続く想い

学生時代の片思いは、今も続いている。この想いに未来はあるのか……?

 あの人のこと。
 在学中から好きだったけど、離れてしまえば忘れてしまうだろうと思ってた。

 でもそう簡単に、忘れられはしなかった……。

 短大を卒業してから、二ヶ月ーー。
 五月の半ば。
 日曜日の午後、出先で、偶然、あの人ーー本田 悠(ほんだ はるか)さんの姿を見つけた。

 都心の交差点。
 信号待ちをしていたら、反対側に彼がいた。
 大学にいるときとは違う、ラフな私服姿だけど、すぐに分かった。

 人混みの中で、誰かを捜しているような視線。私と同じ髪型の人に目を向けているようにも見えたけど、誰かと待ち合わせでもしてるのかな、デートかな、なんて考えてた。
 悠さんは、かっこいいし、結構モテるらしいということは、在学中からよく聞いていた。
 あたしは学生で、悠さんは、学生課の職員。学生と職員の恋愛なんてありえないと思っていたし、同期入職の職員とつきあっているみたいだよ、なんて話も聞いたことがあるから……。だから、卒業するときも、告白はしなかった。叶わない思いなら告白したってしょうがないし、下手に告白してしまって、わだかまりが残ってしまうのも、イヤだった。

 信号が青に変わり、人が動き始める。
 と。
 悠さんと、目が合った。
 あれっ? という表情をした直後、人混みを抜けて、駆けてくる。
 手を取られ、息を切らしながら、
「久しぶり。こんなとこで会えるなんて思わなかった。今、時間ある?」
 そう言われ、頷くと、
「急でごめん。ちょっと、お茶していこう」
 卒業前と同じ笑顔に、懐かしくなって、
「はい」
 と応え、そのまま手を引かれて人混みの中を歩き始めた。

「まさかこんなところで会えるなんて思わなかったよ、ホントびっくりした」
 駅近くの喫茶店で、悠さんは何度もその言葉を繰り返す。目の前の笑顔はあの頃と同じで、あたしも、今起きていることが信じられずにいる。
「よくこのあたりまで来るの?」
「あ、偶に、買いたいものがあれば ですけど」
「なるほどねぇ」
 あたしの自宅がここから電車で40分ほどの多摩地区だということは、悠さんも知っているはず。
「本田さんは、よく来るんですか? ここまで」
「いや、僕も滅多に来ないんだけど、今日はちょっと、友達に呼び出されてさぁ」
 どきっとした。まさか、デートじゃない……よね?
「ひょっとして、デートですか?」
 軽くたずねてみると、
「いやいやいや、そんな人いないって事、中西さんも知ってるじゃん」
 そう言われても、卒業してから少し時間が経ってるし。
「だって、あたしが卒業してから、いい人見つかったのかな、と思って」
 すると、悠さんはまっすぐにこちらを見て、言った。
「いいなって思ってた子が卒業しちゃって会えなくなって、どっかで偶然会えたらラッキーだよなぁなんて思っては、いたけど?」

 悠さんは時々、ものすごく分かりにくい、回りくどい言い回しをする。今もそうだ。あたしは、悠さんの言葉の意味を理解するのに、すこし時間がかかった。
「……どういう意味? って、聞いてもいいですか」
「いいの? ストレートに言っても」
 少し意地悪なほほえみ。
 むしろストレートに言ってくれなきゃ分からない。
「どうしようかな……」
 長い指でテーブルをこつこつ叩きながら、いたずらっぽい表情で考えている。
 ああ、やっぱり、いろんな表情を見せる悠さんが、今でも凄く好きだなぁ。
 悠さんも同じ気持ちでいてくれるって、うぬぼれてもかまわないのかな。

「そうだ、中西さん、夏休みって取れるの?」
 悠さんの質問は突然だった。
「あ、はい。お盆の期間に5日間」
「そしたら、13日に、SドームでMISAKIのライブあるの知ってる?」
 MISAKI とは、あたしが昔から好きな歌手。悠さんもファンだという。
「知ってますけど」
「僕、MISAKIのファンクラブ入ってるから、チケット優先的に手にはいるんだよね。もし良かったら、一緒にどう?」
 悠さんと一緒に、大好きな歌手のライブに行ける。断る理由なんて無かった。
「はい、是非」
「じゃあ、携帯の連絡先交換しておこうか。赤外線ついてる?」
 ついてますよ、と応え、あたしたちはお互いに携帯の連絡先を交換した。悠さんのアドレスは、名前になにかの数字というとてもシンプルなもので、覚えやすい。
「中西さんのアドレス、凝ってるねぇ~。なにかこだわりあるの?」
「えっと……そのアドレスにしたときに、好きだったものを混ぜただけなんですけど」
 アドレスの中には、悠さんの名前の一部と悠さんの誕生日が、それとはわかりにくいように入れてある。気づかれるかな?
「そうなんだ。最近の若い子って、結構凝ったアドレスにしてるらしいって聞くけどね。僕のアドレスよりかなり長いね。ちゃんと登録しとかないと」
 あたしもちゃんと、悠さんの連絡先を登録した。
「あ、何か特別な用事がないときでも、メールしてきていいからね。返信は遅くなるかもしれないけど」
「はいっ」
 学生の頃を思い出して、少し懐かしく、嬉しい気持ちになった。

 そして、1時間後ーー
 悠さんは、あたしとは逆方面から帰るということで、駅の改札を抜けたところで別れた。
 別れ際に言われた言葉は。
『僕が、自分から連絡先を交換したいって思える子は、中西さんだけだから。
……この続きは、ライブの時にね』
 あたしは、はい と頷くことしか出来なかったけど。
 今日会えて話をしたことで、悠さんへの思いはより強くなるばかり。
 ライブの時には、ちゃんと、自分の思いを伝えられるかな。
 伝えたいな。

続く想い

ただ思いつくままに書いていたものなので、こうして公開するとなるとちょっとどきどきします。
公開にあたり少し手直しもしましたが……自己満足なものになってしまっているかも……。
これからも精進します。

続く想い

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-07-11

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