで参加費はその場で払っちまったから勿体無いし…。

社会勉強のつもりで…彼女というより友達が作れたら…くらいの気持ちで来た。

今回の街コンは同世代縛り。
25〜35歳が参加できる。

軽い疑問なんだけどなんで男性は社会人限定で女性は学生も無職もいいんだろうか。

いや、そんなことはどうでもいい。

これからの約2時間、しっかりしないと…!

大きく息を吐き、会場の中へと足を運んだ。



しかし。


意気込んだはいいものの、目まぐるしく変わる状況についていけない。

開始時間になると主催の人の案内でテーブルに女性と1対1で座らされる。

そして5分程度話す。
それを全員と。

今日は15人ずつだから、計75分。
正直誰とどんな話をしたか覚えていない。

やっと次の人で最後だ。

あー疲れた…。
家でビール呑んで寝たい…。


「はい!ではこれで最後です!これが終わったらフリータイムになりますからねー!男性はしっかりリードしてあげて下さいよ!」


でたよ。
よく女性差別って騒ぐけど、男性差別だってあるだろ。

「…女性差別は騒がれていますが、こういった男性がリードしなさいとかは男性差別ですよね」

最後の女性がポツリと言った。

女性でそういう人は珍しいんじゃないか?
理解がありそうだ。

その女性は、メガネをかけて胸くらいまである髪を1つに束ねている。
真面目な印象だ。


「あはは、でもやっぱり男が女性を引っ張るってイメージが強いですよねー」

「しかし、こういう場は女性も出会いを求めている訳で受け身でいいとは思えません。それで良いなと思う殿方とお話出来なければ元も子もありません」


おお…。
見た目通りの人っぽい。


「あ、えと、飯島英夫です。26歳で営業やってます」

「加味佐真子といいます。28歳です。よろしくお願いいたします」


かみ さまこ…。
不思議な名前だ。


「加味さんですか。こう…失礼ですけど順番待ちで名前書くと凄そうですね」

「はい。いつもイタズラだと思われます」

「加味さんはお仕事は何を?」

「人材コーディネーターをしております」


人材コーディネーター…
よくわからないけど凄そう。


「加味さんはこういったものは初めてですか?自分は初めてで…」

「いえ、何度か参加したことがあります。カップル成立したことはありませんが」

「あ、そ、そうなんですね…。いや〜緊張がとれなくて…はは」


淡々と話す人だな…。
愛想がないというか…言っちゃ悪いけど誰かとカップルになれないのも納得だな。


「飯島さんはなぜ街コンに?」

「あ、えと…実は結婚を考えてた人がいたんですけどフラれてしまいまして…勢いでって感じですかね…」

「ではそこまで真剣ではないと?」

「え、いえいえ、結婚は…したいんですけど…」


結構突っ込んで来るなぁ…
やっぱりこういうの苦手だな…


「そうですか。飯島さんをお見受けする限り誰に対しても積極性を感じなかったので」

「え…見てたんですか?」

「仕事柄人の行動や表情、何の話をするか観察してしまうので。この程度の人数なら全ての方を把握できます」

「凄いっすね…」

「飯島さんの場合、知らない人と話すよりもご自身の知り合いと一緒に合コンなどをするほうが合っていると思います」

「え?」

「あまり自分に自信がなく、内向的。そのような方の場合は「はーい時間です!お互いお礼を言って下さい!フリータイムに入ります!お飲み物も用意してあるのでどうぞー!」


時間になってしまった。


「時間ですね。ありがとうございました」

「あ、ありがとうございました」


加味さんはスッと立ち上がり、飲み物を取りに行ってしまった。

凄く不思議な人だ。
人材コーディネーターってあんなに人を観察してるもんなの?


なんとも言えぬモヤモヤが残ったが、フリータイムを無駄にしないようにと他の女性に話しかけることにした。


結局誰かとカップルになるということもなく、数人と連絡先を交換するだけに終わった。
この連絡先も誰が誰だかわからないから連絡することもないだろう。

ただ疲れただけだった。
さっさと帰ろう…。

駅に向かって歩いていると、前に加味さんが見えた。

そういえば何か言ってる途中だったな…。
せっかくだし話しかけてみるか。
決してタイプではないけど。


「加味さん!」

「飯島さん。先程はどうも」


眉毛ひとつ動かさずこちらを向く。


「加味さんもこっちですか?」

「ええ。中央線なので」

「あ、僕もです」

「そうですか」


…気まずい。
まさか電車まで一緒だなんて。
送るべきか?
いやでも迷惑かもしれないし…


「先程の続きですが」

「え、あ、はい?」

「飯島さんは内向的であまり自分に自信がない方ですよね。そのような方は知らない人ばかりのところでは上手く立ち回れません。
吹っ切れる方なら別ですが、飯島はそうではない。誰か味方がいるほうがいいと思われます」

「は、はぁ…」

「よろしければ合コンしませんか」

「はぁ…って、へ!?合コンですか!?」

「はい。正直このまま街コンに参加したところで飯島さんに結婚相手はおろか彼女すらできません。
しかし、私の友人の中に飯島さんのような自尊感情が低い人の相手が得意な方がいます。
少なからず知り合いの私と、飯島さんの友人という味方がいる中ならば少しは違うと思います。連絡先を教えてください」


正直何を言っているかよくわからなかった。
けど、一個だけわかったことが…


「紹介してくれる…ってことですか?」

「はい」

「え、え、なんで僕なんかに…今日知り合ったばかりだし…」

「私の経験上から飯島さんは危険な方ではないと判断しました。
それに、これは飯島さんの友人を私に紹介して頂くということになるのでWinWinの関係です。
さらにそこからまた新たな繋がりが出来る可能性もあります」


無料通話アプリのID画面を出され、そのまま連絡先を交換することになった。


ーーーそれから、あれよあれよと半年が過ぎ俺は結婚することになった。

相手は加味さんに紹介してもらった子。

あの後実際に合コンは開かれ、紹介された子の包容力にやられてしまったのだ。

加味さんと俺の友人は何もなかったが…


「由美、加味さんにも招待状出すよね?」

「もちろん!キューピッドだし!」

「加味さんはいい相手見つかったかな?」

「うーん、まだみたい。…実はさ、私も加味さんと街コンで知り合ったんだよね」

「え!?初耳なんだけど!」

「何回か街コン行ってたんだけど、全然ダメでさー。加味さんとは何回か一緒になってて顔見知りで。話してたら「この短時間であなたの良さはわからない。少人数でじっくり話せる場に行くべき」って言われて合コン誘われたんだー」

「…あの人ってさ、自分だけじゃなくて周りの人も分析して合う相手を紹介してるらしいね」

「ほんと、神様みたい」

「自分のはダメみたいだけど…」

「でもいつかい人現れるって!絶対!」

「そうだな」


最近、変な話を聞いた。

“街コンの神様”という話。

メガネをかけて、髪を1つに束ねた女性らしい。
その神様に会うと幸せになれる、と。

俺たちはその神様…加味さんに出会って、こうして幸せになった。


「神様を結婚式に招待しないとなぁ…」

「ん?なに?」

「いや、なんでもないよ」


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「由美さんと飯島さんの招待状ですか。…二次会に期待」


加味 佐真子
街コン戦歴 35戦0勝35敗
結婚式招待回数 45回

街コンの神さま

街コンの神さま

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-12-02

Copyrighted
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