理想の彼女は目視できない

「この学校に唯一文句があるとすれば、女子の制服だよね」
 そう言って隣の男――クラスメイトの相田はカフェオレをストローで勢いよく吸い込んで、ぱっと口を放す。ぎゅるぱ、と良い音を廊下に響かせたそれの角を指先で撫でながら目を細める。
「そうは思わないかね、寺島くん」
「いや、別に。俺はわりと好きだよ、なんちゃって制服」
 お前と違って俺はブレザー派だし、という至極どうでもいい個人情報は緑茶と一緒に腹の底まで流し込む。というか思わないかね、って何キャラだよ。似合わねぇ。
「えー、寺島は同士だと思ったのに。だってさ、野郎は学ランなんだぜ? ここは女の子たちも合わせてセーラーだと思うじゃん。折角共学になったっていうのに、何をとち狂ったか『女子は制服自由』だぞ」
 ふざけんじゃねぇ、とストローを噛みながら相田はブツブツと文句を零す。その様子を見て、目の前を通りすがる隣のクラスの女子はクスクスと笑っているが、彼女は水色のチェックスカートだから彼の意識には引っ掛からない。女子の制服ごときでここまで真剣になれるのはこいつの良いところではあるのだが、高校生の雀の涙ほどしかない昼休みをこんな話に費やすのは惜しすぎる。
 俺としては、課題の量の方が女子制服なんかより文句が有り余って仕方ないというのに。相田はまだ制服について熱弁をふるっていて、そんなことは微塵も思っていなさそうだ。頭は良いのにな。頭が良いからかな。
「オレはさぁ、長い黒髪が綺麗な先輩の紺色セーラーの襟が浮き上がる瞬間に見惚れて、翻る膝下スカートにときめいて、花が綻ぶ様な微笑に恋したいわけ! 高校生活、それだけを夢見ていたのに!」
「じゃあ何でこの学校入った?」
「ん? 公立で家から近いから」
「……あー、うん。お前ってそういうやつだよね」
 そういうところが好きだわ、と呟きながら目の前で踊るスカートを眺める。勿体無いなぁ、お前の望む景色はたった今、ここにあるのに。因みに彼女は微笑ではなく爆笑だが。
「ははっ、面白いねこの子!」
 ひいひい言いながら涙を拭う様は、彼女の実態を知っていても多少ときめくものがある。まぁ、俺が彼女に恋することは無いけれど。

理想の彼女は目視できない

理想の彼女は目視できない

診断メーカー30分アタック https://shindanmaker.com/28927 「昼の廊下」で登場人物が「恋する」、「制服」という単語を使ったお話を考えて下さい。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-30

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