石と骨

 へんてこな形の石をあつめるくせが、パンダのおじさんにはあった。
 パンダのおじさんは、へんてこな形の石をたくさんあつめて、へんてこな形の石の博物館をつくるのだと、いっていた。
 ぼくは、パンダのおじさんがあつめた、へんてこな形の石の数々を、ときどき、見学に行った。パンダのおじさんの家に行くことを、ぼくのおかあさんは、よくないことだといったけれど、ぼくは、パンダのおじさんの家が、好きだった。パンダのおじさんの家には、へんてこな形の石のほかに、二百年前に出版された本や、セピア色の地球儀や、ウニの化石や、セミのぬけがらなど、いろんなものがあった。いろんなものがありすぎて、ごちゃごちゃしていた。がらくたばかりだと、パンダのおじさんは笑っていたけれど、パンダのおじさんがそれらを見る目は、とてもやさしそうだった。
「これは、星の形をした石」
 なるほど、いびつだけれど、星といわれれば星の形をしている。
「こっちは、ピラニアの形」
 パンダのおじさんのてのひらにある石は、たしかに、魚の形をしていたけれど、それがピラニアの形なのかは、ぼくにはわからなかった。パンダのおじさんが、ピラニア、というのだから、まちがいないとも思った。
 パンダのおじさんは、ぼくが家に行くとかならず、コーヒーをいれてくれた。ぼくはコーヒーよりも、りんごジュースが好きだったけれど、パンダのおじさんの家には、ジュースがなかった。お水と、お茶と、コーヒーと、紅茶しかなかった。ぼくはコーヒーに、山盛りの砂糖と、たっぷりのミルクをいれて、のんだ。
「あの人は、子ども向けではないの」
 おかあさんはパンダのおじさんのことを、あの人、とよぶ。
 パンダのおじさんは、子ども向けでは、ない。あまく、ぬるくなったコーヒーをのみながら、ぼくはいつも、こころのなかでくりかえした。へんてこな形の石をひとつひとつ手にとり、おじさんはじっくりながめた。星の形の石。ピラニアの形の石。食パンの形の石。犬の形の石。
「おや、これはこれは」
 おじさんがへんてこな形の石のひとつを、ぼくのめのまえにさしだした。
「ごらん。人間の骨の形に似ている」
(にんげんのほねのかたち)
 ぼくは、おじさんのてのひらの上にころんと転がる石を、まじまじとながめた。
(にんげんの、どのへんの、ほねのかたち)
 人間の骨の形をしているという石は、ほかの石とくらべてもぜんぜん、まるみがなかった。地面におちているほそい木切れに、にていた。人間にかぎらず、なにかの骨、といわれれば信じてしまいそうなほど、骨、という感じはあった。
「ぼくのともだちに、むかし、動物の骨でおまもりをつくる人がいたけれど、その人はたくさん、骨をもっていたよ。恐竜の骨なんかも、その人はもっていたよ」
 パンダのおじさんのともだちの話をききながら、ぼくは、あつめるならば骨よりも石がいいなあと思った。でも、恐竜の骨だったら、あつめてもいいなあと思った。骨でおまもりをつくっていたおじさんのともだちは、ちょっとだけむかしに、よりよい骨を求めて遠い外国へ旅立ったそうだ。

石と骨

石と骨

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-30

CC BY-NC-ND
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