曇り時々ナメクジ

雨の日に元気にるのは?

 ナメクジの雨がぽたぽたと校庭の底に打ち付けている。空は曇りで灰色の景色が瞳に映る。その時、先生が僕を呼ぶ声が聞こえたので黒板の方を見た。すると教鞭を持つ女の顔にある皮膚が浮いてパカッと開く。配線とメタリック塗装された機械仕掛けが現れ、そこに二つの白い眼玉が宙に浮いてこっちを見ている。僕は鶏を踏みつけた鈍い声を放って立ち上がる。そして隣にいる井上を揺さぶって助けを求める。井上は僕の所をクルリと振り向いた。しかしその表情は無であり血が通っていないようで、ビクッと背筋を震えさせると、井上の青白い顔も突如皮膚が割れ、硬く鋼で出来た機械の顔を見せつけてきた。僕は怖さでクラスの奴らにすがりつく様にして叫んで見た。
 その僕に彼らは視線を刺して向けた。僕を見ていたクラスメイトは機械の顔であった。

 こんな夢を最近よく見る。薄気味悪いし、繰り返し続くのも気持ち悪い。僕はベットから起き上がり朝食へと進む。下の階には母と父が目玉焼きを食べていた。僕も椅子に座ってパンを頬張る。
「顔色悪いわよ。嫌な夢でも見たの?」
 母が心配そうにして話しかけた。
「また機械の顔した奴らの夢を見たんだよ」
 僕が答えると父が新聞を捲りながら言った。
「くだらん」
 僕はぶっきらぼうな父の言葉にムカついたので早めにパンと目玉焼きを平らげてしまう。
 パクパクモグモグと。

 この後、僕は玄関に向かって扉を開けた。そうすると冷たい雨が降っている。傘をボックスから取り出してパァアと広げた。雨はただの水だった。そんな事にホットする。ナメクジだったらどうしようと思ったからだ。そうして水たまりを蹴り、道を歩き、教室へと着いた。
「小池、なんだか憂鬱な顔してんな」
 井上が喋りかけてくる。調子よさそうな声と表情で何だか今朝の夢がバカバカしくなる。
「なんでもないよ」と僕は答えた。

 何時もの様に無事平凡に学校は終了し、僕は帰宅した。ベッドに腰を降ろして眠りについた。瞼がスウと重くなる。疲れていたのかもしれない……
 カチコチと鳴る時計の針で僕は目を覚ました。時刻はもう二十三時となっている。空腹を覚えたので下の階に降りるが、父も母もいない。不思議だ。この時間はみんな普通にいる筈なのに?そう思って僕は何となしに外に出た。雨は止んでいて空には薄ぼんやりと白い月が影を見せていた。
 中に戻ろうとした時であった。ある少年の姿が道路先から見えた。井上だった。一瞬声を掛けようと声を出しそうになるが、何かオカシイ。何時もの様な調子のよい面影がない。まるで別人だ。僕は奇妙に感じで彼の後ろを追いかけた。
 意外なことに校舎へと進んでいく。僕の通いなれた学校だった。井上はスタスタと歩いていき体育館へと向かう。夜の校舎は不気味であった。僕も息を潜めてついていくと体育館は明かりが灯されていて明るい、まるで何かの集会が行われている様である。井上は入口から中に入ってしまった。仕方ないので僕は窓から覗いた。そこには学生だけではなく、近所に住む大人もいた。そしてその中には僕の父と母も居た。それに加えみんな無表情であった。
 僕は今まで見たことのない父と母の表情を見てやはり怖くなる。と、舞台の上に老人が姿を現す。汚い格好であった。よくよく見ると近所の公園にいる浮浪者の老人でさらに意味が分からなくなる。
「さて、今月も定期メンテナンスを行いましょうか」
 老人がそうつぶやくと、そこにいた全ての人たちの顔の皮膚が開いて機械仕掛けの面を表に出した。勿論、そこには井上、父と母も含まれていた。
 僕は絶叫して声を張り上げる。その声が聞こえたらしく一斉に銀色に光る硬い顔がこっちを向いた。宙に浮いた目玉共は非常に気持ち悪かった。

「博士、うちの子供は殺してしまうんでしょうか?」
 母がベッドに横たわる少年を見つめながら言った。
「いや殺しはせん」
 博士と呼ばれた浮浪者は眠る少年のそばに立って答えた。
「それはよかった……」
 父は胸を降ろして言った。
 浮浪者の老人は少年の顔を丁寧に触り耳の下にあるホクロを押した。ピピピッと軽い音が鳴り少年の皮膚と顔が割れ中に銀メッキの機械の顔が現れた。
 そして次にその機械の中心をゆっくりと開いた。
 中には一匹のナメクジが居た。
 浮浪者の老人は話始める。
「もう人類は私一人となってしまった。ナメクジを人類と同等の知性を持たせ人と似た様の機械に入れて生活させているが……」
「やはり、所詮はナメクジ。完全に自分を人だと思っているナメクジと最後に関わりたいのだ。まぁ……私のエゴだが……」
「息子が博士の役に立つというのなら喜んでそう望みますよ。私たちも」
 父は浮浪者の手を握って答えた。
「すまないな……」浮浪者の老人はそう述べた後に「お前さんの息子は少しばかりの記憶を消し去っておくよ」と言った。
 浮浪者は一匹のナメクジを手に取り瓶に入れた。

 僕はベットから起き上がり朝食へと進む。下の階には母と父が目玉焼きを食べていた。僕も椅子に座ってパンを頬張る。
「顔色悪いわよ。嫌な夢でも見たの?」
 母が心配そうにして話しかけた。
「また機械の顔した奴らの夢を見たんだよ」
 僕が答えると父が新聞を捲りながら言った。
「くだらん」
 僕はぶっきらぼうな父の言葉にムカついたので早めにパンと目玉焼きを平らげてしまう。
 ナメクジの雨がぽたぽたと。

曇り時々ナメクジ

曇り時々ナメクジ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2016-11-27

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