happy end
小説ではなく、漫画原作として、とある月刊誌に投稿した作品です。
編集の方や審査員の方に理解していただく為に、より分かりやすい表現や描写で書いております。
それ故に、不自然さを感じ、読みづらいかもしれませんがご了承下さい。
男はたまに行くバーで一人、酒を飲んでいた。
すると女が話しかけてきた。
女「えっ?画家?すごいね。」
男「すごくないよ、売れてないし。」
女「今度、絵を見せてよ。」
男「・・・・俺と関わっていると、死んじゃうよ。」
男はそっなく言って、続けた。
男「俺の家系、早死にするんだ。周りをも巻き込んで。父親も母親も二十代半ばで・・・・」
女「今、興味ないって言われてる?」
女は男の言葉を遮る様に聞いた。
男「いや、そういう事じゃなくて。」
女「じゃあ、一緒にいようよ。」
女「二人なら死ぬのも怖くないでしょ?」
男「・・・・・・・・・・。」
男は少し黙って、そして笑いだした。
男「・・はははは・・・ははは・・・。」
嘲笑的に。
(回想)
朝日の光で男は目を覚ます。
男「・・朝か・・。」
男は立ち上がり、顔を洗いにいく。
そして鏡を見て、ふと思う。
男(髪、伸びたな。ここに住む様になって結構経つんだな・・・。)
男(時間が・・・。)
男は部屋に戻り、机を見るといつもの様に女が置き手紙をしていた。
「冷蔵庫にご飯があるから、温めて食べてね。」
男は躍動的に食べる。
そして食べ終わり、煙草に火を点ける。
消えてゆく煙を眺めながら思う。
男(最近、死が近づいているのがわかる。)
男(俺は・・・・・・。)
ゆっくりと瞼を閉じて、開き、絵の制作にとりかかる。
集中し、時間が流れていく。
男は背後に「何か」を感じる。
振り向くが何もない。
男「・・・・・・・。」
ガチャ
玄関のドアが開き、女が帰宅した。
女「ただいまー。」
男「おかえり。」
女は描き途中の絵を見て、
女「どう?順調?」
男「うん・・そうだね。」
女「完成したら見せてね。」
男「うん。」
女「はーっ、疲れた。」
そう言いながら、女はベッドに飛び乗る。
男「お疲れ様。コーヒー飲む?」
女「うん。ありがとー。」
女「今日ね、仕事に向かってる最中に急に雨が降ってきて、ゴホッゴホッ。」
女「傘がなかっ・・・」
男は女の言葉を遮って聞いた。
男「風邪・・・?」
女「かなあ?薬がどこかに・・・」
女の言葉を遮って
男「病院、行ったほうがいいよ。」
男は突き放す様に言った。
女「・・・・・・・・。」
男「・・・・・・・・。」
女「・・・・どうしたの?何を考えているの?」
男「・・・・・・・。」
女は心配そうに聞いたが、男は口を開かない。
女「心配してくれてありがとう。でも私、体丈夫だから!」
女はそう言うと少し笑ってみせたが、男は何も言わずに俯いたままだった。
女「大丈夫、大丈夫よ。」
女は少し悲しげに、そう言いながら男にゆっくり近づき、抱きしめて、キスをした。
そして、セックスをする。
男は目を閉じて、思う。
男(大丈夫・・か。そんなことが言えるのは自覚がないからだ。)
男(見えてくれば・・近くまでくれば変わる。)
過去の女達の顔が浮かび、声が聞こえてくる。
「最近、体の調子が悪いの。」
「あんたと住む様になってからよ。」
「あんたのせいよ。」
「出て行って。死にたくないの。」
「死にたくないの。」
翌朝、いつもの様に描き始める。
描き始めて、数時間が経っていた。
男は昨日感じた「何か」が、徐々に近づいていることに気付く。
そしてその「何か」が、死であることも、薄々わかっていた。
ゴホッ!
咄嗟に口元を押さえた掌に、血がついていた。
男は焦りながらも描き続ける。
内心、男は自分が思っていた以上に差し迫ってきている死に動揺した。
それでも描き続けていたが、遂にか細い集中力が途切れてしまう。
男「はあっ、はあっ。」
ボフッ
力尽きるようにベッドに倒れ込む。
男「ふうっ。」
男(・・まだ「その時」じゃないだろう。)
男(「その時」、「その瞬間」まで、邪魔をしないでくれ。)
そう強く思いながら、男は疲れて眠ってしまう。
そして夢をみる。
男「はあっ、はあっ、はあっ。」
男は暗闇の中で「何か」に追われながら、匕首を片手に走っている。
男は何度も後ろを振り返りながら、走り続ける。
然し、気付くと目の前は行き止まりだった。
後ろから忍び寄る「何か」とは死神だ。
男はわかっていた。
そして男は、死神に向かって叫ぶ。
男「やめろ!俺はお前なんかに殺されない!」
死神は持っている釜を振り上げる。
男は持っている匕首に力が入る。
男「俺は・・・俺は・・・!」
ぱち。
男は目を覚ました。
涙が流れていた。
女「んん・・・うなされてたよ。大丈夫?」
隣で寝ぼけ眼の女が声をかける。
そして体をさすってくれていることに気付く。
男「ああ、ごめん・・起こしちゃったね。」
女「ううん、それより本当に大丈夫?」
男「うん、最近描いてばっかりで、あまり寝れてなかったから。」
女「そう・・。あんまり無理しないでね。心配だから。」
男「うん。」
女「・・ねえ・・・。」
男「ん?」
女「お願いがあるんだけど。」
男「なに?」
女「今度でいいから、落ちついたら私のこと描いて。」
男「・・・今、描こうか?」
女「えっ、いいよ、体調も良くないんだし。」
男「大丈夫だよ。息抜きにもなるし。」
女「本当に?」
男「うん。」
女「やったー!」
女「じゃあちょっと待ってて。お風呂入って化粧するから!」
女が立ち上がり、急いで風呂場に向かう。
男「別にそこまでしなくても。」
女「やだっ!」
バタンッ!
女が風呂に入る。
男は遠い目をして呟く。
男「・・「今度」はないんだよ・・。」
そして女の準備が整う。
女「宜しくお願いします。」
正座をしてお辞儀をする律儀な女に、思わず男は照れて笑った。
男「はははっ、こちらこそ。」
描き始める。
最初は良かったが、肝心なところで手が止まる。
女「どうしたの?」
女が聞く。
男「・・・描けない・・。」
女「えっ?」
男「なんでだろう。ペンが進まないんだ。」
女「・・・・・・・。」
女は一瞬戸惑い、言葉を失ったが、深刻な顔をしている男を気遣うように声をかけた。
女「そういう時もあるんじゃないかな?」
女「絵の事はわからないけど・・ほら、ペンが悪くなってきてるとか、それに今は疲れてるんだし・・・無理させてごめんね。」
男「・・・・・・・・。」
男は黙って聞いていた。
女「・・・じゃあ、そろそろ仕事に行こうかな。」
男「えっ、少し早くない?」
女「あぁうん、少し寄りたいところがあるから。」
男「そうなんだ、気をつけていってらっしゃい。」
女「うん、ありがとう。いってきます。」
バタン。
女が家を出た。
男「・・・・・・・・。」
男(何故、描けなかったんだ。)
男は考えるがわからない。
死の観念に囚われかけた男には、生を謳歌する女が眩しくて上手く視ることができなかった。
そして男はその事に気付けない。
男は気持ちを切り替えて、描き途中の絵の制作を再開する。
先程とは違い、どんどんのめり込んでいく。
男(何故だろう。さっきとはまるで違う。意識より早くペンが・・。)
然し、着実に近づいてきていた死期(死神)が、もう自分の真後ろにいることがわかる。
そして死神に後ろから抱きしめられている様な感覚に陥る。
男は振り払うように、ギリギリの精神の中で描き続ける。
遂に、絵が完成する。
男「はあぁ。」
立っている事もやっとな男は窓に寄りかかる。
外は真っ暗だった。
時計を見ると、日を跨ごうとしている。
男(終わった。後は最後の・・・。)
ふと、窓を開き見上げると、煌々と三日月が輝いていたが、男の眼には酷く孤独に映った。
そして、闇に光る欠けた月を、自分に重ね合わせた。
その束の間、風が強く吹いた。
男(風が泣いている気がした。俺が死んだら連れていってくれるのだろうか。)
男は緩やかに流れる時間の心地良さに、少しだけ身を預けた。
ピーンポーン
男「・・・・・?」
こんな時間に鳴る呼び鈴を不思議に思いながら、男は玄関のドアを開いた。
ガチャ
パッーン!
女「誕生日おめでとう!」
そこにはクラッカーを持った女が立っていた。
男「えっ・・・・。」
女「やばいっ!ご近所さんに怒られちゃう!」
女は急いで家に入る。
立ち尽くす男。
女「どうしたの?・・・もしかして忘れてたの?自分の誕生日くらい覚えてなきゃだめだよ。」
少し呆れたように女が笑う。
女「今日で二十五歳でしょ?」
男(・・・・二十五歳・・そうか・・。)
男「・・・そういうことか・・。」
男は小さい声で呟いた。
女「ご飯食べて、ケーキ食べよ!プレゼントもあるし。」
男「プレゼント?」
女「うん!今日、朝買いに行ったの。もしかしたらペンが古くなってるから描けなかったのかなって思って、新しいの買ってきたよ。」
男「ありがとう。」
男は女の顔色が良くないことが気になっていた。
男「少し顔色悪いね。」
女「・・えっ?そう?全然元気だよ!」
男「そう・・・。なら、いいんだけれど・・・。」
男「あっ、絵が描きあがったよ。」
女「見ていい?!」
男「うん。」
女が絵を見て、
女「きれい・・・なのに、なんでだろう・・・悲しい。」
男「・・・・。」
それは忌々しい骸骨のまわりを、ドクニンジンの花が囲んでいる絵だった。
女「この花って・・。」
男「ドクニンジンだよ。」
女「確か、花言葉は・・・」
女の言葉を遮った。
男「「あなたは私の命取り」」
女「・・・・・・・・・。」
女はなにかを言いたそうだった。
男「・・・・ご飯食べよう。」
男は感情のない声で言った。
食事を終えて部屋のあかりを消す。
そして男は、眠りにつくと、また暗闇の中にいた。
死神が立っている。
然し、手にはもう鎌もなく、ただ男を見ている。
男「俺は生き抜いた。」
男「・・お前(死)は・・誰なんだ・・?もしかして・・・・。」
死神はなにも言わずに消えていく。
男「・・・・・・・・・・・。」
男は立ち尽くす。
そして朝を迎える。
起きると、女が仕事の支度をしていた。
女は男が目を覚ましたことに気づいていない。
女「ゴホッゴホッ。」
男(・・・・・・・・。)
女の背中を心配そうに見つめる。
咳を気にして女が振り向き、男が起きていることに気づいた。
女「ごめん、うるさかった?」
男「ううん。」
女「今日はレンジにご飯入ってるからね。じゃあ、いってきます。」
男「うん、いってらっしゃい。」
そう言いながら男が立ち上がると女が驚く。
女「どうしたの?」
男「え?なにが?」
女「玄関まで見送りにくるなんて珍しいから。」
男「ああ・・そう・かな。」
男は無意識に、最後の挨拶をしようとしていた。
女「あっ!さては昨日のプレゼントが嬉しかったんでしょ!?」
男「ははは・・・・。」
楽しそうに話す女に男は、少し自嘲がかった笑みを返す。
靴を履きながら女が聞く。
女「ねえ、ドクニンジンの花言葉はもう一つあるんだよ?」
男「えっ?」
女「「死をも恐れぬ愛」」(眩しいほどの笑顔で)
男「・・・・・・・。」
男はその自信に溢れた笑顔と言葉に驚き、なにも言えなかった。
女「いってきます。」
バタン。
男「・・・・。」
男の頬を静かに涙が伝う。
男はやっと女の愛に気づいた。
欠けた月も満月になるように、男は満たされていた。
そして男は、穏やかな顔で匕首を取り出した。
そのまま白い壁に立ち、自分の腹部に刃を入れる。
流れ出る血を昨夜もらったペンで掬い、壁に絵を描き始める。
男は生きた証とでもいうように、ひたすら描き続けてきた。
そして最後の作品となるこの壁画を、意識が朦朧とする中、魂で描くように描き続ける。
男(俺は死に囚われていたのかもしれない。)
男(君の美しさに気づけなかった。)
男(俺は・・・幸せだったんだ・・・)
意識が遠のく。
バタッ
男は倒れた。
もう生き絶えていた。
女のような眩しい笑顔で死んでいった。
完成した作品は、女が死神を後ろから抱きしめている、美しい壁画だった。
end
happy end
改めて読み返してみますと、どれほど時間を費やそうとも書き直したいと思う箇所がでてくるところに未熟さを痛感致します。
わかりにくい描写や表現が多々あると思われますが、読まれた方の毒か薬になっていましたら幸いです。
読んで頂き、ありがとうございます。