~みぶろ~壬生浪士組隊士蝦夷地松前に帰藩す。≪妖怪退治≫

 ”よし!農家、やろう!”
と決意した。
その先に待ち受けるおどろおどろしい体験とは?

 主(ぬし)との頂上決戦!?

 若い時分の貴重な経験。
もう若くない、という方ならひとつやふたつ持っているであろう。
だがそれが貴重かどうかは本人の解釈によりピンキリである。
 私の場合、どのようにも解釈出来る雑多な経験があまりに多い。
そんな事だから中には、
 ”それ言っちゃっていいの?やばくない?”
なんてものも数多く存在している。
今回、その中から選りすぐりのエピソードを紹介したい。
 読む前にひとつ忠告。
表現はともかく、これは筆者の体験を元に書かれております。
ですからあまり真剣に読まれますと、あなたの心身に深刻な害を及ぼす事があります。
心臓の弱い方、心身が衰弱傾向にある方、大いにストレスをため込んでいる方、昨日足を折ったばかりの方、パチンコで負けた方、
 「お父さんなんか大っ嫌い!」と言って家を飛び出した女子中学生、依存症、食べ過ぎ、飲み過ぎ、胃もたれの方は特に注意してネ♪
以後、自己責任で。
 
 ある時私は
  ”よし、俺、農家になろう!”
と決意をした。
とは言え、何から始めたら良いかさっぱり解らない。
だから私は先ず役所に行った。そして、係の男性にこう言った。
 ”あのぅ、農業を始めたいのですが・・・えっ?はい、明日からでも”
対応してくれた係の男性も、随分と性急ですな・・・なんて苦笑いしてたっけ。
 結局私はとある農場で働きだしたのだった。
そこは地区でも一番大きな規模を誇るジャガイモ農家だった。
 地平線まで広がるジャガイモ畑は、さすがは北海道、デッカイドウ。
収穫時期になると、ジャガイモ泥棒も畑を荒らす。 
畑の規模が規模だけに、防犯が難しい。
 ”捕まえられる訳がないよな・・・”
そう思ったのを覚えている。 
 そのでっかい農場では、その莫大な収穫量を考慮して(か、どうかは解らぬが)、畑の一画に廃墟にも似た、
 ”でんぷん工場”
があった。
 作業員はジャガイモの収穫スタートに遅れて、そのでんぷん工場勤務が加わるのだ。
 作業員。
当時、作業員は私を含めて5人。
私の様な繁忙期臨時職員が3名、正社員が2名いた。
この正社員のひとりが超くせ者だった。
見た目は普通の男性であるが、どこか陰気臭い。
気が付くといつもブツブツと独り言を言っている。
自分より目上の者に対しては従順で、目下の者に対しては陰で文句をのたまう様なタイプだったのだ。
私の一番嫌いなタイプだ。
あーヤダヤダ。
事もあろうにそいつがここの現場の主(ぬし)なのである。つまり作業員の実質の長(おさ)である。
聞くところによるとその男、前職は郵便局員だったとの事。
年の頃は、働き盛りの中年である。
そんな人間が何故こんなところで働いているのだ?と私は、元原子力発電所職員で、殺人の嫌疑をかけられた事のある人のいい横山氏に訊ねた。
すると横山氏はちょっと言い辛そうにこう言った。
 「どうやら”クビ”になったみたい、ですよ」
だって。聞いた事ないよ、そんなの。
当時の郵便局って、公務職じゃなかったっけ?クビってあるの?
でもその男の一挙手一投足を見ているとうなずけたのだった。
 そんな変わった人間が上司でも、
 ”まぁ、仕方が無い、短い間の辛抱だ”
と自分に言い聞かせながらどうにか過ごした。

 デンプン工場。
ここの仕事は一人きり。
変な上司もいない。さてーーー。
 2等級以下のジャガイモを利用した工場である。うん、合理性に富んでいる。
でも自分は2次産業には興味がなかった。だってさ、
 ”どうせ決まりきった業務内容だろう、つまんないよ、飽きちゃう”
と思ったからだ。
が、想像とはちょっと違っていた。どうゆう業務か?簡単に言えば、
 ”イモをコネている機械の見張り番”
なので、やっぱり退屈には変わりなく、楽、暇、なのである。工場内をたった一人でウロウロするだけでの業務なのである。
 今思えば何を考えながらウロウロしてたのだろう。
何一つ前向きな事を考えてはいなかった事だけは間違いない。
ただただ、土ぼこりの舞う汚い工場をウロウロとしていた。
 ”なんか面白い事ないかなぁ、つまらん、やってられない、飽きてしまう、終いには発狂してしまうかもしれぬ。なんか・・・”
などと工場の中での私の頭は、毎日不謹慎思考で埋め尽くされていた。
そんな中、なんとまぁ、ちょっとだけではあるが楽しい事実を発見してしまったのだ。おぉ、神様有難う、ホホホ。
 その工場内ってのをザックリと説明すると、驚くなかれ、こんな感じです。
床は地面。だからほこりが舞っている。
そんな環境の中を液体化されたジャガイモが、大小様々な機械の中をゆっくりと通過していくのだ。
窓はガラス。数か所亀裂が入っている。
風が吹くと容赦なく”ガタガタ”とうるさい。木枠とガラスの隙間に溜まった埃が差し込む太陽の光によって宙に舞うのが呼吸困難を連想させる。
正直言って食品を扱う環境でない事は明白である。
だが当時の私は農業体験を通して給料さえ貰えさえすれば、そんな事どうでも良かった。
だから土間に放置されている(かのように見えた)ジャガイモが入っている大きな茶封筒みたいな袋の底が破けていようがそこからジャガイモがこぼれていようが気にならなかった。
ただ、その周りに正露丸のような黒い粒が散乱していたのは気持ち悪かった。
だからその事だけは横山氏に聞いた。その答えはこうだった。
 ”フンです”
ありがとう横山氏。
工場には何かが巣くっているのだね。早速私は次の日からフンの”製造元”であろう”フンの主を探す”を生業にする事に決めた。時間が潰せるからね。
 手には竹ぼうきを持ち、不測の事態に備えた。
こんな田舎の古びれた工場だ。もしかすると妖怪の類が現れ、
 ”やーいやーい、ここでフンしてやるぞー!”
などとからかわれ、挙句の果てにフンを投げつけ襲ってくるやもしれぬ。となると一戦交える事だって無いとは言い切れないではないか。これは楽しそうだ。
 それからの私は幼少の頃テレビで見ていた、
 ”ゲゲゲの鬼太郎”
を思い出しながら来る日も来る日も”魑魅魍魎”を探していた。そんな私はいつしか、
 ”工場の主は誰~だ~。悪い子はいねぇがぁ~”
と、口調が東北弁に、表情はなまはげに変化(へんげ)していた。これではまるで自分が妖怪である。
  ある日の事、いつもの様に竹ぼうきをもちながら、工場の隅々を見て回る。
 ”ジャガイモ嫌いな子いねぇがぁ~、脱税に協力している税理士いねぇがぁ~、偽装結婚している仮面の夫婦いねぇがぁ~・・・”
心地よくセリフのバリエーションも増えて来た頃である。
私はとうとう出くわしたのだ、工場の主(ぬし)に。
 ”ウワッ!!・・・・・”
突然現れた。一瞬、たじろいだが、私は重心を落とし、臨戦態勢に入った。
 ”・・・・・”
主(ぬし)は襲ってこない。私が手にしている竹ぼうきが目に入ったのかもしれない。私は主(ぬし)を注視した。
 ”で、デカい・・・”
私の知っている輩(やから)とは大きさが違う。尋常な大きさではない。とてつもなくデカい。
地球上にこんな巨大なものがいるなんて信じられなかった。
 主(ぬし)はピクリとも動かない。私を監視している様にも見えた。
 ”い、いかん、気で押されている”
手を広げ鷹揚に構える主(ぬし)。私は形勢不利と判断。”ならば!”と打って出た。勇気を振り絞りこう言ってやったのだ。
 ”お前がここの主か?
もちろん言葉が通じる相手ではない。そんな事は百も承知であったが、もしかすると己を鼓舞したのかもしれない。
 だが主(ぬし)はたじろぐ様子がまるでなかった。
私は均衡を破った。
 ”クソッ!人間様をなめるな!”
と手に持っている竹ぼうきの柄の方で主に向かって突進した。
 ”ヤ・ヤ・ヤ!”
と沖田総司の必殺技であった三段突きを仕掛けた。
見事に外れた。
それはそうだ、私は沖田総司ではなかったのだ。
主(ぬし)は明らかに私を馬鹿にしている。微動だにしないのだ。まるで、
 ”やれるものならやってみな!”
といった風である。
 ”クッ、どうしたら・・・”
私は敵にダメージを与える事が出来なかった。ただやみくもに”柄”で小突こうとしているだけだ。
仮に主(ぬし)の急所に”柄”がヒットしたとしても奴は衝撃を吸収するだろうと私は感じ始めていた。
主(ぬし)の後ろには放射線状に広がるオーラが見えたからだ。
 ”無駄な攻撃だ!”
こんな事をしている間に反撃されるかもしれない。
そんな中私は思いついた。そうだ、”柄”ではなく、
 ”穂先”
で攻撃しよう、よし!一か八かだ!
私は箒を返すが早いか主(ぬし)に猛然と襲い掛かった。
 ”お小手頂戴!!!”
まるで神道無念流、長倉新八である。
 ”おっ!?”
 あっ気なかった。
勝負はあっという間についてしまった。
 さすがは剣の腕では沖田総司を凌ぐとうたわれた新選組二番隊隊長である。
(この頃の私は幕末が大好きだったのを思い出した)
主(ぬし)は隊長である私の攻撃をかわせずそのまま真っ逆さまに落ち、その短い生涯を終えた。

 その後私はわずかではあったが貴重な農業経験生かし、大農家への道を真っすぐに歩む事などなく、いや、むしろそれからというもの農業には一歩も足を踏み入れずに今に至ります。
ただ、でんぷんを見たら必ず当時の事を思い出します。今となっては良い思い出です。
液状になったジャガイモは直径2メートルあろうかという大きなミキサーでその純白さを保ちながら、より、きめ細やかにされていたのです。
純白なでんぷんは、たとえ拳の様に大きな”鬼蜘蛛”が混入していても、でんぷんなのです。
私はでんぷんが大好きです。
 中国の事は言えんなぁ・・・。(遠い昔の話し)

~みぶろ~壬生浪士組隊士蝦夷地松前に帰藩す。≪妖怪退治≫

 人生とは暇つぶしである。
これは筆者の人生訓なり。
 皆さんはしんどい人生をどう愉しんでますか?例えば私はこんな感じだったなぁ。

~みぶろ~壬生浪士組隊士蝦夷地松前に帰藩す。≪妖怪退治≫

どこにでも居る主(ぬし)。 工場で体験した主との一騎打ちとは? 主とは? 勝利をおさめたのはいったい・・・。

  • 小説
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  • アクション
  • 時代・歴史
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-30

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